影法師   作:b blanche

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過剰な表現が、ございます。
予めご了承下さい。


虚実

「ね、ねっ。御堂さん、達也さん何をあげたら喜ぶと思う?」

 

大好きな友人に何を贈るか親に確認する様な無邪気な口調で真夜が、御堂に意見を求める。

主が無邪気な様子から発した一言で、惚けていた御堂は愕然となった。

 

表面上は先刻と変わらぬものの内面では、全く別の様相を呈する。

 

(司波・・・達也か、四葉直系の深夜様の‟長男”=異能の魔法師

本人は嫌がっているものの真夜様のお気に入り

内心は、叛意を持ち四葉からの離反を画策する意図のある‟鼠”……)

 

真夜に翻弄され戯ばれていた時とは恰も別人の様に思考を明瞭にし

男は、主の口から出た少年の名前を反芻する。

 

主の近親を‟鼠”扱いする事は、通常であれば不敬以外の何物でも無い

ただ、それは“一般”の範囲であってその範疇に収まらない男からすれば、些末な事に過ぎなかった。

御堂の獣染みた“感覚”が主に表立ってはいないが牙を剥く危険性のある‟厄介な鼠”

と捉えていた為、直の事少年に対し目を向けていた。

 

久方振りに少年の名を聞き男は、己の認識にある印象を再認識する。

感情を他者に悟られるぬ様、心に蓋をし

表情も消すと男は、主人に確認した。

 

「達也殿に贈るものでございましょうか?

即座に思い付きませぬ故、己の思慮の不甲斐無さを御詫び致します。

真夜様、何か妙案が?」

 

御堂は真夜に自身の意見を告げた。

男の事務的な言葉に主人は、曖昧な答えを返す。

 

「今は、そうね……まだなの。後で……そうね、深雪さんのプレゼントが用意出来たら一度連絡を下さいな?」

 

真夜は、自身の従僕に告げると何やら作業をする様子で私用の端末を操作し始めた。

主の作業を妨げと判し、己の職務に戻るべく頭を垂れ執務室を退出する。

部屋を後にした御堂は、背広の懐中から小型端末を取り出すと用向きに合った部下の一人に連絡を取った。

 

 

 

相手型の端末へ接続信号が、何度か流れ応答した。

 

「俺だ」

 

『旦那様、お疲れ様です。

ヘーツェに何か火急の御用向でも御座いましたでしょうか?』

 

「あぁ お前は察しが良いな」

 

感情の色彩が抜けた声音で男は、短く答えた。

 

『御褒め頂き、ありがとうございます』

 

男は、通話しながら己の執務室へ足を向ける。

 

頭主の執務室から別宅の御堂の居室までは、一般住宅では考えられぬ距離がある。

自身の思考を深めながら男は、自室までの道程を歩む。

暫くし、自身に割り当てられた部屋の前まで来た。

 

部屋の硬質木材製の精緻な装飾の施された扉から音を出さぬ様に締め

気怠い空気を滲ませながら部屋の硬質木材製の扉を潜り

乱暴に手つきで、高級ソファーにネクタイを緩めながら身を倒した

 

連絡の途絶に疑問が、呈される。

指示を出していた相手が、自身の問について‟答”を求めて来た。

 

『旦那様、御用を伺いますが宜しかったでしょうか?

今、お取り込み中でしたか?』

 

「問題無い。部屋に戻った所だ」

 

『左様でしたか。差出がましい口を挟みました。

申し訳ございません』

 

 

同刻 四葉本宅 文書保管庫附資料作成室

 

 

相手の勘気に触れぬ様、女は謝罪を述べる。

主人の異変を訝しんでいた女は、自身の考えが杞憂である事を知り胸を撫で下ろす。

女は、主人の性格を理解しており姉や自分達姉妹に対して便宜を図る見返りに可能な限り主の要求に答える様にしてきた。

 

男の常人離れした美しい容姿・既存の全てを否定し消去る姿勢から構成される。

自分の保護下に対しては絶対的な‟救済”を齎す歪な聖者に惹かれていた。

 

一番上の姉が男に対する熱の症状が顕著だが、自分も割と重症な部類にだと女は思っていた。

 

思考の水底に沈んでいた女へ主人から言葉が掛る。

 

 

『今は、何をしていた?』

 

「はい、今は先頃頂いていた保有株式の資料と企業業績の概算を纏めた資料を提出の為に作業をしていました

提出の予定には、まだ時間が幾らか余裕があります。

急ぎの案件ですか?』

 

『あぁ、俺の所に来い』

 

「畏まりました。今、本宅の資料保管所に居ますので10分程頂ければ参ります」

 

『解った』

 

 

女の丁寧な返事に横柄に応え御堂は、ソファに沈めた躰から力を抜く。

脱力しきった半身が、ゆっくりと横に倒れる。

用件を告げると通話を切り息を吐いた。

 

