【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第44話 愛し子ー漆ー

ーーーー廃寺・憲紀視点ーーーー

 

 

 

ーーバキッーー

 

「かはッ!?」

 

 

その拳が完璧に鳩尾に入り、思わず倒れ込んでしまう。

 

 

「…………」

 

 

私への興味を失ったのか、奴ーー『脹相』は私に背中を向けた。

 

 

「ま、て……っ」

 

 

『脹相』は歩みを止めず、奴は境内にあるボロボロの賽銭箱の上に座る。

その隣には2人の女性。1人は奴の仲間と思われる民族服を着た女。もう1人が、

 

 

「母、様……」

 

「…………」

 

 

私の言葉は、彼女には届いていない。虚空を見つめたまま、直立不動だ。確実に何かの呪術を受けているのが分かった。

 

 

「母様に……何をしたっ!」

 

 

よろけながらも立ち上がり、叫ぶ。

 

 

「俺たち兄弟には2人の父親がいる」

 

 

私の疑問には答えず、奴は唐突に話し始めた。

 

 

「1人は私の母を孕ませた呪霊」

 

「2人目はそれに自らの血を混ぜた加茂憲倫」

 

 

「母を弄んだその男を俺は許さない」

 

 

加茂憲倫。

私と同じ名をもつ加茂家の汚点。最悪の呪術師。

それを許さないと『脹相』は言った。だから、

 

 

「だから、加茂家を滅ぼすと……?」

 

「そんなことのために母様に何かしたのか……?」

 

 

短絡的だ。

加茂憲倫は明治の術師だという。それからもう150年は経っているのだ。それを知らないわけでもないだろうに。

 

 

「我々は、『加茂憲倫』とは関係ないっ!!」

 

「関係ない訳があるか」

 

「っ」

 

 

話が通じない。実力差は明白だが、仕方がない。

不意を突けばあるいはっ!

 

 

ーーギリギリッーー

 

「『百歛』」

 

 

「『穿血』ッ!!」

 

ーーバシュンッーー

 

 

不意を突いたはずの一撃だった。なのに、奴はそれを、

 

 

ーーギリッーー

 

「『百歛』」

 

 

「……『穿血』」

 

ーーバシュンッーー

 

 

一瞬だけ圧縮しただけの『百歛』で弾いた。

同じ『赤血操術』のはずが、その練度、圧縮力が段違いだ。

くっ……。

それならばと『赤鱗躍動』で距離を詰めて、応戦するも、それもレベルが違う。組み合った瞬間に、押し込まれる。

 

 

「ぐっ……」

 

「無駄だ。お前とはレベルが違う。諦めろ」

 

「っ……私、はっ!」

 

 

ダメだ。押し込まれる。同じ『赤鱗躍動』で捩じ伏せられる。

なんでなのだ。

私は、私はただ母様をーー

 

 

 

ーードゴッーー

 

 

「「!!」」

 

 

 

それは突如として降ってきた。

巨大な岩の塊。それは私を上から捩じ伏せていた『脹相』の頭に直撃し、奴は後退する。

倒れはしていない。だが、警戒してこちらとは距離を離していた。

何が起こったのかは、その声を聞いた瞬間に理解できた。

 

 

 

「憲紀ッ!!」

 

 

 

聞き馴染みのある声。私の名を呼ぶ彼女は……。

 

 

「鶫……」

 

「憲紀、ダイジョブか?」

 

 

鶫はすぐに私の元へと駆け寄ってきた。そのまま、私の肩を支えてくれる。

なんで来たとか。どうやってここがとか聞きたいことは色々あった。けれど、

 

 

「すまない……鶫っ」

 

 

謝罪。

意外なことに私の口から最初に溢れたのはそんな言葉だった。

 

 

「私は母様を、ただ……っ」

 

「分かった。分かったよ」

 

 

溢れ落ちる言葉を遮る鶫。

憲紀の気持ちは分かったから、今はゆっくりしろ。気にしなくていいから。

彼女はそう言ってくれた。その言葉を聞いて、今まで張り詰めていた何かが切れたように体から力が抜けていく。

 

 

「っ、体の力が……」

 

「当たり前だろう。丸2日飯を食わなかったのだ」

 

 

体に力の入らない私をゆっくりとその場に座らせた鶫は、しゃがんで私と視線を合わせながら言う。

 

 

 

「だから、早く帰って飯を食おう、憲紀」

 

「勿論、お前の母も一緒にだ」

 

 

 

にかっと笑う鶫。それを見て、私は頷くしかできなかった。

 

 

 

ーーーー鶫視点ーーーー

 

 

「ふぅ」

 

 

憲紀が無事であることを確認し、寺の端っこ、戦闘の場から少し離したところに移動させた私はひとつ息を吐いた。

そして、憲紀をそんな目に遭わせたその男を睨みつける。

 

 

「『脹相』、お前が憲紀を傷つけたんだな」

 

「…………」

 

 

その疑問には答えはいらない。

ただの確認だ。目の前の男が、憲紀を痛め付けた張本人だと自身が再確認するための問い。

 

 

「憲紀の母親も返してもらおうか。彼女は関係ないはずだ」

 

「…………」

 

 

一歩、一歩。奴へ近づいていく。

 

 

「加茂憲倫を憎むのは仕方がない。だが、今の加茂家は関係がないだろう」

 

「…………」

 

 

悪いのは彼ら『呪胎九相図』を作り出した『加茂憲倫』なのだ。

だから、『脹相』のしたことはただの八つ当たり。そもそも現代の加茂家を襲撃したところで彼の憎しみは収まらないだろう。

 

 

「…………」

 

「だんまりか」

 

 

ならば、仕方あるまい。

『焼相』は私のことをそう呼んでいた。真偽は分からない。だが、もしもそれが事実なのだとしたら、私はーー

 

 

 

「憎いのは私なのだろう」

 

 

 

そう。

『脹相』の憎しみの矛先を今一度変える。戻すのだ。

 

 

「……やはり、そうか」

 

 

私の言葉を聞いて、今まで沈黙を続けていた『脹相』が口を開いた。『彼』は静かに賽銭箱から降り、私の方へと近づいてくる。

お互い歩み寄り、やがて拳の届く距離まで近寄って、『彼』は口を再び開いた。

 

 

 

「お前が『加茂憲倫』だな」

 

「あぁ、私は加茂憲倫。お前たちを作り出したという呪術師だ」

 

 

それだけ確認できれば十分だ。

一度目を伏せた『彼』が、もう一度顔を上げたとき、その眼には憎しみがこもっていた。

 

 

 

「お前は俺が殺すッ!」

 

 

「奇遇だな。私も憲紀をいじめた相手を祓いたいと思っていたところだよ!!」

 

 

 

ーーーーーーーー




開戦。
アンケートが見事に割れてて笑えますね。

『愛し子』編はもう少し続きます。番外編の日常回いりますか?

  • いる。憲倫くんを見せてくれ!
  • いる。ようじょが足りない!
  • いる。誰とは言わないがいちゃつけ!
  • いらん。本編を書け!
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