【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「っと」
足場にしていた『百斂』を解除し、地面に降り立つ。
隣には『天元』。
「時間がかかったな」
「『脹相』が中々話を聞いてくれなくてな。体を借りるのに時間がかかったのだ」
「…………後は分かっているな」
「あぁ、無論だ。『彼女』を守ってくれてありがとう、『天元』」
「……これで借りは返したぞ」
そう言って、『天元』は腕を組みながら一歩引く。
借り、か。150年も前の借りを返してくれたのだ。律儀な奴だ。
「……さて」
向き直る。眼前には『羂索』。
「いい加減しつこいね、憲倫」
「人のこと言えないだろう、お前は。今はもう平成の世だ。我々が生きていた時代ではない」
平安から生き長らえていたなら尚更、もう舞台を降りるべきだろう。
「……私にはやりたいことがあってね」
「人類の呪力への最適化、だったか。下らない」
「以前の君ならば理解してくれただろうに、本当に残念でならないよ」
「ふっ、それは昔、お前が言った通りだよ。私は静乃と出会い、涼乃が生まれて、変わってしまったのだ」
「ククッ、それにしては落ち着いている。仇を前にしているんだ、この間のように怒りで取り乱せばいいだろう?」
「…………あぁ」
憎い。それは変わらないさ。
静乃を呪い、涼乃にも手をかけたこの男を今すぐにでも殺してしまいたい。それは私の心に今でも渦巻いている感情だ。
だが、
「私には守るものがあってね」
私が『無為転変』で消えていた間、何もないあの場所で考えていた。
本当に私がすべきこと。復讐、はしたい。
けれど、それよりも今を守りたい。
憲紀や幸吉、霞。真依や新田、西宮先輩と東堂先輩。
京都校の皆と過ごしたなんでもない日々を、彼らが生きる大切な今を守りたいのだ。
そして、もうひとつ。
「『焼相』」
「っ、ぱ、ぱ?」
私の後ろにいる彼女に話しかける。
可哀想に目には涙を浮かべ、恐怖からガタガタと震えている。見ていられない。けれど、私は二度と目を背けてはいけない。
そうだろう、静乃。
「ずっと1人にして、ごめんな」
「っ、うんっ」
後ろからぎゅっと、抱きついてくる彼女。あの時はこうやって抱きしめてやることもできなかった。それが今こうして彼女が私の腕の中にいる。
「大きくなったな」
「え……?」
「いいや、なんでもない。忘れてくれ」
その事実を彼女は知らない。
まぁ、当たり前か。今の彼女は『焼相』であって、あの娘ではないのだから。
それでも、私は彼女を守らなくてはいけない。それが静乃との約束で、父親としての最期の使命だ。
「少しだけ待っていてくれ、『焼相』」
「で、でもっ」
分かっている。
相手は『羂索』。数多の呪霊を取り込み、さらに掌で触れたものの魂を転変する相手。明治の時代から今まで戦ってきた中で、最上位の強敵だろう。勝てるかは分からない。
だが、
「大丈夫だ。お前には指一本触れさせない」
そう言って、私は彼女に笑いかけた。
……深呼吸をする。
さて、終わらせようか。
ーーパンッーー
「『百斂』」
掌を合わせ、血を圧縮する感覚。
あぁ、久しぶりだ。合わせた掌中が真空になり、やがて熱い血液で満ちていく。
その隙を突いて、『羂索』が動く。
「それの隙の大きさは君も知っているだろう」
ーーグンッーー
『彼』の掌が迫る。それはつまり、『無為転変』を使うという意思だろう。だが、当然そんなものは私が一番分かっているさ。
だから、
ーーフワッーー
圧縮した『百斂』を目の前へ放る。圧縮は十分。それを解き放つ。
「『超新星』」
ーーパァァァァァンッーー
血の散弾。一撃でも入ればいい。
どうだ? 奴はーー
「そうか。『脹相』の術も使えるんだったね」
「不意打ちだったのだがな」
「あぁ、驚いたよ」
無傷、か。やはり『呪霊操術』で取り込んだ呪霊がいる限り、『羂索』には届かない。
ならば、やることはひとつだ。むしろ単純でいい。
「『赫鱗躍動・載』!」
取り込んでいるすべての呪霊を祓ってやればいい!
