ナカヤマフェスタが走る理由   作:ユバ()

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デビューからダービーまで

レース描写をずっと書いていたい


ナカヤマフェスタと春クラシック

 トレセン学園に入学後は、また彼女と顔を合わせない日々が送られることとなった。

 といっても前とは違い、教えてもらった連絡先へ近況報告のメッセージを送ったり、彼女の旅行のお土産が私宛に届くなど、関係はしっかりと続いている。

 部屋で一生懸命、返事の手紙を書いていると同室の先輩(シリウスシンボリ)に「地元に男でもいるのか」と聞かれた程だ。

 思わず顔を真っ赤にしながら否定したが、シリウス先輩曰く、そう勘違いしてもおかしくないくらい真剣な目をしていたらしい。

 今考えると、否定はできなかったかもしれない。それほど彼女の存在は大きかったのだ。

 

 こうした日常の中で時は流れていき、彼女と再び会えたのは数年後、私のデビュー戦の日だった。

 

 =====

 

『さあ、残り400を切って各ウマ娘横一線になった』

(……チッ。何かあったかは知らないがまとめてこっちに寄れてきてるな)

 府中の長い直線に入ってこれからというタイミングで前が塞がれる。

 急いでどこか抜けていける場所はないか探すも包まれかけており、今、前に行くのは難しそうだ。

 内に行こうとしてもその前まで壁ができてしまっている。

(こうなったらちょっとリスキーだがわざと遅らせるか?)

 下手に仕掛けるよりも脚をためて、一気に差し切りを狙った方がいいかもしれない。

 考えている間に残る距離はどんどん短くなっていく。

 

「いけーっ!! フェスタ!!」

 その声が聞こえてきたのは、私が後ろをちらりと見てギアを入れたタイミングと同時だった。

 前はもう残り100メートルを切っている。

 届くかははっきりと分からない。ただ、届かないとも絶対に言いきれない絶妙な距離だ。

(……このギリギリの感覚がたまらねぇ)

 残り100、70、50とゴール板が近くなるにつれて前との差がグングンなくなっている。

 前を走るウマ娘の息遣いもはっきりと聞こえてきた。

(あと三人──二人……最後の一人も──)

 残りは10メートルもない。後は私が抜き切るかどうかだけだ。

 グイッと大地を踏みしめ蹴り飛ばす。

 そしてゴール板を駆け抜けた結果は───

 

「ギリギリだったけど、初勝利おめでとう」

 

 クビ差での勝利だった。

 

 レースとウイニングライブとの短い間で彼女と話す機会があった。

 私の初勝利祝いと次も頑張れといった彼女にしては当たり障りのない会話だったが、頬にうっすらと光る跡に、私も涙がこみ上げてきそうだった。

 後日、彼女から豪華な初勝利祝いが寮に届いて、シリウス先輩に笑われることになった。

 

 次走の東スポ杯も9番人気ながら勝利。

 重賞ウマ娘の仲間入りを果たしたタイミングで休養に入り、私のジュニア級の一年は終わった。

 

 =====

 

 ジュニアGIに有馬記念とレースも忙しかった12月が終わり、新年を迎えた。

 

『あけましておめでとうございます。今年はフェスタのクラシックの年ですね。まずは怪我無く、そして一つでもいい結果が出せることを願っています。またレース場で会いましょう』

