【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
第57話 懐古ー壱ー
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私の選択は間違っていたのだろうか。
分からない。分からない。
なぁ、教えてくれ。
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「いけません。それは間違っています、憲倫様」
とある廃村にて。
研究用にとそれを手に取ろうとした私に、彼女は平淡な口調で声をかけた。振り返ると勿論、彼女の姿がある。いつも通り表情に乏しい顔だが、私には彼女が怒っていることが伝わってきた。
「……別に構わないだろう。どうせこの村は既に呪霊により壊滅状態なのだ。死肉が私の研究の役に立つのならば、加茂家の発展に役立つのならば、死んだ者達も本望だ」
「…………」
「……なにか問題があるか?」
「…………」
私の言葉を聞いて、彼女から発する雰囲気がさらに刺々しいものになる。沈黙にここまでの重圧を感じるのは不思議で仕方がないが……ともかくだ。
「…………あぁ、分かったよ。私の敗けだ。あの遺体は持ち帰らないし、解剖もしない」
私はその場で両手を挙げ、何もしないことを表した。
「埋葬もしてください」
「……あぁ、そうしよう」
そこまで聞いてやっと満足したのか、感じていた刺すような雰囲気は引っ込んだ。まったく……録に研究もできんな。
「なにか文句がおありですか、憲倫様」
「いいや、ないよ」
10以上も離れているのだから、決して尻に敷かれている訳ではない。だが、どうにも彼女といると調子が狂う。私の核を成している好奇心が押さえつけられる感覚すらある。しかし、それが嫌ではないのだから不思議なものだ。
……………………
「…………」
「…………」
2人で簡単に作った墓に、手を合わせる。
十数秒後、もういいだろうと横目で見れば、彼女はまだ目をつぶったまま手を合わせていた。
何を思っているのか、その心中は分からないが、きっと悼んでいるのだろうな。本当に呪術師……特に私とは対局の思想だ。
理解はできるが、共感はできない。
「お待たせいたしました」
彼女が立ち上がったのは、私が合掌を止めてからそれから更に1分ほど経った後。
知り合いでもいたか。その質問に彼女は首を横に振る。
「ただ死を悼んでいました」
「……そうか」
墓を作ったこともあり、すっかり手も泥にまみれてしまった。彼女に家に帰るように促して、私達は帰路についた。
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彼女と知り合ったのは、5年前のことだ。
そこに移住した家族が次々に亡くなっていくという曰く付きの館。
それを解決してほしいという話が、高専伝いで加茂家に回ってきたのだった。どうやら国のお偉い方々関連らしく、当主である兄がこの任務に就いていたのだが、任務中に兄が負傷したせいで、私にまで御鉢が回ってきたのだ。
無論、自身の研究もあったから、私は断ったのだが、兄で祓えない呪霊を他の者が祓えるわけもなく。
結局、行ってみれば拍子抜け。
確かに呪霊自体は『縛り』のせいか強化されていたが、それでもその術式を紐解けば、大したことはない。すぐに祓うことができた。
ただ、そこに住んでいた家族の大半はどうやら既に呪殺されていたようで、館には死体がゴロゴロと転がっており、その中で1人だけ生きていたのが、彼女だった。
「呪われているな」
「…………」
「お前はあと数日もすれば死ぬ」
「…………」
そう告げても、彼女の目の色は変わらない。
よくよく見れば、彼女はボロボロだった。それは呪霊にやられたというよりも、人の手によるもの。
「虐待か」
後から知ることだが、ここに住んでいた者達には黒い噂があり、子供の誘拐やら売買やらで稼いでいたらしい。まぁ、曰く付きの館など後ろ暗い事情のある者にとっては好都合だろうからな。
「…………」
「お前はこのまま死んでもいいのか?」
「…………」
彼女は答えない。
見た目は15前後だろう。だが、少女とは思えないほど、死んだような目。自分自身の人生を諦めたかのような色をその時の彼女からは感じていた。
「…………やむを得んな」
ーーグイッーー
「えっ……?」
気づけば、私はうずくまる彼女の体を担ぎ上げていた。
見捨てられるとでも思っていたようで、その行為に彼女は驚きの声をあげた。
「なんで……」
その疑問の答えを私は持ち合わせていなかった。
研究こそが我が人生だとそう考えていた私が、なぜその少女をその場から救いだそうとしたのか、私自身も分からなかったのだ。
だから、
「さぁな」
彼女の質問にそれだけを返し、私はその館を後にした。
……………………
その後、私は彼女を加茂家に住まわせることにした。
他人に興味がないと思われていたのだろう……まぁ、実際にそうだったが。ともかく兄からも使用人達からも驚かれたが、気にするものか。
そんな風に開き直った私は、その少女と行動を共にするようになった。彼女にかけられた呪いも早々に解呪した。それよりも問題は、長年奴隷として飼われていたせいで、教養どころか一般常識さえもなかった彼女に、一から教育することの方が大変であった。
それからの5年間、試行錯誤しながら、彼女は知識と教養を吸収していった。
気づけば私の任に着き歩き、私を補佐し、時に意見をするような女性へとなっていった。長年、私が蔑ろにしていた家族の価値を考え始めたのもその頃だったろう。
研究以外に大切なものの存在に、私は気づき始めていたのだ。
呪いと隣り合わせながらも、穏やかな日々。
そんな日々は、ある日を境に揺らぎ始める。
彼女が21になるちょうどその日のことであった。
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