【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第64話 憲紀くんは手を伸ばす

ーーーーーーーー

 

 

私の撃ち出した『穿血』は音速を超え、触れた瞬間に『骨相』の肉体の半分を消し飛ばしていた。

それを視認すると同時に、私は駆ける。『散相』を蹴り飛ばし、与の隣へ。

 

 

「与!」

 

「加茂、お前……」

 

「あぁ、どうやら『黒閃』を撃てたらしい」

 

 

『黒閃』。

呪力と攻撃の誤差が0.000001秒以内であった時にのみ生じる空間の歪み。威力は通常の2.5乗……だったか。

 

 

「渾身の『穿血』だった。正直な話、さっきまでの集中力は私にはもうない。だが……」

 

 

何故だろうか。

残り少ないながらも思うように呪力がーー

 

 

ーーグンッーー

 

 

『……!』

 

 

ーーバキッーー

 

 

ーー廻る。

『赤鱗躍動』も先程までとは違う。体を巡る血液すら自覚できる。

これならば、『散相』の術式も突破できる!

 

 

ーーバキッーー

ーーバキッーー

ーーバキッーー

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 

ーーバキィィィッーー

 

 

拳を振り抜き、『散相』が吹き飛ぶ。そのまま追撃。

距離を詰めて腕を掴み、

 

 

ーーガシッーー

 

「ふんっ!!」

 

ーーブンッーー

 

ーーバキッーー

 

 

地面に叩きつける。手応えはある。だが、思ったよりも衝撃が少ない。これは恐らく、

 

 

「また衝撃を分散しているのだろうっ!」

 

『…………』

 

 

叩きつけられたのにも関わらず、『散相』は腕を掴んでいる私に逆の腕で殴りかかってきた。咄嗟のことだった。

 

 

「加茂!」

 

 

慌てるな、与。

大丈夫だ。

 

 

「……予測済みだ」

 

ーーズバンッーー

 

 

振り抜かれた拳を切断するは、瞬時に展開した『刈祓』。今までの比ではない切断力をもつ『刈祓』は、そのまま『彼女』の拳だけでなく、腕も切り裂いていく。

そして、

 

 

「これで終わりだっ」

 

 

 

ーーーーバヂッーーーー

 

 

 

黒い火花はまた爆ぜて。

『彼女』の体を貫いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「…………意外だな。君の弟たちは完全に祓われたよ、加茂家の彼によってね」

 

「『骨相』たち……が……」

 

「『傀儡操術』の彼ならともかく、加茂家の彼はそれほど脅威とは思わなかったが……ククッ、若者の成長とは怖いものだね」

 

 

『羂索』は『脹相』にそう告げ、笑った。荒い呼吸をしながら膝をつく『脹相』と自分の放った呪霊たちの戦闘をも楽しむ『羂索』。その対照的な様子からも、彼らの実力の差は歴然で、『脹相』に勝ち目がないのが分かる。

それでも、

 

 

「『赫鱗躍動・載』……っ」

 

 

『脹相』は呪力を廻す。

弟だった者達が祓われたのは『脹相』自身も気づいた。『壊相』と『血塗』の時ほどではないとはいえ、自身と繋がっている兄弟の死を『脹相』は確かに感じ取っていた。同時に安堵する。これ以上、弟たちが奴隷のように『羂索』に使役され、尊厳を踏みにじられない。それが救いとなった。

だからといって、目の前の男をここから逃すわけにはいかない。『羂索』の狙いは変わらず『焼相』を取り込むことだ。少しでも時間を稼ぎ、妹の逃げる時間を作り出すことが今の『脹相』の唯一の目的となっていた。

 

 

「まだ呪力を廻せるとは……我ながらいいものを作った」

 

「っ、黙れッ!」

 

 

打撃の応酬。その間も会話を続ける二人の術師。

『脹相』の打撃を受け流す『羂索』。

『羂索』の打撃を受け止める『脹相』。

数秒間の攻防後、『脹相』は再び距離を取った。傍らには血の塊。放つ準備は整っていた。

 

 

「『穿血』!」

 

ーーバシュンッーー

 

 

『黒閃』を放ち、覚醒した加茂憲紀と遜色ないレベルの『穿血』だが、『羂索』はそれをいとも簡単に弾く。

 

