影法師   作:b blanche

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萌芽

真由美は、朝の一連の流れを消化し学校に当校した。

 

友人の渡辺摩利に挨拶をすると彼女らしいからりと竹を割った挨拶を返される。

気の置けない友人達との朝の遣り取りをしながらも考え事をする。

ふと、一人になり昨夜の男……青葉とのやり取りを思い出した。

 

男は、一晩経った今考えても他の人間とは違う。

何処か謎めいた姿が散らつく。

年上には、日頃から自分に己の欲望ばかり優先して群がる大人を目にして来た為、余り良い印象は無かった……しかし、あの男は何処かが違う気がする

少女の興味の一端に男の存在が、加わるのも時間の問題に思えた。

 

気になる存在……一人の少年についても同じ事が言える。

昨日の司波達也とのやり取りを思い出しどう接すれば、失敗しないかを考えた。

 

(敵は中々、手強いわね。どうした、ものかしら)

 

午前の授業中、自分の理解が深く及ぶ授業と言う事もあり、殆ど教師の話が頭に入らず講義の内容を覚えていない。

面白い・自分の興味対象にのめり込むそれが、少女の姿勢だった。

 

対象にアプローチする機会は、少女の予想より早く訪れる。

午後にあった専門課程授業の見学に少年の姿が見えたのだ。

「射撃場」の通称がある遠隔魔法用実習室で、3年A組の実技中に達也と友人達が見学に来ていた。

だが、自分達が優秀であると信じて疑わない一科生の一部が、達也達……自分達がウィードと蔑む二科生が見学者の最前列

に陣取っている事を差別的風潮のあるに彼らが、露骨な不満を示していた。

 

真由美としては、少年に少しでも良いところを見せたいのが本音

しかし、生徒同士の諍いを黙って見過ごす事も出来ず心に留めて置かねばと思う。

ともあれ、今は少年に頼れるお姉さんとして認識してもらうのが急務と捉えて目の前にある機会に全力で挑む。

 

(よし、頑張ってみせます)

 

少々、少女の肩書きに似合わぬ子供っぽい意気込みで演習に望む少女。

蠱惑的な魅力を放つ外見とは、裏腹に内心の幼さが目立つ

それらを武器にすれば、親しみ安さが出て良いのではとも思うが出来れば彼女は苦労していない。

 

少女は、実習に臨んだ。

結果、ほぼ完璧に射撃を遂行し同じく実習中の生徒にも賞賛する。

達也の姿を確認しようと姿を探す。

少年の顔は、何やら思案している様子

勤勉な後輩の学習の助けに少しにでもなれば、と少女は再び訓練に戻った。

 

 

 

実習も大過無く、終わり

午後の授業も消化、生徒会の仕事に臨んでいた。

 

新学期の初めと言う事もあり書類関係を中心に仕事が多く部屋に着いてから他の役員達と作業に追われている。

ふと、今日の午後にあった実習の事を思い出す。

 

達也に自分の先輩らしい所を見てもらう事は、自分では出来たと思う

だが、彼が心を自分に開いているのかは分からない。

 

何かこう、接点の様な物……少年の妹 司波深雪 以外で発見出来ればと思い始めていた。

 

少女が、内心でそんな事を考えていると廊下の方から誰か来る気配がする……

想子で、他者を正確に認識できる訳では無いがどこと無く知っている人物な気がした。

 

(誰かしらね?急いでいる様だけど……)

 

急速に近づいて来る反応に真由美は、意識を巡らせる。

やや合って、部屋の扉がノックされて入室の許可が求められた。

ここに至って、少女以外の役員も“来客”に意識が向く

許可を出すとほぼ同時に扉が開かれた。

 

「真由美居るか?急いで着いて来てくれ」

「摩利、どうしたの?随分、急いでいるようだけど……」

 

風紀委員長も務める、渡辺摩利が顔を出す。

彼女とは、入学以来の友人でもあり少女が生徒会長に就任してからは、この部屋にも良く顔を出していた。

 

どうも、今日はいつもとは用向きが違う様子

少女は、訪問者に何があったかを尋ねた。

 

「校門でな一年生同士が、“喧嘩”と迄いかないが言い争いをしていて聞いていて表現に不適切な内容があり問題じゃないですかと報せて来た奴がいるんだ」

「そうなの。でも、何で私の所にまで来たの?」

「それ、なんだがな?言い争いをしている生徒の片方にな“司波深雪”が居るんだよ」

「あら、そうなの。お兄さんの方も一緒なの?」

 

