【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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鶫が意識を取り戻し、そして、記憶を失ってから、『焼相』は元の鶫の部屋に引きこもって出てこないらしい。
「……わかんないもん」
扉越しに三輪や真依が何を訊ねてもその調子で、まったく話にならないとのこと。
『焼相』から直接話を聞くために、私と与は鶫の部屋の前に向かっていた。鶫の部屋があるのは無論女子寮だが、今は緊急事態ということもあり、歌姫先生の監督のもと、立ち入りが許されている。
女子寮とはいえ、作りは男子寮とほぼ変わらない。歌姫先生から聞いた通りに、突き当たりの鶫の部屋へ。そこには既に先客がいた。
「……加茂先輩、幸吉」
どうやら昼食を持ってきていたようで、三輪が部屋の前に座っていた。表情から何の進捗もないことが分かってしまう。
「どうだ、中の様子は?」
「変わりません。それに、ご飯も食べてくれなくて」
確かに、三輪の隣に置いてある昼食は冷めきっていた。
「三輪、少し休んだ方がいい」
「……うん。でも、わたしができるのこれくらいしかないから」
与の言葉に、三輪は笑い返す。
真依や西宮は任務で九州にいる。そのため、今、女子寮で『焼相』の面倒を見れるのは鶫を除けば、三輪しかいない。
「……すまない、三輪」
「って、なんで加茂先輩が謝るんですか」
「いや……」
上手くその質問に答えられない。自分でも分かっていないのだから当然だが。
ともかくだ。当初の目的通りに『焼相』から話を聞こう。話してくれるかは分からないが、試さないわけにはいかない。
ーーコンコンーー
聞こえているか?
ノックをしてからそう問いかける。返事はない。
「『焼相』、鶫について話がしたい。開けてくれ」
「………………」
多少面識があるらしい与の呼びかけにも反応はない。見れば、三輪も首を横に振っていた。
残念ながら無理か。仕方がない。また明日にでも来てみよう。
そう思って、部屋の前から離れようとしたその時だった。
ーーバリィィィンッーー
「「「!!!」」」
突然、ガラスの割れる音が聞こえた。それは目の前の部屋の中から聞こえてきた。
「加茂!」
「あぁ!」
与がそう言うと同時に、術式を発動する。あまり強引な手は使いたくなかったが、仕方がない。『百斂』で圧縮し、扉へ向けて『穿血』を放つ。簡易版の『穿血』とはいえ、鍵は簡単に壊れ、与がその扉を蹴破った。
部屋の中、そこにはもちろん『焼相』がいる。ベッドの上で体育座りをしていた。それはいい。問題はもうひとりの人物だ。
「…………なんだ?」
なんだはこちらの台詞だ。
なぜここにいる?
「『脹相』っ!!」
窓を割って入ってきたのだろう。ちょうど窓枠から足を降ろしていた『彼』に向け、私は構える。もちろん、三輪も与も戦闘態勢に入っている……のだが、『脹相』はそれを意にも介さない。特級としての余裕なのかとも思ったが、どうやらそれは違うようだった。
「『焼相』」
「イヤだもん」
「いい娘だからお兄ちゃんの話を聞いてくれ」
「……イヤ」
「お願いだ」
「しらないもん……」
「くっ!?」
「「「…………」」」
どうやら『脹相』の目的も、『焼相』と話をすることらしい。だが、『焼相』は兄である『脹相』の話すら聞こうとしていない。イヤイヤと繰り返すだけ。
しばらく成り行きを見守っていたが、妹に拒否され続ける『脹相』にこちらと戦闘をする意思はないように見えた。
「……『脹相』」
そこで与が口を開く。
「黙れ。俺は妹と話をするのに忙しい」
「……その妹には拒絶されてるだろ」
「ぐっ!?」
与の言葉に『脹相』はガラスの破片が刺さるのにも構わず、膝から崩れ落ちた。妹に拒否されることに狼狽えるその姿は、あの時、廃寺で私を打ち負かした奴と同一人物は思えない。
「それ以上しつこくすると、妹に嫌われるぞ」
「ーーッ!?」
畳み掛ける与。個人的には、母様を利用したこの男が精神的に追い詰められていくのを見ているのも一興ではある。胸のすく思いだが……。
「『脹相』、少し話がしたい」
その思いは押し殺し、提案する。
今は鶫のことが優先だ。
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あまり高専内で長居すると、『脹相』が高専側に見つかる可能性がある。そうなれば、『彼』から話を聞く機会は失われてしまう。そのため、私と与は『焼相』のことを三輪に任せ、『彼』を連れて、近くの喫茶店に入っていた。
珈琲を3つ注文した後、私は会話を切り出した。
「加茂鶫を知っているな」
「加茂鶫…………『器』の話か」
「っ」
いきなりだった。核心をつくようなことを『彼』は口にした。
