関東 第一高校周辺
夕暮の中、男は疎らに家路を急ぐ人々に混じっていた。
街灯が灯る、夜の化粧を街に施す。
「この辺を歩いていると昔の事を思い出す」
他人の耳に聞こえるか聞こえないの声で、零す。
(戒厳令下の軍警・憲兵しかいない夜や自由を叫ぶ人間の取締に外出制限を出した夜・国策反対の為に国会へ群衆の押し寄せた郊外の夜を思い出す)
嘗て、自分が見てきた景色を懐古しながら道を歩く。
久々に主人の用向きで関東の郊外に位置するこの地に来る機会が、巡ってきたのは何の因果かと思う。
彼の記憶・感覚には、燃料自動車がどこでも忙しなく動く車道が未だに残っていたので今の車が余り走らない道路の様子は未だ慣れない。
先程から自分に対して、人の目が何度か向くのが気になっていた。
(俺の格好は、何処か可笑しかったのだろか…)
昔から他人の視線には、慣れない…等と常日頃から無自覚な容貌の持ち主は考えていた。
男は気にしていなかったが、問題は容姿にある。
茶がかった黒髪に白磁の様に白く肌理が細かい肌と名工の手による人形の様に整った顔・涼しげな瞳。
衆目を集め過ぎる整った容姿をしていた。
彼は気づかなかったが、多くの者は彼の魅力を感じ無意識の内に目を奪われる。
近くで見れば、整えられた眉・女性が憧れる様な長い睫毛で更に美しさを感じるのだから。
(住所は、この辺りだった筈だが…)
訪問先の住所を記した携帯端末を開く。
目的地は近年に区画整理の多い地域だったので中々、目的地に到着出来無い。
時刻も夕飯時で、これ以上遅れると訪問先に迷惑が掛かる…等と思う。
(余り使いたくないが、致し方ない)
自分の都合だけで、魔法を使用したくないと言えない状況なので広域測位の魔法式を展開する。
足の歩を止めて、目を閉じ意識を魔法式の操作に集中させた。
周囲で測位の魔法が走始し想子の固有波長を探る。
5m…100m…500mと探査範囲を徐々に拡大。
一般的な魔法師ならば、時間が掛かりそうな作業を他者に認識出来無い瞬時で展開した。
(500m過ぎに強力な想子反応と魔法式を弾く反応…)
恐らく、自分が訪問先する家の住人と判断し魔法式を解除した。
向こうに自分の存在が、露顕する前に気配を変質させる。
彼の事を知覚する事が、周囲には困難になった。
(他人に自分の存在を気取られるのは、趣味じゃないんでね…)
不穏な発言をしつつ、“認識”した目的地へ歩み始めた。
顔に一瞬、見る者に畏怖と凄絶さを感じさせる“微笑”を浮かべて…
歩み始めて数分、目的地にたどり着く。
発動後は、進む足も軽く迷わずに移動が出来たので、“魔法”は便利だ。
その認識だけは、“正確”に出来る。
(“便利”では、あるんだがね)
魔法の高い利用価値を改めて実感し、再び目的地へ意識を向ける。
「司波…。見つけた」
目当ての訪問先の表札を確認し、安堵の多少混じった声で呟く。
周囲を探る。
まだ、自分の存在を知られてない事も確認出来た。
呼び鈴を探す。
直ぐに見つかり、住人に訪問を知らせる。
一般的な呼び鈴の音がなり、中の反応を待つ。
(内部で反応あり。こちらに進んで来るな…)
主人に“用事”の達成を報告出来そうで男に安堵が生まれた。
了