司波達也……
少年の事を少女は知っていた…と言っても本日の入学式の主役
彼の妹である司波深雪と兄としての側面・優秀な成績を入試の試験で叩き出したと言った程度ではあるが…
彼女の想像していた、自信過剰で才気走った鼻持ち無らない人物
と言う妄想が、良い意味で打ち砕かれた。
(こんな礼儀正しい子だったのね…。失礼な風に考えてしまったわね)
驚きを表情に乗せた裏側で、真由美は目の前で佇む礼儀正しい少年への認識を改めていた。
「司波達也くん……あなたがそうなのね。よろしくね」
黙り込んだ少年に少女は、楽しそうな空気を纏って本題を話す。
「先生方がね、あなたの噂をしていたの」
親しみを込めて、友好的な関係を築きたい意思を表に出して言葉を続ける。
「入学試験、七教科での高得点。魔法理論と魔法工学…合格者の平均点が七十点に満たない中、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。
前代未聞の高得点だって、先生方が感心していたわ」
真由美は、少年の“成果”を賞賛した。
純粋な羨望・相手への感心を持って、少女は言葉を重ねた。
だが、達也は彼女の言葉をやんわりと否定した…少女に悪印象を与えない程度に
「……ペーパーテストの結果です。情報システムの中だけの話だと思ってます」
愛想笑いと表情に苦味を滲ませて言葉にする。
続けて、達也は自身の左胸を指差した。
(うーん、この子はあれね。…謙遜が過ぎると言うのね…。折角、すごい成績を出しているのだから胸を張っていればいいのに。
この子…面白いわ、絶対に面白い。逸材だわ、うん。きっとそう)
などと考えているのは、臆面にも出さず真由美は笑顔で頭を振る
左右にゆっくりと…
「えっとね、司波くん?そんな凄い点数、少なくとも、私は取れないと思うわ。私、自分で言うのは烏滸がましい理論系も結構得意なの。もし、入学試験と同じ問題を出されてもあなたの出した点数はきっと、取れないだろうなぁ」
「そろそろ時間ですので……失礼します」
真由美の話しを続けたい姿勢に短く告げて、返事をする間もなく背を向ける。
少年の話を続けさせない態度は、少女を硬直させるのに充分だった。
彼女が、反応出来ない内に少年は去っていた。
「えっ?えっ?ちょっ…と、あ~」
(うーん、何か怒らせる様な事を言ってしまったかしら…)
自分に落ち度が、あったのだろうか…
それとも、怒らせたり恥ずかしがらせたりする様な事を無意識でしてしまったのか…
少女は、急ぐように去って行く達也の後ろ姿を見て取り残されてしまった。
(残念…、折角“面白い子”を見つけたのに~。大丈夫よ、真由美。まだ機会はあるわ、次こそわよ)
真由美は、少年への興味を大きくしながらそんな決意をする。
達也は、そんな少女の内心を知る由もなかった。
「そう言えば、兄妹で入学の筈…。うん、行けるわ」
何が、“行ける“か解らないが少女は一人気勢を上げる。
新たな“お友達”候補の決まった瞬間であった。
「会長ぉ~。会長ぉ~、聞こえてますか?会長ぉ~」
小柄で、愛らしい後輩が、声を掛けるも現実に戻るまで“少し”時間がかかったのは、内緒だが……
入学式も滞り無く終わり新入生達もホームルームに行く者
帰宅の途に着く者に分かれる。
真由美が、次の目標に絞った新入生総代…司波深雪は後者だった。
(さ~て、可愛い可愛い“お姫様”は何っ処かっしら~)
真剣な表情をしながら内心、外面と全く反する事を考えながら廊下を進む
式も終わり後片付けの大体を有志生徒に任せ真由美は司波深雪の姿を探し校内を彷徨っている。
深雪を勧誘する旨を他の生徒会の役員に伝えると副会長の服部刑部少丞範蔵がついて来てしまったのは予想外だった。
自分の後ろで、補佐として良く控えているのがこの少年
(範蔵くん、他の用事は大丈夫かしら…)
少年が、自分に好意の様な物を向けているのは知っていたが
