【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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気まずい沈黙の時間は、2時間ほど続き、いつの間にか外は暗くなり始めていた。沈黙を破ったのは、私の携帯電話の着信音。相手は幸吉。
西宮先輩の探している高専から北側20kmの場所で、憲紀らしき人影を見つけたとのことだった。近寄ると警戒される恐れもあるからと近づいてはいないらしく、確実に本人かどうかは分からないようだが。
「そうそう似たような人はいないでしょ」
「あぁ」
「桃も呪力感知してるだろうし」
真依の言う通り、西宮先輩のことだから、ちゃんと呪力自体も感知した上での報告だろう。
「20kmか…………よし」
膝を曲げ伸ばしして、準備は万端だ。
「『焼相』!」
「うん! なに、おねえちゃん?」
「少し速度を出すが、ついてこれるか?」
「もちろん!!」
ならば、『焼相』の方は問題ないな。あとは真依も先程了承してくれたようだし……。
「真依!」
「はいはい。手でも掴んでればいい?」
そう言って、真依は右手を差し出した。
……ふむ、どうやら真依は少々甘く見ているようだ。本当ならば、しっかりと説明すべきなのだろうが、今は時間がもったいない。
「失礼する」
ーーグイッーー
「え……はぁ!?」
真依の膝下に腕を差し入れ、その体を抱きかかえる。
後から聞いた話だが、その体勢はお姫様だっこなるものらしく、後日たっぷりと真依から嫌味を言われる訳なのだが、今の私にはその余裕はなくーー
「ちょっ!? 下ろしなさーー」
「ーー少々飛ばすぞ、掴まっていろ」
耳元で響く絶叫を聞きながら、私は全速力で駆け出した。
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約10分で、その場所に辿り着いた。共同墓地。しかも、ずいぶん前から使われていないのか道があったとおぼしきところも草が生い茂っていた。もうほぼ日は落ちているから、余計に雰囲気がある。
ふと後ろを見ると、『焼相』もついてきており、真依もどうにか振り落とされずにここまで連れてこれたようだ。だが、
「青い顔をしているが、大丈夫か?」
「……バカなの……あの速度は…………バカなの……?」
ふむ。
どうやら思ったよりも速度が出ていたようで、完全に戻す寸前と言った様子であった。本来ならば近くの茂みにでも行ってこいと言いたいところではあるが、そうもいかないようだ。
「おねえちゃん」
「あぁ、分かっている」
憲紀ではない。濃い呪霊の気配だ。
腰を落として構えると同時に、
ーーパァァンッーー
「最悪よ……」
いつの間にか距離を取っていたようで、真依の銃弾が気配の方向へ放たれていた。続けて、命中した標的が崩れ落ちる音。
……崩れ落ちる音?
「っ、真依!!」
あることに気付いた私が声をあげ、真依へ視線を向けたちょうどその時、真依の背後に『それ』はいた。
「っ」
ーーパァンッーー
ーーパァンッーー
どうにか反応した真依は『それ』の攻撃を避けながら、銃弾を2発撃ち込んでいた。攻撃を受けた『それ』は呆気なく倒れ、崩れ落ちる。
「……なによ、これ」
暗いながらもはっきりと分かる青黒い肌。あらぬ方向に曲がった手足。さらに、所々が腐り始めているのか酷い匂いを発していた。そもそもただの呪霊ならば、祓えばその体は消滅するはずなのに。
これではまるで、
「まるで死人だな」
「死人? ノンノン、『Living Dead』と言ってほしいわぁ」
「「!?」」
私の言葉を否定しながら、『彼』は現れた。墓地の中央にそびえる大きな岩の上に立っていた。
真依と共に、その声の方へ視線を送ると、そこには今の死人とは対照的な青白い肌をもつ男がいた。天を仰ぎ見ながら、まるで自分の言葉に酔うような恍惚とした表情をした男。その気配はどこか『脹相』に似たものがあって。
だから、すぐに理解した。こいつも『呪胎九相図』だと。
「『
『青瘀』。
『焼相』は男をそう呼んだ。
なるほど、やはりか。何番目なのかは分からんが、こいつも『九相図』の『受肉体』。『焼相』の兄。
「あらぁぁぁ、そこにいるのは、マイスイートシスター!!! んーっ、まっ!」
「もうぅぅ、だめでしょぉぉぉ!! 家出なんかしちゃぁっ! めっ!!」
「「………………」」
見れば『青瘀』は『焼相』に向かって、なげきっすとやらを繰り出したり、ういんくとやらをしたりしていた。勿論、その行為は呪術ではなく……なんだ、あれ?
ーーパァァンッーー
「んんんんんっ!?」
あまりの不気味さに耐えかねたのか、真依は引き金を引いていた。銃弾は『青瘀』の額に命中。銃の照準から目を離した真依は倒れた奴に対して吐き捨てる。
「気持ち悪い。死ねばいいのに」
死ねばいいのには少々言いすぎな気はするが、概ね同感であった。
「『焼相』、あれは……」
『焼相』に『彼』の強さや術式について聞こうとしてーー
「痛かったわよぉ」
「「!」」
再び『彼』の声がした。
もう一度、例の岩の上を見ると、『青瘀』はそこにいた。確かに額には穴が空いており、真依の銃弾が命中しているのは分かる。だが、未だに生きているのは……。
「『受肉体』とは頭を撃ち抜かれても生きているものなのか。ずいいぶん便利な体だな」
「ノン! 普通は頭を撃ち抜かれたら死ぬわよ。ボクらは『脹相』兄様のような特級ではないものぉ」
皮肉混じりに投げ掛けた言葉を『彼』は否定する。
いちいち芝居がかったような口調が今は不気味だ。
「『焼相』、奴はーー」
改めて、『焼相』に訊ねる。『奴』の言っていることが本当ならば、何故『奴』は死なないのかと。それに対して、神妙な声色で『焼相』は答えた。
「『青瘀』お兄ちゃんの術式は『
「死体を操れる術式なの」
遺体が眠っているであろう共同墓地で死体使いと戦う。それはまたーー
「なんとも乙なものだな……」
ーーーー高専の南側10km地点ーーーー
『メカ丸、聞こえてる!?』
「あぁ、聞こえてる」
俺は通信用の傀儡から聞こえる西宮の声に応答する。いつもの西宮らしからぬ慌てたような声。恐らく西宮が追っている加茂に何かがあったのだろう。
何もなければ、俺達もすぐに西宮や鶫たちの方へ向かうんだがな。
「おいおいおいおいっ! 戦闘中に電話とは余裕だな、えぇっ!!」
目の前のガタイのいい筋肉男がそれを許してくれない。
俺が内通者として動いていた時にはいなかった術師……いや、この気配は『受肉体』か。
夏油め。『呪胎九相図』をここまで受肉させてるとは思わなかったぞ。
『こっちは加茂君が大変なんだって!!』
通信機越しに伝わる切迫感から、本当にまずい状況なのは察したが、それでも迂闊には動けないんだ。
「ごめんなさいっ、幸吉」
俺の後ろには、三輪が座り込んでいる。腰を抜かしたとかではなく、物理的に立つことができないのだ。
そう。三輪の左足はあの男の術式によって白骨化していた。
「大丈夫だ、三輪。俺が守るから」
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『呪胎九相図』さらに2体参戦!