「相変わらず手紙だと別人みたいな口調なんだよな」

 毎年恒例の新年のあいさつが書かれている手紙を読みながら、今年はクラシックレースを走ることを実感する。

 皐月賞、ダービー、菊花賞。生涯一度しか走れない舞台だけに彼女の前でレースを走ることが楽しみだ。

 そのためにも今年の初戦、京成杯はぜひ勝っておきたい。

 そんなことを考えながら手紙を読み終え、仕舞おうとすると

「……ん、なんだこれ」

 封筒にもう一つ別の袋が入っているのに気が付いた。

「これは……ペンダントか」

 入っていたのは、すみれの花のペンダントだった。

『フェスタに小さな幸せがあるようにと、デビュー記念とクラシックの激励を込めて贈ります』

 一緒に小さな説明の紙も入っていた。

 ちょうどシリウス先輩もいないことだしつけてみよう。

「うーん、なんかイマイチだな」

 生まれ持ったガサツさのせいか、小さくてきれいなすみれは似合っていないような気がする。

 それでも彼女からの贈り物だし、大切にしまっておこう。

「さてと、トレーニングに行くとするか」

 気分が上がった私は珍しくやる気満々でトレーニングに行くのであった。

 

 =====

 

 ジュニア世代の二連勝に彼女からの激励もあり、気合十分に臨んだ春のクラシックレース。

 しかし、現実はそんなに甘いものではなかった。

 

 初戦は無傷の二連勝の実績が推されたのか、一番人気で臨んだ京成杯。

 

『───が前に出た。ナカヤマフェスタは二番手までかっ!』

 

 途中で横にいた子が転倒したとはいえ。道中で詰まる、かかる、とちぐはぐなレースになってしまい二着に終わる。

 

 次は自分の一番のパフォーマンスが発揮できるようトレーナーと相談し、直行で挑んだ皐月賞。

 一番人気は無敗で弥生賞を勝ってきた子。私の人気は、前走の敗北に間隔をあけたローテもあってか、上から6番目だった。

 

『一番人気はここ、一番人気はここ。それをマークするようにナカヤマフェスタ』

 道中はその一番人気を徹底マークするような形。ペースは早めだったが、考えていた中ではそこそこいい流れで運べていた。

 ただ、それも4コーナーまでの事。

「なッ!?」

 乱ペースに耐えれなかったのか、直線を向いたタイミングでマークしていた相手が沈んでいく。

 巻き込まれないように慌ててスパートをかけるも

『ぬけた! ぬけた! ぬけた!』

 私のさらに外にいた奴がまるでワープしたかのようにすごい脚でのびていった。

 結局、私は突き抜けっていった勝ちウマ娘を眺めているだけの8着に終わった。

 

 2つの敗戦も彼女は見に来ていたようで、レース後には必ず励ましのメッセージが送られてきた。

 その言葉に感謝をすると同時に、彼女の前で勝てなかった悔しさを思い出す。

 次こそは勝ちたい。彼女に最高の瞬間を見せてあげたい。

 逆襲を心に誓って日本ダービーの日はやってきた。

 

 =====

 

『東京ターフは2戦2勝。祭りの舞台は整った! ナカヤマフェスタ!』

 実況の声に合わせてコースに入場する。

「しかし、ひっどいバ場だな。ぐっちゃぐちゃじゃねぇか」

 雨こそ降っていないが芝は不良バ場で発表されている。それも先週のオークスとは真逆の歩くだけで水しぶきが上がる極悪バ場だ。

 レースで嫌な感じを抱かないように、バ場の状態を軽く蹴って確かめる。

「あ、やべ」

 二度三度と蹴っているうちに、抉れた芝の塊が飛んでいってしまった。

 係員の人と目が合う。

 怒られる前にゲート前に行ってしまおう。

 

 ゲート前に行くと私より先に来ていたウマ娘たちが思い思いに動いていた。

 今日のバ場を確かめるように歩く子、じっと集中をしている子。

 緊張感がひしひしと伝わってきて、これから走るのはダービーなんだということを否応がなく実感させられる。

 私も作戦や展開をもう一度考えているとファンファーレが鳴り響く。

 係員の指示を受け、各ウマ娘がゲートに入り態勢を整える。

 

 

『雨をも吹き飛ばした大観衆。その移るはどんな光景か。東京優駿、日本ダービー、スタートが切られました』

 私のダービーが始まった。

 特に出遅れた子もおらず、全員は揃ってスタートを決める。

 飛ばしていくのはつい先日のGIレース『NHKマイルカップ』の勝ちウマ娘のようだ。

 私は対照的に後方を選択。展開頼みにはなる部分もあるが、私の脚を発揮できるように徹していく。

『さあ、レースの態勢ですが、おぉ、これは随分と縦長になりそうだ。先頭がぐんぐん飛ばしています』

 向こう正面の直線に入ったところで観客がどっと沸いた。

(誰かが大逃げでもしてるのか?)

