バットエンド確定の少女を師匠になって育てるお話 作:じゃがありこ
ポラリスが戻ってくるまでは暇なため、俺はこの町をかなり深く探索している。昼を過ぎると人々の喧騒で表通りは満たされる。田舎の町とは言え、そこそこ大きめの町なのだ。旅の詩人が楽器で音楽を奏でたりしていた。きちんとした店よりも露店や屋台の方が多く、ずらりと並んだ天幕に怪しげな土産物が多く並んでいる。こういったところは、まさしく田舎の町だろう。
旅の大道芸や人形劇を見ながら、露店で買った焼き菓子を頬張る。10年という月日は様々なものを変えてしまうが、やはり根底にあるものは変わらないのだなと思った。
そう言えば、今日は週の半ばだ。この町の仕入れ時期は、基本的に週の終わりと半ばだと聞いている。俺がこの町に来てから三日。会えるとしたら今日だろうか。
俺は、串焼きを売っているドワーフに話しかけた。
「なあ、店主さん。この近くには小さな農村があるだろう?この店でもそこから物を買っていたりするのか?」
「お前さん、旅のもんか。………そうだな、何せ金が下りるからな。大体の店があの村の作物やら肉やらを購入している。俺は、あんまり買いたくねえがな」
「理由を聞いてもいいか?」
「あの性根が腐った村の作物なんて使いたくもねえからだよ」
渋面のドワーフが溜息を吐く。
「性根が腐った、ね」
「他の奴らはあの子への同情で出来の悪い作物でも積極的に買ってるけどな」
「あの子ってのは包帯も巻いてる10歳過ぎの少女のことか?」
「………知ってんのか。そうだ。あの子はとある理由で村で迫害されてるんだ」
ドワーフは眉をひそめながら、語りだした。その間も串焼きを作るのを止めない。
「昔な、30年位前か。この辺に魔獣の大量発生と大干ばつが同時に起こったことがあったんだ。魔獣の方は町にいる衛兵が対処したが、干ばつはそうもいかねえ。しかも、自分たちのことで精いっぱいだった町の衛兵は、村のことにまで気が回っていなかった」
なるほど、干ばつで作物が枯れ始め草食動物が死んでいく。獲物がなくなった魔獣が町や村の方まで下りてくる。戦い慣れていない衛兵はパニック状態で、落ち着くのに時間がかかったと。
「村のことに気が付いたのは、村からの仕入れが滞ってからでな?そこから、村にも魔獣が出たんじゃないかって大騒ぎになったんだ」
農村に衛兵がいるのは稀だ。大規模な農村ならとにかく、小規模な農村に衛兵を回せる程人材は余っていない。それは今でもそんなに変わっていないはずだ。
「んでもって、慌てた衛兵たちが様子を見に行ったんだがそこに広がっていたのは魔獣の死骸の山だったらしい」
「………」
「どうやら旅の魔法使いが魔獣を討伐したらしい。それだけじゃねえ、枯れかけていた作物もその魔法使いの魔法で復活したんだとよ」
「旅の魔法使いか…運がよかったな」
枯れかけていた作物を元に戻す。かなり高位の魔法使いでないとできない芸当だ。話が見えてきたな。
「まあ、まとめるとな?そんな歴史があるもんだからあの村の人間は、魔法使いに対して過度な幻想を持ってんだよ。で、そこに生まれたのが魔法の才能を持ったあの子ってわけだ」
「どうなったのかは想像に難くないな。才能のある奴でも独学で魔法を使うには、それなりの時間と修練がいる。そして、小さな農村にそんな環境が揃っているとは思えない。過度な期待と幻想を押し付けられた子供か。ぞっとしない話だ。期待を押し付けるのは、子供にとっての世界である村の住人全員ってわけだろ?」
「ああ、その通りだ。期待に応えられなかったあの子は村人から虐待を受けた。期待が大きかった分、その勢いも凄まじかったらしい」
それだけで虐待されるのはあまりにも不自然な気もする。多少の嫌味は言われても、あの包帯の下にあったような傷は………。
「村の上役たちの魔法への幻想は異常でな。俺ァ、若いころは王都にいたから知ってるんだがこんな閉鎖的な田舎の村で魔法のレベルを知るのは困難だ。その上、あの村の連中は流されるのが好きでよォ。上役たちの言うことがすべて正しいと思っていやがる」
俺の疑問を感じ取ったように、話し出したドワーフの店主の顔は嫌悪で歪んでいた。先ほどから、串を焼く手が止まっているのは、やるせなさ故だろうか?
