唐突な話だが、海軍は人手不足だ。海賊王ロジャーの処刑以降始まった大海賊時代、世界中の至る所に海賊が闊歩しておりどの海でも海兵の不足が問題となっている。とりわけこの
──話が逸れたがつまるところ偉大なる航路前半の海のさらに序盤には強い海兵が配置されることは少ない。しかし新世界に比べれば海賊のレベルも必然的に低くなる、なので大抵の場合はなんとかなることが多いのだが……もちろん例外もある。
まれに現れる明らかに偉大なる航路に入ったばかりとは思えない程の実力を備えた海賊達。そんな彼らに出くわした海兵は不運だったと言わざるをえないだろう。
これはそんな不運な海兵が本部へと送った報告の一部始終である。
その海兵は偉大なる航路のウイスキーピークという島付近の支部に配属された海兵だった。階級は本部大佐、その支部一番の実力者であり責任者でもあった。
彼はある男からの通報により部下を引き連れウイスキーピークへと向かっていた。通報の内容は島で海賊が暴れているというもの。偉大なる航路では珍しいことではなく特に治安の悪いその島では当たり前の出来事だった。だが海賊がいる以上野放しにする訳にはいかない。通報によると暴れているのは最近
東の海出身であるということを考えれば高い方ではあるが、偉大なる航路の基準であれば特段高いという訳ではない。
事実彼は彼らの倍以上の3000万や4000万ベリーの賞金首を捕らえたこともある。故に楽観視……ではないが彼は油断していた。どうせ大した海賊でもないだろうと。
だが現実はそうではなかった。軍艦2隻は沈められ部下もほとんどやられてしまった。彼の報告では厄介な人物は4人、“道化”と“狩魔女“以外にも厄介な部下が加わっていた。
「キャンドル
「……!?なんだこれは……蝋か!?」
「硬い!?銃も剣も効かないぞ!?」
「私の蝋は鉄の硬度。そう簡単には破れないガネ!!」
突如行く手を阻むように現れた蝋の壁。海兵達は弾丸や剣で壊そうとするが蝋はビクともしない。それを嘲笑うかの如く男は高笑いする。
「お次はこうだガネ!!キャンドルロック!!」
今度は海兵達の手足に枷をするように蝋で捕縛する。その硬度も相まって海兵達はもがくが外すことができない。その能力と容姿から男がこの近海で詐欺や強盗などの犯罪行為を重ねていた“闇金ギャルディーノ”だと断定する。懸賞金は600万ベリーだが能力の厄介さ、海賊団に所属したことなどを加味し妥当ではないと判断する。
「キャンドルチャンピオン!!チャンプファイト“おらが畑“!!」
更にギャルディーノは蝋で作った鎧を纏う。その戦闘能力は一般の海兵では相手にならないほど高い、少なくとも将校クラスの出陣が求められる。
だが厄介なのは彼だけではない、続いて別の場所で戦闘を繰り広げているもう一人の男。過去の情報を見ても特に前科がなく懸賞金もかけられていない。だがその男もまた海兵達を纏めて相手取るほどの戦闘力を有していた。しかしなにより特筆すべき点、それは彼が身体まるごと
「なんだあいつ……!?飛んでるぞ!?」
「しかも箱に入ってる……どういう趣味だ!?」
「変態だ!?それとも箱入り息子なのか!?」
「俺は変態でも箱入り息子でもねえぞ!!」
動揺する海兵達にツッコミを入れるその男、先程部下にガイモンと呼ばれていた男は身体ごと箱に詰まっているという珍妙な外見、そして空を自在に飛ぶという能力を持っていた。その光景はまさに摩訶不思議、更に男は両手で拳銃を構え海兵達に発砲する。着弾、その瞬間弾を浴びた海兵達は悲鳴をあげる。
「があ!?熱い!?……」
「……傷口が凍って……ぎゃあぁぁぁぁ!」
「し、痺れ……ぐぁぁぁぁ!!」
