【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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お久しぶりです。
もう少しだけお付き合いください。


聖女様のおしごとー参ー

ーーーーーーーー

 

 

「ここまで来ればいいかな」

 

 

廃屋から約2km離れた林の中で、2人は立ち止まった。周りを見渡しても緑が広がるだけで、自分達の他に気配はない。動物の気配すらないのは、きっと化物達が闊歩しているからだろう。

 

 

「あの人は……」

 

「お兄ちゃんは負けないから」

 

 

そう言って少女は笑う。

けれど、少年にとっては笑えるような状況ではなかった。姿を隠せていたあの廃屋も壊れてしまったのだ。その上、少年の目から見ても、あの口はかなり強そうで。

 

 

「でも、あの口……他のよりずっと……」

 

「まぁね。猿や蛇よりずっと呪力量は多かった……それでもお兄ちゃんは勝つよ」

 

 

待たせないっても言ってたしね。それにお兄ちゃんはあたしとの約束を守る人だから。

少女はそれを信じて疑っていない。そんな彼女からの絶対の信頼に、少年の心は少しざわつく。知り合って間もない上に、ただの一方的な好意ではあるが、それでも少女からそこまで信頼を寄せられることに嫉妬してしまう。

 

 

「ねぇ、キミは……あの人が好きなの?」

 

「うん。大好き」

 

 

少女の迷いのない言葉に、少年はポツリと呟いた。

 

 

「………………羨ましい」

 

 

その声は、少女には聞こえていない。声量の問題ではなく、タイミングの問題。彼の呟きと同時に、その男の気配を『焼相』が感じ取ってしまったからだ。

 

 

「来た……少し離れてて」

 

「う、うん」

 

 

「こんにちは」

 

『………………』

 

 

もう春だというのに、真冬に北国の人間が着るようなコートを着込み、フードを被る男。その男こそが『元凶』である呪詛師であろうことは簡単に想像できた。

 

 

「鈴木さんだっけ?」

 

『………………』

 

 

本名ではない。男の本名は呪術高専からの情報にもなかった。その代わりに男が使った偽名の内のひとつを使い、呼びかける。返答はない。それどころか意志のようなものを感じられない。

 

 

「……すぐに特級術師が来る。今すぐ『式神』を解除して、投降して」

 

『………………』

 

「3秒だけ待つ。それまでに投降する意志がないなら攻撃に移るから」

 

 

動きがないまま、3秒が過ぎた。

 

 

「『百斂』」

 

ーーパンッーー

 

 

「『焼土永霙』」

 

 

自らの血液を圧縮した後に放つ『焼土永霙』。触れた物を燃やす血液は『大口』にこそ効かなかったが、呪詛師本体にならば効果はあるはずだ。

そんな『焼相』の予想は正しい。その男に当たれば、間違いなく肉体を焼き尽くす。

だが、

 

 

『ーーーー』

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

「!」

 

 

何かを呟く男。

 

 

『ばぁぁぁぁぁんっ』

 

「っ、さっきのっ!?」

 

 

地中より現れる『大口』は『焼相』の放った血液を簡単に飲み込んだ。

突然の『大口』の出現で、彼女が真っ先に考えたのは家族ーー『脹相』のこと。

ここにその式神が現れたということはお兄ちゃんは破れたってこと? いや、そんなわけない。お兄ちゃんは約束を守る人だ。負けるわけがない。いや、でも、万が一……っ!

 

 

「ーー危ないっ!!」

 

「えっ……?」

 

 

思考が飛んでいた。だから、目の前に迫った『大口』も、それから庇うようにして飛び込んできた少年にも気がつくのが遅れてしまって。

 

 

 

ーーグヂャッーー

 

 

 

気付けば、『焼相』の目の前で、少年は『大口』に喰い殺されていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「お前に落ち度はない」

 

 

どうにか逃げ延び、再び落ち合えた『脹相』は『焼相』に告げる。お前は悪くない、と。

 

 

「俺があの『大口』を逃がしたのが悪い。そのせいでお前にいらぬ感情を抱かせた」

 

「……ううん。お兄ちゃんこそ悪くないよ」

 

「……お前のせいではない」

 

 

そこまで言って、『脹相』は気づく。目の前の少女には、今の『脹相』の言葉は届いていなかったことに。

 

 

「救うって……必ず助けるって言ったのに……っ!」

 

「『焼相』……止めろ、それ以上は言うな」

 

「っ、聖女なんて呼ばれて浮かれてたんだっ、これはあの子が死んじゃったのはーー」

 

 

 

ーーあたしのせいだーー

 

 

 

少女から出かけた、自責の言葉。

それは彼によって止められた。彼は『焼相』の口元に右の人差し指を当てたまま、告げる。

 

 

 

「それ以上はなしだよ、涼乃」

 

 

 

既に日は落ちていた。やがて夜が来る。

ここからは『彼』の時間だ。

 

 

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