【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー鶫視点ーーーー
『散相』と呼ばれた女性の介入によって、仕切り直しになった戦闘を再び中断したのは、他でもない『散相』であった。
私の攻撃から兄を守った『散相』が、今度はその兄の腹を刃物で突き刺していたのだ。
「な、ぜ……っ、『散相』……」
「……荷い、兄佐馬……得得、お弐位様」
一瞬、何かの術式かとも疑ったが、『脹相』の表情と壊れたような『散相』の様子を見れば、何か想定外のことが起きているのだと簡単に理解できた。
勿論、『脹相』は敵だ。だが、この幕切れではあまりにもーー
「……っ」
咄嗟に私の体は動いていた。何をしようとしているのかは自分でも分からない。それでも『脹相』に駆け寄ってしまっていた。
そんな私の足を止めたのは、声。
「何故も何もない。私がそう指示したからだよ、『脹相』」
男の声だった。それは朽ち果てた本殿の上から聞こえてくる。完全に日が落ちきった夜の空を背に、黒い僧衣と袈裟姿の男が立っていた。
見たことのある男だ。
たしか、あれはーー
「夏油……っ」
夏油傑。
4人しかいない特級呪術師のうちの1人。昨年の12月24日に新宿・京都を襲った百鬼夜行の首謀者で、死亡しているはずの人物。
幸吉からの情報で生きて暗躍していることは知っていたが。
「今回の件にも関わっているのか」
一層警戒を強くする。私への恨みを晴らそうとした『脹相』とは違い、あの男の狙いは読めない。『脹相』を唆し、加茂邸を襲撃させたのが彼だとしたら狙いは憲紀か? それとも……?
「さぁ、始めようか」
そう言うと、夏油はそのまま本殿から着地して、『脹相』の方へ歩いて近づく。
「ぐっ……!」
「無駄だよ。その呪具は特別製だ。簡単には動けないさ」
彼は『彼女』ーー『散相』に手を触れた。
「止めろ」
「…………」
「止めろッ! 妹に手を出すなッ!!!」
「そうもいかないんだ。私の計画を進めるためにはね」
ーーグニャリーー
「『散相』ォォォ!!!!」
身動きの取れない『脹相』の目の前で、夏油は『散相』をーー『彼』の妹の形を変えた。黒い球体にして、それを呑み込んだ。
「~~っ! ーーッ!!」
声にならない叫びをあげて、今にも夏油に飛びかかろうとする『脹相』。だが、腹を貫く刃のせいか、その場からまったく動けていなかった。
『彼』の目から一筋の涙が頬を伝っていくのが見えてーー
ーーバキッーー
「っ」
気づけば、私は夏油の顔面を殴っていた。
「加茂、憲倫……? なぜ……?」
呆然としながら、『脹相』が聞いてくる。だが、そんなもの私も分からない。『脹相』は確かに憲紀を傷つけた相手だが、
「少々、腹が立った」
「おまえ……」
「全く……相変わらず感情的だな、加茂憲倫」
「「!!」」
私は確かに全力で殴った。だが、その衝撃は夏油の顔に当たる前にどこかへ飛ばされていたようで。
「『散相』がいなければ、私の顔に傷がついていたところだったよ」
見れば、夏油の後ろに『散相』はいた。
幸吉から聞いてはいたが、なるほど。『呪霊操術』で『彼女』を取り込み、使役しているのか。
「夏油ッ!!」
「おっと、八つ当たりは止めてくれ。私は『散相』をうるさいお兄様から救い出しただけだ」
「貴、様ッ!!」
「さて」
激昂する『脹相』を意に介さず、夏油は地面へ手を着く。そして、何かの術式を発動した。次の瞬間に、
「なッ!? ホワイ!?」
「あん? おいおいおいおい、なんだよっ!?」
「パパっ!? お兄ちゃんたち!?」
その場に『焼相』と『青瘀』と思われる液状生物、そして、筋肉大男が現れた。
「『呪胎九相図』勢揃いという訳だ」
夏油はそう言うと、ゆっくりと『彼女』たちに近づいていく。
「止めろッ!! 弟たちに手を出すなっ!!」
またも叫ぶ『脹相』。私も同時に走り出す。
だが、それよりも早く夏油は『青瘀』に触れた。その瞬間に『青瘀』の形が変わっていく。
「『脹相』兄様……っ」
ーーグニャリーー
「『青瘀』ォォッ!!」
「2匹目……次だ」
今度は筋肉大男に触れる。しかし、術式が発動しないのか筋肉大男は黒い球体に変わることはなかった。
「なんだ、まだ余力があるのか」
「よくも『青瘀』兄をッ!!!」
「止めろ、『骨相』っ!?」
夏油を殴るのを制止する『脹相』の声。それに反して、『骨相』と呼ばれた大男は夏油を殴った。
「学習しないな」
「なッ!?」
「仕方がないか」
ーーゾゾゾゾゾッーー
気配。それは『骨相』の下から。
ーーブヂューー
「あ……?」
「『骨相』ォォ!!」
『彼』の足元から出てきた巨大な口は、『骨相』の下半身を噛み千切った。転がる『骨相』。触れる夏油。彼の手の中には黒い球体が握られていた。
「3匹目だ。あとは……」
夏油の視線がこちらへ、私の背に隠れる『焼相』に注がれる。
「『焼相』、私から離れるなよ」
「う、うんっ、パパ……」
何をしているのか、何をしようとしているのかは分からない。だが、ここで『焼相』を渡してしまえば本当にまずいことが起こる。私の直感がそう告げていた。
「…………加茂憲倫、『それ』をこちらへ渡してくれ」
「…………断る」
夏油はまた私の名を呼んだ。
まただ。
そもそも何故私の中身を知っている? 『脹相』から聞いていたのか? それとも何かしらの手段で見破っている?
頭の中で、そんな疑問が駆け巡る。
だが、今は考えるな。
考えるーー
ーーピキッーー
ーーーーーーーー
「止めろ、ーーーーーー」
「何を言っているんだ。君も興味があるだろう?」
「……そんなことは、ない」
「嘘を吐くなよ。君だって、私に賛同してくれたじゃあないか。これも呪術の更なる進化のためだと」
「違う。私はそれで人を救えるならとーー」
「偽善者め」
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不意に思い出す『あの時』の記憶。
私が殺された『あの時』の記憶。
それが、なぜ今……?
その疑問は目の前の夏油を見て、すぐに解決した。
忘れていた。
いや、思い出さないように蓋をされていた記憶が今、開いたのだ。
今ならばはっきりと分かる。
目の前にいるのは、夏油傑ではない。その額の傷。見覚えがあった。そうだ、彼はーー
「『
「久しいな、憲倫」
彼の名は『羂索』。
明治の時代に、私と思想を共にしていた男。
そして、私を殺した呪術師。
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年内にもう一話更新したい。
『愛し子』編はもう少し続きます。番外編の日常回いりますか?
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いる。憲倫くんを見せてくれ!
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いる。ようじょが足りない!
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いる。誰とは言わないがいちゃつけ!
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いらん。本編を書け!