四葉本宅
頭主執務室 直通廊下
春の日差が、穏やかに射し込む。
2095年と21世紀も終焉へ向い始めていた。
21世紀初頭は、地球温暖化などが環境問題として“世界”で騒がれていた。
その後、数十年前に訪れた急速な寒冷化は人口の激減・深刻な食糧危機を引き起こし世界規模の争乱を引き起こし、現在でも21世紀初頭に比べて地球全体の気温を大幅に低下させた形で痕を残した。
今、男の感じる日差も今は当たり前でも少し前まではそうではなかった。
彼は、眩しそうに目を細めて空を見上げる。
(空を見ていると思い出すことが多いな・・・・)
そんな取留も無い事を考えながら彼は、現実に意識を戻す。
先日、依頼されていた案件の資料が仕上がり主人への報告の為、執務室へ続く廊下を進む。
報告の説明内容を考えていると主人の部屋から何やら不穏な空気を感じる。
強い精神感応が、彼の内側にまで押し寄せる。
(む、何だ?この感覚は…)
一瞬で、彼の主人からの波長であると理解できた。
(奥様…お嬢様……真夜様……!!)
主人 真夜の部屋へと急いで向かう。
「奥様、何かございましたでしょうか?」
主の部屋を申訳程度にノックし内側からの返事を待たず、室内へと入る。
「葉山、ありがとう」
先刻、感じた主人からの負の感情が嘘の様に消えている。
目の前にあるのは、目を心を自分の全てを奪わると錯覚しそうな美女の微笑み。
(感覚過敏か…?奥様に何事もなかったのであれば、良いが…)
「あら、御堂さん?」
「奥様、ご返事を待たずにお部屋に入ってしまいました。お許し下さい」
自らの非礼を主人に詫び、頭を下げる。
「良いのよ。私の部屋に何か感じて急いで、来てくれたのでしょ?」
(流石は、真夜様。全て、お見通しか…)
「至らぬ非才なこの身に多大なお言葉、痛み入ります。」
男は、主人に許された事に言葉で表した。
(間に合ってよかった)
葉山は、男 御堂の飛び込んで来る前に主人の機嫌を直す事が出来て安堵した。
(間に合わなかったらどの様な事になっていたか…)
最悪の事態を想像し葉山は内心、肝を冷やしていた。
「では、奥様。御用命が、ございましたらお呼び下さい」
そう告げると御堂は、執務室から退室しようとする。
「ねぇ、御堂さん。今は、お時間あるかしら?」
「ハッ、御用命とあらば即時間を作ります」
「でも、何かお仕事の途中では無かったの?手元の書類は違うのかしら?」
「こちらは、奥様に先日頂いた件で仕上がりました報告書です。
お時間がある時にでも確認と承認を頂きたいと思います。」
彼は、手元の書類について主人に説明した。
「あら、もう終わってしまったの?」
「はい、こちらにございます」
主人の問に短く答えて、彼女の手に丁寧に書類を手渡す。
真夜は、御堂から書類を受け取り軽く内容に目を通し満足そうな面持ちで言葉を続けた。
「この後、お時間あるの?」
「いえ。今は、急ぎの御用も受けておりません。何か、別件で問題でもございましたでしょうか?」
御堂は、真夜の質問に簡素に応えた。
彼の主人は、葉山と話していた事を御堂にも話をする。
「さっきまで、葉山と達也さんと深雪さんに入学祝いを贈げましょうと相談していたの。
御堂さんの意見も伺える?」
(奥様が、俺に話しかけて相談をして下さる。 期待に応えねばっ!)
主人から“相談”を受けた御堂は、内心で歓喜しながらも平静を装った。
「御堂さんも居る様ですので、私はこれで失礼します」
葉山は、“同僚”に主人の不安定な姿を見せずに済んだ事と二人の意識が己から反れている内にここから逃げ出そうとした。
「葉山、後でプレゼントが決まったら呼ぶわ」
鼠を見つけた猫の様な愉快そうな雰囲気で真夜は、執事に対応した。
御堂は、葉山に一瞥した。
「御堂さん、奥様の相談に乗って上げて下さい」
「この身で、良ければ是非とも奥様のお力に」
彼は、葉山に返答をした。
葉山は、面倒な状況を漸く切り抜けた事に安堵して執務室から退室した。
(危なかった。もう少し遅れていたらと考えると…)
今度こそ彼は、内心でそう考えながらその場を後にした。
その後、主人の甥たちに贈られた“贈呈品”で問題が起こるのだがそれは別の話。
了