ナカヤマフェスタが走る理由   作:ユバ()

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ナカヤマフェスタへの電話とその結末

「お~い、ナカヤマはいるか? なんか電話がかかってきているぞ」

「私に電話……? 間違いじゃないのか……」

 それは数週間後の11月のある日。門限の時間も過ぎ、就寝前にシリウス先輩と話している時だった。

「私に電話……? 間違いじゃないのか……」

 心当たりは全くなく、首をかしげるも、伝えに来たヒシアマゾン曰く、間違いなく私宛の電話だとのことだった。

 

「はい、こちらナカヤマフェスタに変わりましたが──」

 とりあえず廊下に出て、電話を受け取る。

「ああ、急な連絡になって申し訳ない。君がナカヤマフェスタ君かい?」

 聞こえたのは品のある男性の声。ただ、その声は少しだけ覇気がないようにも聞こえる。

「君には娘がお世話になっていたようでね。だからこそ……伝えなければならないことがあるんだ」

 一体どんな用件なのかがわからない。いきなりの電話に訝しげに思いながら耳を傾ける。

「──────」

「───、────」

「────!! ────」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「─────────」

「…………はい、はいそうですね。ご連絡、わざわざありがとうございました」

 電話を静かに切る。

 男性からの話は、ほんの少し抱いていた違和感が最悪の形で生まれ出たような話で、通話が終わった後でも頭の中がごちゃごちゃのままだ。

 

「お、ナカヤマ! 電話終わったのかって……おいっ!!」

 寮長室に電話を返し、すぐに部屋を出る。

 後ろからヒシアマゾンが何か言っていたがもうどうでもよかった。

 

 廊下を走ってはいけないなんて決まりは無視して自室へ走る。

 信じたくなかった話を現実だと理解しようとする私がいることに怖さを感じてスピードが上がる。

 勢いよくドアを開けると驚いた表情のシリウス先輩と目が合った。

「お疲れさん。随分と話し込んでいたじゃないか……おい、ひどい顔してるぞ。何があったんだ」

 私の状態に気づいたのか心配そうに先輩は声をかけてくる。

 何か言おうとするも、うまく感情がまとまらない。

 二度三度と口を開きかけ、ようやく絞り出すように出てきた言葉は随分と短かった。

「……アイツが……"彼女"が亡くなった」

 

「…………」

「…………」

「しばらくの間は後輩の部屋に泊まってくる。フェスタはゆっくりと休め。いいな」

 長い沈黙が落ちた部屋に先輩の声が響く。

 その顔には哀しさと優しさが浮かんでいた。

 

 シリウス先輩が出ていき、再び部屋には静寂が落ちる。

 私はノロノロと動き、先輩に見られないようにと鍵をかけていた机の引き出しを開けた。

 そこにあるのは彼女から送られてきたたくさんの手紙とすみれのペンダント。

「ああ……もう届かないんだな」

 思い出を手に取った時、ゆっくりと涙がこぼれてきた。

 今思えば、一緒にご飯を食べた時の急な写真や菊花賞後の恥ずかしくなるような手紙は彼女なりの覚悟だったのかもしれなかった。

 

 孤独な部屋に私の小さな泣き声が響き渡る。

 ずっと混乱していた私は、ここにきて初めて〝彼女"がいなくなったことをはっきりと実感するのであった。

 

 =====

 

「……朝か」

 差しこんできた朝日に目が覚める。

 手元には投げだされたように散らばる何枚かの手紙。

 結局、昨晩は泣きつかれて眠ってしまったようだ。

 顔を洗おうと思い、鏡を見ると泣きはらしたからか目元が赤くなっていた。

「ははは……目立っちゃうなコレ」

 隠そうかとも考えたけど、うまくいかないと余計目立ちそうだと思いやめる。

 メイクがうまい子たちがうらやましい。

 そのまま顔を洗っれ、寝巻からジャージ姿に着替える。

 後はニット帽を被れば朝練に行ける状態だ。

 今日くらいは行かなくても怒られないかもしれないけど、いつもの日常を変えることの方が嫌だった。

 

「おはよう、フェスタ…………その、大丈夫?」

 いつも朝練をしている場所に行くと先に来ていたトレーナーから心配そうに尋ねられる。

 どこから話を聞いたのか、昨晩はトレーナーも色々と考えていたようで目元には隈があった。

「大丈夫……ではねぇな。ただ、気は紛れるかもしれねぇから……。とりあえず、走ってくる」

 走り出せば何か気持ちが上向くかもしれない。そう思ってアップを始めるも少し経つとまた気持ちが沈みだす。

 アップ後のメニューもいつもより遅いタイムが計測された。

 トレーナーも気を使ってくれたのか、本数もいつもより少なかった気がする。

 朝練のメニューが終わり水を飲んでいると、心配そうな顔をしたトレーナーが寄ってきた。

「フェスタ、次の中日新聞杯だけどどうする? 今なら登録前だから辞めれるけど……」

 メンタル面でのケアもトレーナーの大切な役目である。今の私に聞くのは当然のことだろう。

 それでも私の答えは一つだった。

「いや、走る。まだ整理できていないけど、とりあえずの目標にしておきたい」

 菊花賞の敗戦後から狙っていたレースだからという理由もある。

 来年に向けて弾みをつけておきたいというのもある。

 でも一番は、今、何かひとつでも目標を持っておかないと心が耐えられそうになかったからだった。

 

 =====

 

 そして迎えた中日新聞杯。

 調子は戻り切っていない。それでもダービー四着の実績を買われてか、私は三番人気に推されていた。

 

『世代間の勝負に、それぞれの熱い思いがぶつかります。来年への飛躍を誓うウマ娘は誰でしょうか。伝統のGⅢレース中日新聞杯、スタートしました!』

 各ウマ娘がバラバラッとしたスタートで始まる。

 そのおかげもあってか一番人気の子をうまくマークする良い位置につくことができた。

(これなら何とかなるかもしれねェ)

 道中、各ウマ娘が一塊になって進む中で密かに手ごたえを感じる。

 しかし、直線コースを向いた時だった。

 

【いけーっ!! 走れー!!】

 

 一瞬聞こえてきた声に観客席を見てしまった。

 

(あ、ダメだ、コレ)

 視線が自然と吸い寄せられたのはいつも彼女が陣取っていた場所。

 そこにあるはずの姿がないことを認識した瞬間、一気にレースでの闘争心が消えていく。

 2000メートルちかく走ってきた脚が鉛のように重くなった。

『本気で走ればこのパフォーマンス! 重賞初制覇!!』

 縋るように走っている中で聞こえてきたはレースが決した合図。

 実況席の勝者を讃える声がまるで皮肉のように聞こえて私に襲い掛かる。

 ゴール板路通過したのは後ろから三番目と酷い結果に終わった。

 

「フェスタ、大丈夫だった? けがはしていない?」

 レースの後、あまりの失速を見てか、心配そうにトレーナーが駆けつける。

 もちろん怪我はしていない。むしろダメージは少ないぐらいだ。

 ただ、心の底から心配をしてくれているトレーナーの姿が私にはきつかった。

「ごめん」

 その一言だけ絞り出して、その場を離れる。

(彼女がいつもいる場所にいなかった)

(それに気づいて走れなくなるなら出るべきじゃなかった)

 今の私を占めるのは一緒に走った子やトレーナーへの申し訳なさと彼女が本当にいなくなったという喪失感だった。

 

 

 翌日から私は全てのトレーニングに参加することをやめた。

 




お読みいただきありがとうございました。
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