【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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ーーバキッーー
開幕初手。右上段、『脹相』の側頭部への蹴りは防がれた。
私の足を掴んだまま、『脹相』は拳を私の腹へ。
ーーガシッーー
「チッ!」
それを左手で受け止め、手前へ引く。
この状況で私が引くとは思わなかったようで、『脹相』の体勢が大きく崩れる。足を掴む手を離れた。
ーーフワッーー
同時に、私は『脹相』の少し上に飛び上がる。そして、
「転がれっ!」
ーーバギィィッーー
両足蹴りで『彼』の背中を蹴り飛ばした。私の想像通りに、『脹相』は地面へ顔面を叩きつけ……いや!?
ーーギリギリッーー
「『百斂』」
体勢を崩しながらも、『彼』は怯まない。一瞬で体を翻し、私に向き直る。両の掌は合わされていて。
「『穿血』ッ!!」
ーーバシュンッーー
「っ!?」
「チッ」
音速を超える速度の『穿血』が私の顔の横を掠めていく。
危なかった……っ。反応が少しでも遅れたら、脳天を撃ち抜かれていた。
だが、切り替えろ。
「ふんっ!」
ーーバキッバキッバキッーー
『脹相』は地面に仰向けの状態だ。そこに追撃するように、私は踏みつけを叩き込む。だが、『彼』はそれを転がりながら上手く躱しきった。
再び私と『脹相』の距離が空いた。これは、
ーーギリギリギリギリッーー
「『百斂』ーーーー『穿血』」
ーーバシュッーー
まずいっ!?
咄嗟に、跳んで躱した。だが、
ーーグンッーー
『脹相』は、撃ち出した『穿血』を強引に薙ぎ払い、次の攻撃に転じてきた。
滞空状態で躱すのは無理……いや!!
「はぁぁっ!!」
ーーブンッーー
『穿血』が私を捉える寸前に、宙を蹴る。その膂力で風が起こり、私の体がさらに上へ。そのおかげで『穿血』からは逃れることができた。
「面倒なことをッ!」
「お互い様だろうっ!」
ーーグンッーー
さらに追撃。薙ぎ払った『穿血』をもう一度振るう『脹相』。だが、そもそも『穿血』は初動は速いが、それ以後は避けられないほどではない。だから、
ーースタッーー
「『穿血』の上に……」
ーーバシュッーー
私が『彼』の『穿血』の上に立ったのを見て、それが有効打にならないことを悟ったのだろう。『脹相』は術式を解いた。
ーースッーー
その1秒後、『彼』の顔の模様が変わったことを視認した私の懐に、既に『彼』はいた。右の脇腹へ拳が入る。
「ぐっ!?」
「これも防ぐか」
『赤鱗躍動』か! だが、想定していたそれよりもずっと速い。そのせいで対応が遅れてしまっている。
慣れれば、対応はできるだろうが、私の思う『赤鱗躍動』とのズレを修正しなくては!
「っ、はっ!!」
ーーブンッーー
時間を作るための足払いを放つ。それで体勢を崩そうとするが、所詮は苦し紛れの攻撃だ。距離をとられ、簡単に避けられた。
結果的には、少し落ち着く時間ができた……よしとしようか。
「……ふぅ」
ひとつ息を吐く。実力は五分。恐らくだが、特性が呪霊に近い『受肉体』である『脹相』に失血死はない。さらに、私の身体能力であれば対応できるとはいえ、遠距離からの攻撃がある分、向こうの方が圧倒的に有利。
こうしている間にも、
「…………」
ーーギリギリッーー
『百斂』で圧力をかけている。
いつ撃ってくる? 撃ったその瞬間に避け、懐に入る。だが、一歩間違えれば死ぬ。
「…………」
「…………」
睨み合いの膠着状態を崩したのは、『脹相』が不意に撃ち出した『穿血』。それが放たれた瞬間に、私は走り出す。同時に極限まで姿勢を低くして、『穿血』の軌道から外れることに成功する。
だが、『彼』の腹まであと数m。私はそれに気づいてしまった。
「なぜ、まだそこにある……?」
視界に入った『穿血』は未だ『脹相』の側にあった。本来の『穿血』の速度であれば、もう撃ち出されていなければおかしいはずの血液。
そこでやっと思い至った。加茂邸襲撃の時に使ったあの拡散する攻撃に。
「『超新星』」
ーーパァァァァンッーー
気づいた時にはもう遅い。弾け降り注ぐ『脹相』の血液が、私に襲い来る。
今の私ならば反応できる速度だ。だが、今の私では防御できない攻撃だった。万事休す。私はその攻撃をーー
ーーバシュンッーー
「なっ!?」
「!」
姿勢を低くした私の頭上を、走る赤い直線。