“恋愛感情”について理解が追いつかない真由美は、彼の思いに気づかないもしくは分からない振りを続けていた。
深雪を探す彼女の歩みは進む。
一年生の集団だろうか真新しい制服が、目を引く…
特徴的なエンブレムがある事から“一科生”である事が、
理解できた。
注意深く、集団の中を確認して見ると一人だけ際立って容姿の整った存在が紛れている事が解る。
(えっと、あの子が“司波深雪”さんかしらね…)
チラチラと人の影に隠れているのと真由美の背が小柄なのも影響してはっきりと確認する事が出来ない。
暫く、様子を伺う事に少女は方向を変えた。
「お兄様、お待たせして申し訳ありません」
「お疲れ様、早かったね」
美しい旋律の様な声で、言葉を紡ぐと深雪は同級生達の輪から抜け出した。
真由美は、少女の容姿と言葉から“司波深雪”と確認する。
少女の前に立っているのは、達也
(新入生の挨拶でも思ったけど、やはり違うわね…)
深雪を改めて確認し、少女は素直に彼女の美貌・魅力を感じる。
兄と同様で、筆記試験は好成績・魔法実技に関しては歴代の中でも飛び抜けた成績……
併せて抜群の容姿。
自分も異性に好意を向けられる事は多いし、容姿にも自身は持っていたが、
少女の自分が知っている面だけで評価しても素晴らしいとしか言えない事に真由美は敗北感を感じた。
(本当に可愛い子ねぇ。妹に寧ろ、いえずっと傍に居て欲しい位だわ)
敗北感を感じながらも少女は、深雪に劣等感や悪感情を持ってはいなかった。
逆に彼女の魅力に惹かれている程である。
(さて、お目当ての二人は見つかったのだけれど…。どうしたものかしらね)
達也に先程、“逃げられてしまった”経験から真由美は慎重に事を進める。
警戒・敬遠される…最悪の場合、嫌われてしまって全くの無意味。
偶然、見つけた・通りがかった風に装い言葉を掛ける
「こんにちは、司波くん。また会いましたね?」
朝の出来事で、こちらに含む所が無い事を言葉に滲ませて挨拶する。
少年の表情が、一瞬……硬った気もしたが大過無く接触を図れた事に安堵した。
(う~ん、先客の様ね。仕方が無い、ここは様子見ね……)
彼女が、達也達の遣り取りを見ているとややあって、動きがあった。
こちらの様子を少年が、一瞥したかと思うと少女にこう質問した。
「深雪、生徒会の方々の用事は済んだのか?向こうで、お待たせしているのではないかい?」
「あっ…」
達也が、そう告げると深雪が息を呑む・思い出した様な声を発する。
『余り、面識が無い状況で相手に気を使わせすぎるのも如何なものか』
と思い少女はこの場は引いた方が得策と判断
一声だけ掛けて、この場は引く事を選択する。
相手に嫌われてしまっては、元も子も無いからだ。
「大丈夫ですよ」
少女は、兄妹に自身が気にしていない事・不快感を持って無い事を告げた。
併せて次も話が、したい旨を言葉に滲ませて締める。
「今日は、ご挨拶させて頂いただけですからね
私も深雪さん…と呼ばせてもらっていいかしら?」
「会長」
「深雪さん」
「はい」
「詳しいお話はまた日を改めてゆっくりと…司波くんもね」
「会長」
真由美は、司波兄妹に自分の用が“今日”の所は済んだ事を告げて場を後にする。
副会長である範蔵が、少女に会話の最中と場を後にしながらこれで良いのかと疑問を挟む
彼が、自分に対して気を使っている事も理解できるので言葉を返す。
「今日は、予めお約束していたのではありません。
別に予定があるのでしたら、そちらの消化をしましょう」
後輩にそう言葉を返し、真由美は場を後にする。
範蔵には申し訳ないが、この場は自分の目的を優先させるべきでは無いのだ。
少女は、自らに気を使う少年に感謝の言葉も忘れない。
「範蔵くん、ありがとうね。
でも、私の予定は大丈夫だから気にしないで…ねっ。また、後日と約束もできた事ですし」
真由美は、範蔵に“感謝”を述べ
柔く微笑み、少女は彼に告げる。
少年は、少女の魅力・蠱惑的な仕草と言葉に面食らい顔を背け赤くする。
