古代の恐竜や凶暴な生物が大量に生息する危険な島、その中心に位置する真ん中山と呼ばれる火山。その噴火がある男達の決闘の合図だった。今日も今日とて真ん中山は噴火し、決闘の火花を散らす。
「……!合図だ、さあ行くぞブロギー!!」
「ああ、今日こそ決着をつけてやるドリー!!」
宴会の最中、楽しく酒を飲んでいてもそれは変わらない、何があろうと噴火が起これば死闘が始まる。それが彼らが自分達に課したルールであり、80年変わらぬ決意だった。
「ま〜だ決闘続けてんのか、いい加減死んじまうぞ」
「男の勝負なんだ、死ぬ死なないの問題じゃないんだよ」
唯一普段と違うこと、それは見届け人がいることだ。バギーとシャンクス、ロジャー海賊団見習い時代から彼らのことを知っている二人がそれぞれ感想をこぼす。
「何をするつもりだガネ……?」
「……ちょっと離れてた方がいいかもね」
「は?……それはどういう──」
何が起こるのか察知したミズキがギャルディーノや部下達に離れているように指示を出す。部下達はその意味がわからず困惑するが指示通り距離をとるべく移動する。
「いくぞぉぉぉぉ!!」
「うぉぉぉぉおお!!」
ドリーの剣とブロギーの斧が激突する。それはまさしく一撃必殺。一発当たれば島もえぐる、かつて世界を震撼させた最恐の海賊によって放たれるその一撃同士のぶつかり合いは風圧を受けるだけで木が折れ岩が削れる。
「うぎゃあああああ!?死んじまうぞこれ!!?」
「っっっ!?……相変わらずやべぇパワーだな」
「い、一体なんのためにこんなことを……!?」
「理由などとうに忘れた!!!」
一撃、また一撃と両者がぶつかり合う度にその衝撃が島を揺らす。その迫力に本来この島の生態系の頂点に君臨するはずの恐竜達も怯え逃げ出す。
「……でっけぇなァ。俺もいつかあんな男に……」
「……はっ、理由もなしに80年も戦い続けるなんて理解できないぜ」
全攻撃がお互いの急所を狙った苛烈な戦いを80年以上も己の誇りのために続ける。それに憧れる者や理解できずに吐き捨てる者など反応は様々だが、全員がその戦いに釘付けになり見入っていた。ベックマンやミズキでさえもそうだ。
それ故だろう、誰一人気づいていなかった。この島に上陸したのが自分達だけではないことを。
「これで終わりだァ!!」
「おおおおおおお!!」
互いにこれが最後だと認識し放たれた一撃。今までの中でも最強の攻撃で勝負をつけようと渾身の一撃を放つ。それはさすがの彼らでもノーダメージで受けられるものではなく、両者は血を吐き地面に倒れ伏した。何万回目かの引き分け、その結果で決闘は幕を下ろした。その時──
「鳥モチ!!」
「……!?なんだこれは!?」
「くっついて離れねぇ!?」
突然、空から餅のように粘着性のある網が降ってきて二人を拘束してしまった。ドリーとブロギーは抜け出そうともがくが戦いの疲労と倒れた体勢で力が入りずらく抜け出せない。
「自分達で潰しあってくれるとはな……こちらからしたらありがたいが、その体勢じゃ力も入らねぇだろう?青鬼のドリー、赤鬼のブロギー」
「……!!?あいつは……!?」
現れたのはあずき色の髪の4mはあるだろう長身の大男。ロジャーの死後、新世界に君臨する4人の皇帝達。その一角を担うビッグ・マム海賊団幹部、シャーロット家の最高傑作とまで呼ばれる懸賞金4億越えの怪物。
「ビッグ・マム海賊団……シャーロット……カタクリ」
「……!?ビッグ・マムって……あの四皇の!?」
「なんで四皇の幹部がこんなところに!?」
ベックマンが現れた男の名を呟く。それを聞いた者達は全員驚愕し四皇、ビッグ・マムという名に戦慄する。それもそのはず、知らぬ者はほとんどいない新世界の大海賊、四皇の部下がこんな偉大なる航路の前半にいることは異常だ。
「ママに刃向かった赤髪のガキもいるとは……都合がいいな」
「……ああそうか、俺達ビッグマムに喧嘩売ってたんだった」
「おめぇのせいかよ馬鹿シャンクス!!四皇に喧嘩売るとか正気か!?」
1年と数ヶ月前、海賊になって数ヶ月でビッグ・マム傘下の船を沈めたのがシャンクスが名を上げる原因となった事件だ。それ以来シャンクス率いる赤髪海賊団はビッグ・マムの追っ手を何度か返り討ちにした。しかしそれは追っ手の実力が高くなかったから。いくら四皇といえど海へ出て数ヶ月のルーキーに幹部を送れるほど余裕がある訳ではない。だが今回は、いつもの追っ手とはレベルが違った。
