偉大なる航路の前半に位置するその島では今、後に語り継がれる戦いが繰り広げられていた。赤髪海賊団とバギー海賊団vsビッグ・マム海賊団幹部シャーロット・カタクリ。赤髪とバギー陣営からは“赤髪のシャンクス” “ベン・ベックマン” “狩魔女ミズキ”。ビッグ・マム海賊団からはシャーロット・カタクリが島の中心部で戦闘を続けているが、やはり四皇の海賊団の力は圧倒的で勝負はカタクリが終始優位に立って進んでいた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「……ふん」
シャンクスの剣とカタクリの三叉槍がぶつかり合う。覇王色の覇気を持つ者同士、激突する度に周囲に赤黒い雷を轟かせ生半可な実力を持つ者では近付くことすらできない。
「モチ突!!」
「……!?ぐああ……!!」
三叉槍“土竜”を構えた手を餅化させ、強く捻じらせてドリルの如き高速回転を伴う強烈な槍の突き。それを剣で受け止めるシャンクスだが衝撃を完全に受け流すことができず弾き飛ばされる。
「……威勢よく啖呵を切ったはいいが、どうやって俺に勝つつもりだ?」
圧倒的な実力の差、それは意志の強さで埋まるようなものではない。例えどれだけ強い信念を持っていたとしてもどうにもならないことが世の中にはいくらでもある。だがそれでも、シャンクスは挑むことをやめない。こんなところで死ぬ気はサラサラないし、ここで勝てないような自分が大海賊になれるはずがないと自分に言い聞かせ、立ち上がる。
「……ハァ……ハァ……お前に勝つ方法なんて俺は知らねぇ。だけどな、こんなところで負けるわけにはいかないんだ!!」
「……理解できないな、何故勝ち目のない戦いにそこまで熱くなれる」
再び立ち上がり、自分に戦意を向けてくるシャンクスにカタクリは苛立ちを募らせる。何故そこまでボロボロになりながらも戦うのかと。
「……だがお前の仲間達は長くはもたない。俺の部下、特にチェス戎兵達は弱くないぞ」
「……へ、あいつらはそう簡単に死なねぇよ」
カタクリが連れてきた部下達はいわゆる幹部という訳でもないただの雑兵。それでも四皇の一味となれば個々の戦闘力はそれなりに高い。特に船長のビッグ・マムの能力で魂を分け与えられたチェス戎兵達はそこらの海賊では太刀打ちできないほどに強い。しかしそれでもシャンクスの目は曇らない、仲間達の無事を信じて疑わなかった。あいつらは必ず生き延びる、ならばここでこいつを倒すのが自分の役目だと自らを鼓舞し再びカタクリに向かっていく。
「……!?……お前もまだ息があったか」
「ち、この不意打ちなら当たってくれると思ったがな……」
銃弾が数発、カタクリの身体をすり抜ける。撃ったのはベン・ベックマン、まだ動けることにカタクリは驚きつつも冷静さは失わずさらに撃ち込まれる銃弾を回避する。
だがそれだけでは終わらない、続け様に雷がカタクリに降り注ぐ。彼は後退しそれを回避し、攻撃を放った張本人を睨みつける。
「……お前もか、どいつもこいつも鬱陶しい」
「……やっぱり当たってくれない……面倒だね」
血を流しながらも上空に浮かびながら雷を放ったのはミズキ。吹き飛ばしたはずの二人が戻ってきて再びカタクリに相対する。
「
ミズキはこのままでは埒が明かないと判断し、両手にピンク色の光を宿すとそれをシャンクスとベックマンに投げ与える。その光は二人の身体の中に吸い込まれていき、彼らの身体にほのかにピンク色のオーラを纏うように変化した。
「……!?これは……?」
「……!!力がみなぎってくる……」
身体の奥底から湧き上がってくる熱さに疑問を抱きつつも、シャンクスは剣を構えカタクリに切りかかる。土竜で迎え撃つカタクリだが、ぶつかり合った瞬間に違和感に気づいた。シャンクスの力が先程よりも強くなっていることに。そしてそれを裏付けるようにさっきまではカタクリに軍配が上がっていた両者の衝突だが今回は長い間拮抗した。
「……なんだと!?」
「……ぐぉぉぉぉ!!」