恐く照れている…少女は判断した。
彼は、少女からの感謝に喜んでいるが、正直に表現するのが恥ずかしいからだろうと推測する。
(ん~、こう言う反応よね。大体は)
少年の反応から少女は、目の前で起きている反応が“普通”なのだと改めて認識する。
彼……司波達也は、違う。
達也は、真由美との遣り取りを正直言って避けていた感・何かを恐れていた感があったのだ。
少女の目標……新しい“お友達”候補の片方に警戒感を与えているのは何か
彼女の脳裏に一つ、明確に思い当たる事があった。
(やはり、七草の名前かしら…。普通の家の子には、重く感じるのかもしれないわね)
少女が出した答は、半分は正解だった。
少年…司波達也の正体を知らない彼女からすれば考えうる最上の答えと言える。
今後の彼らへの対策を考えつつ、後片付けの作業へと真由美は戻った。
入学式の事後処理を終え・生徒会役員や有志の生徒らと別れ帰宅の途に着く。
真由美は、名倉の運転する車の中で今日あった事を反芻した。
(取敢えず、明日は様子見ね…。性急に動くべきで無い気もするし)
今日の行動を反省して、少女は次の手を考え始める。
機会はあるのだから、少しずつ距離を詰めていけば良いと考えた。
彼女が思案を巡らせている内に車は、自宅の屋敷に着く。
「名倉さん、今日の夜は予定があったわよね?」
「はい、お嬢様。本日は、地域の懇親会にございます」
少女の言葉に執事は、答える。
真由美は、名倉の答に内心で不満を零す。
(またなのね。はぁ、十氏族……七草家の義務ねぇ)
“懇親会”と言うなの権力者・権勢を求める魑魅魍魎達の化かし合いの場に参加すると思い
少女の憂鬱が倍加する。
友人達を揶揄い半分に猫の皮を被って、巫山戯ている彼女も大人達の水面下での暗闘には正直疲労感を感じた。
今日のちょっとした愉快な記憶を霧散させるには充分な疲労感が少女を包む。
宴までの時間はあと僅か
同日 18:00
七草家は、現在 十氏族の中でも有力な一族である
が、同時に関東で古くから権勢を持つ一族……名門と呼ばれ多くの勢力が一目を置く存在と言え
この日のパーティーが、よく表していた。
「これは、これは、七草のお嬢様。是非、私ども会社の新製品を……」
「お嬢様、当社の新規リゾートの名誉会員になって頂けないでしょうか?特別待遇でお持て成しを……」
「七草家のお力で、貧困に喘ぐ子供達に機会を……」
「この度、政界に進出するに中り、是非ともお父上にお口添えをお願いしたく……」
「当社の試供品を是非とも七草家の皆様に……」
etc.etc.
と言った具合にまだ二十歳にも満たない少女に擦り寄りその家名・権力に肖ろうとする始末
真由美が、憂鬱な気分になるのも頷けた。
一方、他所では……
『キー、あの小娘。私よりも目立っていますわ』
と金髪で自己主張の強い女が少女に対し一方的に敵愾心を燃やしていた。
自分の預かり知らぬ所で、ヒステリックな女性が、癇癪を起こしているのを少女は見て考る。
(はぁ。そんなに言うなら変わってあげましょうか?龍なんとかさん)
有名な麻雀大会で、中々の成績を残したとか言う金持ちの娘……名前を覚える気は無い……が目の端に映る
自分に対し、嫉妬や厄かみ・悪印象を持つ人間が少ないない事を知っていた真由美は耳に少し入った言葉に内心で返す。
残念ながら周りの大人が、感心・興味を向ける相手は自分で他に向く気配は無いのだが。
少女の気苦労は、当分の終わりそうに無い。
会も中盤に差し掛かり、漸く己の利益・目的に忠実過ぎる大人達から開放された少女に次の試練が襲いかかる。
美しく蠱惑的な魅力・少女でありながら男達を惹きつけずにはいられない肢体に有力者の若い子弟達が群がった。
「真由美お嬢様、今度宜しければ夜景の素敵な……」
「それよりも私とご一緒に有名オーケストラの演奏……」
「いえ、我が家に所有する高級リゾートへ是非……」
「この後、私と一緒に星でも……」
etc.etc.
