転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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リトルガーデン

 ボクにとって夢というのは特別なものだ。将来の夢ということじゃない、寝る時に見る夢のことだ。別に寝るのが好きなわけじゃないし見たい夢があるわけでもない。ただ夢を見ている時は感じなくてすむだけだ、痛み、恐怖、苦しみ……現実の、意識がある時のボクが感じるのはそれだけだった。

 ボクはあいつらを楽しませるためだけの奴隷。人間以下。家畜。ペット。そんなボクにとって夢の中だけがボクの居場所、玩具のボクにも与えられた逃げ場だった。

 だから海賊になってからボクは夢を見なくなった。もう自由で、あいつらに怯える必要もないから。過去のことなんて忘れて好きに生きることが出来ると思っていた。

 

『おい奴隷、起きろ。お前に眠る権利があると思っているのか?』

 

 声が響いてくる。ボクを玩具にしていた方々の声が。どうやらボクは彼らにとって魅力的に見えるらしい。だから玩具であるボクの仕事は彼らを喜ばせること。ご奉仕して満足させ、彼らの機嫌が悪い時は苛立ちの捌け口として暴力を受け入れる。そして飽きたら返却されてまた別の人の玩具になる。それだけがボクの価値であり存在理由、人権なんてものはない家畜以下の存在。

 

『ああ、いい具合だえ……高い金を払った甲斐があった。もっとわちきを満足させるえ』

 

 気持ち悪い、吐き気がする。だけどボクに逆らう権利なんてない。

 食事が与えられずに空腹で死にそうになっても、首を絞められて窒息しそうになっても、爪を剥がされても背中に熱した鉄を押し付けられても口の中に汚物をねじ込まれても。

 そんな生活を何年も続けて、あの時ボクの頭の中で何かが切れる音がした。ボクの中の何かが壊れた。意識がある時は苦痛の時間のみ、だったらいっそ死んでしまった方が楽なんじゃないかと。だから舌を噛み切ろうとした、死への恐怖がなかった訳じゃない。ただそれ以上に今の状況に耐えられなかっただけ。

 でもボクは生きてる。バギーに自由をもらって、海賊になって、これからは好きなことをして生きられる。

 

 ──はずなのに

 

『何をぼさっとしている!早くわちきを楽しませるんだえ!』

 

『この奴隷が!人間以下の分際で!』

 

 ──どうしてまだこの声が聞こえるんだろう

 

 

 

 

 

「……!?ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 朝、ミズキは悪夢に魘され飛び起きる。身体中から汗をかき、ベッドは水でもこぼしたのかと思うほどにびしょびしょになっていた。

 

「……ッッ!?……どうして……いまさら」

 

 海賊になって約二年。ずっと忘れようとしていた過去の記憶、最近は思い出すことも少なくなってきたトラウマを思い出してしまい強烈な吐き気を覚え、ミズキは洗面所へと急ぐ。

 

「おえ……げぇ……」

 

 胃から湧き出てくる酸っぱい感覚、こんなものにも慣れっこだった。だが今は何故かたまらなく辛く、苦しい。

 

「ずっと……我慢できてたのにな」

 

 そう、今まではどんなに気持ち悪くても、痛くても、苦しくても我慢してきた。表情に出さないよう、悟られないように。だけど、今は──

 

「……やめよう、いくら考えても……意味なんてないよね」

 

 思考することを放棄し、ミズキは部屋に戻り着替えて髪を結ぶ。そうして身支度を整えて部屋を出て甲板に足を運ぶ。

 

「……何してるの?」

 

 甲板に出ると既に仲間達は起きてきており、何やら作業をしていた。見た限り船の修復をしているようだが、そもそもこんな作業が必要なくらい壊れていたかとミズキは疑問符を浮かべる。

 

「何もクソもあるか!!てめぇのせいだろうが!!」

 

 すかざずツッコミを入れてきたのはバギー。その手にはトンカチが握られており、さっきまで作業をしていたのが伺える。随分怒っているようだがその手のトンカチで殴らなかっただけまだ優しさがある方だろうか。

 

