【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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久々更新。


第56話 憲倫くんは迫られる

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「まるで悪夢だな」

 

「悪夢? いや、これは現状一番可能性の高い未来の光景だ。私はこの呪具を通して、君にそれを見せているだけに過ぎない」

 

 

およそ人ならざる風貌の呪術師で、私の古い知り合いである『天元』はそう告げた。

今、私の脳内に刻まれたその悪夢が、起こりうる未来だと言うのだ。

 

 

「…………このままでは憲紀が死ぬと?」

 

「あぁ。現に戦闘は始まっている。『脹相』が『羂索』の手に落ちるのも時間の問題だ」

 

 

この何もない白い空間から外の様子は見えない。だが、『天元』からは何かが見えているようで、今の戦況を教えてくれていた。

 

 

「まったく、何かの冗談だと思いたい。お前がそんな姿になっているのにすら驚いたというのに……」

 

「あれから150年だ。知っているだろう。私は不死だが不老ではない。年齢を重ねればこうもなる」

 

「分からん話だな、私には」

 

 

それに今は外見など些末な問題だ。気にはなるが、気にしている場合ではない。

今、私が直面している問題はただひとつ。

 

 

 

「どうしたらこの未来を変えられる?」

 

 

 

憲紀が死ぬ未来を変えること。

それが私のすべきことだろう。

 

 

「…………猶予はもうない。無理な話だ」

 

 

それに例の呪具によって見た未来は変えられない。ただ知ることができるだけ。『天元』はそう付け加える。

『彼』の言葉からは、どこか適当さすら感じ取れる。そこで不意に思い出す。

 

 

「憲紀の生死はこの国の秩序とは関係ない。だから、介入しない。そういうつもりか?」

 

「否定はしないよ」

 

「……っ、変わらないな」

 

「否、変われないんだよ」

 

 

『天元』の主義……もはや『縛り』とも言えるそれは150年経った今でも変わっていない。

忘れていたよ。確かにお前はそういう奴だったな。

 

 

「……ん?」

 

 

不意に、ひとつの疑問に思い至る。

『彼』が動くのは、日本全土に至る結界、延いては秩序の維持だとして。

ならば、なぜーー

 

 

 

「私はここにいる?」

 

 

 

本来ならば、私は『羂索』の『無為転変』によって魂ごと消滅したはずだ。それにも関わらず、ここに繋ぎ止められているのは『天元』の結界術のおかげに他ならない。

だが、『彼』の主義を思えば、知り合いとはいえ一個人を繋ぎ止めるためにその力を行使する訳がないのだ。

 

 

「答えろ、『天元』。なぜ私はここにいるのだ?」

 

 

憲紀の死を受け入れろというのと同じように、私の消滅も受け入れればいいだろうに。それをしないということは、あるいは……。

 

 

「私の存在がこの国の秩序を守ることに繋がっている……そういうことか」

 

「……昔話をしよう」

 

 

昔話といっても、150年前の人間である君にも500年を生きる私にも最近の話になるが。

そう補足してから、『天元』は語り始める。

 

 

「私と『六眼』、『星漿体』の因果については昔、話した通りだ。それが12年前、一人の男によって破壊された」

 

「禪院甚爾」

 

「『天与呪縛』によって、呪力から完全に脱却した存在。術師殺しと呼ばれていた人間だった」

 

 

『天与呪縛』による呪力からの脱却。

それはまるで、私が入っていた時の加茂鶫だ。

 

 

「それ以上に彼は異質だったよ。加茂鶫は君が入っている分、呪力は多少残っているからね」

 

「ともかくその彼によって破壊された因果のせいで、『羂索』の計画が進むことになった。『星漿体』が殺されたんだ」

 

「勿論、今までも『羂索』によって、『星漿体』が殺されることはあった。だが、『星漿体』も『六眼』も私の同化の日には現れる。そういう因果だからだ」

 

「そうして、私の進化は進み、この姿に……いや、天地そのものが『天元』になった」

 

 

なるほど。少々話が見えてきた。

『天元』の進化による弊害……『天元』自身の体組織の変化。つまりは、呪霊に近しい体になったことで、今の『羂索』の『呪霊操術』の対象になってしまったということか。

 

 

「話が早くて助かるよ」

 

「そう。今の『羂索』の目的は『私』を取り込むこと。その果てにあるのが『私』と全人類の同化だ」

 

「全人類が『私』と繋がることで、1人の悪意が全国民へと伝播する。そうなれば、この国は終わりだ」

 

 

そこまで話を聞いて、私はひとつため息を吐いた。

 

 

 

「はぁ……話が随分と大袈裟になってきたな」

 

「しかし、事実だよ。そもそも何事もなければ、五条悟……『六眼』は渋谷の騒動で『羂索』によって封印されるはずだった。それを以て、計画は次に進めようとしていたのだろう」

 

「それも先程、私に悪夢を見せた呪具で見たのか?」

 

 

私の質問に『天元』は静かに頷いた。

手には起こりうる可能性の高い未来を見せるという件の呪具。

…………って、待て。

 

 

「その呪具で見た未来は回避できないのではなかったか?」

 

「本来であればそうだ」

 

 

そうだ。

憲紀の死も変えることはできない。もう既に決まっていることだからと、そう言っていたではないか。

それが本当なのだとしたら、矛盾している。

 

憲紀の死は避けられないが、五条悟の封印は回避した?