挙げていけば切りの無い、安っぽくて身を伴わない陳腐な言葉の数々。
表面上、柔かに微笑んではいたが流石の七草家の長女も疲労を感じ始める。
利益を求めて擦り寄る大人も厄かみ・嫉妬を向けるだけの女達、下心丸出しで迫る金持ちの小倅も少女を徐々に疲れさせるには充分な力を発揮した。
(うぅ、誰か助けてよぉ。誰でも良いから……)
内心、面倒の余り泣き出しそうになる少女。
脳裏に高校生離れした幼馴染や自分に好意を持つ生徒会の役員の姿が浮かぶものの
残念ながら彼らはここには居ない。
好い加減、怒鳴り散らして見ようと思わないでもないが、“体面”と言う厄介な制約の為に結局は断念した。
何か体の良い、断り文句に利用できそうな事は無いか周囲を見やる。
すると、視線の先に興味深い光景が目に入った。
(ん?あの男の人、可哀想ね。私とお揃い……って
うわぁ~、思いっきり胸を押し付けてるわよ。あのオバさん)
視線を移すと、恐く男性?と見える人物に多くの女性……女性と言えない人物も含まれる……が周囲を包囲している。
困惑して、苦笑いをしているのが見て取れた。
自分と同じかそれ以上に異性に絡まれている男性?を見て少女は“名案”を思いつく
その人物が、“何“とも知らず。
(良い事を思いついたわ。あの人を“助けて”あげましょう)
少女は、即座に思いつきを実行に移す。
「皆様、申し訳ありません。父の知り合いの姿を見かけたもので、この辺で失礼いたします」
周囲の男達に会釈を交わし、彼らとの約束が果たせない事を言外に告げる。
表面上は、誘いが嫌ではない事を付け加えて場を後にした。
父 弘一の名を出せば引かない人間は、殆どいない……この“事実”にだけ、少女は感謝した。
同じ様に男達に囲まれても困るので、直ぐさまあの男性の元へ足を運ぶ。
「お久しぶです。近頃は、お仕事の調子はどうですか?
父も随分、気にしている様で……」
如何にも男性と自分が、懇意の間柄であるかの様に話かける。
最後にやんわりと周囲の女達を牽制する様に微笑みを浮かべる事も忘れずに
「えっ……と。おや、これは七草のお嬢様。
お珍しい限り、お久しゅうございます」
少女の挨拶に男は、平身低頭で返礼を返す。
恭しく、頭を垂れて彼女に最大限の敬意を払う。
さしもの、男に群がっていた有象無象の輩も困惑を隠せない。
すっとした気分になり、少女は言葉を続ける。
「折角の機会ですので、お仕事の話を伺えませんか?よろしいでしょう……」
「お嬢様の貴重な時間を頂けるのであれば、私としては異存ございません」
少女に傅く姿勢を鮮明にし、男が恭順の意を告げた。
真由美は、表情に艶を乗せ周囲を圧倒する蠱惑的な笑みを浮かべる。
遂に女達も諦めがついた様子
仕上げも忘れない。
「ねぇ、向こうでお話を伺っても良いでしょう?」
「はい、仰せのままに」
男の手を自ら取り、会場の出口まで連れて歩む。
何やら様々な声が聞こえるが、少女は最初からの鬱憤の晴らすかの様に無視して歩を進める。
会場から出て、暫く歩き廊下からバルコニーに出て一息吐いた。
「七草のお嬢様。下のお名前を存じませんが、この度はどうも。ありがとうございます」
少女に先んじ、男が先程と同様の態度で礼を述べた。
返礼をと彼女も同じ様に試みるが、動くことが出来ない。
頭を上げた男のさっき意識していなかった相貌を目にして、少女は言葉を失う。
(えっ、何この人?嘘……嘘でしょ。凄い美人さんね)
目を見開き瞳に映る事が、事実なのか信じ切れなくなる。
自分の前に佇み人物は、男である筈だが有り触れた言葉を使って表現出来ない程
美しく整った容姿をしていた。
(何よ~、もう。こんな綺麗な人の手を引いて私、廊下を歩いてきたの?)