「気は進まんが……。御下命とあらば、従わざるを得ぬか……」

 

独り言ちると部下が、部屋に訪れる迄の間

目を閉じ思考を意識の底に沈めた。

 

遠慮がちに桃花心木の扉が、ノックされ男の意識が戻る。

意識の揺らぎを頭を振り、明瞭にさせた。

来訪者の応答に答える。

 

「構わん、中に入れ」

 

女……ヘーシェ・Y・ヴァンシュタインは、主の返事を確認すると静かに扉を開く。

 

ヘーシェは、扉を静かに閉めた。

 

部屋に入ると主人が、香木や香草の類を焚いたのか仄かに甘く躰の力が抜ける様な香りを鼻孔に感じる。

 

「旦那様、参りました。

御用を伺います」

 

襟元を崩し黒革のソファーに身を沈め体の力を抜いている主に言上を述べた。

 

「ん、御苦労」

 

 

閉じていた瞼を開け眠気を誤魔化さず胡乱な瞳を向け形ばかりに女の労を労う。

不遜・横暴極まり無い対応であるが、言葉を掛けられただけ救いがある。

 

自らの主の苛烈な性質を理解している女は、安堵し言葉を返す。

気に食わなければ、他人等幾らでも“好きに”処断する暴君の気に障らなかっただけマシなのだから

 

「いえ、ヘーシェは大丈夫です」

 

御堂は、部下の言葉を気に掛けず鼻であしらうと女の姿を頭から爪先まで目で流す。

自分よりも容姿に優れた男のソレから向けられる不躾で相手を‟人”とも思わない節のある視線に曝され羞恥に身を捩らせ顔を俯かす

女の相貌には、徐々に紅く熱に浮かされた様な彩が滲む。

 

「いつまで、そこで立ってる?

話があると言った筈だが」

 

男の言葉で、現状を再認識する。

 

「申し訳ございません。

考え事をしておりました」

 

内心を気取られぬ様、言葉を選び男に答える。

 

「そうか」

 

答を聞き女の挙動に興味を無くし御堂は、短く返事する。

 

主の言葉を聞きは、自身への用向を聞く為に部屋の内部へ進んだ。

男の身を沈めるソファーの前まで来た瞬間

 

白く斑しみの無い手が、ヘーシェの長く性の特徴を色濃く出す手に伸びる。

咄嗟の事に反応は追い付かず、躰ごと曳かれ男の胸元に女の体は倒れ込む。

 

力任せに引き寄せられ体は重力に従い音も無く男の懐に倒れ成されるがままとなった。

抱かれた途端、甘くそれも毒の様に危険な種類の香が女の鼻孔を侵食する。

 

「あっ」

 

短く息を洩らす

人を人として扱わない温度を喪失した胡乱な瞳に囚われ自然と女の華奢な肉体は自由を失い

光の無い眼は、彼女の相貌を不躾に捉えて離さない。

 

男の顔は徐々に近づき女との距離が零になった。

 

「んっ」

 

女の口から僅かに声が漏れ出た。

男の生気が薄いながらも酷く蠱惑的で妖しき魅力を放つ唇が女…ヘーシェの未だ少女の瑞々しさを残す可憐な桜色の唇に重なる。

知らない者が見れば、頽廃的で危険な雰囲気により欲望を掻き立てられる光景が部屋で繰り広げられた。

 

 

口付を交わしつつ、男の手は無遠慮にも交わす相手の服を押し上げている豊満な胸をまさぐる。

一切の躊躇いも無く、御堂は行為を続けた。

 

 

「…っぁ」

 

 

女の口から敏感な部位を思う様、弄りまわされ喘ぎが漏れる

自らの生殺すら握る暴君を止める事は、女には出来ないし止める気も端からなかった。

寧ろ、行為を期待していた浅はかな自分を理解していたのだから

 

「どうした?止めるか?どうして欲しい自分の口で答えろ、ヘーシェ・Y・ヴァンシュタイン」

 

暴君は、相手からの返ってくる答を知りながらも目の前の憐れな存在に問う

酷く無機質で、感情の彩・動きが希薄な声で

 

「…お願いです。………ゃ……ぃ」

「ぁあ?何ンつった?聞こえねぇぞ?もっと、はっきり聞こえる様に言え」

「後生です…私をヘーシェを壊して下さい」

 

女は、端正な顔立ちから想像出来ない知性の欠片を感じられない熱に浮かされた声で、叫ぶ。

言葉に応える様に男は、酷く可笑しな物を見つけた様な笑みを一瞬浮かべると女の唇に自身のそれを合せる。

睦合う蛇の様に互いの舌を絡ませながら女は、男の毒に堕ちて行く。

 

