「角モチ!!」
「……ぎゃああああああ!!?」
武装硬化させた腕でバギーを狙い、拳を振るうカタクリ。だが間一髪、ミズキがバギーを蹴り飛ばしたことで難を逃れ、バギーは地面に鼻から激突した。
「ぶへぇ!!?……てめぇミズキこら!!助けるんならもっと優しく助けろ!!」
「……文句言わないで、ボクだって余裕があるわけじゃないんだから」
実際、バギーを庇いながらカタクリと戦うのは不可能だ。そもそもの実力差がある上にブチ切れているカタクリはバギーばかりを執拗に狙っている。だがバギーが船長である以上殺させるわけにもいかないのだ。故にミズキは苦戦を強いられることになる。
「おい待てって!!お前の秘密は口が裂けても言いふらしたりしねぇよ!!だから見逃してくれ!!」
「ああ!?誰の口が裂けてるって!?俺に赤っ恥かかせた時点でお前の死は確定してるんだよ!!」
「誰が赤っ鼻だ!?てめぇ四皇の幹部だからってふんぞり返ってると痛てぇ目にあうぞ!!」
「……会話が噛み合ってないんだが」
「なに見せられてんだ?俺達……」
カタクリとバギーのやり取りを見て、シャンクスとベックマンは呆れて思わずため息なんかをついてしまう。だが気を抜いてもいられない状況だ、何故ならカタクリの怒りの矛先は彼らにも向いているのだから。
「てめぇらもだ!!いつまでも俺とまともにやりあえると思ってんじゃねぇ!!」
能力で増やされた手足がシャンクスとベックマンに襲いかかる。それを左右に飛び退くことでかわした二人だが、そこで僅かに違和感を感じた。
「……?」
「……まさか」
さっきよりほんの少しではあるがかわしやすくなっている。つまりカタクリの攻撃の精度が落ちているのだ。
「……もしそうなら」
ある可能性を考えたベックマンは回避した体勢から拳銃でカタクリを撃ち抜く。本来なら当たるはずのない、単純な狙撃だ。だが銃弾はカタクリの左肩をかすり出血させ、僅かにカタクリは顔を歪めた。
「当たった!?なんでだ!?」
「やはりそういうことか……お頭!狩魔女!3人で同時に攻撃するぞ!」
攻撃が当たったことに疑問符を浮かべるシャンクスだが、ベックマンの指示を聞くとすぐさま剣を構えた。そしてミズキもベックマンの意図を理解し、背中から短剣を引き抜きカタクリに向ける。
「少し当たったがどうした!!」
血管が浮き出る程に怒り、カタクリが怒気を込めた拳をシャンクスに振りかざす。だがシャンクスはそれをギリギリのタイミングで回避し、逆に剣でカタクリの腹に斬撃を入れた。
「ぐぅ……!?」
今度はさすがのカタクリも口から血を吐き、呻き声を漏らす。これを好機と捉えたベックマンが合図を出し、シャンクスが剣で、ベックマンが銃で、そしてミズキが衝撃波でカタクリを追撃する。
「……!!?」
それらをもろにくらい、後方へ激しく吹き飛ばされる。身体を変化させ回避しようとしたがもう手遅れだった。地面に頭が激突し、反動を利用して即座に体勢を立て直す。
「どういうことだ?なんでいきなり当たるようになったんだ?」
「……奴に攻撃が当たらなかったのは奴の見聞色が原因だ。
攻撃が通ったことに疑問符を浮かべるシャンクス。そんな彼に一味の頭脳であるベックマンが説明した。カタクリのモチモチの能力は自然系ではない、故に本来は攻撃を無効化することはできないはずだ。しかしカタクリは優れた見聞色の覇気で未来を読み、攻撃が来る箇所を変形させることで回避していたのだ。傍から見れば攻撃がすり抜けたように見えるが、実際はカタクリの意思で避けていただけだ。
「……バギーが怒らせたから冷静さを欠いて見聞色の覇気が発動しなかったってことだね」
「ああ、勝負を決めるなら奴がキレている今しかない」
攻撃を仕掛けるなら今だと、ベックマンは判断する。この機を逃して冷静さを取り戻してしまえば今度こそ勝ち目はないと。だがそんな彼の考えも打ち砕かれることになる。
「……見破っただけ大したものだ」
頭から血を流してはいるものの、未だ健在のカタクリは地面に落ちているファーを回収し再び自らの口を隠すように巻く。そして静かに言った。
「その通り、俺は能力で効率良く避けているだけ。覇気で未来を視れば可能だ」