「……なんだあいつは」
「……は、はい!!ええと…………ありました!!バギー海賊団、最近偉大なる航路に入ったルーキーです!あの赤い鼻の男が船長の道化のバギー、懸賞金は6500万ベリー。そして副船長狩魔女ミズキは6100万ベリーの賞金首です」
「6500万と6100万か、ルーキーにしては上等だな」
部下の男から情報を聞くと、カタクリは嘲笑うかのように鼻を鳴らした。確かにルーキーにしてはそこそこだ。が、所詮それだけ。この場にいて仮に赤髪に助力したとしても到底自分に適うはずがない。
「で、ビッグ・マム海賊団の幹部が俺達に何の用だ?」
「決まっているだろう。ママに楯突いてこの海で生きられると思うなよ」
「へぇ、幹部を送り込んでくるなんてビッグ・マムも意外と小心者だな」
「図に乗るな弱小海賊。この島に来たのは別件、お前達はそのついでだ」
「ついでなら見逃してくれるとありがたいんだけどな」
「言ったはずだ、ママに楯突いて……この海で生きられると思うな!!」
「……!!?ッッッ!?」
カタクリが覇気を込めた拳を振り上げ、モチモチの能力で伸ばしてシャンクスを殴りつける。
そしてシャンクスも剣に覇気を込めて迎え撃つ。
『……!!?』
その瞬間、二人を中心に黒い稲妻のような衝撃が駆け抜けその場にいた実力が低い者達は次々と意識を失っていった。
「……あれは!?ママやカタクリ様と同じ!?」
「……お前も覇王色か、赤髪。……だが!!」
「!?……クソッッッ!?」
覇王色の衝突、それ自体は互角に見える。が、単純な筋力、武装色の覇気の差で優位なのはやはりカタクリ。シャンクスは弾かれ、後退し呻き声をあげる。
「くっ、やっぱり1対1じゃ不利か。よしバギー、協力して戦おう!」
「戦うか!!!なんで俺様がてめぇらのいざこざに巻き込まれなきゃいけねぇんだよ!!四皇の幹部相手なんて命がいくつあっても足りねぇよ!!逃げんだよ!!一刻も早くな!!」
「逃げるって言ったってお前……どこへだ?この島はログが貯まるのに1年かかるんだぞ?その間ずっとあいつらから逃げ続けるのか?」
そう、このリトルガーデンはログが貯まるのに約1年の時間を要する。この島から生きて出られる海賊が少ないのはそういった理由もあるのだ。そしてそれはこの状況では死活問題だ。
「ただ偶然なことに俺達は
「うぐっ……てめぇ……ロクな死に方しねぇぞ」
「決まりだな。それじゃ……!?避けろバギー!!」
「は?……ぎゃああああああ!!」
「俺を前にして無駄話している余裕があるのか?」
モチモチの能力で脚を無数に増やしさらに武装色を纏わせたカタクリのかかと落とし、それを事前に察知したシャンクスはバギーを蹴飛ばし自らも回避する。
「何人いようが同じだ。お前達が死ぬ未来に変わりはない……!!」
「……そうでもないかもよ」
カタクリの背後で雷が鳴り響く、それはミズキが魔法で繰り出した雷の攻撃。意識の範囲外からの不意打ち、並の相手ならば間違いなく当たっていただろう。だが攻撃はカタクリの身体をすり抜け、地面に着弾した。
「……行儀が悪いな」
「すり抜けた……?どういう能力だ?」
「
攻撃が身体をすり抜けた、その事実にシャンクスは驚き、ベックマンは自然系の能力者かと考察するがどこかに違和感を感じ答えを出しきれない。
「……無駄だ、お前達では俺に傷一つつけることはできない」
「試してみるか?」
今度はベックマンの拳銃が火を噴く。武装色の覇気を込めた弾丸、自然系の能力者といえどこれを受け流すことはできない。武装色の覇気は自然系能力者への数少ない対抗手段だ。しかしこれもカタクリの身体をすり抜け周りの木々を撃ち抜いた。
「……覇気で撃っても当たらねぇのか」
「じゃあこれならどうだ!」
連撃、シャンクスが続け様に武装色の覇気を纏とわせた斬撃をカタクリに繰り出す。だがこれもカタクリの身体をとらえるには至らなかった。ここまでの流れで彼らは確信する、カタクリの能力は自然系ではない。少なくとも自然系のように武装色の覇気で対策できるものではないと。
「無駄だと言っているだろう……角モチ!!」