 

「まだっ!」

 

ーーグンッーー

 

「無駄だ」

 

 

放たれた血液で横へ一閃。それも見切られて、躱される。そのまま『羂索』は間合いを詰めてくる。『穿血』の攻撃範囲外、懐に潜り込んできて。

だが、それも『脹相』の予想内。

 

 

 

「『超新星』」

 

ーーパァァァァンッーー

 

 

 

弾ける血液が『羂索』に降り注いだ。避けられない距離。

それでも

 

 

ーーグルルルーー

 

「…………無駄だよ」

 

 

『羂索』には届かない。『呪霊操術』により呼び出した呪霊が盾となり、攻撃を防いでいた。

 

 

「チッ」

 

 

舌打ちをして、『脹相』は距離を取った。

追撃は来ない。見れば、『羂索』は加茂憲紀たちが戦っている方角を見ている。

 

 

「ずいぶんと、余裕だな」

 

「いいや、こちらにも時間制限はあってね。あと10分といったところかな」

 

「?」

 

「……なんでもないさ。こちらの話だ」

 

 

そう言って、『羂索』は懐から何かを取り出した。結ばれた紙のようにも見えるそれを『彼』は、

 

 

「っ、なにを!」

 

 

「そろそろ潮時だ」

 

ーーピンッーー

 

 

ほどいた。

途端に『羂索』から数多の呪霊が溢れ出て、ひとつの方向へ飛んでいく。

 

 

「せっかく頑張ったところ悪いが、彼らには死んでもらおうか」

 

「私も私の計画のために『焼相』を手に入れなくてはならないのでね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

蠢く呪力を感じ、寮があった方向、『脹相』と『羂索』が戦っているはずの方角を見れば、そちらの空が黒く染まっていた。

『赤鱗躍動』を応用し、血液を視力へ回すと、その様子がありありと見える。空を黒く染めていたのは、膨大な数の呪霊だ。

 

 

「与、動けるか」

 

「あぁ、どうにかな」

 

 

装甲を破壊された時に、かなりダメージを負ったのだろう。足を引きずりながらも彼は立ち上がる。かくいう私もぼろぼろだ。先ほどまでの集中力は完全に途切れ、腕の痛みも戻ってきた。

速く退かなくては。

そう思うが、呪霊の進行は速く、あと十数秒もすればこちらへ到達するだろう。

 

 

「……加茂」

 

「なんだっ!」

 

「俺のことは置いていけ。お前一人ならここから離脱できるだろ」

 

「っ、馬鹿なことを言うな!」

 

 

そんなことできるわけがない!

そう、与を怒鳴りつけると、与は笑った。

 

 

「……変わったな、加茂。今までのお前だったら、きっとここで切り捨ててた。加茂家の跡取りとしての自分を優先して」

 

「っ」

 

「それを悪いとは言わない。御三家の人間の重みを俺は知らないから。だけど、俺は今の加茂の方がいい」

 

「…………私も、そう思う」

 

 

私は変わった。自分でも分かっている。

それはきっと彼女の……いや、『彼』のおかげだ。

 

 

「きっとお前が死んだら、あいつは悲しむ。あいつは加茂家を……いや、加茂、お前を大切に思っていたからな」

 

「与……?」

 

「だからーー」

 

 

 

ーーガシャンーー

 

「!?」

 

 

 

不意に私のことを掴む二体のメカ丸。

 

 

「おい!? 与っ!」

 

「悪いな、もうメカ丸を動かす余裕もないんだよ」

 

 

メカ丸は私を与から引き剥がし、そのまま沈黙する。

 

 

「俺はここで奴らの餌になる。その間に逃げろ、加茂」

 

 

そう言って、与は笑った。いつの間にか、黒い影は目前まで迫ってきていて。

待て。止めろ、止めてくれ!

 

 

 

 

「じゃあな」

 

 

 

 

笑う彼に、手を伸ばす。

けれど、その手は届かず、私の目の前で彼は黒い影に呑まれた。

 

 

ーーーーーーーー

ゴールも近い。キレイな憲倫くんは……。

  • コメディ回が好きだ。
  • シリアス回好きだ。
  • どっちも好きだ。
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