自分の行動を反芻し、少女は頭を抱えそうな位に内心悶える。
女達が、騒ぐのも無理もない……と言える“いい男”と呼んで差し支えない人物を自分が横から引張って会場を出たのだから
(会場から抜け出るのに必死で、確認なんてしてないわよ。
うわぁ、睫毛凄く長い。髪も艶々じゃない、本当に男の人?)
少女は、自分の行動を思い出し恥ずかしくなりながらも男の様子を確認するのを忘れない。
突如として現れた興味の対象に真由美は、今が何処なのかを忘れて観察を続ける。
(でも、何処の人なんだろう?家の事は、知っていたけど私の名前は知らない風だったわね)
観察をしながらも男の言葉について考える。
少女の様子を心配したのか、男が質問した。
「違っていたら申し訳ありません。何処か、お加減でもお悪いのですか?」
「えっ」
じっと、動かない少女を心配して男が声を掛けた。
少女は、男が不安の色を纏って顔を近づけていた事に驚き後ずさった。
「……大丈夫です。問題ないです、ほほほ」
「そうですか?」
尚も心配をしているのか、男の様子は変わらない。
少女は、笑って誤魔化すも気まずくなり話を変える為に提案をした。
男と真由美は、会話を続ける。
「自己紹介!自己紹介をしましょう、お名前を聞いて無かったので」
「これは、申し訳ありません。本来であれば、私から名乗らねばならぬのにお気を使わせて……」
男は、名乗りの為に姿勢を正す。
整った容姿と合わさって堂々とし見ていた少女の視線を嫌が応でも惹き付けた。
自らの名を告げた。
「私は、青葉恭一と申します。仕事は、金融コンサルタントなどさせて頂いております。
以後、良しなにお願いします」
金融業の勝手な印象とは、縁遠い華美な容姿の男は名乗った。
芸能関係かそれに類する何かだと考えていた少女は、驚きを内心に留める。
男が名乗った……自分も名乗らねば失礼と感じ自らの身分を改めて少女は説明する。
「私は、七草真由美と申します。第一高校の生徒会会長を務めさせて頂いております」
「これは、どうもご丁寧に」
青葉と名乗った男に少女は、多くの男達にするよりも艶めかせ微笑みかける。
致死性の猛毒にも似て男には効果覿面のそれを相手にした。
通常であれば、蠱惑的な少女の虜となり骨抜きになるか性的な魅力に当てられて赤面してしまう
だが、目の前の男……青葉は違った。
何やら、照れた姿を見せるが男の姿からは鼻を伸ばしたり魅力に当てられた様子は見られない。
寧ろ、年若い人間に丁寧な挨拶をされて恥ずかしくなってしまった老人の様な風情。
真由美は、場から離れる為に利用した人物が思いの他、自分の優先する楽しい・面白い人種に失礼な事だが該当する様で喜んだ。
(私の力……魔眼が、通用しない?魔法師では、無い様だし。
何故かしら、私に悪意は無い様だし少し話をしても良いかも知れないわね)
自分が知らず知らずの内に目の前に存在する男に興味を持っている事に疑問を抱かぬまま少女は話を続ける。
「青葉さん、随分と女性に人気がお在りなんですね?」
少女は、悪戯心を混ぜて年上をからかう。
男は、目を細めで頬を掻く仕草をして
「ははっ、そんな。皆さん、私で無くて私の持っているものに興味があるんでしょう。
私は、多分おまけですよ」
謙遜混じりで、少女の揶揄を往なす。
青葉の返事に疑問を抱きながらも自分に群がる私欲に塗れた大人達と比べて彼の言う通りなのかもと真由美は感じた。