彼の弾を受けた海兵達は炎で火だるまとなり、凍りつき、電撃で焼き焦げる。その銃に特殊な細工がされているのか、はたまた悪魔の実の能力者なのか。それはわからないがその戦闘能力、射撃能力は脅威である。至急議論の上で懸賞金をかけるべきだと判断。
新たに加わったと思われるのはこの二人、そして元々賞金首であった二人の賞金額も再考すべきと報告する。まずは──
「ぎゃあああああああっっっ!?」
「だ、だずげ……あああああ!?」
「こんなの……どうすれば」
まさに阿鼻叫喚、炎の竜巻に降り注ぐ幾多もの雷、触れるもの全てを芯まで凍らせる絶対零度の冷気。それらは全て空に浮かび静観する少女……情報によれば少年か。によって引き起こされたものである。その全てが摩訶不思議、だが到底一つの能力によって起こせる現象の範疇を超えている。能力者であることは確かだろうが能力の名称も詳細も一切不明。
「……誰にしようかな…………君でいいか」
「な、なにを…………ぎゃあああっっっ!?」
空に浮かんでいた少年は突如、地面に着地すると怯える海兵達を一回り見つめるとその中の一人を背中に背負っていた短剣で切りつける。その瞬間、傷口から紫の痣のようなものが全身に広がった。
「これは……毒!?」
「……いったいなんの能力なんだ!?」
悲鳴をあげ倒れる海兵。それを見た周りの海兵達は戦慄し、得体の知れない能力に恐怖する。
「今はまだこのくらいの毒が限界……か。どうせなら即死させてあげたかったんだけど」
少年は一見可憐な少女に見えた。男であれば誰もが魅了されてしまうであろう可愛らしいその外見。それでいて人を殺したというのにまるで顔色を変えず思考する冷酷さ。そのギャップが海兵達の恐怖を加速させる。
「まあいいか、せっかくだから色々試してみよう。…………
「ァァァ!!……ぐるじい……」
「た、…………たすけ……」
少年が短剣の切っ先を海兵達に向ける。すると紫色のドロドロした液体、毒液が大量に放出される。それを浴びた海兵達は苦しみ泣き叫び助けを求める。が、無論助けなどない。次第に全身に毒が回り動かなくなっていく海兵達を少年は冷ややかな視線で見つめる。
「こ、この!?複数でかかれ!!」
だが海兵達は勇敢にも少年に立ち向かっていき、銃や剣で攻撃する。が、少年はその全てをまるで予知していたかのように回避する。恐らく見聞色の覇気を使用していると思われる。加えて身体能力も高い。懸賞金は1300万だが明らかに過小評価、下手をすれば実力は億超えの域に達しているかもしれない。早急に懸賞金の増額をすべきだと判断する。
そして最後に、船長であるこの男。赤鼻が特徴的な“道化のバギー”だ。
「ぎゃははははは!!野郎共、海兵共を叩き潰してやれ!!」
「うぉぉぉぉ!!キャプテンバギーに続け!!海兵なんて怖かねぇ!!」
「俺達のキャプテンのために!!海軍覚悟しろ!!」
多くの部下を従え、海兵達をなぎ倒す。もちろん戦闘力もバラバラの実の能力も含め高い。覇気は使用していないようだが海兵でも大佐クラスはあるかもしれない。だが彼の本分はそこではない。多くの荒くれ者を従え、尊敬されるその統率力。ともすれば戦闘能力以上に危険視する必要がある力をその男は有していた。事実彼の期待に応えようと部下達は実力以上の力を発揮しているように見える。この海において最も恐ろしい力を持つこの男も賞金額1500万では低いと判断、賞金額の増額を要求する。
「以上、本部への報告とさせていただきます」
満身創痍ながら報告を終えた彼は受話器を置き、岩場の影に身を隠して傷を押さえる。バギー海賊団との戦闘の末部下は全滅、自身も大怪我を負い命からがらこの岩場にたどり着きなんとか本部に報告した。自身の大佐という立場に驕っていた訳では無い、だが海軍内でもそこそこの実力者となった自分でも手も足も出なかった、その事実に身体を震わせる。
「……お疲れ様、報告は終わった?」
「……!?」