それが誰の放ったものかは瞬時に理解できた。
「ありがとう、憲紀」
ポツリと。
彼の名前を呼んで、私はさらに一歩踏み込む。
「くっ!?」
「終わりだよ、『脹相』」
突然の出来事に、『脹相』は構えることができない。
『百斂』は封じた。『赤鱗躍動』も間に合わない。
ーーブンッーー
全体重を乗せた全力の一撃を叩き込んだ。
ーーーー『脹相』視点ーーーー
全く防御できないタイミングで放たれた奴の一撃は、俺には入らなかった。俺の側に控えていた妹『
止めた、といっても、『散相』の術式によって、攻撃の衝撃を他の場所へ飛ばしただけだが、それでも全力で放った一撃が届かなかったのだ。奴は引くしかない。
「く……!?」
やはり奴は俺から距離をとった。迂闊には攻めてこないだろうな。
時間ができたことを感じた俺は、俺の後ろにいるはずの『散相』へ声をかけることにした。
「『散相』」
「はい、お兄様」
いつものように静かに『散相』は返事をした。
「手を出すなと言っていたはずだ」
「…………」
「俺の身を案じてくれたのは分かる。だが、親殺しを他の兄弟にさせるわけにはいかない。これだけは『お兄ちゃん』である俺の責務なんだ」
「…………」
『散相』は答えない。無言の抗議だろうか。
……まぁ、当然と言えば当然か。今回の計画を今受肉している『青瘀』と『骨相』、そして『散相』に話した時も、お前だけは最後まで反対していたな。『壊相』や『血塗』のように、俺が死んでしまわないかと心配していた。
お兄様だけが危険を侵す必要はないでしょうと訴えかけてきて。今、受肉している『呪胎九相図』全員で敵の戦力を分散しようと提案したのも『散相』、お前だった。
お前の熱量に俺は気圧され、頷いたのだ。成長だと思った。俺の意見を押し切り、自らの意見を主張するお前が頼もしく思えたよ。嬉しく思ったさ。
だが、これだけは譲れない。いくら『加茂憲倫』が畜生だとはいえ、親殺しを背負うのは俺だけで十分だ。
「…………」
「ふっ、お前はいつもそうだな」
我ら『呪胎九相図』の中で、一番物静か。だが、芯は誰よりも強く、頑固だ。そこがいいところなのだがな。
「今回だけは納得してくれ、『散相』」
「えぇ、お兄様」
ありがとう。それだけを返す。
これで振り出し。これで目の前の『加茂憲倫』を殺すことにまた集中できる。
「邪魔が入ったな」
「いや、いい家族だな」
構え直した奴とそんな言葉を交わし、俺も構え直す。
さぁ、仕切り直しだ。
…………そう。
気持ちを切り替えた俺の耳に、それは入ってきた。
「えぇ、お兄様……ええお兄差ま、ええ御二位様にいさ間」
確かに『散相』の声だった。
だが、まるで壊れたラジオのように、同じ言葉を繰り返していて。
「っ、『散相』……?」
対峙していた『加茂憲倫』から目を離して、振り返る。
ーーブスッーー
「か……っ!?」
刺された。それは理解できた。
だが、誰に刺されたのかは理解ができなかった。
「な、ぜ……っ、『散相』……」
「……荷い、兄佐馬……得得、お弐位様」
俺の質問に、『散相』は答えてくれない。
その代わり、
「何故も何もない。私がそう指示したからだよ、『脹相』」
その声は朽ち果てた本殿の上から聞こえた。
聞き覚えのある男の声。
体を貫かれながらも、どうにか上を見上げると、そこには奴がいた。
「夏油……っ」
夏油傑。我々、呪霊側と結託していた呪詛師だった。
奴はニヤリと笑い、告げる。
「さぁ、始めようか」
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アンケートありがとうございます。
締め切るのは年内いっぱいにしたいと思います。
また、本編の区切りのいいところで
番外編のじゅじゅさんぽ書きます!
『愛し子』編はもう少し続きます。番外編の日常回いりますか?
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いる。憲倫くんを見せてくれ!
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いる。ようじょが足りない!
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いる。誰とは言わないがいちゃつけ!
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いらん。本編を書け!