男に少女は、気になっていた事を質問した。
「青葉さんは、具体的にどんなものを扱っているんですか?」
「私が扱っている物……ですか?そうですね、分かり安く言うと換金率の高い債権・資産などですかね」
「なるほど、私にも出来ますか?」
「ご興味が……?」
社交辞令で、少女が告げると男は意外そうな口調で返す。
少女は、男の仕事を優れた容姿もあり金融業を装う詐欺師やたかり屋の可能性も実を言うと考えていた
すんなりと仕事の説明を自分にしたのに驚いた。
これ以上、興味を持てそうも無い様子に話を変えようと別の話題を告げる
「いえ。父も似た様な資産を持っており気になったので」
「左様で、御当主様が…」
「はい」
青葉の仕事についての詮索を真由美は終わらせ、互いが共通の趣味であったのでその類の話に花を咲かせた。
時間が経つのも忘れ気が付けば、執事の名倉が迎えに来る時間も近い
「そろそろ、御暇をさせて頂きます」
「おや、その様な時間で?本日は、困っている所を助けて頂き感謝の念に絶えません」
青葉に真由美が、返礼を返す。
男に少女が、微笑みかけた。
「思いの他、楽しい時間を過ごす事が出来ました。まさか、同好の方とお知り合いになれるとは……
こちらこそ、ありがとうございました」
「よろしければ、お嬢様。お近づきの印に読み物を送らせて頂きたいです。是非、お手にとって頂けれ無いでしょうか?」
「青葉さん、よろしいのですか?初対面ですのに……」
「本日のお近付きの印と窮地を救って頂いた感謝の気持ちです。お気になさらなず、お受け取り下さい」
「そうですか?お言葉に甘え後日、受け取らせて頂きます」
始めの内、固辞していた少女も害意の無い“美人”に懇願されて受け取る方に折れた。
真由美が、一度小さく頭を下げから去って行く。
少女の去る後ろ姿を男が、頭を下げ見送った。
彼女の姿が見えなくなり少し経ち、男は息を吐き、居住まいを正した。
「あぁ、青葉を演じるのは疲れる。気ィ、使い過ぎた。
肩、凝って仕方ねぇ」
少し前と殆ど別人の様な口調で“青葉”が喋す。
少女と歓談を楽しんでいた姿勢が、演技であり男の本性が実際こちらなのは言うまでも無い。
効果音を鳴らし、体を解し息を吐く……
懇親会とは名ばかりで“集り屋”に群がられる状況に手を差し伸べてくれた点を七草の長女に感謝した。
男が、佇んでいると後ろから近づく気配がある。
また、“青葉”を演じる必要があるのかと思い顔を向ける。
振り返って数瞬、演技をする必要がなく本性のまま来た相手に相対した。
「旦那ッ。ここに居やしたか。探しやしたぜ」
青葉が目を向けると場にそぐわない人相の大男が、黒で揃えた背広で身を包んでいた。
男……唐洲浩治は、青葉を見つけて安心したのか息を吐いた。
「探していた?何か問題があったか質の悪い事でもあったか……」
青葉は、男の言葉に確認を取る。
男は、自分の上役に連絡事項を説明した。
「2つあります。
1つ目、カレン……カレン・D・ヴァンシュタインから至急報告の事項があり会見を求めている件
2つ目が、トルコの人員を幾らかウラル方面の調略・偵察任務に廻して欲しいと上申が来て居ます」
「ふん」
報告を聞いた青葉、鼻を鳴らし物憂げな表情で思案する。
唐洲は、上司の顔を見て思う。
(ホント。この人、俺らと同じ人間なのか?)
