【悲報】私、加茂憲倫。女子に転生してしまったので一族繁栄目指す(完)   作:藍沢カナリヤ

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第9話 伝播呪殺ー弐ー

ーーーー京都府内廃病院ーーーー

 

 

技術の進歩は目覚ましいものがある。

明治から平成の世へ至るのに、どれだけ技術は発展したのだろうか。100年ぶりに目覚めた私には想像もつかない。だから、廃れているとはいえ、病院の施設は私にとって目新しいもので。

 

 

「鶫」

 

「ん、なんだ、メカ丸?」

 

「注意力が散漫ダ。気を引き締めロ」

 

 

きょろきょろと辺りを見渡す私は、そんな風にメカ丸から注意を受けてしまう。

好奇心が強いのは私の長所でもあり、短所でもある。気をつけなくてはな。

 

 

「メカ丸、どう?」

 

「この病院全域に呪力が満ちていル。特定は難しいだろウ」

 

「そっか」

 

「どこから襲ってきてもおかしくはなイ。警戒は怠るナ」

 

「うん、分かってーー」

 

 

ーービシャァァッーー

 

「!!」

 

 

私の数メートル先で音がした。

液体が床へ飛び散るような音だった。それが一度ではなく、ニ度三度と複数回聞こえてくる。

これは……。

 

 

「メカ丸」

 

「呪力が濃くなっタ。来るゾ!」

 

 

「『簡易領域』」

 

 

瞬間、霞が戦闘態勢に入る。

『簡易領域』。

霞が展開したのはシン・陰流のそれ。私とメカ丸はすぐにその領域内から離れた。私はそのまま霞の近くで、彼女の補助を。メカ丸は前へ走り出す。

曲がり角。そこに、

 

 

「いたゾ!」

 

 

こちらからは死角になって見えないが、メカ丸の視線の先には目的の呪霊がいるようだった。

 

 

「気をつけろ、メカ丸。そいつの吐いた液体に触れるな」

 

 

呪いが感染する恐れがある以上、メカ丸の体が機械だからといって油断はできない。機械の体を通して、呪いが伝播する可能性は十分考えられるのだから。

 

 

「分かっていル」

 

 

それだけを私に返すと、メカ丸は動いた。

メカ丸の左掌が赤く染まっていく。温度が上昇していることに気づいた時には、

 

 

 

「『大祓砲(ウルトラキャノン)』」

 

ーードゴゴゴゴォォッーー

 

 

 

轟音と共に砲撃を放っていた。

それを見て、霞は『簡易領域』を解き、私とともにメカ丸のところへ駆け寄る。

曲がり角の向こう側。廊下だった場所は地面や天井、左右の壁が抉れており、彼の砲撃の威力を物語っていた。普通ならば、その威力を出会い頭の奇襲、その上逃げる場所のないこの場所で受けたなら、確実に祓えたであろうが……。

 

 

「鶫、三輪。警戒を解くナ。恐らくだガ……」

 

「あぁ、まだ祓えてないだろう」

 

 

呪力は感じ取れないが、感覚が私に告げている。奴はまだいる。

どうやってメカ丸の『大祓砲』を避けたかは分からんが、それを受けても祓えない呪霊となれば、それなりの奴ということになる。

 

 

「『簡易領域』」

 

 

霞も再び術式を発動し、警戒を続ける。勿論、私も意識を研ぎ澄ませ、辺りを探る。さっき一瞬感じた気配の主はいま、どこにいる?

 

 

ーーゾワッーー

 

 

不意に感じる気配。それは背後から。

 

 

「『抜刀』」

 

ーーブンッーー

 

 

霞の『簡易領域』に引っ掛かったようで、その刀が半自動で呪霊を切り裂いた。切られた呪霊は転がり、消滅していく。一瞬見えたその姿はまるで、看護婦のようであった。

近接武器で反撃もなく祓えたのは僥倖だった。

 

 

「まだいる」

 

 

先ほどの呪霊の姿を見て、私の中である仮説が立った。

この呪いは伝播する。しかも、複数体で一個体の呪霊として成り立っている可能性が高いのだ。

つまり、この呪いを完全に祓うにはーー

 

 

「すべての呪霊を祓除しなくてはならないという訳だろう」

 

「それは随分ト……骨が折れル」

 

「でも、加茂先輩の呪いを解くにはこれしかないんですよね」

 

 

霞の問いに頷く。

中遠距離の攻撃ができる術師がメカ丸しかいない現状、状況はよくはない。

だが、憲紀のためだ。すべてを祓って見せようじゃないか。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

私たちは既に廃病院内を逃げ回っていた。

無論、戦意喪失というわけではなく、作戦を練り直すために。延々と湧き続ける呪霊相手では、こちらの呪力・体力がもたない。その上触れてはならないという制限に、気力も限界に近づいていた。

 

 

「メカ丸、残りの呪力は?」

 

「まだ大丈夫ダ……といいたいところだガ」

 

「そうか。霞は……聞くまでもないな」

 

 

私は隣を息を切らせながらどうにか走る霞を見て、そう言った。

正直、一番厳しそうなのが、霞だった。彼女が弱いという訳ではない。そもそも『簡易領域』という精神を磨り減らすものを使っているのもあって、機械の体のメカ丸とは違い、この長期戦は生身の彼女には体力的にも厳しい戦いになっている。

 

 

「そういう鶫は随分と平気そうだナ」

 

「…………あぁ、体力も気力も有り余っているよ」

 

 

これが『天与呪縛』による肉体の超強化の恩恵か。

自分でも不思議なほどに疲れていない。勿論、丸腰の私の方が2人よりも戦っていないというのもあるのだろうが。

 

 

「しかし、この病院の構造はどうなっていル?」

 

 

走りながら、メカ丸がふとそんなことを口にした。

構造?

現代の病院とはこんなものではないのか?

そう訊ねると、メカ丸は首を横に振る。

 

 

「走り回ったせいか現在地を特定しにくいガ、少なくともここまで大きな建物ではなかっタ」

 

「そうっ、ですね……外見からはっ高くて3階でしたが……」

 

「アァ、階段を7回は上がっていル。恐らく未完成だろうガ、『生得領域』が展開されている」

 

「……ふむ」

 

 

そうか。

病院とは入り組んだ建物なのかと思っていたが、これは呪霊自身の『生得領域』。

そう考えれば、幾度祓おうと涌き出てくる呪霊にも納得がいく。それほどの呪力をもった呪霊というーー

 

 

 

「ん?」

 

 

 

ふと何かが私の中で引っ掛かった。

何か、それに似た現象を昔、何かの文献で読んだ気がするのだが……。

 

 

「ん、んんん?」

 

「おイ、鶫!」

 

 

 

『けンおォんのォォ、ジカんでスヨぉォオ』

 

 

 

頭の中の情報を無理に引っ張り出そうとしていたせいで、私の意識が一瞬緩慢になる。だから、私のすぐ隣。壁から生えてくるように現れたその呪霊が大口を開けていることに気づくのが遅れたのだ。

 

 

「っ、『簡易領域』っ!」

 

「だめダ三輪! 場所が悪イッ!」

 

 

私が最も壁側を走っていたこともあって、位置的に呪霊を祓うには私ごと攻撃するしかないような位置関係だと知ったのは、実際に攻撃を受けてからのことだった。

メカ丸たちの怒号。だが、その声はーー

 

 

 

ーービシャァァァァッッーー

 

 

 

自らの体に、奴の吐く液体がかかる音で掻き消されてしまった。

 

 

 

ーーーーーーーー




シリアス書きたい病が再発中
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