【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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終わると言ったな。
あれは嘘だ。

あと数話だけ続きます。


聖女様のおしごとー壱ー

ーーーーーーーー

 

 

2019年4月9日。

渋谷事変より半年の年月が経過したその日、山奥の小さな村に1人の呪詛師が住み着いた。

それから約半月で、村人の7割が死亡し、呪詛師の抹消のために派遣された2名の1級呪術師も戻らなかった。

事態を重く見た呪術総監部は、その村周辺をガス災害による立ち入り禁止区域として政府に認定、公表させ、事態の隠蔽を図った。

 

 

ーーーー立ち入り禁止区域・✕✕村ーーーー

 

 

 

少年は廃屋の机の下で息を潜めていた。身体中が痛み、本当ならば今にも絶叫し、転がり回りたいくらいだった。だが、その痛みよりも優先すべきものがある。

 

 

ーーズッ、ズッーー

 

 

「……っ」

 

 

『アレ』が這いずる音。

彼の父親と母親も『アレ』に殺された。目の前で絞め殺されて、飲み込まれた。

 

 

(っ、とまれ……とまれ……)

 

 

体の震えをどうにか止めようと自分に言い聞かせる。『アレ』は音に敏感で、音を立てた瞬間、廃屋ごと破壊され、一呑みにされるだろう。だから、彼はとにかく体を丸くし、『アレ』が通りすぎるのを待つしかなかった。

 

 

「…………」

 

 

10分くらい? それとも30分は経っただろうか?

とにかく『アレ』の這いずる音が聞こえなくなったことを確認した少年はゆっくりと机の下から出てきて、

 

 

『…………ア』

 

「ひっ!?」

 

 

『ソレ』と目があった。思わず声が出る。

人形で背丈は少年と変わらない。だが、骨が浮き出るほど痩せ細り、その骨に張り付いた黒ずんだ皮。そして、嫌でも目に入る猿のような顔、その両眸は飛び出し、少年をただ見つめている。

何の気配もなく現れた『ソレ』の姿は前に一度見たことがあった。それでも咄嗟に声が出てしまうほどには『ソレ』のビジュアルは生理的に受け付けられるものではない。

 

 

『……ア、イ……ア』

 

 

少年の耳にギリギリ届くかどうかという小声で呟く『ソレ』。

恐怖。今すぐにでも逃げ出したい。

少年の頭の中にはそれしかなかった。だが、『ソレ』から目を反らしたことで死んでいった大人たちを見ていた彼は、『ソレ』を見つめ続ける。体の震えはさっきよりも酷くなっていた。それでもーー

 

 

ーーズッーー

 

「!!」

 

 

目を離さない。そう決意していたのに。

少年の耳に入ってきたその音で、彼の精神力は遂に限界を迎えた。

 

 

「い、いやだっ……もう、やだっ」

 

 

後退りをしながら、彼は叫ぶ。

周りの人間が殺されていくところを目の当たりにして、尚半月逃げ延びた。その間も人は殺され、今その村で生きているのは、目の不自由な女性と寝たきりの老人、そして、彼だけ。

限界だったのだ。12歳の少年が直面した現実はあまりに惨すぎた。

 

 

ーーゴンッーー

 

 

足元の瓦礫に足を引っかけて倒れてしまう。

目を離してしまった。そう思った時にはもう遅く、瞬間に『ソレ』は彼の視界から消える。見失って、再び見つける。

 

 

「あ、あっ……ぁぁっ」

 

 

『ソレ』は彼の視界に戻ってきていた。否、彼の網膜に入り込んでいた。

 

 

「いやだっ、死にたくないっ!! やだやだやだっ!!」

 

 

『ソレ』に見つめられながら、少年はまた叫んだ。彼の脳裏に過るのは、生きたまま眼球を裂かれる激痛で発狂し、死んでいった大人たちの姿。

自分もそうなる。

そう思ったら、音を立てたことで、外に両親を殺した『アレ』が迫ってくることなど頭から抜けてしまっていた。

目に走る激痛を感じ、死を知らせる轟音もすぐそこまで響いている。

 

 

「……あ……」

 

 

僕は死ぬんだ。

直感的にそれを感じた少年は、脳裏に走る走馬灯を見ながら、思い返していた。

閉鎖的な村だった。いつか出ていってやると思っていた村。同年代の子どもだっていない。だから、初恋もまだで。

月に一度、両親に連れていってもらえる本屋で買った漫画。それに出てくるような女の子との出会いを空想しては虚しさに襲われていた。

 

両親も死に、自分もただ死ぬ。

せめて最期くらい漫画みたいに大好きな女の子を守って死にたかったな。

今際の際に、そんな下らないことを考えながら、彼は空を仰ぐ。

次の瞬間、

 

 

 

ーーピタッーー

 

「だーれだ?」

 

 

 

彼の視界は暗闇に包まれた。

けれど、それはさっきまでの激痛とは違う柔らかな感覚で、その声は初めて聞く声だというのに安心感すら覚えていた。

 

あったかくて、やわらかい。

そして、いい香りがする。

甘く痺れるような感触に身を委ねかけた時、不意にその幸福な時間は終わりを告げた。

 

 

「あっ……」

 

 

彼の目の前にいたのは1人の少女。自分と変わらない年齢だと彼は感じ取った。その彼女は艶やかな黒髪をなびかせながら、少年の前に歩み出た。そして、背を向けたまま、彼女は訊ねてくる。

 

 

「目、なおった?」

 

「え……あっ」

 

 

少年を襲っていた激痛は消えていた。

なんで? さっきまであんなに痛かったのに!?

頭のなかに疑問符が浮かび、混乱する少年。そんな彼を落ち着かせるように、大丈夫と口にした後、彼女は続ける。

 

 

「ちょっと待っててね。すぐに祓うから」

 

ーーゾワッーー

「っ」

 

 

少女が祈るように手を合わせた瞬間に、背筋が凍るような感覚に襲われる少年。その原因は、彼女の向こう側にいる『ソレ』だ。『ソレ』は先程までとは比べ物にならないほどおぞましい形相でこちらを凝視していた。

 

 

「ひっ!?」

 

「ダイジョブ、だよ」

 

「……え?」

 

 

 

「『焼土永霙(しょうどえいえい)』」

 

ーーボウッーー

 

 

 

瞬間、少女の掌の内から放たれた小さな蒼炎が『ソレ』を包み込み、断末魔をあげる間もなく、『ソレ』は焼き消えた。

 

 

「ね? ダイジョブだったでしょ?」

 

 

ふと振り返り笑うその少女の表情に、少年は思わず見惚れていた。それは彼にとって初めて抱く感情ーー初恋であった。

 

 

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