【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完) 作:藍沢カナリヤ
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「ダイジョブ?」
「え、あっ、うんっ」
急に目の前で起こった出来事に呆然としていた少年は、少女の声で我に返った。そして、同時に今の状況を思い出す。
「っ、そうだっ、『アレ』がまだっ!」
『アレ』ーー少年の両親を殺した化け物が少年の声に反応してこの廃屋に向かってきているはずだった。目の前の少女が只者ではないことは分かっていた。だが、あの巨体を相手にして勝てるわけがない。殺されてしまう。
そう考えて、彼はこの場から一刻も早く逃げようと少女の手を引いた。
「逃げようっ、『アレ』がーー化け物が来るんだ! このままじゃ殺されちゃうよっ」
死にかけた時、彼の脳裏に走った思い。好きな女の子の前で格好をつけたい。年相応な感情を、少女は否定する。くすくすと笑い、そんなことにはならないと口にした。
「っ、君は見てないからそんなことを言えるんだっ、あんなの人間が倒せる相手じゃーー」
ーーズウウウウンッーー
「!?」
彼の言葉を遮るように響く轟音。それは廃屋の外から聞こえてきた。しばらくしても『アレ』の這いずる音は聞こえてこない。
音に敏感な『アレ』が今の音に反応しない?
不審に思い、恐る恐る少年は廃屋の窓から外を覗き見た。そこにはーー
「…………っ」
1人の男が立っていた。その手には『アレ』の首。それはつまり、その男が『アレ』を殺したことを表していた。
困惑する少年と、外にいた男の目が合う。
「っ」
「…………ふむ」
そのまま男は廃屋の中に入ってきた。
長い黒髪と顔についた横一文字の痣。見るからに普通の人間ではないことは、少年も察しがついた。
そんな異常な男が口を開く。
「怪我はなかったか、涼乃!」
「うん、平気だよ、パパ」
「あぁぁっ!? 少し擦り傷になっているではないかっ! 消毒せねば!」
「大袈裟だって……もうっ」
過剰に心配する男と少し照れたような表情の少女。その2人が村を壊滅に追い込んだ化け物を退治したこと。
現実離れした異様な状況と化け物がいなくなったという安堵。少年の脳のキャパシティは既に限界を超えていた。そして、
ーーバタンーー
彼は意識を失った。
……………………
「あ、起きた?」
「っ!?」
少年が目を覚ました時、目の前には例の少女の顔があった。整った顔立ちだ。そんな感想だけが頭を支配する。慌てて起きようとして、
ーーズキッーー
「痛っ」
頭に感じる痛みに、思わずまた倒れ込んでしまった。
「無理しちゃダメだよ。あんまり寝てないんでしょ?」
「あ、えっと……うん」
「なら、ほら! 寝てて」
「………………うん」
少女が見せた優しい微笑みに、安堵したようで彼はそのまま目を閉じた。そして、
「勘違いをするな。『焼相』は皆に優しい」
「っ!?」
耳元に感じる男の声で、彼は再び飛び起きる。あまりのことに今度はちゃんと体を起こすことができてしまっていた。
そこにいたのは、先ほどの男。少年の眼前で血走った目で彼を睨んでいた。少女が『パパ』と呼んでいた男だったのだが、どこか雰囲気が違う。
「ちょっと、お兄ちゃん! この子、疲れてるんだからダメだよ」
「……今、こいつはお前に色目を使っていた」
そう言って、男は少年の眼前でメンチを切ってくる。
すっごい怖いし、圧もすごい。
ビビる少年とそれにも構わず睨み付ける男。その様子を見て、少女はため息を吐いた。
「はぁ……まったくもう」
……………………
少しして落ち着いたのか、男は少年から離れた。無論、離れたところからも睨み付けているのだが、先ほどまでよりはマシだと少年は自分に言い聞かせる。そうでもしないと、話が進まない。
