ナカヤマフェスタが走る理由   作:ユバ()

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 サポカ、トーセンジョーダンの実装前に書き進めていたものです。
 解釈違いはご容赦を


プロローグ ナカヤマフェスタが彼女に出会った話

 パリロンシャンでの激闘から二か月と少し。世間も何かと忙しくなる年の暮れ。

 さらに週終わりの金曜日の真昼間という事もあって、街行く人々はいつも以上にせわしなく動いている。

 そんな毎年一回はあるような日。

 私は休暇を貰い、トレセン学園を離れてある場所にいた。

 聞こえてくるのは寒さを運んでくる風の音といくつかの元気な子供の声。

「ハハッ。何にも変わってないな。砂場もしっかり残ってやがる」

 空に呟いた言葉が浮いて消える。

 誰も使っていない小さな砂場に二人掛けのベンチ、それと乱雑に設置されているブランコと滑り台。

 思い返してもほとんど変わっていない。滑り台がペンキで塗り直されているくらいの小さな変化。

 そう、ここはどこにでもあるような小さな公園だ。

 ガキの頃に何度も来てアイツと遊んだ公園。いや、遊んでもらっていたの方が正しいか。

「こう見ると本当に小さな公園だったんだな」

 漕ぐものがいないのか少し錆びてきているブランコに座って何気なしに思う。

 いつの間にか当時の彼女と同じくらいになった目線で見る風景は、小さく見える以外は代わり映えのしないもので、時の流れを感じてひどく寂しくみえた。

 少しの昔を懐かしむだけのつもりで来たというのに彼女のことを思い出してしまった。

 キ―コキーコとブランコを小さく揺らしながら視界がぼやけていく。

 

 初めて会ったときは今日のような寒い日だった。

 もう10年以上も前のことだ。

 

 =====

 

「お嬢ちゃん。ウマ娘なのに一人で砂いじりなんてつまんないだろ。私とかけっこしないかい。勝ったらこのリンゴをやろう」

 一人砂場で遊んでいた私にそいつはいきなり声をかけてきた。

 普通ならそんな怪しいやつは無視するだろう。

 でも当時の私は小学生になって一年目。

「いいよ、おばさん」なんて言ってあっさりと駆けっこに応じた。

 だって私はウマ娘だ。学校でも駆けっこなら負けたことはなかったし、そいつにも負けない自信もあった。

 そいつは答えを聞くと嬉しそうに私を砂場の端に呼んで、ルールを説明してきた。

 

「ルールは簡単。私が『よーいドン』って言ったら、こっちの端から向こうの端まで走る。先についた方が勝ちだ。いいね」

 

 私がうなずくと同時にそいつは『よーいドン』とスタートの合図を出した。

 準備なんかできているはずもない。

 慌てて走りだすも、レース場は小さな砂場。

 すでにそいつはゴールしていた。

「ずるいずるい」と言ったけれど「お姉さんにおばさんなんて言うから負けるんだ」と、大人げなく勝ち誇られる。

 そして、「勝ったけど楽しかったからこれをやろう。リベンジするならまた来週だ」と私にリンゴを渡して公園から去っていった。

 釈然としない思いで力任せにかじったリンゴはとても美味しかった。

 

 そして迎えた次の週。

 前の駆けっこはズルをされた気もしたけど負けたのが悔しくて、私は再び公園にやってきていた。

「お、今日もいるのか」

 先週と同じく一人で遊んでいると嬉しそうにそいつもやってきた。

 リンゴを持ってるのも前回と一緒だ。

「今度は私が『よーいドン』が出すから。おばさんは先に言っちゃだめだよ」

 また砂場で駆けっこをする。

 今度こそズルもされないし負けないだろう。

 なんて思っていたら

「はい、私の勝ち~」

 あっさりと負けた。

 今度は私がスタートをかけたはずなのになんでだろう。

 まさかこいつは耳としっぽがないだけでウマ娘なのだろうか。

 そいつに聞いてみても前と変わらず「おばさんなんて呼ぶからだ」っていいながらリンゴを一つくれただけだった。

 何か上手くはぐらかされた気がしたのと負けたのがすごく悔しくて

「次は絶対負けないからね」

 涙目になりながら言い放って走り出す。

「また、来週な~」

 後ろから聞こえてくる声にあっかんベーで返しながら家に向かった。

 帰ってからかじるリンゴは美味しかった。

 

 次の週もその次の週も、さらにその次の週もと、金曜日になるたびに私は公園に向かった。

 彼女もいつも決まった時間にリンゴをもってやって来た。

 晴れた日には色々な勝負をして遊んで、雨の日にはベンチに座ってしゃべったりして過ごす。

 どちらも約束しているわけではないけど、二人で公園で集まるのはいつの間にか日課みたいになっていた。

 

「ねえ、フェスタはどんなお花が好きなんだ?」

 花の話をしたのも何気ない雨の日のことだった。

「お花かぁ。よくわかんないや。アサガオなら授業で育ててるけど」

「ははっ、まだ何が好きとかは難しいか。そうだなぁ、私はすみれの花が好きなんだ」

 すみれの花なんて言われてもピンとこない。私が知っている花はアサガオ、桜、タンポポ、チューリップ、菊ぐらいだ。

「うわ、すごい顔になってるぞ。その間抜け面は知らない花だったか」

 彼女はそう言うと得意気に話し出す。

「すみれの花は小さい花なんだ。たくさんの花が紫色で可愛らしく咲く。女の子の名前にも付けられたりするな。後はなんといっても宝塚だ」

「宝塚? 宝塚記念のこと?」

「レースじゃなくて歌劇団の方。すみれの花はそのシンボルなわけさ。フェスタにはまだ早いかもしれないけどいつか一緒に見に行こうか」

 なんか話がずれていった気もするけど、熱く語る彼女はとても楽しそうだった。

 