「町の連中の中にはあの子を引き取ろうとした奴もいるんだが、村の連中は大きく反発した。あいつらにとっては出来損ないといえど、魔法を手放すのが惜しかったんだろうなァ。何せ、自分たちは楽ができる。言うことを聞かなければ、殴ればいい。あの子は優しいからなァ………誰かのためになるならと基本的には言うことを聞く」
興味本位で聞いてしまったが、胸糞の悪いことを聞いてしまったようだ。少し後悔している。どうやらあの村には俺の嫌いなタイプの人間しかいないらしい。
「信じられるか!?あの村の奴ら他人にお世話されんのが当たり前だと思ってやがる。世話されるための努力もせずにだぞ?あまつさえ、ガキに責任を押し付けてストレス発散ときた!たまんねえぜ、ほんとによォ!」
ドワーフの店主は本気であの少女のことを気にしているんだなと思った。だが、それは大した救いにはなり得ないのだろう。
「わかったろ?俺があの村の人間を腐ってるっていった理由がよォ」
「ああ、長々と悪かったな。後…串焼き焦げてるぞ」
串焼きはどす黒く変色していた。
『やあ、久しぶりだね』
「随分と長々と出かけていたようだな?」
宿に戻った俺を出迎えたのは、ここ数週間姿を見せていなかったポラリスだった。堂々とベットに座って本を読んでいる。昔話の童話だろうか?
『寂しかったかい?』
「ハハッ、寝言は寝て言え。それで?何しに行ってた?」
『敢えて言うなら、仕込み…かな』
「魔神を滅ぼすための?」
『ああ、そのための第一歩だ』
「そろそろ話してくれるんだよな、どうしてこんな辺鄙な場所に俺を呼んだのか」
『今から話すよ』
「………」
『君が目覚めた日にも言ったけど、君をこの町に呼んだ理由は簡単だ。人と会わせるためさ………ボクと君が世界のために犠牲にする少女との邂逅を果たすんだよ、この土地でね』
神の残滓は、混じりけのない狂気を孕んだ笑みを浮かべて悍ましい事実を語りだす。
『ややこしい話だからね。概要を説明しよう』
ポラリスは俺を椅子に座らせてその周りを歩きながら、語りだした。
『まず最終目的は魔神を滅ぼすことだ。そして、そのための手段がボク達が不測の事態に備えて作成した神滅兵装と祝福を授けられた人間を探して育てることさ』
祝福…俺が受けたのと似たようなものだろうか?まあ、大枠は理解した。10年前も似たようなことを言っていたしな。
「該当する人間はどのくらいいるんだ?」
『原則世界に一人だけだよ。スペアはいるけどね』
「…該当者に自覚はある場合は楽だが、ない場合は厄介だな。で?誰なんだ?その該当者ってのは」
『君はその子にもう会ってるはずだよ?』
俺が不可解そうな顔をすると、ポラリスは口角を上げて子供のような笑みを浮かべた。
『ヒント。10年前、その子は赤ん坊でした』
「…まさか、あの子供か!?」
『そう、あの少女さ!彼女こそ、ボク達の祝福を授かった哀れな生贄さ!』
悪戯に成功にはしゃぐ子供のような反応だ。しかし、その内容はあまりにも。
『ただ、問題があってね?祝福の力を扱うには、技術的なことはもちろん安全装置である3つの枷を壊す必要がある』
「枷?何故そんなものをつけたんだ?そこまで危険視する必要があるってことなのか?」
『当り前さ。神が自分たちのミスを清算するために作成した祝福だよ?ふさわしくない人間が扱えば、世界が滅びかねない。流石にそれでは面白くないから』
そこで面白くないが理由に来るのが、神たる所以だな。
『枷を外すための条件は、枷につき一つずつあるんだ。つまり、計3つの条件を満たさないと祝福は完全には機能しない。そこで、最初にやることは————————』
「枷を外す手伝いか?」
『そう!流石は僕の契約者!ただ、それに関しては君は何もしなくていいよ?時間が解決してくれるからね。君の仕事は、彼女を師として導き育てることさ』
師として育てる、か。嫌な仕事だ。
「何で俺がやる必要があるんだ?他に適任がいるはずだ」
『神の御業を扱える君以上の適任がいるとでも?師としての優秀さは確かに必要だけど、それについては問題ないよ。君のような才能がなかった個体には、何かを教えるのがうまい傾向があるからさ』
ポラリスが窓の外に視線を投げ、薄く笑う。
『まあ、今のところあの子には教えを受ける気はないみたいだけどね』
ポラリスの視線の先、すなわち窓の外には居心地悪そうに立っている少女、アイラがいた。
「あっ――――――!」
アイラは俺と目を合わせた瞬間、目を伏せて走り出してしまった。
『あらら、怖がられてるの?』
「うるせえ」
あれは俺に怯えているというよりは、もっと他の何かに。