【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第52話 終演ー弐ー

ーーーー回想ーーーー

 

 

「奴は恐らく俺よりも上手だ」

 

 

『焼相』のいる鶫の部屋への道中。

階段にもいる呪霊を祓った後、『脹相』は私にそう告げた。勿論、奴というのはこれから私達が戦うであろう相手『羂索』のこと。

その言葉に少し怯む。

隣の『脹相』とは、母様を取り戻すために戦った。私はその時ですら『彼』に手も足も出なかったのだ。それよりも上手……考えたくもないな。

 

 

「勝算はあるのか?」

 

「ない」

 

 

冷静にそう言う『脹相』。

 

 

「……それは、あまりにも無謀ではないか」

 

「無謀など妹を守らない理由にはならん。俺はお兄ちゃんだからな」

 

 

意味が分からないが、退くつもりはないということだろう。

だが、よく考えれば、こちら側の目的は『焼相』を『羂索』に渡さないこと。『奴』を倒すことではない。『脹相』が戦っている間に『焼相』を連れて離脱するのが現実的な案だろうが……。

 

 

「……それでは『彼』の話は聞けないな」

 

 

ボソリと呟く。

『彼』がどうしているのか、どうすれば『彼』を……。

 

いや、待て。

私はどうしたいのだ?

『彼』とまた会いたい? 礼を言いたい?

まぁ、それはそうだろう。『彼』は私の恩人だ。『彼』がいなくてはきっと母様を取り戻すことが出来なかったから。

 

だが、もしそれが、『彼』ともう一度会うことが、今の鶫と引き換えの物だとしたら……?

可能性はある。むしろその可能性の方が高い。

鶫に『彼』の人格が入っていた間の記憶はなかった。そして、『彼』の人格が消えたことで今の鶫が帰ってきた。そう考えるのは不自然なことではないだろう。鶫と『彼』の存在は恐らく同時に存在しない。

ならばーー

 

 

「おい……聞いているか」

 

「っ、あ、あぁ」

 

 

沈みかける思考を『脹相』に引き戻され、私は前を向いた。

 

切り替えろ、加茂憲紀。考えるのは後だ。

今は目の前の敵に集中するべきだ。そうしなくては絶対に勝てない相手なのだから。

 

 

「いいか、俺が奴を引き付ける。その間にお前が妹を連れて離脱しろ」

 

「あぁ、分かっている」

 

 

 

ーーーー鶫の部屋ーーーー

 

 

「おい」

 

「『彼女』から離れろ」

 

 

鶫の部屋の前にいた呪霊を祓ったと同時に、突入する。

既に『百斂』で圧縮した血液は手の内にある。あとは放つだけという状態で『羂索』に向けた。

そんな私を見ても、『羂索』は表情を崩さない。

 

 

「『赤血操術』2人がこちらに来たのか。少々、予想外だったよ」

 

 

言葉に反して、驚いた様子はない。余裕が見える。

だが、そんな『羂索』に対峙しても『脹相』は怯まない。相手が格上であることが分かっていても、恐れはないようだった。今の『脹相』にあるのは、

 

 

「……この際、お前が加茂憲倫だろうが、『羂索』だろうがどうでもいい。俺の妹に指一本でも触れてみろ」 

 

「お前を殺すッ!!!」

 

 

怒りと憎悪。そして、使命感。

溢れる感情を込めて、『彼』は構えた。

 

 

 

「『百斂』ーーーーーー『穿血』ッ!!」

 

ーーバシュンッーー

 

 

 

高速で圧縮し放つ『穿血』。私のものとはレベルが違うその攻撃は、瞬く間に『羂索』の額へ届く。

 

 

ーースッーー

 

「やはり速いな」

 

 

「っ」

 

 

それすらも『羂索』は紙一重で躱す。

 

 

「『穿血』!」

 

 

体勢の崩れたその一瞬を狙い、私も放つ。

 

 

「こちらは……大して脅威ではないね」

 

ーービシュッーー

 

 

「くっ!?」

 

 

私の攻撃は呼び出された低級呪霊の群れに阻まれる。

『脹相』には劣るとはいえ、圧縮が十分にされた『穿血』をこうも簡単に止められるとは……。本当にレベルの違いを実感する。

 

 

「止まるなッ」

 

「っ、あぁ」

 

 

軽く折れかけた心を持ち直す。

『奴』の体勢が崩れているのは事実。『脹相』の声に合わせて、2人同時に『赤鱗躍動』を発動し、距離を詰め、拳と蹴りを放つ。

 

 

ーーバキッーー

ーーバギッーー

 

「連携は……まずまず」

 

ーーバギッーー

ーーバキッーー

 

「っ」

 

 

当たり前のように止められるが、それはいい。本命はーー

 

 

ーーブヂューー

 

「!」

 

 

「『赤縛』!」

 

 

体術に紛れて、血液パックを放り、潰させること。私の攻撃力では『奴』の防御は崩せない。だが、相手が昔の術師ならばこそ通じる歴史の浅い『赤縛』という術なら、不意を突くことができる。

 

 

ーーパシュゥーー

ーーギュンッーー

 

「拘束、か」

 

 

