【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「すまない。本当は君を巻き込むつもりはなかったのだ」
頭を下げる。そんな私に対して、彼女は首を横に振り、謝らないでくださいと儚げに笑う。
わたしが決めたことです。
震えはまだ止まらないようだ。だが、それでも彼女の瞳からは決意を感じる。
強い子だ……これ以上は無粋だな。
「鎧武者の方は頼んでもよいか。あれとは相性が悪くてな」
「っ、はい」
「大丈夫だ。君ならばできる。それに危なくなったら私が助ける」
それだけを伝え、私は前へ。
鎧武者が、私の行く手を阻もうとするが、それは鶫が止めてくれる。
さて、これでもう
「邪魔は入らんな」
「…………」
「随分と不機嫌そうだ」
「……ここまで計画通りにいかないのは2度目の同化の時以来だ」
改めて『羂索』と向き合う。『奴』らしくもない不快感を露にした表情。それは今の状況が『羂索』にとって本当に芳しいものではないことを示していた。
「お前の計画など、これから来る若者の未来に比べたら無価値もいいところだ」
「…………平行線だ。もう君とは話にならない」
「ふっ、それについては同感だな」
一度交わりかけた思想も最早交わることはない。
ならば、呪い合うしかないだろう。
ーーパンッーー
「『百斂・載』」
ーーズズズズッーー
「……『虹龍』」
血液を圧縮させる私を見て、『羂索』は呪霊をこちらへ放つ。名前通りの龍型呪霊。無論、相手がなんであれ関係ない。私がやることはひとつ。
「『穿血』」
ーーバシュンッーー
放たれるは赫い流星。私の掌から撃ち出されたそれは音速を超えて『虹龍』をーー。
ーーギィィンッーー
「!」
弾かれた。この呪霊、想定外の硬度だ。だが、それでも軌道は反れた。よろけたタイミングに合わせ、龍の体の下へ潜り込み、『血刃・丁』で呪力の濃い顎下から突き刺す。
『ーーーーーーーー』
貫通。捻りを入れて、首を捻じ切った。断末魔をあげ、龍は落ちる。そのまま龍の体の上を駆け、『彼』の真ん前へ。
溜めていた『百斂』は2つ。それをーー
「『超新星』」
ーーパァァァァンッーー
ーー解放する。
死角なく降り注ぐ血の散弾はーー
「終わりだよ、憲倫」
「極ノ番『うずまき』」
ーーーーーーググググググッーーーーーー
呑み込まれる、黒い呪力の渦に。
渦から感じる呪力は強大。その密度も禍々しさも前の比ではない。これは……。
「くっ!?」
「数にして700。この密度、この距離ならば避けられまい」
『うずまき』の中心。ぽっかりと空いたその穴越しに、そう言い捨てる『羂索』と目が合う。その濁った目は、視線こそ合っていても、もう私を見てはいない。
「…………ふっ、なるほど。ここで終わりか」
確かに、これはもう覆しようがない。
私は死ぬ。避けられない死だ。だが、ただで死ぬ気はない。
ーーパンッーー
「『百斂・載』!!」
『うずまき』が私の体に当たるまで時間にしてコンマ数秒。その間に限界まで圧縮した『穿血』を隙間を縫って撃ち込むのだ。
致命傷でなくていい。少しでも『奴』に傷をつけるのだ。後はきっと誰かが繋いでくれる。
それで私の役目は終わりだ。
ーーギリギリギリギリッーー
まだ、まだだ。限界まで圧縮しろ。私の体が『うずまき』に呑まれるその直前まで粘るのだ。
ーーギリギリギリギリッーー
ヒリヒリと肌が焼けるようだ。それほどに濃い呪力。
死が間近に迫ってきているのを感じる。
……いや、それもいいかもしれんな。少し待っていてくれ。
もうすぐそちらへ逝くからーー
『間違っていますよ、憲倫様』
きっとそれは走馬燈というやつなのだろう。
走馬燈の中でも彼女は私を否定した。間違っていると。
では、どうしろというのだ。私はどうすればよかったのだ。
『あの子との時間を大切にしてください。あの子は私と貴方様を繋ぐ存在……あの子を大切にすることが私がこの世に存在していた証明になるのですから』