なんだ、その話は……っ!

 

 

「ふざけるなっ!」

 

 

思わず声を荒げて、『天元』に掴みかかる。

捲し立てるように続ける。

 

 

「大方、その呪具で見た未来をお前の介入によって変えたのだろうっ、世界の秩序とやらのために!」

 

「五条悟は助けて、憲紀を見捨てるなどそんな訳の分からん線引きなど認めるものかっ!」

 

 

私の怒りを受けても、『天元』は顔色ひとつ変えない。

それどころかーー

 

 

「ふっ」

 

 

怒り心頭の私を見て、笑った。それが余計に私の癪に触る。

 

 

「何がおかしいッ」

 

「いや、すまない。私に変わらないと言ったが、大概、君も変わらないと思ってね。家族のことになると冷静さを失う……私には分からない羨ましい感情だ」

 

「……茶化すのも大概にーー」

 

 

 

「私はまだ君をここに留めた理由を話していない」

 

 

 

「!」

 

 

私のことを責めるのはそれを聞いてからにしてくれないか。

『天元』の言葉を受け、私は『彼』から手を離す。

助かるよ。私とは対照的に、穏やかな声色で『彼』はそう言ってから話を続けた。

 

 

「呪力から完全に脱却した者による因果の破壊。『天元』と『六眼』と『星漿体』の間の因果は、禪院甚爾の手によって壊された」

 

「今回の五条悟が封印される未来を変えたのもそうだ。私ではなく、『天与呪縛』をもつ者による因果の破壊がその原因になっている」

 

 

つまり、お前を責めるのはお門違いだと?

憲紀の死という未来を回避するのにも、その禪院甚爾なる人物に頼めとでも言うつもりか?

私のその問いに、『天元』は首を振った。

 

 

「禪院甚爾は12年前に既に殺されている。五条悟の手によって」

 

「……では、誰だ? その『天与呪縛』をもつ者とは誰なのだ」

 

「まだ気づかないのか」

 

「…………まさか」

 

「そう、そのまさかだ。五条悟が封印されるという未来を破壊したのはーー」

 

 

「ーー加茂鶫……いや、加茂憲倫。他ならぬ君自身だよ」

 

 

『天元』曰く。

私が加茂鶫として、幸吉を『真人』から救ったことが五条悟の封印回避に繋がったらしい。

そして、それが『羂索』の計画を乱した。

……なるほど。ここまできて、やっと『彼』の思惑が見えた。

基本、現のことに関わらない『天元』がわざわざ介入してまで、一介の呪術師である私の消滅を防ごうとしたのは、

 

 

「私が君をここに留めた理由。それは君を再び加茂鶫の体へ戻し、『羂索』によって混沌に堕とされる世界を救ってほしい。そう考えているからだ」

 

 

私にならば可能だと、『天元』はそう言った。因果から外れた存在である私にならば可能だと。

だが、その理論でいうならば、加茂鶫本人にも可能ではないのか? むしろ彼女の方が相応しいとも思える。彼女の中に私が入ったことで呪力が混じってしまっている。さっき『天元』自身がそう言っていたではないか。

そんな指摘を『天元』は否定する。

 

 

「彼女には無理だ。呪術師としての素質……精神が伴っていないのだから」

 

「…………そうだったな」

 

 

憲紀から加茂鶫の本来の性格は聞いていたから『天元』の言葉には納得せざるをえなかった。

だから、と。

『天元』は私に告げる。

 

 

「憲倫、君には2つの選択肢がある」

 

「ひとつは、加茂鶫として再び戦うこと。そうすれば、苛烈になる戦いに身を投じることにはなるが、加茂憲紀は救える可能性もある」

 

「もうひとつは、ここで君自身の命を終わらせること。オススメはしないがね」

 

 

2つの選択肢。

選ぶのは簡単だ。だが、ひとつだけ確認しなくてはならないことがある。

 

 

 

「……加茂鶫本人の精神はどうなる?」

 

 

 

元々、私の存在が異常だったのだ。私が消えて、彼女自身の精神が肉体と結びついている今が正常な状態だ。

それを再び引き剥がそうというのだから、不具合が起こるのは目に見えて明らかだ。その予想は外れてはいないようで、『彼』は三対の目を伏せて答える。

 

 

「消えるだろうな」

 

「っ」

 

 

それではあまりにも……。

 

 

 

「さぁ、選択の時だ」

 

「加茂憲倫、君はどちらを選ぶ」

 

 

 

ーーーーーーーー

予想アンケート。あなたの考える加茂憲倫は……。

  • 「彼女には悪いが、私は憲紀を救うのだ」
  • 「ならば、私の役目はここまでだな」
  • 「考えろ。他に可能性があるはずだ」
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