【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
第48話 憲倫くんはそこにいない
ーーーー京都校医務室ーーーー
2018年11月5日。
渋谷事変・九相図事変より約1週間が経った現在でも、大きな変化はなく、高専生にも通常通りの任務が言い渡されていた。
加茂邸襲撃の主犯とされていた『呪胎九相図』・『脹相』は行方不明だが、その場にいた私の母は保護された。反転術式による治療も施されたが、意識は未だ戻らない。
ただ、もし意識が戻ったとしても、共犯として拘束されるのは目に見えて明らかだ。だから、全容を解明するまでは眠ったままでも、そんな風にも考えてしまう私がいた。
母様が目の前にいるということもあり、私自身、心身ともに1週間前よりはずっとマシだ。
それもこれも……。
「鶫……」
ポツリと彼女の名を呟く。
そう。母様がここにいるのも、私がここに生きているのもすべて彼女のお陰だ。『脹相』との戦闘に彼女が割り込んでくれなかったら、きっと私も母も死んでいただろう。感謝してもしきれない。
なのに、
ーーコンコンーー
ノックの音。
恐らくノックをした人物は、私に気を遣ってくれたようで、私の返事があるまでは扉を開けない。そんな気遣いをする人間ではないはずだ。
……いや、本来はそういう人物だったな。
思えば、ここ半年の彼女の方がおかしかった。
妙に古風な話し方、というよりも男のような口調と私達よりもずっと歳を重ねているかのような態度。以前の彼女はそうではなかった。
そうだ。
「開けてもらって構わない」
ノックをした人物にそう答えると、彼女は扉を静かに開けた。
「憲紀、くん……」
加茂鶫。
私のよく知っている彼女がそこにはいた。
「鶫」
「あっ、ご、ごめんねっ……お邪魔だった、よね」
自信無さげに彼女は俯いた。伏し目がちで、消え入りそうな声量である。
これが本来の彼女の姿だ。自らの運命を呪い、引きこもり、挙げ句の果てには自らの命を断とうとした少女。
「いや、それよりも鶫の方はどうだ? ここでの生活には慣れたか?」
「は、はい。三輪さんや与くんにとっても親切にしてもらってるます……」
「真依や西宮とはどうだ?」
「あっ、えぇと……その……」
「……そうか」
その反応だけで察したが、あの2人と彼女は根本的に合わないであろう。たぶん鶫も2人が苦手だし、あの2人にとって鶫のような性格の人間は嫌う対象ですらあるだろうからな。
「無理に仲良くしなくてもいい。2人にも私から言っておく」
「ご、ごめんなさい……」
謝らなくてもいい。そう返しても、また彼女からは謝罪の言葉が返ってきて……この話は切り上げよう。堂々巡りで時間の無駄だ。
それよりも少しは落ち着いたようだし、そろそろ例のことについて聞いてもいい頃合いだろう。そう考えた私は、彼女にその話を切り出すことにした。
「鶫、確認したいことがあるのだが、聞いてもいいか」
「っ、はい」
私の雰囲気が変わったのを敏感に察知したのだろう。彼女は体を強張らせて、返事をした。
「鶫、君はこの半年間の……呪術高専に入学してからの記憶はないんだな」
「………………はい」
私の質問に彼女はまた俯いてしまった。嫌な思いをさせるつもりはなかったのだが……。
「これからどうする?」
「…………」
鶫は答えない。いや、きっと答えられないのだろう。
それほどまでに、この半年で鶫を取り巻く環境は大幅に変わった。ゆっくり考えればいいとだけ伝える。あとは、
「決して自ら死を選ぶなんてことは考えるな」
「っ」
その真実を知ってから、何回も口にしている言葉だった。
「記憶がないとはいえ、鶫は京都校の皆にとって大事な人だ。だから、死のうなんて考えないでくれ」
「……それは、憲紀くんも?」
「あぁ、勿論だ」
「……わかった」
「それに鶫が気に病んでいた君の母親のことも気にしなくていい。加茂家も今回の件で、本邸も加茂家自体も壊滅的な被害を受けた」
君が呪霊を祓えなくとも、もう誰も加茂家の評判なんてものを気にする人間はいなくなったのだから。
そう告げると、鶫は一瞬だけ顔をあげ、また俯いてしまった。
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鶫の身に何が起きたのかは分からない。
いや、きっとそれ以前の話だ。そもそも私は鶫のことを理解しようとしていなかったのかもしれない。あの鶫は私のことを知りたいと、仲良くしたいと言ってくれた。にもかかわらず、私は事実を知ることを避けていた。
急に人格の変わった彼女自身のことを何も知らずに、ここまで来た。だが、今がそうなのだ。私は知らなくてはいけない。
彼女に何が起きたのか。
彼女は一体何者なのか。
鍵は夏油傑と『脹相』。そして、『焼相』。
夏油傑は五条悟を始めとした東京校で探してくれているそうだ。
ならば、私がすべきは『呪胎九相図』・『脹相』を探し出し、話を聞くことだろう。
そのために、まずは『焼相』と名乗るあの少女から話を聞かなくては。
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