もたれかかっていた岩の上から聞こえてきた声、それは自分に怪我をおわせた少年の声だった。即座に視線を向けると岩に座り足をブラブラ揺らすミズキの姿があった。
「……まだ生きてたんだね、さすがは大佐ってところかな」
ぴょんと飛び降り男の目の前に降り立つ。そして次の瞬間、男の胸部に強烈な痛みが突き刺さる。刺さったのは短剣、犯人は目の前の無表情な少女のような少年。それらを感じたのを最後に彼の意識は暗闇へと沈んでいく。
「……まあこれで終わりかな、じゃあね」
そう言い残し、飛び去っていく少年。だがその言葉は彼に届くことはなかった。
──偉大なる航路海上、ビッグトップ号
「ぎゃははははは!!俺達にかかれば海兵なんて雑魚同然だったな!!」
「さすがキャプテンバギーだぜ!!」
『バギー!!バギー!!バギー!!バギー!!』
海兵を全滅させ出航したバギー海賊団は勝利祝いの宴を行っていた。船員達の注目を集め乾杯の音頭をとるのはもちろんキャプテンバギーだ。
「いやぁしかし海軍を退けてしまうとは……私の目に狂いはなかったガネ」
「そうだろう!!俺たちゃすげえんだ!!…………!?おいおめぇ!!いつの間に乗り込んでやがった!?」
自然な流れで会話に入ってきたギャルディーノにバギーは目玉が飛び出すほど驚く。ギャルディーノは眼鏡を指でくいっと上げるとある提案をバギーに持ちかけた。
「実は先の戦闘で私の船が壊されてしまったのガネ。というわけで次の島まで乗せてもらうガネ」
「はぁ!?ふざけんな!?んなてめえの勝手な都合で乗せられるか!?」
「勝手な都合……ふむ、そうとも言えないガネ。責任の所在は君達の副船長にあるのだから」
その言葉で全員の視線がミズキに向けられる。もしかして、とバギーは恐る恐る代表してミズキに質問する。
「おいおめえ…………まさかやったのか?」
「…………確かに船を壊した気がする」
「なにやってんだてめえは!?」
「まあそういうことだ、よろしく頼むガネ。もちろん乗せてもらうからにはそれ相応の働きはするつもりだガネ」
「ぐぬぬぬ……わかった……勝手にしろ」
そういうことならしょうがないなとバギーは文句を言いたいのを飲み込み乗船を許可する。だが一つ、彼に用があったのを思い出し詰め寄る。
「おいならおめえよ、俺様の財宝を返してもらおうか」
「ん?財宝……あああ!?しまったガネ!?あのどさくさで私の財宝を置いてきてしまったガネ!?」
「はァァァ!?あれはおめえのじゃなくて俺のだ!!忘れただと!!おめえハデになにやってくれてんだ!!さっさと取ってこい!!バックだバック!!」
「船がバックできるか!!一度選んだ航路は後戻りなんてできないのだガネ!!」
驚き叫び合うバギーとギャルディーノ。その大騒ぎはしばらく続き、お互いの息が切れた頃に痛み分けという形で幕を引いた。
「……はァ……はァ……いつまでも失った財宝に固執していても意味は無いガネ。ここは一つ、我々の出会いを祝して乾杯しようではないか」
「おめえ強引にまとめようとしてねえか?……まあいい、わかった!今は楽しい宴会の時間だ!……!?馬鹿野郎、そいつに酒飲ませんな!!」
一応納得し、宴会に戻ろうとしたバギーの目に写ったのはミズキに酒をすすめるギャルディーノの姿。それを見た瞬間、バギーは止めようと声を上げるが手遅れだった。
その結果──
「あははははは!!早くケーキ持ってきてよ♡お〜か〜わ〜り〜♡」
「キャプテンバギー!!お嬢の魔法で船体に風穴が!!」
「やめてくれお嬢〜〜!!」
「……な、だからやめとけって言ったんだ。二度とあいつに酒飲ませるんじゃねえぞ」
「ああ……肝に銘じておくガネ」
火の手が上がる船上で鎮火と修理にあたる部下達を眺めながらバギーとギャルディーノはそう呆れて淡々と言葉を紡ぐ。
彼らの船出は前途多難であった。