「……お頭!!」
能力で腕を角餅のように硬化させさらに武装色の覇気を纏ったパンチ。その威力は凄まじく、咄嗟に覇気で防御したシャンクスは地面に叩きつけられ泥にまみれながら派手に転がった。
シャーロット家次男、シャーロット・カタクリ。生まれてこの方一度も地面に背をつけたことがない超人。さらにビッグ・マムがロックス海賊団から独立して以来、一度も敗北を経験したことのない“無敗の男”。「いつも気高く冷静で強くすべてが完璧な人間」と彼を慕う弟妹達から評されている。
故に──
「……今度は衝撃波か……面白い能力だ」
「……!?……
彼に攻撃を当てるのは至難の業だ。例えそれがいかに優れた不意打ちであろうと、未知の能力であろうと、彼の研ぎ澄まされた、未来視の領域にまで達した見聞色の覇気はすべてを見抜く。
「なんの能力か知らねぇが……俺には小細工など通用しないぞ」
「そう……だったらこれなら──がはッッ!?」
衝撃波をすべてかわされ、ならばと広範囲にダメージを与えられる炎の魔法を使おうとするミズキ。だがそれをわかっていたかのようにミズキの行動より先にカタクリの攻撃が飛んでくる。
「……焼モチ!!……おい狩魔女、言っておくが俺はお前らを舐めちゃいねぇぞ。悠長に攻撃している暇があると思っているならばそれは間違いだ」
武装色の覇気を纏わせることで摩擦熱で発火するカタクリの拳。モチモチの能力で拳だけを発射することで飛び道具としても使える強力な技だ。それをモロにくらったミズキは後方に派手に吹き飛び木に何度も激突してから地面に倒れた。
「……ミズキ!!」
「…………!?見聞色の未来視か……噂には聞いていたが……実際に使う奴は初めて見た」
そう言ってベックマンはまた数発カタクリに向かって鉛玉を撃ち込むが、何度やっても結果は変わらない。ベックマンの見聞色も決して弱くはない。海へ出て数年のルーキーにしてはよく鍛え上げられているとカタクリも素直に認めるほどだ。だがルーキーにしては、だ。カタクリの見聞色には到底及ばない、それはこの場にいる3人に共通して言えることだった。
「そろそろ鬱陶しいな……柳モチ!!」
「……!?ぎゃああああああ!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!?」
「……お前少し黙ってろ……!?ぐああ!?」
能力で増やした脚を武装硬化させ放たれる何発ものかかと落とし。逃げ惑い叫ぶバギーだがすべて避けきっているのは彼の悪運と逃げ足の速さからなせる技か。ベックマンはそんなバギーに呆れツッコミを入れるが彼の見聞色を上回る攻撃をくらってしまい痛みに悶える。
「他人を気にしている場合か?ベン・ベックマン……角モチ!!」
硬化した拳でベックマンを殴り飛ばす。武装色の防御を物ともせず彼に大ダメージを与え、十数mにもわたって吹き飛ばした。
「……後はあの赤っ鼻だけか……うん?」
シャンクス、ベックマン、ミズキ。3人を倒し後はバギーにトドメを刺すだけだ。だがカタクリが周囲を見渡すとさっきまで無様に逃げ回っていたはずのバギーの姿がどこにもなかった。部下を見捨てて一人だけ船で逃げようとしているのか、はたまた何か策でもあるのか。どちらでもいいがこのまま逃げられたら自分のプライドに傷がつく、そう考えカタクリはバギーを追おうとするが、彼の前にある男が一人フラフラと立ち上がった。
「……まだ動けるのか」
「……ハァ……ハァ……この程度でやられるほど……ヤワな鍛え方はしてないんでね」
息も絶え絶えになんとか立ち上がるシャンクス。先程のカタクリとの激突、角モチによるパンチ、さらにベックマンに放った柳モチの巻き添えもくらっていたはず。自身の攻撃をそれだけくらって立ち上がる耐久力と精神力、それだけはカタクリも認めざるを得なかった。
「……『こんなところで死ぬ気はない』とお前は言うが、遺言はそれくらいでいいか?」
「こんなところで……死ぬ気はねぇよ!!!」
シャンクスの返答にカタクリは彼を敵と認め、体内から能力で収納していた三叉槍、“土竜”を取り出した。それに武装色を纏わせ、構える。シャンクスもまた剣を武装硬化させ、迎え撃つ姿勢をとる。そして次の瞬間、再び赤黒い雷がリトルガーデンの地を揺らすのだった。