転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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双子岬

 偉大なる航路(グランドライン)に入る方法は二つある。一つは四つの海に面している山、リヴァース・マウンテンを船で駆け上がる方法。一見不可能だがこのリヴァース・マウンテンがある場所はそれぞれの海から集まった海流が集中し強力な流れを生み出しているので、うまく乗ることができれば船で山を登ることが可能だ。しかし仮に入口に入り損ねれば船は赤い大陸(レッドライン)岸壁に叩きつけられ大破、海の藻屑となる。一説によればこの時点で約半数の船が脱落すると言われている。

 だがこれが偉大なる航路に入る基本的な手段。それほど偉大なる航路は厳しいということなのだ。

 そして二つ目は凪の海(カームベルト)を横断する方法。四つの海と偉大なる航路は直接繋がっているため、わざわざリヴァース・マウンテンを登らずとも侵入できるのでは?と考える無知な海賊は一定数存在する。だがそんな彼等を阻むのがその中間に位置する凪の海。

 この海域はその名の通り風が全く吹かない。故に帆船ではパドルなどの風に頼らない動力源がなければ立ち往生を余儀なくされる。そしてなにより海賊達を阻むのはこの海域に生息する海王類。船が米粒に見えてくるような超巨大な海王類がウジャウジャいるため、彼等の餌になるのがオチなのだ。

 その結果、リヴァース・マウンテンを登ってその先の双子岬を通るのが必然的に安全なルートということになる。

 だがそれも相応の知識があってこその話。偉大なる航路に入ろうとする海賊──とりわけ東の海出身の海賊に多い話なのだが、リヴァース・マウンテンを船で駆け上がるという方法を信じずに馬鹿な話だと一蹴し、凪の海からの侵入を試みようとする。

 偉大なる航路出身の者からすればその程度の現象日常茶飯事なのだが、四つの海出身者はそうではない。故に情報収集がとても大事になってくる。

 だが事前に情報を得ているならば別だ。経験者から話を聞く、航海日誌を読む、方法は様々だがそれだけでアドバンテージは計り知れない。そして最も確実なのが、自らが経験者であることだ。

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路、双子岬。

 

 リヴァース・マウンテンを見事越え、偉大なる航路に入ろうとする海賊達が一番始めに訪れるのがこの双子岬だ。偉大なる航路に挑戦する海賊達にとっては大きな節目とも言える。ここでの選択がこれからの航海を大きく左右するのだから。

 だがそれとは別に、海賊達にとっての障害となる人物がいた。彼はとある理由から今や誰もが知る海賊団の船員となり、そして伝説を見届けこの世の真実を知る数少ない一人となった。

 

「船長、麓が見えてきました!!」

 

「よし野郎共!!気合い入れてけよ!!ついに俺達はあの偉大なる航路に挑む!!」

 

 船長の掛け声に船員達は雄叫びをあげる。彼らは北の海(ノースブルー)から遥々リヴァース・マウンテンを越え、今まさに偉大なる航路に乗り込もうとしていた。

 

「船長、進行方向にでけぇ山が!」

 

「あ?リヴァース・マウンテンを抜けたら偉大なる航路だ。山なんてねぇはずだが……」

 

 部下の言葉に疑問符を浮かべながらも、船長は進行方向を目を凝らして見る。すると確かに霧の向こうに大きな山のようなものが見えた。

 

「なんであんなとこに山が……いや、山にしちゃあやけに小せえな」

 

 確かにそれは山にしては小さい、とはいっても船の10倍はゆうに超える巨大な壁だ。そうこうしているうちに霧が晴れてその壁の全貌が見えてきた。

 

「……ありゃあ…………鯨!?」

 

 その壁の正体は巨大な鯨。巨人族の倍以上あるであろうその鯨は赤い大陸に向けて遠吠えを発した。その巨体から繰り出される騒音に海賊達は堪らず耳を塞ぐ。

 

「……!?化け物が!船長、どうしやす!?」

 

「でかかろうが鯨は鯨だ!大砲で風穴開けてやれ!」

 

 船長の指示で海賊達は次々と大砲で鯨を撃ち始めた。前方に備えられた4門の大砲から放たれた玉が着弾し鯨は血を流す。そのあまりの巨体に本来強力な大砲も豆鉄砲同然だが効果が無い訳では無い、撃ち続ければいつかは力尽きる。

 

「貴様ら!!ラブーンに何してやがる!!」

 

 ──筈だった。

 突如船に乗り込んできたのは筋骨隆々の大男。花弁を頭に着けたような特徴的な見た目をしたその男はひとしきり海賊達を睨みつけた後近くにいた船員に対し拳を振るった。

 

「て、てめぇ……なにもんだ!?」

 

「あの鯨の飼い主か!?いい度胸じゃねえか!!」

 

