【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第66話 憲倫くん、戦う

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「っと」

 

 

足場にしていた『百斂』を解除し、地面に降り立つ。

隣には『天元』。

 

 

「時間がかかったな」

 

「『脹相』が中々話を聞いてくれなくてな。体を借りるのに時間がかかったのだ」

 

「…………後は分かっているな」

 

「あぁ、無論だ。『彼女』を守ってくれてありがとう、『天元』」

 

「……これで借りは返したぞ」

 

 

そう言って、『天元』は腕を組みながら一歩引く。

借り、か。150年も前の借りを返してくれたのだ。律儀な奴だ。

 

 

「……さて」

 

 

向き直る。眼前には『羂索』。

 

 

「いい加減しつこいね、憲倫」

 

「人のこと言えないだろう、お前は。今はもう平成の世だ。我々が生きていた時代ではない」

 

 

平安から生き長らえていたなら尚更、もう舞台を降りるべきだろう。

 

 

「……私にはやりたいことがあってね」

 

「人類の呪力への最適化、だったか。下らない」

 

「以前の君ならば理解してくれただろうに、本当に残念でならないよ」

 

「ふっ、それは昔、お前が言った通りだよ。私は静乃と出会い、涼乃が生まれて、変わってしまったのだ」

 

「ククッ、それにしては落ち着いている。仇を前にしているんだ、この間のように怒りで取り乱せばいいだろう?」

 

「…………あぁ」

 

 

憎い。それは変わらないさ。

静乃を呪い、涼乃にも手をかけたこの男を今すぐにでも殺してしまいたい。それは私の心に今でも渦巻いている感情だ。

だが、

 

 

「私には守るものがあってね」

 

 

私が『無為転変』で消えていた間、何もないあの場所で考えていた。

本当に私がすべきこと。復讐、はしたい。

 

けれど、それよりも今を守りたい。

憲紀や幸吉、霞。真依や新田、西宮先輩と東堂先輩。

京都校の皆と過ごしたなんでもない日々を、彼らが生きる大切な今を守りたいのだ。

そして、もうひとつ。

 

 

 

「『焼相』」

 

「っ、ぱ、ぱ?」

 

 

私の後ろにいる彼女に話しかける。

可哀想に目には涙を浮かべ、恐怖からガタガタと震えている。見ていられない。けれど、私は二度と目を背けてはいけない。

 

そうだろう、静乃。

 

 

「ずっと1人にして、ごめんな」

 

「っ、うんっ」

 

 

後ろからぎゅっと、抱きついてくる彼女。あの時はこうやって抱きしめてやることもできなかった。それが今こうして彼女が私の腕の中にいる。

 

 

「大きくなったな」

 

「え……?」

 

「いいや、なんでもない。忘れてくれ」

 

 

その事実を彼女は知らない。

まぁ、当たり前か。今の彼女は『焼相』であって、あの娘ではないのだから。

それでも、私は彼女を守らなくてはいけない。それが静乃との約束で、父親としての最期の使命だ。

 

 

「少しだけ待っていてくれ、『焼相』」

 

「で、でもっ」

 

 

分かっている。

相手は『羂索』。数多の呪霊を取り込み、さらに掌で触れたものの魂を転変する相手。明治の時代から今まで戦ってきた中で、最上位の強敵だろう。勝てるかは分からない。

だが、

 

 

 

「大丈夫だ。お前には指一本触れさせない」

 

 

 

そう言って、私は彼女に笑いかけた。

……深呼吸をする。

さて、終わらせようか。

 

 

ーーパンッーー

 

「『百斂』」

 

 

掌を合わせ、血を圧縮する感覚。

あぁ、久しぶりだ。合わせた掌中が真空になり、やがて熱い血液で満ちていく。

その隙を突いて、『羂索』が動く。

 

 

「それの隙の大きさは君も知っているだろう」

 

ーーグンッーー

 

 

『彼』の掌が迫る。それはつまり、『無為転変』を使うという意思だろう。だが、当然そんなものは私が一番分かっているさ。

だから、

 

 

ーーフワッーー

 

 

圧縮した『百斂』を目の前へ放る。圧縮は十分。それを解き放つ。

 

 

 

「『超新星』」

 

ーーパァァァァァンッーー

 

 

 

血の散弾。一撃でも入ればいい。

どうだ? 奴はーー

 

 

「そうか。『脹相』の術も使えるんだったね」

 

「不意打ちだったのだがな」

 

「あぁ、驚いたよ」

 

 

無傷、か。やはり『呪霊操術』で取り込んだ呪霊がいる限り、『羂索』には届かない。

ならば、やることはひとつだ。むしろ単純でいい。

 

 

「『赫鱗躍動・載』!」

 

 

取り込んでいるすべての呪霊を祓ってやればいい!