「いいか、お前は金輪際誰に勧められようが酒を飲むな!わかったな!」

 

「……うん、わかった」

 

 酒を飲むな、それはわかったがそれとこの状況にいったいなんの関係があるのだろうか?再び疑問符を浮かべるミズキに今度は特徴的な髪型の男が話しかけてくる。こちらも手に能力で作ったトンカチを持っている。

 

「やれやれ、あれほど酒癖が悪いなら先に言って欲しいガネ」

 

「……あ、3。まだいたんだ」

 

「誰が3だ!?私はギャルディーノだガネ!!」

 

 ミズキの知るギャルディーノはとある犯罪組織でMr.3として活動していた。故に3を模した髪型をしていてもまだわかる。だが目の前の彼はMr.3ではない、しかし何故か髪型だけはしっかりと3を模している。だからてっきり3という数字が好きなのかと思ったのだがそうではないようだ。

 

「キャプテンバギー、お嬢!大変だ!」

 

 そんなやりとりをしていると、部下の一人が慌てた様子で走ってきた。その手にはトンカチ──ではなく新聞が握られている。

 

「あ?どうした?」

 

「今日の新聞なんだが……これを」

 

 部下は新聞に挟まれていた紙を四枚取り出し床に並べる。それをバギー達は円になるように囲み確認する。

 

 

道化(どうけ)のバギー”懸賞金6500万ベリー

 

 

狩魔女(かりまじょ)ミズキ”懸賞金6100万ベリー

 

 

闇金(やみきん)ギャルディーノ”懸賞金3400万ベリー

 

 

箱入り(はこいり)のガイモン”懸賞金2800万ベリー

 

 

 それは先日の海軍との戦闘がきっかけで更新された、新たな手配書だった。それを見た各々の反応は様々、バギーは盛大に驚きハデに騒ぎ、ミズキは特に興味無さそうに手配書を見つめる、ギャルディーノは冷や汗をかき顔を青ざめさせ、ガイモンは自分にも賞金がついたのが嬉しいのか小さくガッツポーズをした。

 

「これは大事になる前にこの船を降りなければ……次の島で船を手に入れるのがベストだガネ」

 

 思ったよりも大きな問題になっていたことに驚き、早々にこの船を離れなければとギャルディーノは判断する。そしてそのために必要不可欠な船を手に入れなければと。

 だがその考えはすぐに砕かれることになる。

 

「そうは言ってもよ、おめえあの島でどうやって船を手に入れるつもりだ?」

 

「ん?どういうことだ……ガネ」

 

 ガイモンが指さした方角を見ると、島が見えていた。どうやら次の島に到着したようだ。だがそれを見たギャルディーノの顔はみるみる青ざめていく。何故ならその島は一帯をジャングルで覆われており、とても船が手に入るとは思えなかったからだ。

 

「げ!?あの島はまさか……」

 

「知っているのガネ?」

 

「ああ、あの島は……リトルガーデン!バカデカい恐竜がうじゃうじゃいるやべえ島だ……!」

 

 数年前にロジャー海賊団の見習いとして訪れたことのあるバギーはその島の危険性をこの場の誰よりも把握していた。太古の昔に絶滅したはずの恐竜、病原菌、そして何より80年以上前に世界を震撼させた“巨兵海賊団”。その船長である二人が決闘を続ける島であると。

 

 

 

 

 

 ── 偉大なる航路(グランドライン)リトルガーデン付近の海上

 

 バギー海賊団がリトルガーデンに上陸して数分、その近海を航海する海賊船が()()あった。一つは交差する剣と左目の三本の傷が特徴のドクロの海賊旗の船。その甲板にいるのは赤い髪の男、そして一回り歳上に見えるタバコを加えた男、その他にも部下らしき男達が複数いるが中心人物はこの二人のようだ。

 

「お頭、もうすぐ到着するようだ」

 

「ああ、そうみたいだな」

 

 

赤髪海賊団船長“赤髪(あかがみ)のシャンクス”懸賞金1億4890万ベリー

 

 

 

赤髪海賊団副船長“ベン・ベックマン”懸賞金1億2000万ベリー

 