拘束できた。勿論、これも一瞬で抜けられるだろう。

そう。それでも一瞬ならば拘束できるはずだ。

 

 

「『脹相』っ!」

 

「上出来だ!」

 

 

いくら『脹相』とはいえ、『百斂』は溜めが大きい。だから、『彼』は直接『羂索』を狙う。

『脹相』の手には、血で作られた刃・『血刃』が握られていて。それを『奴』の心臓に突き立てた。

 

 

ーーガクンッーー

 

ーードサッーー

 

 

「!?」

 

 

……はずだった。

あのタイミングであれば回避はできない。事実、『羂索』は避けていない『脹相』が勝手に転んだように、私の目には見えた。

 

 

「『大鯰』といってね。地面が落ちたと思っただろう、実際は君が勝手に引っくり返っただけなんだがね」

 

ーーブチッーー

 

「っ、『百斂』ーー」

 

 

「無駄だよ」

ーーバギィッーー

 

 

「っ!?」

 

 

『脹相』を蹴り飛ばす『羂索』。

なぜだ? 『赤血操術』、特に『穿血』を使う術師には距離を詰めたまま戦うのが定石のはずだ。なのに、わざわざ距離を離した。

何をーー

 

 

「ここは狭い。少々広く使わせてもらおうか。ざっと50だ」

 

 

ーーゾワッーー

 

 

何をしようとしているかは依然として分からない。それでも、今すぐここを離れなければ死ぬ。それだけは分かった。

 

 

「っ」

「『焼相』を守れッ!!」

 

 

 

「極ノ番『うずまき』」

 

 

 

……………………

 

 

「…………っ」

 

 

どのくらい意識を失っていた?

身体は動くか? 『脹相』はどうなった?

覚えているのは『奴』の使った術が『脹相』に襲いかかったこと。私は咄嗟に『赤鱗躍動』で『焼相』を抱え、退避したこと。

……全身が、痛い。

土の感触がする。恐らくあの術の衝撃波で寮から投げ出されたのだろう。攻撃のベクトルがこちらに向いていなかったのに、このダメージか……。

 

 

「化、物……めっ」

 

 

少しずつ、息ができるようになる。荒くなる息をどうにか整えながら、私は周りを見渡した。

 

 

「…………『焼相』……」

 

 

私から少し離れたところに、『焼相』は倒れていた。抱えたはいいものの、途中で投げ出されてしまったのだ。死んではないだろうが、意識はない。

 

痛む身体をどうにか起こし、今度は私の背中側、寮の方へ向き直る。私の目の前に広がったのは絶望的な光景。寮の半分が消し飛んでいるというあり得ない光景だった。

その側に、『奴』はいた。その足元には『脹相』が倒れていて。

 

 

「『脹、相』……!」

 

 

どうにか声を絞り出すと、それに気づいたのは『脹相』ではなくーー

 

 

「……まだ立てるのか。ククッ、意外にタフな子だ」

 

 

邪悪な笑みを浮かべる『羂索』。

 

 

「……『脹相』を、取り込むつもりか……?」

 

「正解だ。『呪胎九相図』は元々私が産み出した『モノ』……自然の摂理だと思うがね」

 

「……『脹相』たちを取り込んで何をしようとしている」

 

「…………知ってどうするんだい?」

 

「……………………」

 

 

これは時間稼ぎの問答だ。『脹相』と『焼相』が意識を取り戻すまで、時間を稼げばいい。

そのはずだった。なのに、私の口から出たのは、

 

 

「……知らなくては何もできない。何をする権利もない」

 

「だから、私は『知りたい』のだ。私に何ができるのかを考えるために、何かをするために」

 

 

その答えはすっと出た。

誰かの受け売り。その言葉が私から出てきたことに少し驚いたが、納得もした。

私の口から出た言葉を聞いて、『羂索』はまた笑う。

 

 

「ククッ、まるでどこかの誰かさんの言葉だ」

 

 

悪い大人に関わると悪い影響が出る。典型的な例だ。

愉快そうに『奴』はそう言った。

 

 

「あぁ、本当にそうだ。悪い大人だった。だが、呪詛師にそうは言われたくはない」

 

「彼はね、一時は私の同志だったんだよ。知的好奇心を満たすために何でもしたさ……彼はそれをよしとせず、袂を別つことになったが」

 

「…………『彼』とお前は違う」

 

「本質は同じさ」

 

 

押し問答。

私と『羂索』の認識には齟齬があり、恐らくそれは埋まらない。やはり知らなくてはならない、『彼』……加茂憲倫のことを。

 

 

「……教えてはくれないか、加茂憲倫という人物のことを」

 

 

時間稼ぎのつもりだった会話はいつの間にか、私が真に知りたいそれに繋がっている。私の言葉に『奴』は口を開きかけたが、ふと目をつぶり笑う。

そして、私の背後を指差した。

 

 

「噂をすれば、だね」

 

「っ」

 

 

『羂索』の指差す方、後ろに振り返ると、そこにいたのは、

 

 

「鶫っ!?」

 

「憲紀、くん……」

 

 

寮にいたはずの鶫の姿だった。

 

 

 

「そうだね。まずはその『器』の話をしようか」

 

「加茂鶫。その娘の話だ」

 

 

 

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