覇王色を撒き散らしながら激突する両者、だがやはりまだカタクリに分があるようで弾かれたのはシャンクスだった。
「狩魔女、何をしたんだ?」
「……ボクの魔法で二人の身体能力を強化した。さっきより力が出てくるでしょ?」
「ああ、ありがたい」
僅かな希望を抱き、シャンクスがカタクリを見据えながら感謝を述べる。無論まだ一人ではカタクリに届き得ないが、3人がかりなら勝ち目も十分にあると。
「あまり調子に乗るんじゃないぞ。少し力が上がったからといって俺に勝てる理由にはならねぇ」
「そうか?じゃあ試してみるか!!」
カタクリが能力で硬化させた拳を振り下ろし、シャンクスはそれに剣で対抗する。ベックマンとミズキはそれぞれ銃と魔法でそれを援護し、隙を見て攻撃を当てようとする。
「……不覚だなドリー、決闘の隙を突かれて拘束されるなど」
「ああ、エルバフの戦士として恥ずかしい。だが今は彼らに託すしかないだろう」
4人が死闘を繰り広げるのを少し遠くから眺めるドリーとブロギー、カタクリの餅による拘束から抜け出そうともがくがやはり力の入らない体勢ではそれも厳しい。故に今はシャンクス達の勝利を信じる他ない。ロジャーの意思を継ぎ、次世代を担う若き海賊達を。
シャンクス達がカタクリと死闘を演じている頃、彼らを除く赤髪海賊団とバギー海賊団はカタクリの部下であるチェス戎兵達やビッグ・マム海賊団の雑兵達と乱戦を繰り広げていた。
「……ハァ……クソ!どうなってる?こいつら雑魚じゃねぇのか!?」
「ビッグ・マムのところの兵士だ!他の海賊団とは格が違う!」
「も、もう嫌だガネ……!何故私がこんな目に……」
「グダグダ言うなギャルディーノ!バギーとミズキが戻ってくるまで持ちこたえろ!」
赤髪海賊団は決して弱くはない。海賊団としての規模は小さくとも、シャンクスやベックマンといった主力を除いたとしても個々の実力はそれなりに高くそこらの海賊団の雑兵には負けないといった自負もある。バギー海賊団の方も部下達の実力はそれほど高くないとはいえガイモンやギャルディーノは懸賞金がかけられているだけあってそれなりに強い。しかしそれでも四皇の一味を相手取るには力不足もいいところだ。実際にカタクリが連れてきたほんのひと握りの兵士達に苦戦を強いられている。それほど四皇の勢力というのは層が厚く恐ろしいのだ。
「はは!お前ら弱小海賊ではどうしようもない!今頃赤髪も道化もカタクリ様に殺されてるさ!」
「……!?うちの船長はあんな野郎には負けねぇ!舐めんな!」
「そうだ!キャプテンバギーが負けるはずねぇ!」
二つの海賊団は船長の勝利を信じ、戦い続ける。赤髪海賊団はシャンクスとベックマンを、バギー海賊団はバギーとミズキを、それぞれの船長と副船長が必ず勝つと確信しそれまで耐えるのだと奮闘する。
──だがそのうちの一人、バギーは戦うことなくジャングルの中を逃げ惑っている。四皇の幹部には例え複数人がかりであっても勝てるはずがない。ログが貯まらずとも船を出して運良く次の島に辿り着くか別の船に遭遇する可能性にかけた方がまだ助かるかもしれないと考え、一心不乱に船を目指す。
「ふざけんじゃねぇよシャンクスの野郎……四皇に喧嘩売るなんて正気じゃねぇ。今海に出ても漂流するのは確実だが……このままこの島にいたら殺されちまうからな。悪く思うんじゃねえぞ」
正直ミズキや仲間達を置いて逃げるのには抵抗がないわけではないし罪悪感もある。シャンクスにも悪態をついてはいるが昔馴染みとして何も思わないということはない。が、それはそれだ。自分の命には替えられない。例えどれだけの名声や財宝を手に入れたとしても死んでしまっては元も子もない。それをロジャー海賊団時代に痛いほど理解したバギーは若干の心苦しさこそあるものの振り返ることなく船を目指していた。
「近くを船でも通ってくれればいいんだが、……待てよ、シャンクスの奴
顎を撫でながらあれこれ考えていた時。ふと目の前に影がよぎった、何事かと思ったバギーが視線を前に戻すとそこには最初に出会ったものより一回り大きいトリケラトプスがこちらをじっと見つめていた。
