【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第62話 懐古ー陸ー

ーーーーーーーー

 

 

静乃の葬儀が終わってから数日間は、喪失感に襲われていた。

彼女と約束して、彼女の穏やかな死に顔も見れたとはいえ、それでも大切な人を失ってしまったのは、私にとって大きなことだ。

 

だが、彼女との約束は果たさなくてはならない。

何より今の私自身の心の支えは、娘だけだ。

今まで乳母に任せきりだったこともあり、罪悪感はあるが、それでもまだ私と娘の人生は長い。これから一緒に紡いでいこう。

 

そう思って、私は娘を任せていた乳母の部屋に立ち入った。

 

 

……………………

 

 

「……は?」

 

 

目の前に広がったのは、凄惨な光景だった。

床や壁一面に血が飛び散り、死体が転がる。地獄のような光景。人ひとり分のものではない。少なくとも5、6人はここで死んでいる。

不意に、目に入ったのは、

 

 

「兄さん!」

 

 

地面に転がる兄の姿。辛うじて息はしている。だが、下半身がない。

 

 

「憲、倫……」

 

「っ、何があったッ!!」

 

「あの男……が……」

 

「あの男!? 誰のことだ! 私の娘はっ!?」

 

「…………」

 

 

兄は私の質問に答えない。答えることができなくなった。

 

 

「っ、くそっ!!」

 

 

何が、何が起こっているのだっ!

娘は……あの子は無事なのか!?

いや、落ち着け。落ち着け、加茂憲倫。何も分からない状態だからこそ落ち着かなくてはならない。状況を整理し、見極めろ。

 

なぜこうなった?

御三家の一角である加茂家に侵入し、ここまでの事を起こす目的は? あの男とは誰だ? あの兄をここまで一方的に殺せるほどの呪術師、一体……。

 

 

「…………研究室か」

 

 

ふとその答えに辿り着く。実力者が揃う加茂邸への襲撃。迎撃される危険性を侵してまで、ここを襲う価値は恐らく私の研究室にしかない。

私は血溜まりに踏み入り、研究室へ向かった。

 

 

……………………

 

 

研究室に足を踏み入れると、そこには『彼』がいた。

 

 

「おや、予想より早い到着ですね、憲倫殿」

 

「…………お前」

 

 

『彼』は穏やかな笑みを浮かべながら、話しかけてくる。だが、もう分かっている。

 

 

「兄達を殺したのはお前だな」

 

 

状況的にそれ以外あり得ないだろう。弁明するつもりはないようで、

 

 

 

「ククッ」

 

 

 

『彼』は笑った。それは今までに見たことのない邪悪な笑み。

なるほど。そっちが本性か。

 

 

「弁明などするつもりはないが、今まで献身的に手伝ってきた人間にそんな敵意に満ちた視線を向けないでほしいね」

 

「それも私に取り入るためだろう」

 

「……ご名答」

 

 

口調も変わった『彼』は悪びれずにそう言うと、ひとつ礼をした。

 

 

 

「改めて、はじめまして」

 

「私は『羂索』」

 

 

 

『羂索』と名乗った『彼』。その『彼』の手には、今までに蒐集した呪具や呪物がいくつか握られていて。

 

 

「何をしようとしている」

 

「……さぁ」

 

「白を切るなっ!」

 

 

敵であるのは明白だ。私はすぐに臨戦態勢に入る。

 

 

 

「『百斂』ーーーー『穿血』!」

 

ーーバシュンッーー

 

 

 

『赤血操術』の真髄『穿血』。

圧縮され、音速を超える速度で撃ち出される血液が『羂索』を襲う。その攻撃は、

 

 

ーードスッーー

 

 

手にもっていた呪具のひとつで防がれる。だが!

 

 

「フッ!!」

 

ーーグンッーー

 

 

『穿血』でそのまま横へ薙ぎ、奴の手から呪具を払い落とす。

 

 

「『赤鱗躍動』」

 

ーーバキッーー

 

 

そのまま距離を詰め、近接戦闘へ。自然と奴と組み合う形になる。

 

 

「残念だよ、君ならば理解してくれると思ったのだけれどね」

 

「理解だとっ! ふざけるなっ」

 

 

会話もしたくない相手。当然だ。

この男は私の家族を、加茂家の者達を殺しているのだ。

 

 

「その感情すらないはずだったろう?」

 

「何をっ!」

 

「まったく……つまらない男になった。こんなことになるならば、もっと早くにあの女を殺しておくべきだったよ」

 

「っ」

 

 

奴のその一言で、すべて察した。

それはつまり、静乃を呪い殺したのはーー

 

 

「貴様はーーッ!!」

 

 

感情が溢れる。怒りと憎しみで頭の中が黒く染まっていく。

 

 

「隙だらけーーだよ」

 

ーードスッーー

 

 

奴の蹴りが腹に入るのを感じた。だが、痛みは感じない。

 