 仲間を殴られたことで怒りを顕にした海賊達が各々剣や銃などの武器を取り男に襲いかかる。彼らも北の海を勝ち抜きこの偉大なる航路に乗り込んできた猛者、並の相手──それも一人になら負けるはずがない。だが彼らが相対しているのは並の相手ではなかった。男は斬撃や銃弾の嵐を全てかわしてみせる。この偉大なる航路でも前半ならばほとんど見ることは無い技術、見聞色の覇気を使ったのだ。

 

「当たらねぇ……!?」

 

「この程度造作もない」

 

 まるで全ての動きを見切っているかのような動きで海賊達の攻撃をかわすと、男は反撃を開始する。彼の拳が前に突き出る、一見ただのパンチだが鍛え抜かれた身体から繰り出されるそれは爆風を作り出し周囲の海賊達もまとめて吹き飛ばす。

 手も足も出ないとはまさにこのことだろう、男はあっという間に海賊達を全滅に追い込んだ。

 だがそれもその筈だ。いくら海賊達が強かろうと本物の強者には例え束になろうと敵わない。

 

 

双子岬の灯台守 “元ロジャー海賊団船医”クロッカス 懸賞金3億9600万ベリー

 

 

「まったく……近頃の若い奴らは礼儀がなってねえな」

 

 元ロジャー海賊団、聞けば誰でも震え上がるであろう経歴を持つ男は溜息をつく。しかし直ぐに愛鯨であるラブーンの傷の具合を見るために彼の元へと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 クロッカスが海賊達を退けた数時間後、リヴァース・マウンテンを越え双子岬を目指す海賊船がまた1隻意気揚々と運河を下っていた。象を模した船首と赤い鼻が特徴の海賊旗が印象的なその海賊船の名はビッグトップ号。東の海(イーストブルー)出身の海賊団、バギー海賊団の船だ。しかし船長である“道化のバギー”の姿は甲板には見当たらず、代わりに指揮を執っているのは副船長、“狩魔女ミズキ”だ。

 

「……バギーはまだ寝てるの?」

 

「ええ、昨日の酒がまだ残っているようで」

 

「……そう」

 

 こんな大事な時に何をしているのかとミズキは溜息を漏らす。思い出すのは昨日の宴会、バギーはこれから偉大なる航路に入るための景気づけだと大量の酒を浴びるように飲んでいた。そして結果として二日酔いで寝込んでいるのだ。まったく自己管理ができない男だとミズキは内心呆れ返る。

 その時、部下の一人が何かを発見したのかミズキに報告してきた。

 

 

「お嬢!目の前にでけぇ壁かなにかが!?」

 

「壁?」

 

 こんなところに壁が?とミズキは疑問符を浮かべる。だがすぐにある可能性に辿り着き、冷静に指示を出す。

 

「大丈夫、このまま進んで」

 

「しかしこのままでは壁に……」

 

「いいから」

 

 その指示に若干の不信感を抱きながらも部下達は船の進路を変えることなく突き進むように船を操作する。

 

「おいおい、本当に大丈夫なのか?」

 

「うん」

 

 行先の壁を見据えつつそう苦言を呈すのはガイモン。バギー海賊団幹部で全身が宝箱に詰まっているという珍妙な姿をした男だ。

 彼の問いかけにミズキは一言肯定するだけして後は無言を貫いた。だが決して無視している訳では無い、今は考えを巡らせるのに集中したいだけだ。彼の考えが正しければあの壁は無機物ではなくとある生物。そしてその生物の友人である男とどう被害無く接触すればいいか考えている。もし戦闘になれば勝ち目などない、全滅は必至だ。それほどその男が強いことをミズキは理解していた。しかしこちらが下手をしなければ戦闘にはまずならないだろうともミズキは思っていた、何故ならこちらにはあの男がいるから。

 

「おい……あの壁動いてねぇか?」

 

「……いや……あれは壁じゃねえ!?馬鹿でけぇ鯨だ!?」

 

 部下達の言葉にミズキはやっぱりと確信する。そうなればわざわざ敵対する必要も無い、下手に刺激しないように素通りすればいいだけの話だ。

 

「……あの鯨を刺激したらダメだよ。特に攻撃なんて絶対──」

 

「くたばれバケモン鯨が!!」

 

 ミズキが部下に下手に刺激しないように注意を促すが、鯨のあまりの巨体に取り乱した部下の一人がバズーカで鯨の瞳付近を爆破した。バズーカ程度ならあの巨体には大したダメージにはならないだろう。しかし当たりどころが悪かった。バズーカの爆発で起きた爆風が目に入ったのか鯨は特大の悲鳴をあげて暴れだした。

 

「……攻撃しちゃダメって言わなかったっけ?」

 

「すいやせん……つい勢いで……」

 

 気まずそうに頭を掻いて謝る部下を殴りたい気持ちを抑えてミズキは背中に背負った短剣に手をかける。

 

「ラブーンに何してやがんだてめぇら!!」

 