その決意と共に、呪力を帯びた血液を廻す。体温の上昇と共に体から赤い蒸気が吹き上がった。

一瞬、視界が悪くなるのに合わせ、距離を詰めた。

 

 

ーーバキッーー

 

「無駄だとーー」

 

ーーバキッーー

ーーバキッーー

ーードスッーー

 

「! このまま押し切るつもりかっ」

 

 

返事代わりに拳を叩き込み続ける。

一発。二発。三発。

叩き込む。流石に近接戦闘では部が悪いと察したのか、『羂索』の手元で呪力が膨れ上がった。

 

 

「時間がない。出し惜しみはなしだ」

 

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

出るは巨大な呪霊。赤い顔に巨大な体躯。その姿には覚えがあった。特級呪霊の一体。たしかその名を『酒呑童子(しゅてんどうじ)』といったか。

呼び出した『酒呑童子』の肩に乗った『羂索』は、私を見下ろしながら話しかけてくる。

 

 

「『脹相』の術式と肉体に加えて、加茂憲倫の精神と知識。少々、厄介だ。そろそろ五条悟もこちらへ来る頃だろう。ここは一旦、引かせてもらーー

 

 

 

「逃がすと思うか?」

 

 

ーーーーーーズバンッーーーーーー

 

 

 

『奴』の言葉をも断つような一閃。

それによって右足を失った『酒呑童子』は、崩れ落ちた。そのまま残していた『百斂』を脳天に放ち、祓う。

ふむ、上出来だな。

 

 

「……斬ったのか。なんとも信じられないね」

 

 

私の手にある深紅の刀・『血刃・丁』。

ただ血液を高速で廻し、呪力で固めた刀だが、切れ味はそこらのナマクラとは比べ物にならない代物だ。デカブツの足を切り落とすなど造作もない。

尤も血液の消費量が多すぎて、今の『脹相』の肉体でなければ失血死する羽目にはなるがな。

 

 

「ならば、少々やり方を変えよう。斬れない相手だ」

ーーゾゾッーー

 

『………………』

 

 

現れたのは私よりも少しガタイのいい鎧武者。

なるほど。さっきよりも硬度はありそうだが、『血刃・丁』であれば!

 

 

ーースカッーー

 

「すり抜けたのか!?」

 

 

斬れないと言っただろう。そう言って笑う『羂索』。その成りで実体がないというわけだな。人は見た目で判断するなとはいうが、呪霊もそうだったか。ややこしい話ではあるだが、こちらも手を変えればいいだけ。

 

 

ーーパンッーー

 

「『百斂』」

 

 

鎧武者はこちらへ向かってくる。無論、それには動じない。再び血を圧縮していく。

引き付けて、引き付けて…………十分だ。

 

 

「『穿血』っ!!」

 

ーーバシュンッーー

 

 

放たれた『穿血』は鎧武者の頭を貫き、そいつはそのまま膝から崩れ落ちた。

 

 

ーームクッーー

『…………ア、あぁァァぁ』

 

「……ように見えたのだが。なんだ? 外したか?」

 

「いいや、当たっていたよ。呪力を帯びた攻撃の無力化。そんな術式をもつというだけのことさ」

 

 

呪霊だが、呪力では祓えない。自己矛盾を孕んだ呪霊。

 

 

「君では勝てない。勿論、『それ』からの攻撃は君に通る。まぁ、君のことだ。時間はかかるだろうが、どうにか切り抜けるのだろうね」

 

「時間稼ぎか」

 

「あぁ、現状こちらの分が悪い。また機を改めて、次の手を打たせてもらうよ」

 

 

鎧武者と対峙する私から踵を返した『羂索』は、『呪霊操術』でペリカン呪霊を呼び出した。あれは確か人間を運搬する呪霊だったか。その言葉通り、逃げるつもりだ。

ペリカン呪霊が翔び上がるのを止めさせてくれるほど、目の前の鎧武者は甘くないようだ。私には『羂索』が逃げるのを止められない。

 

…………そう。

『私には』止められない。

 

 

「頼んだぞ、お嬢さん」

 

 

 

「っ、はぁっ!!」

 

ーーバギィッーー

 

 

 

私の呟きに応えるように、空へ翔んだペリカン呪霊を今、まさに蹴り落とす人物がそこにはいた。

ちゃんといてくれた。

 

 

「……ククッ、まさかそうくるとはね」

 

 

ペリカン呪霊から早々に離脱していたようで、『羂索』は無事に降り立っていた。変わらず邪悪に笑っている。だが、その顔には多少の動揺と苛立ちが見てとれた。

 

 

「お前と知り合ってから初めてお前のそんな表情を見た気がするな」

 

「っ、加茂憲倫っ」

 

 

この機に『彼』を追撃したいところだが、まずは彼女だ。呪霊を叩き落とし、たった今、私の隣によろめきながらも着地した彼女へ声をかけた。

 

 

 

「来てくれたのだな……鶫」

 

「っ、はい……憲倫さん」

 

 

 

彼女は震えている。

だが、しっかりと私を見据えて、頷いていた。

 

 

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