闖入者に少女は、一番気になっていた点を確認する。

確認する際、一番重要な内容をさり気無く確認した。

答は、直ぐに返ってくる。

 

「あぁ、どうやら兄妹でいる所を問題にされた様だ」

「そうなの。生徒会に問題を持ち込むって事は、私も一緒に現場に行った方が良いの?」

「新学期が始まったばかりだ。忙しいとは、思うが頼む」

「そうね。確かに問題ね」

 

入学早々、教師から司波兄妹が目を付けられるのは自分に取っても面白い事ではない。

少女は、聞いた内容から事態を早急に収める必要ありと判断した。

 

「判ったは、私も行きましょう」

「おぉ、助かる直ぐに行こう」

「皆、ごめんなさい。すぐに戻るから少しの間、よろしくね?」

 

同級生の市原鈴音から視線で部屋を一周して告げる。

全員から頷首も得て、真由美は扉を開けて廊下に出た。

緊急とは、言え生徒の模範たる生徒会長が走って移動するわけにも行かず

摩利の後ろを走らない程度について行く。

“緊急・非常の時や授業なとで特別に許可が出ている時以外は、学内及び敷地でも魔法の使用など以ての外”と言う校則が、今は不便で仕方なかった。

 

(大きな問題になる前に止めさせたいわね)

 

入学したばかりで、喧嘩などをすればこちらとしても問題児として扱わなくては為らなくなる。

それだけは、避けたい真由美は一刻でも早く騒ぎの現場に行く事を優先した。

 

 

 

 

摩利が、真由美に配慮してすぐに報せてくれたのと生徒会役員が、快く送り出してくれたので僅かな時間で現場……校門前に到着出来た。

魔法をしようとしたが、“CAD=ホウキ(法機)”を起動している少女が、目に入る。

 

(不味いわね。ここから、大声で静止を叫んでも止められないかも知れないわ)

 

魔法式まで、読み取る事が出来ないが攻撃性のある魔法を展開する直前まで往っている事は判る。

この儘で放置すれば、最悪の場合

怪我人を出す恐れもあるし、使用した生徒の印象も悪くなってしまう。

 

(仕方が、無いわ。“アレ”を使って魔法を妨害するしか手は無い様ね)

 

自分の十八番を即座に展開する。

照準は、魔法式を展開し始めている使用者だ。

 

少女は、十八番……サイオン粒子塊射出を、瞬時に展開し発動させた。

 

「きゃっ、何?」

 

真由美の放った魔法は、少女の展開中の魔法式を撹乱し構築を失敗させる。

術者の魔法式の構築失敗を確認し、少女の体にも悪影響の無い事を確認し射手は、内心でホッと安心した。

機会を逃さずに騒動に介入する事も忘れない。

 

「双方、止めさなさい!今の様な自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為です!互いに手を引きなさい!」

 

普段は、妹達を叱る際にも余り使わない強い口調に周囲は静寂に包まれる。

少年……司馬達也の視線もこちらに向いているが、今は気づかぬふ振りで続けていく。

 

「君たち、一-Aと一-Eの生徒だね。色々、状況に至るまでの事情を聞きます。ついて来なさい」

 

摩利も謹厳に告げると一年生達に風紀委員として、同行を命令している。

少女のCADは、既に展開を終えいつでも起動できるのは明白だった。

 

(自分で、ああは言ったけど。少し、強く言いすぎたかしらね?さっきの女の子、顔が真っ青になっているし)

 

真由美は、自分の行動を省みてやり過ぎた可能性もありそうで

何とか穏便で事態を収集出来ないかと思案を始めた。

少しの時間を置き、状況が動き出す……

 

 

「すみません、悪ふざけが過ぎたようです。申し訳ありません」

「悪ふざけだと?」

 

達也が妹の深雪を背後に粛々と従えて、共に摩利の前に進み出る。

傲慢さも反骨的な姿勢も無く、悠然と場に出て往く。

上級生の訝しげな視線に相対した

達也は、視線に動揺する事なく対応し、礼を失せずに軽く一礼をする。

 

言葉を続け、風紀委員長でもある最上級生の摩利に事情を説明した。

 

「はい。

森崎一門のクイックドロウは、非常に有名で工学の為に見せてもらうだけのつもりでした。

ですが、術が真に迫りすぎていたので……思わず手が出てしまいました」

 

