【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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呪術高専編
第5話 憲倫くん、髪を切る


ーーーーーーーー

 

 

「いや、無理だろう」

 

 

ある休日。

憲紀を部屋に呼び出し、私の決意を伝えたのだが、それは憲紀に一蹴された。一考の余地もないと言わんばかりの早い否定であった。

だが、私は諦めない。私は憲紀を支えると決めたのだ。そのためには、まずーー

 

 

「いいや、私は必ず呪術高専に入るぞ、憲紀」

 

「だから、無理だ」

 

 

私の決意をまたも一蹴。

憲紀は優しい子だと思ったが、私の思い違いだったのか!?

 

 

「呪術高専への入学は大体が血筋や推薦だ。普通の高校に入学するのとは訳が違う」

 

「ならば、憲紀が推薦すればいいだろう?」

 

「いや、そもそもだな」

 

 

 

「呪力が全くないのだろウ」

 

 

 

私と憲紀の会話に割って入るように、声をあげたのは親切な男・メカ丸だった。

彼も呪術高専所属ということで、私が憲紀に連れてくるよう頼んだのだったが、

 

 

「あぁ、メカ丸の言う通りだ。鶫には呪力がない。そんな人間を呪術高専に推薦などできるわけがない」

 

 

至極尤もな話である。

どうやら呪霊こそ見えるものの、今の私にはおよそ呪力と呼べるものがないようで。だから、あの時ーー憲紀と初めて会った時も呪力が練れなかったのだ。

 

 

「諦めろ」

 

「…………」

 

 

そう簡単には諦められない。憲紀が当主になった時に、加茂家を必ず良い状態で渡すためにも、まずは呪術高専に入り、憲紀を支えなくてはならないのだ。

 

 

「それよりも縁談の話だ。その話し方はともかくとして、その清潔感の欠片もない容姿をなんとかしないといけない」

 

 

でなければ決まるものも決まらん。

憲紀はそう言うと、なにやらけいたいでんわを操作し始める。

そういうことに長けた者を呼んだ。その場ででんわすることなく、誰かをまた呼びつけたようだ。

 

 

「あれはLINEというものダ。文字でメッセージを送ることができル」

 

「ほう。そんなものもあるのか」

 

「近々教えよウ」

 

 

本当に頼りになる男である。ぜひここに常駐して色々と教えてほしいものだ。勿論、そうはいかないだろうが。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

数分後。

我が家へ3人目の来訪者が現れた。

今度は女子である。カッチリとした格好をしており、水色がかった長髪は勿論、斜めに切られた前髪が特徴的な人物であった。

名前はーー

 

 

「わたし、三輪(みわ)(かすみ)といいます。えぇと、貴女が加茂先輩の……?」

 

「あぁ、従姉妹の加茂憲……鶫だ」

 

 

お互いに握手を交わす。

ふむ。呪術師の女性と聞いて多少身構えたが、思っていたよりも普通な娘が来た。

 

 

「それで憲紀、彼女を呼んだのはなぜだ?」

 

「以前、三輪は弟の髪を切り慣れているという話を聞いていたから、鶫のそのボサボサの髪も切ってもらえるかと思ってな」

 

「ふむ、なるほど」

 

「本当はもうひとり、西宮という同級生も呼んだのだが……」

 

「あ、西宮先輩はパスだそうです」

 

 

仕方がない。化粧についてはまたの機会にするか。

憲紀の言葉で得心がいく。

化粧か。そこまでは考えが至らなかった。流石は憲紀といったところか。

 

 

「三輪。早速で悪いが、鶫の髪を切り揃えてくれ」

 

「は、はぁ……いいですけど、わたしがいつも切っているのは弟の髪ですよ? 女の子の髪は自分くらいしか切ったことなくて……」

 

「それでも構わない。このままよりはずっとよくなるだろう」

 

「が、がんばります……」

 

 

私を置いて、勝手に話を進める憲紀。

まぁ、別にそれは構わないが……。

 

 

「メカ丸」

 

「…………なんダ、あまり話かけるナ」

 

「?」

 

 

なぜだろうか。彼女ーー三輪が来た頃から、メカ丸が妙によそよそしい気がする。気のせいならいいんだが……。

 

 

……………………

 

 

「はい、じゃあ、切っていきますね」

 

 

隣の部屋にあった椅子を浴室へ入れ、そこに座った状態で首の周りに長い布を巻かれる。髪を切る時の作法なのだそうだ。

 

 

ーーチョキ、チョキーー

 

 

髪を切る音。これは明治も平成も変わらない。聞き慣れた良い音だ。

少しうとうとし始めた頃、彼女が声をかけてきた。

 

 

「鶫さんは」

 

「鶫でよい。こちらの方が年下だ」

 

 

17だと聞いた。こちらはその一つ下なのだ。しかも、性別の上では女同士。呼び捨てで構わない。

そう言うと、彼女も霞でいい、と返す。

 

 

「鶫ちゃん、記憶喪失なんでしょう。大変だね」

 