あぁ、だからこうして命を懸けているのだろう。
今度こそあの娘を守る。そのために、私は……。
『憲倫様自身を大切にしてください。私は私の愛した方に生きてほしい』
生きて、か。
ふふっ、そうだ……そうだったな。
「ヤメだ」
そういう約束だった。
最期まで足掻くよ、静乃。
私自身が生きるために。生きてあの娘の成長を見守るために。
ーーパンッーー
限界まで圧縮した『百斂』を、両の掌で優しく包み込む。
そして、呪力を込めて、私は呟いた。
「『領域展開』ーー『
瞬間、手中の血が膜となって拡がっていく。『羂索』も、目の前に迫った『うずまき』すらも取り込み、拡がっていく。
やがて、私達を包み込むような深紅の球が出来上がった。
「領域……かッ!」
それに対して『羂索』の反応は速かった。一瞬で『簡易領域』を作り出し、身を守りに入る。本来なら有効だが、今、この瞬間では無意味だ。
ーードロッーー
「!」
『奴』の作り出した『簡易領域』は形を失くし、霧散する。
呪力が赤い霧へ変わったのだ。
「私の領域『赫星静瘰』の中では、全ての呪力は血液に変わり、吸収される。それは呪術を使わなくとも同じ。体内のそれもこの領域に奪われる。そして、もうひとつ」
ーードロッーー
「っ、これは……っ」
視界が赤く染まる。きっと『奴』もそうなっているのだろう。
血液が目から流れ出ていく。それは目だけではなく、口や耳、傷口からも流れ、領域を形作る血の膜へと変換されている。
「領域内での血液の完全排除……この中では生物は生きられん」
「『呪霊操術』っ」
ーードロッーー
無論、呪霊も存在すらできない。それが『赫星静瘰』。
さて、そろそろか。
ーーガクッーー
思わず膝をついた。もう力が入らない。
それは『羂索』も同じようで、倒れる音が聞こえる。領域の中に2人、横たわる。
目はもう見えない。感じるのは音だけ。声だけは聞こえていた。
「…………領域まで会得しているとは……思わなかったよ」
「あそこで死ぬ訳には……いかないと思ってな…………覚悟が決まった」
「ククッ……それで、出来上がったのが……道連れの、領域とはね」
皮肉なものだ。
息も絶え絶えに、『羂索』は笑う。
自分でもそう思うよ。だが、術師が意識を失えば、領域は消える。そうなれば、きっと私も『羂索』も死にはしない。
「…………」
「…………」
お互いもう声も出せんようだな。意識も朧気だ。
なぁ、『羂索』。
前にお前は言ったな。私とお前は同じだと。
……ふっ、たしかにそうだ。
昔の私はお前と変わらなかった。好奇心のためには他を犠牲にするのを厭わない。人の命すら冒涜する。そんな人間だったさ。
だが、静乃と出会い、変わった。人を愛することを知ったのだ。
そして、涼乃が生まれ、守りたいという気持ちを知った。それらを失う恐怖も覚えた。
それから150年の時を経て、憲紀と出会った。
まさか子孫の体に入り込み、別の子孫と会うことになるとは思わなかったがな。
幸吉や霞、真依や新田。東堂先輩と西宮先輩。
歌姫女史に学長殿。東京校の若者たち。
本当にたくさんの人との繋がりを知った。
『羂索』、お前と私の違いはそれーー『繋がり』だ。
知ってるか?
私はな、友達が多いのだ。
例えば、私に現代のことを教えてくれたり。
例えば、髪を切ってくれたり。
例えば、叱咤激励してくれたり。
例えば、ぷれぜんとを選んでくれたり。
例えば、喫茶店で食べきれない料理を一緒に食べてくれたり。
私ひとりでは、どうにもできない状況を切り開いてくれる。そんな頼りになる友達がたくさんいるのだよ。
だから、今だってきっと……。
「助けてくれるさ」
掠れた声で、そう呟いて。
私は意識を手放した。
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次回、最終回。