 このタイミングでどよめきは、誰かが離れて逃げているか、異常なラップが表示されたと考えた方がいいだろう。

 まして、今日は不良バ場。時計がかかるバ場なだけに誰かが奇襲をかけてもおかしくはない。

(これで前が潰れてくれればいいのだが)

 そう思うも馬群がばらけている感じはしない。

 先行勢がつられてくれればよかったのだが。

『───先行勢が何人か動きだして大欅を過ぎていきました』

 大欅の前を通過して4コーナーに入る。

 私は依然最後方にいる。前の方は少しずつ動き出したようだ。

『さあ、大歓声に迎えられ各ウマ娘たちが直線に入ってきました』

 4コーナーから直線に入った。

 私は迷わず大外を選択。前にいるウマ娘たちを確認する。

(くそっ! 前の方が止まってねぇ)

 一番先頭で逃げた子は失速しているが、他の先行勢、特に有力どころは沈む気配がない。

 こうなると追い込みに勝負を賭けている私には不利な状況だ。

(ふざけんなっ! まだ終わっちゃいねぇ!!)

 長い直線のおかげで先頭でもまだゴールまでは距離がある。

 一人でも多く抜くために必死にスパートをかける。

「───ッ!」

『残り200を切った。先頭3人での決着になるのか。いや、外からナカヤマフェスタが猛烈に突っ込んできているっ!!』

 さらに一段階ギアを上げる。

 一緒に上がってきた追い込み勢は脱落した。前の2()()の背中もみえてきている。

『外からナカヤマフェスタが来た! ()()()争いは大接戦』

 ゴール板が見えた。残りの脚を全部使ってここからさらに───

『だが、先頭は一人すでに抜けている! これが皐月賞一番人気の意地だっ! 勝ったのは───』

 

 私がゴール板を駆け抜ける前に観客から地鳴りのような歓声が上がった。

 前にいた2()()を抜きかけたところがゴール。

 勝者はすでに私たちの争いから抜け出していた。

 電光掲示板に着順が表示される。

 私の番号は4着のところに灯った。

 

 後から知らされた私の上がり3ハロンのタイムは39.0。出走ウマ娘18人の中で最速のタイムだった。

 展開が向かなかったのかもしれない。バ場が不利だったのかもしれない。

 勝ちウマ娘よりも強いレースをしていたと言われるかもしれない。

 ただ、どんなことを言っても私のダービーは終わってしまったのだ。

 ふと、スタンドの観客席を見上げると、目に入ってきたのは泥まみれになりながら勝ったウマ娘への称賛を送るたくさんのファンの姿だった。

 スタンド全体が一体となって、新たなダービーウマ娘の誕生を祝福していた。

 

 

 見上げていた目線を下げようとしたときに一人の女性が目に留まった。

 それは彼女だった。

 彼女も私に気づいたのか二人の視線が重なった。

(せっかく来てくれたのにまた勝てなかった)

 悔しさと後悔から、思わず視線を下げようとする。

 その瞬間、彼女の口がゆっくりと動いた。

『頑張ったな、ありがとう』

 泣き笑いを浮かべながらの言葉は空気を超えて私に伝わってきた。

 ほっとした気持ちと、より一層の悔しさが胸の中でごちゃ混ぜになる。

 私は涙をこらえながら一礼し、控え室に戻った。

 

 春のクラシック戦線は一勝もすることなく幕を閉じた。




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