関東 国立魔法科大学附属第一高校周辺
司波達也は、先程の一科生と二科生の争いが収拾の着く範囲に収まった事を安堵していた。
(誤魔化すのも得意か…)
達也は、風紀委員長と名乗る上級生の言葉を思い返していた。
表面には出さなかったが、生徒会長や風紀委員長の様な自治組織で要職にある人間に顔を知られたり自分の周囲を嗅ぎ回られては彼にとって不都合だからだ。
四葉の家は、外部のモノを受入たがらない傾向にある。
入学式の初日に生徒会長に声を掛けられて以来、彼の同年代とはかけ離れた認識・直感が蠱惑的な少女(さえぐさ まゆみ)を極めて危険だと告げていた。
可能性は低いが、会長をしている七草の娘の口から何かの切欠で自分の話が七草の家に入り素性を探られ、結果的に四葉の事を嗅ぎ回られては不味い。
彼は、叔母の真夜が七草と因縁のある事を聞き及んでいたので殊更、気に掛かっていた。
(四葉の…違うな叔母上の勘気に触れては、七草すら只で済みまい)
達也の脳裏には、自らの叔母の能力・多くの呼び名が浮かぶ。
四葉に手を出し実質“滅亡”させられた国や阻害・妨害の姿勢を見せて消された組織・人間は数知れない。
感情の多くを失っている彼は、懸念・憂慮の形で“恐怖”を感じていた。
彼女が、行動を起こせば自分達の“四葉”に完全に取り込まれるのだろう。
(深雪との“平穏”な生活は、誰にも壊させない…)
「お兄様、どうかなさいましたか?」
気が付けば、知らない内にエリカら友人達とも帰路で別れていた。
意識の深い所で、物思いに耽っていたので周囲の変化に気付け無かった事を知った。
いつの間にか“最愛”の女性(深雪)が可愛らしく上目遣いで自分を見上げていた。
「お兄様、御気分が優れないのですか?」
彼女 司波深雪には、目の前で佇む“お兄様”こそが至上の存在だった。
そんな彼の表情から僅かにだが“懸念”を感じた気がした。
(でも、そんな物憂げなお顔のお兄様も素敵です…)
彼女は、兄を心配しながらも頬を染めそんな事も考えている。
そんな日常の一幕。
深雪にとって、達也が中心に“世界”が回っている。
彼女の姿勢は、彼に対して正しく向かい合う事を決めた“あの時”既に定まっていたのかも知れない…
「いや、問題ない。深く考え事をしていた様だ。深雪、お前の顔が真っ赤だぞ?」
「…ぇえ、お兄様・・・?」
深雪の気付かぬ内に達也に顔が目前まで来ていた。
今度は、彼女の方が現実に意識を戻す。
「私も考え事です。ふふっ」
驚きながらも最愛の兄の相貌を美しい瞳に写し、花が綻ぶ様に微笑む。
兄が、自分の事を案じてくれた事でより深雪は喜びを感じていた。
(深雪は、どうかしたのか?顔色が、随分と変わるようだが…)
唯一、自分の保護すべきと感情の働く女性(みゆき)に対しては気遣う心がある達也は、彼女を若干心配していた。
なお、彼の心配は杞憂で深雪は達也の姿に心を動かしていたのだが…
そんなやり取りを繰り返しながら彼らは、家路に就いた。
関東 司波家
「お兄様、今日の夕飯は如何いたしましょう?」
深雪は、夕飯を作り始めなければならない時分に差し掛かっていたので達也に希望が無いか伺いを立てる。
リビングで、仕事の資料に目を通していた達也は彼女の言葉で顔を上げた。
兄は、好き嫌いも無く自分の作る食事を優しい性格なので"美味しい"と言ってくれる。
いつも、その事を嬉しく深雪は嬉しく感じていたが、彼の口から"もっと多く"の感想を聞きたいとも思っていた。
「深雪に任せるよ」
そう、達也は彼女に返事を返した。
これもいつも通り。
万事が万事、自分の事を考えて言ってくれている事を知っていたので、怒る訳にも行かない。
そんないつも通りだが平穏な時が流れる。
調理も終盤に差し掛かり、深雪は自分の確認不足に気が付く。
仕上げに使う調味料の一部を切らしてしまっていた。
(直ぐに買いに行かないと)
素早く判断し兄に外出する旨を伝える…
筈だった。
「深雪?どうかしたのか?」
彼女が、達也に伝える前に彼は妹の僅かな機微の端々から不思議に感じ問を出す。
兄に内心を当てられた深雪は、驚いたものの同時に非常に嬉しく感じる。
「お兄様、解ってしまいましたか」
「あぁ、何となくだが様子が違うなと感じたんだが違ったか?」
「流石です。お兄様、因みに何だと思いますか?」
「調味料か食材が…、足りないのか?」
「正解です。お兄様に隠し事は出来きませんね、ふふっ」
深雪は、兄が深く自分の事を理解してくれてる。
その事を知り彼女は、自分の世界に入ってしまいそうになる寸前、夕食の支度をしていたので深雪は現実に戻った。
彼らが、そんなやり取りをしていると呼び鈴が鳴る。
「来客の様だな」
「珍しいですね。一体、この様な時分にどなたでしょう?」
来客であれば連絡があってからの訪問が、多かったので急な来訪者に二人は少々驚く。
達也が用心を兼ね、来客の対応をした。
了