「お兄ちゃんがごめんね? お兄ちゃん、あたしのこと大好きだから……イヤな思いさせちゃってごめんね」
「う、ううん……大丈夫、です」
「それならよかった」
にこりと笑う少女。その笑顔にますます少年は心惹かれていた。
少女の微笑みに見とれていると、その様子を別な意味にとってしまった少女が顔を覗き込んでくる。心配してくれる声色に、彼女の顔が近い嬉しさよりも申し訳なさが勝ってしまい、姿勢を正す少年。
このままでは話が進まない。それよりも、と少年は話を強引に戻す。実際、今までは訳の分からなかった状況を、きっと目の前の少女ならば解答してくれる。そのチャンスは今を逃せば他にない。
「『アレ』は、なんなの……?」
少女曰く。
少年の村を蹂躙した化け物たち。それらは『呪術』に関連するものらしい。
「『呪術』……それって一体……?」
「人の負の感情から生まれる化け物『呪い』を祓うための術だよ」
「……『呪い』」
非現実的だった。けれど、それ以外に説明する言葉がなく、少年は言葉を飲み込んだ。
「たぶん、あたしたちが祓ったものは元々は『式神』っていう種類の『呪術』なんだけど」
「『呪い』、とは違うの?」
「『呪い』は自然発生のことが多くて、『呪術』はそれを扱う人間がいるはずなの」
「っ、それってつまり……」
少年の問いに彼女は静かに頷き、答える。
あの『式神』にはそれを操る人間がいる。まだ村を襲う災厄は消えていない、と。
ーーガタッーー
「っ!?」
廃屋に響く物音に、少年は過剰に反応してしまう。今の話を聞いたからというのもあるだろう。何者かがいるのではないかと目をやる。けれど、そこにはなにもいない。ただ古くなった建物が軋む音だったようだ。そう思い、安堵の息を吐いた少年。
それと対照的に、
「お兄ちゃん」
「あぁ」
2人は警戒を強めていた。
「え、えっと……たぶん建物の軋む音だから」
「…………『百斂』」
「『百斂』!」
その姿は未だに見えない。だが、廃屋の外に『ナニカ』がいるのを感じ取った2人は、それぞれ術式を展開する。
どこから来る? 警戒を強める2人のことを何も知らない少年は宥めようとする。
「ほ、ほら! 音しなくなったからーー
『ばぁぁぁぁあんっ』
「「!」」
強襲。それは突如として、地面の下から現れた巨大な口。
「『焼土永霙』!」
ーーボウッーー
『あ……ううう……ああ』
ーーゴクンッーー
「嘘っ!?」
咄嗟に放った蒼炎は『大口』の中へ。本来ならば、触れた対象を焼き尽くすはずの術式効果は不発に終わる。
「避けろ、『焼相』ーー『超新星』」
「! こっちだよ!」
続けざまに追撃する『脹相』。『大口』へ放つは血の散弾。それは対象を破壊するためではなく、衝撃によって動きを止めるためだった。その意図を瞬時に理解した少女は、少年を連れ、廃屋の外へと誘導する。
2人が外へ出て数秒後、『脹相』も廃屋から飛び出す。その直後に、廃屋は『大口』に呑み込まれた。
「チッ」
「お兄ちゃん! 離脱しようっ!」
「あぁ」
少女の言葉に頷いた『脹相』は自らの呪力を解放すると同時に、それを血液に変換する。視界を埋め尽くす血の洪水。『大口』は湧き出てくる血をごくごくと飲み干していく。
それは『脹相』の読み通りだった。そういう『縛り』なのか、恐らく『大口』は何かを飲み食いしている間はその場を動くことができない。
「『焼相』」
「うん! 早く来てね」
「あぁ、妹を待たせることはしない」
『脹相』の言葉に、少女は頷いた。そして、
「今のうちに!」
「う、うんっ」
『大口』と対峙する『脹相』に背を向けて、2人はその場を後にした。
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