獣の様に快感を貪り喰う淫靡な“宴”が始まる。

 

 

 

中途半端に脱がされた衣服と女の相貌に燻る淫靡な朱が事後を物語る。

快感の余韻で、四肢に力が入らず自身を蹂躙した男の上に垂らしが無く凭れ掛った。

 

普段の自分を知る人間には、決して見せられない姿

親鳥に餌をねだる雛鳥の様に男の唇に自らの可憐な花にも似たソレを甘える様に重ねる。

 

男は、女の自由に任せた。

暫くし、口付けを止めると二つの華の間に銀の橋がかかり間もなく切れる。

華奢で在りながら圧倒的な力を感じる男の胸に顔を埋め女は、静かに瞳を閉じた。

 

 

 

幾許か刻が流れ閉じられた瞼を開く。

 

 

年代物の柱時計に目をやれば、2時間余り時間が過ぎていた。

 

自分の下に‟眠った”筈の主は、姿を探すも近くには、無い

身動ぎをするとペルシャ絨毯の上に主人の上着が落ちる。

上着が、体を冷やさない為か唯単に片付けるが面倒なだけだったのか判断しかねるが起きる迄、掛けられいた様だった。

 

 

近くには、新しい女物のスーツが上下一式綺麗にあった。

用人の誰かに恐らく寄越させた筈のそれは、売り物の様に糊がついている。

行為の残滓を色濃くしたまま、部屋を出る事の避けたいと思いヘーシェは、着替えた。

 

 

執務室と言っても複数の部屋を併せた構造の為、隣の部屋に続く内扉を開く

小物が、其処彼処に置かれた部屋を進むと別室に人の気配を感じる。

 

硬質の硝子張りで、遥か遠く迄続く山並みも見渡せる小応接室に行き着く。

何処か窓が開いているのか、夕刻前に吹く山中特有の冷えた風に頬を撫でられる。

まだ、熱が残る躰には酷く心地好い

部屋に踏み入れると外へ出る勝手から風が流れているのが解った。

 

 

(恐らく、部屋の主はこの先)

 

ヘーシェは、気を引き締め外に歩み出た。

 

 

華の香も若干交じる風が、吹く。

爽やかな気分にさせる筈の空気の中でも

男は、虚ろにも見える瞳で遥か先まで続く山並みを眺める。

 

「もし、旦那様。……旦那様。」

 

後ろから先程、己が組み敷き貪っていた女の声が掛った。

自身の後ろに佇む存在に意識を向け、男は振り返える。

 

「……気が付いたか」

 

短く、女に返事し相貌に姿を映した。

服装は、御堂の用意した新しい一式に代わっている。

真新しい服を身に着けつつも先程の色事が残した跡が感じられた。

 

 

意識の揺らぎを瞳に戻し、女の方へ振り返る。

表情は、無く。感情の色が、薄い。

 

女は、主の言葉を聞く前に用向きに付いて語り出す

 

「申し訳ございません。はしたない姿をお見せしてしまして」

「ふん」

 

鼻で嗤い、女に応じる。

女は、主の冷淡な反応に怯みはするも言葉を続けた。

 

「をお呼びになった理由をお聞かせ願えないでしょうか?」

 

傲慢で驕慢、欲に濡れた美しき野獣が容姿とは反する声音で話し出す。

女の身は、一瞬にして硬直した。

 

「奥様からの御下命により、深雪様の進学際し‟贈り物”を選定する儀を承った。

俺が、選んでも構わんが……。他の者から意見を出させるのも悪くは無い

お前の姉は、役の都合上そう言った事柄に詳しいと聞く

‟また、他の姉妹も皆、同様に長けている”と聞いた

今、近侍に控えているお前が率直な意見を述べろ

お前の具申であると奥様にお伝えする。

用向きは、以上だ」

「で、本当によろしいのでしょうか?」

「その為に呼んだ。よもや俺の命令に不服でも?」

「いえ、その様な事はございません。お姉さま方で無く、私に……御期待に添える様、努めます」

 

 

常人であれば自身の仕事を中断させた挙句、好き勝手に躰を嬲られた用件が、

一人の少女への贈呈品を選定する為

 

‟たったそれだけ”

 

と聞いた瞬間、憤りそうなものだが女は違った。

 

他人に使われる事・頼られる事を是とする彼女にとっては、

些事であれ自分の意見が反映される事は、喜ばしい

 

女は、満たされた様に柔らかく微笑み男に頭を垂れる。

それは、瞳に写した者全てを虜にする程、魅力的だった。

 

だが、御堂の心は動かない。

人を人たらしめる心の奥底にある、‟何か”を喪った日以来

男の心は、酷く乾き切った砂漠にも似て

 

酷く空虚で、只々薄ら寒い光景が広がった。

直、寒く厳しい夜が訪れる。

 

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