その決意と共に、呪力を帯びた血液を廻す。体温の上昇と共に体から赤い蒸気が吹き上がった。
一瞬、視界が悪くなるのに合わせ、距離を詰めた。
ーーバキッーー
「無駄だとーー」
ーーバキッーー
ーーバキッーー
ーードスッーー
「! このまま押し切るつもりかっ」
返事代わりに拳を叩き込み続ける。
一発。二発。三発。
叩き込む。流石に近接戦闘では部が悪いと察したのか、『羂索』の手元で呪力が膨れ上がった。
「時間がない。出し惜しみはなしだ」
ーーゾゾゾゾゾッーー
出るは巨大な呪霊。赤い顔に巨大な体躯。その姿には覚えがあった。特級呪霊の一体。たしかその名を『
呼び出した『酒呑童子』の肩に乗った『羂索』は、私を見下ろしながら話しかけてくる。
「『脹相』の術式と肉体に加えて、加茂憲倫の精神と知識。少々、厄介だ。そろそろ五条悟もこちらへ来る頃だろう。ここは一旦、引かせてもらーー
「逃がすと思うか?」
ーーーーーーズバンッーーーーーー
『奴』の言葉をも断つような一閃。
それによって右足を失った『酒呑童子』は、崩れ落ちた。そのまま残していた『百斂』を脳天に放ち、祓う。
ふむ、上出来だな。
「……斬ったのか。なんとも信じられないね」
私の手にある深紅の刀・『血刃・丁』。
ただ血液を高速で廻し、呪力で固めた刀だが、切れ味はそこらのナマクラとは比べ物にならない代物だ。デカブツの足を切り落とすなど造作もない。
尤も血液の消費量が多すぎて、今の『脹相』の肉体でなければ失血死する羽目にはなるがな。
「ならば、少々やり方を変えよう。斬れない相手だ」
ーーゾゾッーー
『………………』
現れたのは私よりも少しガタイのいい鎧武者。
なるほど。さっきよりも硬度はありそうだが、『血刃・丁』であれば!
ーースカッーー
「すり抜けたのか!?」
斬れないと言っただろう。そう言って笑う『羂索』。その成りで実体がないというわけだな。人は見た目で判断するなとはいうが、呪霊もそうだったか。ややこしい話ではあるだが、こちらも手を変えればいいだけ。
ーーパンッーー
「『百斂』」
鎧武者はこちらへ向かってくる。無論、それには動じない。再び血を圧縮していく。
引き付けて、引き付けて…………十分だ。
「『穿血』っ!!」
ーーバシュンッーー
放たれた『穿血』は鎧武者の頭を貫き、そいつはそのまま膝から崩れ落ちた。
ーームクッーー
『…………ア、あぁァァぁ』
「……ように見えたのだが。なんだ? 外したか?」
「いいや、当たっていたよ。呪力を帯びた攻撃の無力化。そんな術式をもつというだけのことさ」
呪霊だが、呪力では祓えない。自己矛盾を孕んだ呪霊。
「君では勝てない。勿論、『それ』からの攻撃は君に通る。まぁ、君のことだ。時間はかかるだろうが、どうにか切り抜けるのだろうね」
「時間稼ぎか」
「あぁ、現状こちらの分が悪い。また機を改めて、次の手を打たせてもらうよ」
鎧武者と対峙する私から踵を返した『羂索』は、『呪霊操術』でペリカン呪霊を呼び出した。あれは確か人間を運搬する呪霊だったか。その言葉通り、逃げるつもりだ。
ペリカン呪霊が翔び上がるのを止めさせてくれるほど、目の前の鎧武者は甘くないようだ。私には『羂索』が逃げるのを止められない。
…………そう。
『私には』止められない。
「頼んだぞ、お嬢さん」
「っ、はぁっ!!」
ーーバギィッーー
私の呟きに応えるように、空へ翔んだペリカン呪霊を今、まさに蹴り落とす人物がそこにはいた。
ちゃんといてくれた。
「……ククッ、まさかそうくるとはね」
ペリカン呪霊から早々に離脱していたようで、『羂索』は無事に降り立っていた。変わらず邪悪に笑っている。だが、その顔には多少の動揺と苛立ちが見てとれた。
「お前と知り合ってから初めてお前のそんな表情を見た気がするな」
「っ、加茂憲倫っ」
この機に『彼』を追撃したいところだが、まずは彼女だ。呪霊を叩き落とし、たった今、私の隣によろめきながらも着地した彼女へ声をかけた。
「来てくれたのだな……鶫」
「っ、はい……憲倫さん」
彼女は震えている。
だが、しっかりと私を見据えて、頷いていた。
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