 またある時にはレースの話もした。

「一番勝ちたいレース? やっぱダービーだろ」

「へー以外だな。捻くれてるフェスタのことだから香港ヴァ―ズとか言うかと思った」

「……捻くれてるってどこがだよ」

「だって、最近リンゴももらってくれなくなっただろ。口調も昔よりなんか荒っぽくなってきたし……」

 そう言われて初めて会ってから二年以上は経っている。いつまでもリンゴを貰い続けるのは恥ずかしいのだ。

 後、口調に関してはどう考えても彼女の話し方が移ったからだろう。子供の適応力を舐めないでほしい。

「逆にアンタはどうなんだよ。私に勝ってほしいレースは何なんだ」

「フェスタに勝ってほしいレースか。まずは大きくなってレースで走っているところを見れれば満足なんだが……」

 それはそうだけどもっと大きいレースを言ってほしい。

「うーん、レースねぇ……」

 うんうんと考え込む彼女に少しワクワクする。やっぱり、ダービーや有馬記念、天皇賞とかだろうか。

 しかし彼女の答えは意外なものだった。

「そうだな。ここは凱旋門賞って言っておこうか。パリが好きだしね。それにフェスタが勝ったら世界一のウマ娘に駆けっこで勝ったことのある人間ですって言えるだろ」

 凱旋門賞か。夢のような話で考えたこともなかったレースだった。

「じゃあ、今から未来の凱旋門賞ウマ娘と久しぶりに勝負するか?」

「ふむ、砂場ステークスなら受けてたとう」

「公園一周の方だ。砂場だと歩幅の差で勝てないじゃん。数歩で終わっちゃうし」

「公園一周だともう私の方が厳しいんだけどって、待ってフェスタ、準備するの早い」

 彼女がこっちに来る前にゴールとスタートの線を引く。こうやれば彼女は走ってくれるのだ。

 そうして始まった久しぶりの公園レースは私の圧勝に終わった。

 

 結局、彼女と公園で会う日々は三年ほど続いた。小学校時代の半分は会っていたと思うと随分長い期間だった気もする。

 公園に行かなくなったきっかけもよく覚えていない。喧嘩とかではなく、普通に何か用事があっていけなかったのかもしれないし、彼女が来れない日があったのかもしれない。

 元々、毎週会うけど約束はしていない不思議な関係だったから1度行かなかったら、自然と公園へ行く日々は消滅していった。

 

 =====

 

 私が彼女と久々に会ったのは、トレセン学園に入学することが決まった小学校卒業間際のことだった。

 地元から離れることになり、街をぶらぶらと一人で歩いていたある金曜日。

 ふと、思い立って公園に行くと一人ベンチに座る彼女がいた。

 話しかけようか迷っていると

「よう、お嬢ちゃん。一人寂しく散歩しているより、こっちに来て少し話でもしないかい。話し相手になってくれたらこのリンゴをやろう」

 彼女はいつかのように誘ってきた。

「あァ、いいぜ。おばさん」

 彼女の横に腰を掛ける。

 久しぶりだから緊張するかもなんて思っていたけれど、そんなことはなくトレセン学園への入学が決まったことを中心にたくさんの話で盛り上がった。

 

 そうして話しているうちに時間は過ぎていき、日も暮れてくる。

「あ、そうだ最後にまたレースでもするか? 砂場でも公園一周でもいいぞ」

 そろそろ帰ろうかなと考えている時にふと思いついた。

 もう会えないという訳ではないがトレセン学園に行ってからは地元に来ることも少なくなるだろう。

 せっかくだからいつかみたいに勝負をして終わりたい。

「そうだな。砂場でいいならやろうか」

 彼女は少し考えた後、軽く肩を回しながら答えた。

 

「スタートはコインが地面についたら、距離は縦に往復で」

 

 私の声に彼女が頷いたのを確認してから、コインを投げる。

 音が鳴ってから勝負が決まるのは一瞬だった。

「はぁ、遂に砂場でもフェスタに負けたか」

 ポンと飛び出てすぐにターン。

 練習していたわけではなかったけど、身長も伸び歩幅も大きくなった私の勝ちだった。

 久しぶりの勝負で勝てたのはやっぱりうれしくて思わず笑みがこぼれた。

 彼女も少し息を切らしてはいたけど同じように笑っていた。

 

「じゃあ、最後に負けた私からはリンゴとこれをやろう」

 去り際に彼女が渡してきたのはいつもの美味しいリンゴと連絡先の書いてある紙だった。

「私の名刺だ。スマホとか持っていたら登録しといてくれ。住所の方に郵便で送ってくれてもいい」

 生まれて初めてもらった名刺の存在に少し驚き、氏名欄で彼女の名前を初めて知ったことに気づきまた驚く。

「それじゃあ、トレセン学園でもがんばれよ。未来の凱旋門賞ウマ娘!」

 彼女は最後にポンっと私の背中をたたき、公園から去っていった。

 一人残った公園でなんとなしに齧ったリンゴはやっぱり美味しかった。

 




お読みいただきありがとうございました。
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