「それは、どういう意味だ……?」
再度問う。それに『脹相』はため息を吐きながら、答えた。
「意味もなにも言った通りだ。お前の言う加茂鶫が『器』のことならば、俺は知らん。他を当たれ」
「『器』……その言い方だと、鶫の中に違う魂が入っているような言い種だ」
与の言葉を『脹相』は、
「……気づいてなかったのか」
「加茂鶫という『器』には、別人の魂が入り込んでいた」
「「!?」」
簡単に肯定した。それが事実ならば、今までの鶫は、私の従妹ではなく、赤の他人だったということだ。
「少なくともそこの糸目との戦闘に乱入してきた奴はそうだった。今はどうか知らないがな」
『彼』の話を信じるとすれば、この半年間の鶫は本当の鶫ではなかった。衝撃の事実ではある。だが、同時に心のどこかで納得もしていた。そう考えれば辻褄が合うのだ。
喋り方。振る舞い。考え方。
この半年間、彼女のすべてが私の知る本来の鶫とはかけ離れていて。
だから、私は『脹相』の答えに、そうかとだけ返していた。
「『脹相』」
「……お前たちが知りたいのは中身のことか。ならば、俺はその術師を知っている」
私達の反応から、聞いているのが鶫の中に入り込んでいた『中身』のことだと察したのだろう。『脹相』は話を進め、私は問いかける。
「それは誰だ?」
核心となる質問に、『脹相』は答えた。
「加茂憲倫」
「俺達『呪胎九相図』を作った憎むべき父親だ」
「「!?」」
返ってきたその名は、予想外の人物で。
「な!?」
「加茂憲倫!? 御三家の汚点。最悪の呪術師。鶫の中身があの加茂憲倫だというのかっ!?」
言葉が出ない与と思わず大声をあげた私に、『彼』は静かに頷いた。そのタイミングで注文した珈琲が運ばれてきたお陰で、与も私もそれ以上取り乱さずに済んだのだが。
珈琲をすする『脹相』の姿を見て、私もその場に座り直した。
落ち着け、加茂憲紀。
少し深呼吸をして、落ち着くのだ。
「……ふぅ」
「加茂」
「あぁ」
どうやら与も我に返ったようだ。私達は再び『彼』に向き直る。
「その話は本当か?」
「あぁ、あれは加茂憲倫で間違いない。俺の術式の影響だろうな。あれが俺の血を分けた者だということは感じ取れる」
「その証拠は?」
「そんなものはない。俺以外の客観性を求めるなら『焼相』だな。彼女は父親という存在を求めていた。あの鶫という人間に懐いていたのはつまりそういうことだ」
「……加茂憲倫。その人物は明治時代の人間だ。それがどうやって……?」
「そこまでは知らん。そういう術式かあるいは呪物の類いか」
「俺たちの知っている加茂憲倫と、入り込んでいたという鶫の人格にはずいぶん差があった。その違いはどう説明する?」
「…………」
俺たちの質問に淡々と答えていた『脹相』だったが、その質問には沈黙する。答える気がない訳ではなく、『脹相』自身も考えているのだろうか。
少し黙った後、『脹相』は再び答える。
「夏油傑と対峙した時、奴からも加茂憲倫の血を感じ取った。奴の中身も夏油傑ではない」
「夏油からも?」
「あぁ」
記録によれば、夏油傑は去年の12月24日に五条悟の手によって、殺されている。どうやって生き延びたのかと総監部は騒いでいたようだが、なるほど。何かのカラクリがあるというわけか。
「……俺が感じ取った加茂憲倫は2人」
「夏油傑と加茂鶫」
「そして、俺達を作り出したのは前者、夏油傑の中にいる方だ。名は『羂索』……もうひとりの加茂憲倫にそう呼ばれていた」
詳しいことは知らん。あとは加茂鶫の中にいる方に聞け。
そう言って、『脹相』は珈琲の残りをすすり、席を立つ。話は終わりだということだろう。
「もういいな」
「おい、『脹相』」
「……何をしようとしているか分からんが、『羂索』の狙いは『呪胎九相図』だ。『焼相』と話をして、俺と来るように説得する。何よりーー」
「ーー『奴』は弟たちを殺したッ! 妹を弄んだッ!」
「『奴』は俺が殺す。それがお兄ちゃんの仕事だ!!」
血走った目。ざらついた殺気。
確かにそれは私が戦った特級の『彼』だった。
……なるほど。ずいぶんとすんなり答えてくれると思ったが、そういうことか。ならば、少なくとも今の『彼』は高専側と敵対することはないだろう。
帰り際、私は『彼』を呼び止める。
「『脹相』」
「……なんだ」
「ひとつだけ言っておくが、私はまだ許してはいない」
「そうか」
私に一言だけを返し、『彼』は喫茶店を後にした。
「加茂」
「いや、大丈夫だ」
これからどうするかはまだ決まっていない。
ただ『加茂憲倫』についての話が終わるまでは、この感情は抑えておこう。
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仕事で忙しくなるので更新です。
少しスランプ気味……。