「まぁ、多少不便はあるが、憲紀やメカ丸によくしてもらっている。お陰で快適には暮らせている」

 

「……呪術師になりたいとも聞いたけど」

 

「そうだな」

 

 

元々私自身それなりの呪術師ではあったから、正確には呪術高専に通いたいという訳だが、話がややこしくなるからそこまで話すこともないだろう。

適当に相槌を打つ。

 

 

「なんで呪術師になりたいの?」

 

 

髪を切りながら、彼女は質問してくる。

その質問に私は、

 

 

「私は憲紀の力になりたいのだ」

 

「……そっか。仲がいいんだね」

 

「……あぁ」

 

 

それから沈黙が流れる。ハサミの音だけが浴室に響く。

少しして、彼女が口を開いた。

 

 

「加茂先輩のために呪術師になりたい。それはすごく素敵なことだと思う」

 

「でも、呪術師になるなら本当にいいのかって考えた方がいいよ。呪術師にはいつだって死が付きまとってくるから」

 

 

それは勿論、呪術師にとっては当たり前のこと。私も分かっている。事実、一度死んだ身だ。

だが、彼女からしたら、私はただの呪術師に憧れる少女。憧れを否定するようなことを言ったとしても、きっとそれは親切心からくるもので。

だからこそ、気になった。

 

 

「霞はなぜ呪術師になったんだ?」

 

「わたしは……成り行き、かな」

 

「成り行き?」

 

「スカウトされたんです。呪術師にならないかって。わたしの家、貧乏だからお金が稼げるって聞いて飛びつきました」

 

 

才能がある。それは言われても、現実は厳しくて。

死にたくなくて、必死で刀を振り続けた。それで今までどうにか生きてこれた。

彼女は自らのことをそう語った。

 

 

「だから、鶫ちゃんはちゃんと考えてほしい。お姉さんからのお願い」

 

「…………そうか。だが、私の意思は変わらないよ」

 

「……そっか」

 

「自分で決めたことだ」

 

「…………うん」

 

 

頷いた彼女の表情は、目をつぶっていて分からなかった。だが、その心の内に触れた気がした。

優しい娘だ。憲紀といい、メカ丸といい、なぜこうも優しい子が多いかな。

そんなことを考えて、私も自然に微笑んでいた。

……しかし、

 

 

「お姉さんは言いすぎじゃあないか?」

 

「え?」

 

「私は16だ」

 

「ひとつ下!?」

 

 

……………………

 

 

それから1時間ほどをかけて、浴室で霞に髪を切ってもらった。

鏡を見ると、今までのボサボサ髪の少女はおらず、肩辺りまでの長さに髪を切り揃えられた少女がそこにはいた。

ただし、

 

 

「前髪が斜めなのは何か意味が?」

 

「いや、えぇと……」

 

 

後で聞いた話だが、彼女自身自分の前髪を切る時にバランスを取ろうとしてそうなってしまうそう。それに加えて、私と話していたせいもあるらしい。

 

 

「まぁ、いいか」

 

「いいんだ!?」

 

 

ともかく霞のお陰で、視界も良好だ。これで心機一転、憲紀に交渉できるというものだな。

 

 

「というわけで、憲紀、推薦してくれ」

 

「…………何度も言うが、無理なものは無理だ」

 

「加茂先輩! わたしからもお願いします!」

 

「……三輪、鶫に何を言われたか知らないが、そもそも呪力がない人間を呪術師にできる訳がない」

 

「え? 鶫ちゃん、呪力がないんですか!?」

 

 

一転驚く霞。いや、本当に百面相で面白い娘だ。

 

 

「よく見れば分かるだろう。一般人以下どころか呪力のじの字もない。呪力0だ」

 

「…………本当だ」

 

「それでも呪術高専に推薦しろと?」

 

「う、ううむ……」

 

「呪力が全くないのでは、いくら呪霊が見えるとはいえ、呪術師になんて……到底無理な話だ」

 

 

憲紀に言いくるめられ、唸る霞。

まぁ、正直な話、私も半分諦めかけていた。呪力が全くないのでは話にならないのは、私自身も分かってはーー

 

 

「おイ、加茂」

 

 

話が終わりかけたその時、しばらく静かだったメカ丸が口を開いた。

その話は本当か? そう言って食いついてきた。

 

 

「……メカ丸も確認しただろう。鶫に呪力はない」

 

「そちらではなイ。呪霊が見えるという話ダ」

 

「あ、あぁ」

 

 

憲紀の答えを聞いてから、メカ丸は今度は私に向き直る。

呪霊を見たのはいつダ?

メカ丸のその質問で、私は言いたいことを察した。

なるほど、盲点だった。

文献では読んだことがあったが、実物を見たことはなかったから、その可能性は頭から抜けていた。

 

 

「試してみる価値はある」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

翌日、それは証明された。

憲紀とメカ丸、霞の立ち合いの元、私は呪霊を祓ってみせたのだった。

 

 

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