少年の言葉に一科生の男子生徒の一人が、表情に驚きを滲ませる。

他の一年生も先程とは、意味を異にして絶句した。

そんな光景を他所に警棒を持つ二科生の女性と地面に転がったままの拳銃形態のCADデバイスを確認する。

再び、達也を見る相貌には“冷笑”を浮かべて

 

「だが、後で一-Aの女子が攻撃性の魔法を展開しようとしたのをどう説明する」

「恐く、咄嗟の事に驚いての事でしょう。条件反射で起動プロセスを実行できるとは、さすが一科生は違いますね」

 

何処か白々しいながら言葉は、続く

 

「君の友人は、魔法によって攻撃されそうになっていた。まだ、悪ふざけと主張するのかね?」

「攻撃と言っても威力は、千差万別です。彼女の発動を意図したのは、目晦ましの閃光魔法。威嚇と見なせれる範囲でしたし」

 

再度、場の空気が変わる。

 

「ほぅ。どうやら君は、展開中の魔法式……それも起動式から読み取る事ができるらしいな」

 

摩利は、冷笑を感嘆に変えて達也をジッと見ている。

 

(へぇ~。あの子、専門的な教育は受けてない筈なのにそんな特殊な事が出来るんだ。

やっぱり、逸材だわ)

 

少女は、自分の見込んだ少年の能力に改めて感心を寄せる。

状況が状況だけに周囲の人間が、知れば不謹慎と騒ぐかも知れないが今の彼女には余り関係が無かった。

場を収める為、方策を考える事も決して忘れない

 

(さて、状況をどう収めましょうか?何か糸口でもあれば、良いのだけれど……)

 

風紀委員長の言葉に達也は、説明を付け加える。

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

少年は、常識を逸した技能を「分析」の一言で片付ける。

更に事も無げに

 

「……誤魔化すのもお得意のようだな」

 

感心と疑惑の綯交ぜになった、視線を摩利が少年に向ける。

先輩からの追求に立つ兄を心配し、庇う様に深雪が表に進み出た。

 

「兄の申したとおり、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。

結果、先輩方のお手を煩わせる問題になり、申し訳ありませんでした。深く反省しております」

 

微塵も小細工なく、真正面から誠心誠意に頭を下げる。

容姿の非常に優れた後輩の真摯な態度で、摩利の表情から毒気が抜け目を逸らした。

真由美の待っていた機会が、到来する。

 

(話に割って、入るなら今ね。口を挟んでも変でないし、上手く話を収められるわ)

 

少女は、機を逸する事なく二人の会話に入った。

勿論、少年への助け舟である。

 

「摩利、もういいじゃない。達也くんも本当にただの見学……だったのよね?」

 

少年の名前を“自然”に呼ぶ、真面目そうな表情で頷首で相手は答える。

真由美は、達也に悪戯っぽく笑い“新しいおもちゃ”に貸しを作った。

貸しの相手……司波達也は、その事を理解出来ない筈はないだろう

続けて、場を最終的に沈める為に言葉を続ける。

 

「生徒同士で、教え合う事は禁止されていませんし大事な事です。また、魔法を行使するのに起動するだけでも細かな制限があります。

これは、一学期の間に授業で教わる内容です。

魔法の発動を伴う自習活動・実技演習は、それまで控えた方が良いでしょう」

 

真面目な表情に戻り訓示を述べる真由美

摩利もまた、形式を意識し同様に審判を下した。

 

「……今回は、会長もこう仰られている事でもあるし不問にします。今後は、この様な事のないように」

 

一斉に頭を下げる一同に対し、摩利は見向きもせず踵を返しす。

前を行く、親友を追う

一歩踏み出した所で、思い出した様に歩みを止める。

背中越しに自分に珍しい“技能”を示した少年に問い掛けた。

 

「君の名前は?」

 

首だけ振り向け切れ長の怜悧な瞳は、達也の姿を映している。

 

「一年E組、司波達也……です」

「ふむ、覚えておこう。またな、少年」

 

場の空気を最期まで萎縮させた少女は、ゆっくりとした足取りで去って往く。

親友に聞きたい事もあり場に長く留まる訳にも行かなかった。

 

(うん。達也くんに一応“貸し”は、出来たわよね?今日は、良しとして置きましょう)

 

真由美は、今日の成果に満足して生徒会室へ向かう。

他の役員達に礼を言わないといけないし、摩利に恐く事情を説明する必要もあるので

内容を考えながら校舎に向かって少女は歩みを進めた。

 

 

 

 

 




真由美さん篇は、一旦終了です。
次は、あの人の出番です。
次回もよろしく、お願いします。

ではでは。
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