 

ーーガシッーー

 

「!」

 

 

 

「殺す」

 

 

 

奴の足を握った手に呪力を込め、そのまま捻じ切る。

 

 

「っ」

 

 

その拍子に、奴は距離を取ろうとするが、

 

 

「逃がす訳がないだろうっ!!」

 

ーーザクッーー

 

 

血を高速で廻し、刃とする『血刃』を奴の心臓めがけて突き出す。紙一重で回避されようと気にするな。刺し続けろ。

 

 

ーーザクッーー

ーーザクッーー

ーーザクッーー

ーーザクッーー

 

 

「……痛いな」

 

「っ!」

 

 

確かに刺した。心臓は捉えていなくとも、内臓は突き刺しているのだ。笑っていられるはずがない。

 

 

「そろそろか」

 

ーーゾワッーー

 

 

奴の言葉を聞いて走る悪寒。同時に体から力が抜けるのを感じた。

 

 

ーーガクンッーー

「なっ、何をした……」

 

「毒のようなものだよ、それを君の体に打ち込んだ」

 

 

死に至るほどのものではない。数時間もすれば、動けるようになる。そんな『彼』の言葉を聞きながら、どうにか動かそうとするが、意思に反して体は動かない。

 

 

「……さて」

 

 

『羂索』は私に背を向けると、私の研究書類に手を伸ばす。そして、机に無造作に転がる呪具のひとつをとった。

それは、その呪物は……っ!

 

 

「止めろ……『羂索』」

 

「何を言っているんだ。君も興味があるだろう?」

 

 

倒れた私を見下ろしながら、『彼』はその呪物を照明にかざす。

 

 

「……そんなことは、ない」

 

「嘘を吐くなよ。君だって、私に賛同してくれたじゃあないか。これも呪術の更なる進化のためだと」 

 

 

確かに私の研究は、呪術の更なる進化に繋がるものだった。

だが、違う。私はこの研究を人のために役立てたかった。

それで人を救えるならと思ったから。

 

 

「偽善者め」

 

 

私の言葉を遮り、偽善者だと吐き捨てる『羂索』。

 

 

「君は私と同じだ、加茂憲倫」

 

「人が人から脱却し、呪霊と変わらない呪力の塊となる。人を人とも思わない研究。私と同じさ。外道だよ」

 

 

違う。それは我々呪術師が力を増す呪霊に対抗するための手段だ。

人を守るための……。

 

 

「これ以上は言葉を交わしても無駄だな」

 

 

そう言うと、『羂索』は呪物に呪力を流し、『それ』が胎動し始める。

 

 

「くっ……」

 

ーーガシャンッーー

 

 

這いつくばりながら、どうにか届いた机の足を掴み倒す。机の上にあった呪具や呪物が床に散らばった。

 

 

「…………随分と頑張るね」

 

 

この男の持つ呪物が解放されれば、どうなるか分からない。

何かないか。散らばった呪具の中に、何か……。

 

 

「あぁ、気にしなくていい。この呪物を解放するつもりはないよ」

 

「っ、なら、なにを……」

 

「私はね、千年前からこうして呪物を蒐集しているんだ。その理由はーー」

 

 

そこまで言って、『羂索』は空間を割き、そこからーー

 

 

「おぎゃぁっ!!」

 

 

泣き声。『彼』の腕のなかにいたのは、

 

 

「……涼乃(すずの)ッ」

 

 

私の愛娘だった。

 

 

「なにを、する気だ……」

 

「心配しなくていい。この子は呪術の進化の礎になるだけだ」

 

 

『羂索』は手にした呪物を涼乃の口に捻じ込んでいく。

 

 

 

「や、めっ、やめろっ……!」

 

ーードクンッーー

 

 

 

無理矢理に『赤鱗躍動』を発動させる。

 

 

「…………『縛り』を結んだか。死ぬつもりかい?」

 

「その娘を守れるなら……本望だっ」

 

 

今だけでいい! 今だけこの体を動かせ!

私はもうここで呪力を使い果たしても、命を使い果たしてもいい。すべてを絞り出せ!

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

すまない、静乃。

君との約束、守れなかった。

 

ごめんな、涼乃。

お前を守ってやれなかった。

 

私は家族を守れない駄目な父親だったよ。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

『加茂憲倫』

 

御三家の汚点と語り継がれる『彼』が加茂家当主となったその日、加茂邸にいた全員が殺害されたという噂が立った。

だが、本人はそれを否定。それから『彼』が生きている間、加茂邸への立ち入りは禁じられた。

 

そして、『彼』は自らの好奇心のまま、多くの呪具・呪物を産み出した。

 

 

 

ーーーーーーーー




『懐古』編、これにて終幕。

懐古編終了。懐古編は……。

  • 悲劇ではあったが、納得した
  • 分かってはいたが、つらたん
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