【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第61話 懐古ー伍ー

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「憲倫様」

 

 

 

最初に、私の視界に飛び込んできたのは、彼女の姿だった。彼女は椅子に座り、寝ている私の顔を覗き込んでいる。

目の前の信じられない光景に私は慌てて体を起こした。

 

 

「っ、意識が戻ったのかっ」

 

「それはこちらの台詞です、憲倫様」

 

「どの口がっ!」

 

 

「しーっ、ですよ」

 

 

彼女の言葉で、ここが病院であることを思い出し、なんとか叫び声を飲み込んだ。

 

 

「その顔、中々に面白いですね」

 

「っ、お前なぁ……」

 

 

彼女の発言に少々呆れつつも、改めて彼女と話ができたことに安堵する自分がいる。けれど、見れば体調がよくはないのは明らかだ。白い顔にやつれた頬。目の下には隈ができていた。

 

 

「お揃いです」

 

「っ、すまないな。じろじろと見てしまって」

 

 

見てしまっていたのがバレて、ばつが悪くなり謝ると、彼女は首を横に振った。

 

 

「妻の顔を見て謝らないでください。夫婦なのですからいくらでも見ていただいていいのです」

 

「っ」

 

 

そう言って薄く笑う彼女。元から表情豊かではない彼女だが、その微笑みからは儚さを感じてしまい、不意に涙腺が緩んでしまうのを自覚する。

涙は見せられない。

そう思って、彼女の視界から外れようと顔を背けようとして、

 

 

ーーギュッーー

 

「間違っていますよ、憲倫様」

 

 

彼女の抱擁にそれを止められてしまう。

そして、

 

 

「憲倫様が意識を失ってから丸2日、私は心配しました。だから、きっと憲倫様はそれ以上にお辛い気持ちだったんでしょう」

 

「不安も、心配も……たくさんかけてしまいました。私の顔を見て、それが溢れるのも当然です」

 

「だから、隠さないでください」

 

 

その言葉で、私の中の何かが、ずっと奮い立たせてきた精神が緩み、決壊する音がした。

思えば、これが初めてだった。

私は初めて、人前で泣いた。

 

 

……………………

 

 

「落ち着きましたか」

 

「…………あぁ」

 

 

どこか気恥ずかしくなり、ぶっきらぼうにそれだけを返す。そんな私を見て、彼女はまた静かに微笑む。

そして、切り出した。

 

 

 

「憲倫様」

 

「私はもう長くありません」

 

 

 

「っ」

 

 

それは私が一番聞きたくなかった言葉だった。

そんなことはないと声を大にして否定する。取り乱す私とは対照的に彼女は穏やかなままで。

 

 

「自分の体のことは自分が一番分かっています。呪いに蝕まれたこの体はきっと間もなく死ぬ」

 

「だからっ、そんなことは私がさせないっ! させるものかっ!!」

 

「……優秀な貴方様がここまで憔悴してるのです。解呪は難しいのでしょう?」

 

「っ」

 

 

そのくらい分かります。彼女はそう言って、話を続ける。

 

 

「憲倫様、あの子は元気ですか?」

 

「っ」

 

 

その質問に、私は思わず身を固くした。

 

 

「やはり、乳母に任せきりなのですね」

 

「……あ、あぁ……すまない」

 

「いいえ、そうではないかと思っていました。私にかかった呪いを解くための研究に集中して、あの子のこと、おざなりになっているのだろうと」

 

「うっ」

 

 

何も言い返せなかった。その通りすぎて。

父親失格だ。

ポツリとそう呟くと、彼女はそれに同意する。その後、

 

 

「ですが、それが私の愛した憲倫様ですから」

 

 

そう言って、笑う。それから表情を引き締め、彼女は私に言う。

 

 

「憲倫様、私はじきに死にます。ですから、遺言だと思って聞いてください」

 

 

 

「あの子との時間を大切にしてください。あの子は私と貴方様を繋ぐ存在……あの子を大切にすることが私がこの世に存在していた証明になるのですから」

 

「憲倫様自身を大切にしてください。私は私の愛した方に生きてほしい。ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと寝て、生きてください」

 

 

 

「それが私の最期の望みです」

 

 

 

儚げに微笑む彼女の手を、私は握り、答える。

 

 

 

「あぁ、約束するよ。静乃(しずの)

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それが彼女ーー加茂静乃との最期の会話だった。

このすぐ後に、彼女は死んだ。

呪いがかけられているとは思えないほど、安らかな死に顔だった。

 

 

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