多分、男の部下達が殆ど感じている疑問をはまた感じた。
整えられた白晰の相貌・涼しげだが研ぎ澄まされた刃物にも似るゾッとする程の妖しい魅力を放つ瞳
美しく嫋かで、計算された様な長さと絶妙な均整の取れた四肢。
男を構成している部品・素材が、自分達と同じ人間なのか疑わしい……
彼の率直な感想だった。
上司の視線に疑惑の色が滲み、自分を射竦める。
ゾッとする程、冷え切った瞳に肝から凍える気がした。
漸く、男が視線に気付き相手に釈明する。
「すいやせん、旦那。さっきの良いオンナ、どなたさんかと思いやして」
などとは、上司の容姿に疑問をもっていた事を少しも噯に出さず話を反らす
この上司は、自分の容姿の話題をされるのを余り好まない。
以前、必要以上にその話題に触れて粛清された愚か者がおり、部下の間で暗黙の了解になっていた。
己の命にすら関わる事の為、青葉の様子を確認する。
「あぁ、オンナぁ?ん、あぁ……さっきのは、七草の長女様だよ」
「七草?七草ってえと、あの別嬪さん七草の人間ですかい?」
「おう、お前さんの言う……“あの”十氏族が雄 七草様だよ」
青葉は、唐洲の質問に答える。
男は、女の素性も割れ更に興味をそそられたのか上司に確認した。
女好きの彼は、他人の戦果や勝敗を気にする性分だった。
少し面倒な顔をしながらも青葉は話を続けた。
「有象無象に集られている時に急に声を掛けてきてな?最初、俺の正体がバレたと思ったがどうも違う。安心して、話をしてこうだった。
奴さんも虫に集られ鬱陶しかった様で、体よく俺を山車に騒ぎから抜けたかったようだ」
「あー、ありそうなこって。よりによって、旦那を山車に使うとは……」
上司の言葉に部下は、相槌を打つ。
「俺の手を牽いて、会場から抜け出して他愛ない話をしてたわけだ。まぁ、何度か俺の素性を
洗おうとなにやら企んでいたが、小娘如きに遅れをとらんがね」
「旦那からすりゃあ、小娘ですが仮にも七草の人間。面倒にならなくて、御の字ですぜ」
「“枝”を張るため、繋ぎは付けておいたがな」
事も無げに七草の人間関係に影響を与えかねない事を平気する上司には、畏怖とある種の尊敬を感じた。
「俺には、真似できやせんぜ旦那」
「ふっ、自分も十氏族のそれも表沙汰に出来ない人間の癖に良く言う」
上司は、部下にそう返すと皮肉を込めて笑う。
お互い暫く低く笑いあうと除に唐洲が、切り出した。
「今日は、もう引き揚げですかい?」
「あぁ、思いがけない成果も出来たしな」
「案件については、どう返事を返します?」
「“認可してやる。正式な書面で俺に至急出せ”と用のある奴に伝えろ」
「解りました。連中に納得させた上で紙を出させます」
男達は、言葉を交わしながら歩みを進め
会場である高級ホテルを出て駐車場に出た。
奥に黒塗りの高級者の横に若い運転主が控えているの見て取れる。
運転手が、上役……“青葉”に確認した。
「この後、どうされます?本宅に戻る事も出来ますが、時間も時間です」
「そんな時間か?今日は、良い。
俺の別宅に泊まる。六本木まで車を廻せ」
慣れた口調で、部下に男は命令する。
常に慣れているかのように、淀みなく言葉を発した。
「畏まりました、御堂様」
運転主は、“青葉”否……自分達“四葉の暗部”を束ねる現当主の懐刀である御堂に短く告げ
車を滑らかに走り出させた。
御堂の乗る車を見送ってから唐洲は、言葉を発した。
「旦那は、行ったか……
返事を連絡してきた奴らにしねぇといけねぇな。
事務所に戻って、一杯やりながらするか」
夜の中に同じ漆黒の車体は、消えて行く。
夜は、まだ深みを増していく。
了
どうも、筆者です。
真由美さん編二回目です。中々、会長さんの内心が、想像できないのでオリキャラみたいかもしれません……
小悪魔は、好きですが表現するとなると非常に難しいですね。
後、数回程で他の人物の話に変わる予定です。
引き続き、お引立て頂ければありがたいです。
ではでは。