 突如船の上に怒鳴り声と共に一人の影が現れる。唯一その存在に気づいたミズキが向かってくる男の拳を短剣で受け止めた。頭の周りに花の花弁のようなものがついた筋骨隆々な男。その正体に気づいたミズキは珍しく冷や汗を流す。しかし彼の正体に気づいた者はミズキだけではなかった。部下の一人が目を見開いて叫ぶ。

 

「く、クロッカス!?元ロジャー海賊団じゃねぇか!?」

 

 元ロジャー海賊団クロッカス、副船長シルバーズ・レイリーや3番手のスコッパー・ギャバン程ではないにせよ世界中に通ったその名を聞いて誰もが驚く。

 

「ろ、ロジャー海賊団……!?あの伝説の!?」

 

「なんでそんな奴がここに!?」

 

 クロッカスの拳とミズキの短剣、ぶつかりあった両者は拮抗したかに見えたがすぐにミズキの短剣が押され始め、そして弾かれた。

 

「……ぐぅ……!?」

 

 強烈な拳を腹にくらったミズキは吹き飛び、壁に激突し吐血する。一瞬意識が飛びかけるがすぐに取り戻し、能力を使って飛び上がる。世界に悪魔の実の能力者は数多くいるが、その中でも空を飛ぶ能力者は限られてくる。そんな希少な能力で大空へと飛び上がり、そして短剣を前に突き出す。

 

紋舞乱(モンブラン)!!」

 

 剣の刃先から放たれた波紋が衝撃波となりクロッカスを強襲する。並の相手であればそれだけで戦闘不能になる強力な技。実際東の海ではこの技を受けて立ち上がった者はいない。しかし今ミズキの目の前にいるのは偉大なる航路、それも後半の海新世界を勝ち抜いた猛者だ。

 

「……!!オラァ!!」

 

「あの野郎……お嬢の攻撃を跳ね返しやがった!?」

 

 クロッカスは向かってくる衝撃波を拳で強引に弾き飛ばす。当然この程度で倒せるなどとは思っていなかったが、自身の攻撃が正面から受け止められミズキは額に嫌な汗を感じた。意識を集中して目の前の敵を見据える。しばらくの時間睨み合う両者、先に動いたのはミズキの方だった。

 

「……遅い!!」

 

「が……!?」

 

 魔法により増強した身体能力から生み出される超高速の攻撃、一瞬にしてクロッカスの背後に回り込み刃を向ける。だが彼はこの攻撃にも対応してみせた。裏拳であっけなく弾かれたミズキは口から吐血し後ずさった。

 

「あ、ありえねぇ……!?あのお嬢が一方的に」

 

「これが偉大なる航路のレベルだってのか!?」

 

(……今のは…………やっぱり)

 

 純粋な身体能力の差、それはいくら能力で強化しても埋まるものではなかった。だがそれだけではない、先程の反撃は明らかに動きを読んでいなければできない芸当だった。ならば導かれる答えは一つ。すなわち見聞色の覇気を使われたのだとミズキは結論づける。

 口元の血を拭いながらミズキはこの状況の打開策を考える。格上の覇気使い相手に勝利するのは難しい、逃げることもできないだろう。

 

「も、もうダメだ……」

 

「やっぱり偉大なる航路なんてはじめっから無茶だったんだよ……」

 

 偉大なる航路のレベルを思い知った船員達は圧倒的な実力を前に戦意喪失に崩れ落ちる。そうでない者達も実力の差を理解し半ば諦めかけていた。全滅、その二文字を誰もが覚悟し目を瞑り神に祈った瞬間──彼らにとっての神が舞い降りた。

 

「おいおい誰だか知らねえがてめぇ……俺の可愛い部下に手ぇ出して覚悟できてんだろうな!!」

 

 そうタンカを切って現れたのは誰もが待ち望んだあの男。

 

「きゃ、キャプテンバギーだ!」

 

「キャプテンが来てくれた!!?」

 

「ウオオオ〜〜〜〜〜!!キャプテン〜〜!!」

 

 バギー海賊団船長、“道化のバギー” 船員達の誰もが尊敬してやまないその男は堂々と、大胆に登場した。──まだ二日酔いが治っていないのか顔が青白い気がするが気のせいだろう。ともかく彼は船員達を守るために強敵に立ち向かう。

 

「さぁ覚悟しやがれハデクソやろ……ん?…………まさか…………クロッカスさん〜〜!!!ラブーンもいるじゃねえか!?

 

「誰かと思えばバギーじゃねえか!!久しぶりだな!!元気だったか!?」

 

 一触即発と思われたその瞬間、目を見開いて両者が驚き合う。そして先程の雰囲気がまるで嘘のように仲良さげに談笑を始めた。その様子をバギーの部下達は唖然とした様子で眺め、ミズキはフラフラと立ち上がると静かに拳を握りしめるのだった。

 




クロッカスの懸賞金は完全に妄想です。元ロジャー海賊団で白ひげや金獅子の船にノリノリで喧嘩売ってたのでこのくらい強くてもいいんじゃないかと。地味に見聞色の覇気も使えますしね。
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