 

 巷でも噂のルーキー、赤髪のシャンクスとその右腕であるベン・ベックマン。彼らはとある目的のために偉大なる航路を逆走していた。そして道中、近くにリトルガーデンがあるという情報を聞きつけたシャンクスの提案によってリトルガーデンに向かっていた。

 

「しかしお頭、寄り道してまで何故あの島に?」

 

「ああ、知り合いがいるんだ。昔世話になった恩人がな」

 

 部下の一人の問いかけに、シャンクスは懐かしそうに微笑み答えた。それを聞いた部下達は疑問符を浮かべる。目の前に見えてきている島はジャングルで覆われていて、とても人が住んでいるとは思えない。だがベン・ベックマンだけは彼の目的を悟ったのか無言を貫いている。

 

「お頭大変だ!あの島に海賊船が停まってる!」

 

 部下の報告にその方角を見ると、確かに海賊団が一隻停泊しているようだ。だがシャンクスは大して動揺もせずにその海賊船をじっと眺め、そしてあることに気づいたのか笑みを浮かべた。

 

「お前も来てるのか……バギー!」

 

 懐かしい旧友の顔を思い出し、嬉々として彼は上陸の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 そして赤髪海賊団の船よりももう少し離れた海上、そこにももう一隻リトルガーデンを目指す船があった。その船の海賊旗は二角帽を被り強いバーマをかけたドクロ。その背景に銃の片方がカールがかった棒のようなものが交差していてさらに木が生えているという特徴的なデザインをしている。船体はホールケーキを模したようなデザインをしている。だが最大の特徴、それは船首が歌っていること。

 その大きさはビッグトップ号の倍以上、だがこれでも本船ではない。何故ならこの船に乗っているのは船長ではなくただの幹部にすぎない。だがそれでも実力は折り紙付き、そこらの海賊では相手にもなれない猛者中の猛者だった。

 

「……何故俺がわざわざ来なければならない」

 

 そう不満そうにため息をつくのは身長3mを超える大男、口元をファーで隠しているのが特徴だった。

 

「リトルガーデンには珍しい生きた恐竜が多く生息しており、ママはそれらをご所望です。……しかし」

 

「……巨兵海賊団か……」

 

「……!?は、はい!!その通りです」

 

 部下の一人が説明する、が途中で言おうとしたことを言い当てられ驚き、肯定する。話の続きを予想した訳ではない、わかっていたのだ。見聞色の覇気で未来を見る、覇気を極めた者でも容易に辿り着くことの出来ない境地に彼は達していた。

 

 

ビッグマム海賊団幹部 シャーロット家次男“シャーロット・カタクリ”懸賞金4億5700万ベリー

 

 

「“青鬼のドリー”に“赤鬼のブロギー”か……確かに俺でなければ手こずる可能性はあるか」

 

 彼の母親であり船長でもあるビッグマム──シャーロット・リンリンは幼少期の出来事がきっかけで巨人族とは犬猿の中だった。その証拠に彼らのナワバリである万国(トットランド)には様々な種族が住んでいるのにも関わらず巨人族がいなかった。それゆえ息子であるカタクリも巨人族には思うところがある様子だった。

 

「それとカタクリ様、もう一つお伝えすることが。この近辺にどうやら以前ママに喧嘩を売った“赤髪のシャンクス”がいるようでして」

 

「あのガキか……見つけたら手を出さずに俺に知らせろ、お前達では手を焼くだろう」

 

 赤髪のシャンクスはルーキーとはいえ億越えに恥じない実力はある、部下達では手に負えないだろうとカタクリは判断する。とはいえ所詮はその程度、自分の足元にも及ばないとも考えていた。

 

「カタクリ様、もうまもなくリトルガーデンに到着致します」

 

「……そうか。全員、戦闘準備だけは整えておけ」

 

 バギー海賊団、赤髪海賊団、そしてビッグマム海賊団。近い将来大海賊時代の中核を担うであろう三つの海賊団の初邂逅、それは怪物の住むリトルガーデンにて人知れず行われようとしていた。

 

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