「なんだおめぇ……俺は今急いでるんだ。そこをどけ……?おめぇどこ見てやがんだ?」
話など通じるとは思えないが一応話しかけるバギーを無視して、トリケラトプスは何故かバギーの顔のある一点をじっと見つめている。そこはバギーのトレードマークである真っ赤な丸い鼻だった。
「……おめぇまさか、俺様の鼻を木の実かなんかと勘違いしてんじゃねぇか?」
バギーがそういった瞬間、トリケラトプスが大きな口を開けてバギーの鼻に噛み付いた。鼻を思い切り噛まれたバギーは痛みに悶えて悲鳴を上げる。
「〜〜〜〜!?いってぇ!!なにしやがんだハデバカ野郎!!」
無理やり鼻を口から引き抜き、トリケラトプスの鼻をお返しと言わんばかりにどつく。しかしそれはトリケラトプスの怒りを買っただけだった。トリケラトプスは目を鋭くし吠えたかと思うとフリルを高速回転させバギーに突撃、角でバギーをかっさらうとそのまま上空へと飛び出した。
「ぎゃああああああ!?てめぇなにしやがんだ!!降ろしやがれ!!」
叫ぶバギーなど無視してトリケラトプスはどんどんと空高く上昇していく。そして地面の木々が米粒ほどの大きさになったところでトリケラトプスは首を振るい、バギーを地面へと落下させた。
「ああああ〜〜〜〜!?死ぬ死ぬ死んじまう!!クソォあのトリケラ野郎覚えてやがれ〜〜〜〜!!」
悪態をつくがどれだけ罵倒したところで危険に変わりはない。バギーは能力で飛ぶことができるがそれは足が地面についている時だけ、突然のことでそんな余裕もなかったのでバギーは無抵抗なままどんどん地面へと近付いていく。しかも落下地点がまずかった。そこはシャンクス達とカタクリが戦っている場所の真上、さらに目の前の敵に集中している彼らは見聞色の覇気をすべて敵に向けている。つまり誰も彼が落下してくることに気づかない。そしてバギーが着地したその場所は、
「〜〜ッッ!?いってぇ…………今のはさすがに死ぬかと思ったぜ……ん?」
着地する直前、バギーは何かを掴み衝撃を和らげようとした。その掴んだものがなんなのか、バギーは未だ手に持つそれを見る。それはカタクリが肌身離さず身につけているファー。そしてカタクリが絶対に他人に見せることがないある場所を隠すためのものだった。
「……!!見たな……俺の……口を!!」
バギーが落下のどさくさで掴んだもの、それはカタクリが自らのコンプレックスである口元を隠すためのファーだった。顕になったカタクリの口は裂けた頬が縫われており、口からは鬼のように禍々しい牙が生えている。
「……!?バギー!?お前何やってんだ!!」
「……バカなのかあいつは」
シャンクスとベックマンはいきなり降ってきたバギーに呆れるが、明らかに怒り眉間に皺を寄せているカタクリを見てすぐに気を引き締めそれぞれの武器を構えた。
「……よくもやってくれたな……俺の口を見た奴は……生かしちゃおかねぇ!!」
「……ぎゃああああああ!!?」
拳にありったけの武装色の覇気を込め怒りのままにバギーを殺そうとする。だがそれがバギーに当たることはなかった。
「……てめぇ!!」
「これでも船長だからね…………ッッ!?手を出さないで……」
バギーに向けられた拳を間一髪短剣でミズキが止めた。短剣の刃部分は黒く変色しており武装色の覇気を纏わせていることがわかる。土壇場の付け焼き刃だが、なんとか一瞬カタクリの拳を止めることに成功した。だがやはり衝撃は大きいのか怯みながらも、痺れる手でなんとか剣を握ってバギーが逃げる時間を稼いだ。
「心配するな、あの赤っ鼻だけじゃねえ……俺の秘密を知ったお前らも……皆殺しだ!!」
「……そこまで怒る程じゃないと思うけど……殺されるのはごめんだね」
両手に電撃が走るほどの武装色の覇気を纏わせて宣言するカタクリ。それに対してミズキ達はそれぞれ武器を構え戦闘再開に備える。そしてバギーは、腰が抜けて動けなくなっていた。