影法師   作:b blanche

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Prologue

1945年 日本は一五年戦争とも呼ばれた満州事変から太平洋戦争まで、続いた戦を自らの望まない形で終戦を迎えた。

 

連合国から占領・政治への介入・影響などを受けながらも時の権力者たちは国体維持と同様、この技術を秘匿・隠匿工作を至上の命題として奔走し

1999年以降に存在が公になり魔法や魔法師とソレの呼称が変化し一般化し始めてからその傾向はより顕著になった。

 

十氏族、日本はおろか世界中に知られる魔法師の家系。

 

中でも四葉家と呼ばれる一族は、他と比して異質な存在だった。

 

 

現頭主 四葉真夜

彼女は、極東の魔王・夜の女王などの多くの渾を持ちその座にあった。

 

 

現頭主の甥姪が、魔法科高校に入学したのと同じ頃。

 

旧山梨・東京都境界域

 

四葉家本宅

 

四葉真夜は、執務の最中に今日が甥達の高校入学式だったのを思い出した。

 

「今日は、あの子達の入学式だったわね」

 

ふむ、と彼女は思案顔を浮かべる。

 

姿を一枚の絵画と喩えても遜色が無い美女の存在…

彼女を一目見た者は、まずその容姿に目を奪われる。

 

白魚の様に整えられた美しい指先・身長は高位では無いが、等身・手足と全体の均整が非常に取れモデルすら逃げ出す存在感を放つ。

 

彼女の素性を知らない男は、彼女に声をかけるのを競うだろう。

それほど強い存在感を持った女だった。

 

ただ、彼女は軽かったり・相手をするのが安易な存在では無い。

時を置かずに男達は自らの浅慮を思い知る。

身に降りかかる重すぎる代償によって…。

 

同性からも完璧とも言える容姿を羨望・嫉妬等の感情がない交ぜになった視線を向けられる。

女であっても彼女が存在を肯定すれば良いが、男たちの様に存在を否定されれば記憶を消去されるか

もしくは四葉の暗部に取り込まれる・“材料”にされてしまう位しか道は無い。

 

魔王の表現に相応しい威勢・振舞だった。

 

「何か面白い事は、無いかしら?」

 

気紛れに執務の最中に首をもたげた悪戯心が、不幸にもこの場に不在の甥達に向けられた。

瀟洒なデザインの呼鈴を鳴らす。

小さな動作もかつての貴族の様な所作で行った。

 

四葉の執事であり一門の序列上位でもある葉山 忠教が、彼女に呼び出される。

 

「ねぇ、葉山」

 

やや艶の混じる声で、執事の男に呼び掛ける。

 

「はっ、奥様。どの様なご用命でしたでしょうか?」

 

実際は、外見より老齢な執事が老いを幾らも感じさせない力強い声で答えた。

 

「今日は、達也さんと深雪さんの入学式だったわよね?」

 

自分の主でもある目の前に佇む美女が、全てを虜にする様な微笑を浮かべ自分に応する。

今ので、普通の男なら完全に彼女の虜なのかもしれないが葉山は違った。

 

(奥様が、このお顔をされているときは何か御自身にとって楽しい事を考えられているお顔だ)

 

彼は、経験から即座にそう判断する。

 

「はい、確かに奥様のおっしゃられた通りでございます」

「そうよね」

 

愉快そうに彼女は答えた。

葉山は、自分の認識よりも状況が複雑な事に気付く。

 

「それでねっ、葉山?」

 

彼が、次の対応を思案していると彼の懸念材料(よつば まや)が話かけて来た。

 

「あの子達に贈り物があるの」

 

彼女から最大級の爆弾発言が、飛び出した。

 

(奥様が、贈り物?どう言う事だ…)

 

深夜が、他者に贈答品を寄越す事は別段珍しい事ではない。

しかし、このタイミングでの"贈答品"からは危険な香りしかしない。

 

「どの様な物が、よろしいでしょうか?」

「そうね…御堂さんと相談するからまた後で、呼ぶわね?」

 

可愛らしいと言う表現が合うほどの仕草で、微笑みながら小首を傾げて自分に答える。

流石の彼も時々、見せる自らの主人の魔性とも言える魅力に完全に抗える訳ではなかった。

 

(可愛らしい…しまった。思わず、自らの主にあるまじき事を考えてしまった)

 

葉山は、内心動揺をするが表に出さず心の内にそれをしまった。

 

(良かった…。 奥様は、気付いて見えないようだ)

 

葉山は、安堵した。

 

「ねぇ、葉山」

 

退室をしようとする男…葉山を深夜は、呼び止めた。

 

「他に御用が、御座いましたでしょうか?」

 

(はっ、気づかれたか)

 

主人は自分の内心に気付いていまい…そんな願いが叶う可くもなく、彼の僅かな仕草から心中を読んだ真夜が言葉を口から紡ごうとし

葉山の顔色が、急変する。

 

「そんなに私、可愛かった?」

 

先程より更に可愛らしく、心を芯から蕩かす様に微笑み彼にその表情を向けた。

 

「いえ、・・・その様な事は…」

 

葉山は、咄嗟に自らの主に内心を見抜かれた事で狼狽し主人からの問を否定した。

 

「葉山、酷い」

 

先の機嫌の良さが鳴りを潜め、まるで幼子の様な今にも泣き出しそうな表情を見せる。

 

(不味い。この様な所を見られては…)

 

主の不の感情を放置してはもう1人の同僚が怒り狂い何を仕出かすか分からない。

葉山は、まるで精神が若く幼くなり過ぎた様子の主を宥め始めたる。

 

「申し訳ございません。お嬢様、余りに可憐なお姿に咄嗟に反応をしてしまいお心を乱す真似をしてしまいました。この葉山、深く反省をしております。どうか、寛大な処分をお願いいたします。」

 

歌劇の台本に載っていそうな台詞を平身低頭で、今にも泣き出しそうな娘(まや)に話しかける。

 

「ひっ、うぐ。いいわよ。どうせ、怒ると怖い人がいるから仕方なく言ってるでしょ?」

 

(参った、非常に困った。)

 

葉山は内心、冷や汗を流しながら現状を打開しようと頭を捻る。

 

(仕方がない。背に腹は変えれん)

 

普段なら使わない様な言葉を選びながら彼は、目の前の危険物(よつば まや)に賛辞を紡ぐ。

 

「奥様の美しさには、日頃から触れておりますが今回の様に可愛らしいお姿に思わず先程の様をお見せしてしました。

本心に違わぬ言葉でありますれば、お心を沈めて頂ければこの老骨、幸にございます」

 

(これで、収まって頂けるか?)

 

「葉山、ありがとう」

 

泣きそうな顔は、嘘の様に消えて大輪の花の様な笑顔を自らに向けている。

葉山は、事態が大過無く処理出来た事に安堵した。

 

 

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