「ち、もう落ち着きやがったか」
「二度と隙は見せねぇ……これで振り出しだな」
自ら頭を打つことで冷静さを取り戻したカタクリは拳を構え、威圧する。ダメージは受けたが、戦闘不能になるほどではない。そして冷静になった今、彼にこれ以上攻撃が当たることもない。
そんなカタクリを見て、もしかして勝てるんじゃないかと希望を抱いていたバギーはそそくさとその場を立ち去ろうとする。しかしベックマンが彼の服の襟を掴み、止めた。
「まぁ待てや。ここまで一緒に戦ったんだ……最後まで奴に立ち向かおうじゃねぇか」
「うぉ!?離しやがれ!!やっぱ四皇の幹部になんて勝てるわけなかったんだ!!ぶへぇ!?」
じたばたと暴れるバギーの頭をどついて黙らせる。そんな彼を片手で掴みながらもベックマンはカタクリを睨みつける。シャンクスとミズキもそれぞれ武器を構え戦闘再開に備える。だが状況は悪い、何かしらの打開策がなければ勝つことはできないだろう。そんな時、ミズキの頭の中に一つの考えがよぎった。
「……そうだ、……なんで今まで気づかなかったんだろう」
「……!?……何をしている?」
その後のミズキの行動をカタクリは未来を視て先読みする。が、その行動の意味が理解できずに困惑した。そんな彼をよそにミズキは剣を構え、そして魔法を発動する。
「
氷と炎の二種の魔法、ミズキはそれをカタクリではなく地面に拘束されているドリーとブロギーに放った。まずは氷の魔法が二人を氷漬けの氷像に変え、そして炎がそれを包み込み燃え盛る。
「……!?何してんだお前!?」
「ついに頭おかしくなったのか!?」
その到底理解できないような行動にシャンクスとバギーも驚愕する。カタクリも冷静さを取り戻した今そんな意味不明なことをしている場合ではないと。だがそのカタクリは覇気で何かを視たのか顔を青ざめさせ、その場から飛び退き後退した。その彼の判断は正しかった。次の瞬間地面をえぐるような斬撃が彼を襲う。
『
国一つ消し飛ばしてしまうと思うほどの巨大な斬撃。それはリトルガーデンの地面をえぐりその先の海を割り、他の島まで到達したという。そしてそれを放った二人。最強の巨人族が覇気を撒き散らしながら現れた。
「感謝するぞ人間の娘……いや小僧か、ややこしいな……まぁいい、これで思う存分暴れられる」
「餅のチビ人間、覚悟しろよ。エルバフ最強の槍を見せてくれるわ」
ドリーとブロギー、かつて世界を震撼させた巨兵海賊団にして世界最強の巨人族。カタクリですら正面戦闘では勝ち目がないと判断し不意打ちで拘束するしかなかった程の化け物。彼らの一撃を目の当たりにしたカタクリは冷や汗を流した。当たっていれば間違いなく即死だったと。
「貴様……!!さっきのはこの二人を解放するために……!!」
「……君の餅は水が弱点なんでしょ?ボクは水の魔法は使えないからちょっと手荒になっちゃったけど」
ミズキの能力はあらゆる魔法を使うことができる、しかし悪魔の実の能力者は海に嫌われるからか唯一水に関連する魔法だけは使えない。故に氷を出してからそれを炎で溶かすという二度手間をとる必要があるのだ。しかしその甲斐あって二人を拘束から解放することに成功した。
「……さすがに分が悪いな……。ここは引くとするか」
何故かはわからないが自分の弱点を見破られたこと、少なからずダメージを受けているこの状況でドリーとブロギーの相手は厳しいこと、そして主目的である恐竜は既に捕獲済みなことを鑑みてカタクリは撤退を選んだ。
「おい!逃げるのか!?」
「深追いするなお頭!こっちもダメージが深いんだぞ!」
撤退するカタクリを追おうとするシャンクス。しかしそれをベックマンが諌めた。こちらもダメージが大きい以上深追いすれば被害が大きくなるだけだと。それにカタクリの部下と戦っている仲間達のことも気がかりだった。
「……ハァ……なんとか追い返せたね」
「ん?ぎゃははははは!!逃げんのか?口ほどにもないな!!」
「……君は何もしてないでしょ」
さすがにダメージがあるのかミズキは地面に座り込んでため息をつく。そして隣ではしゃぐバギーを見て再び深くため息をついた。
「……おいシャンクス!奴を追い返したんだからとっとと
「ああ、そうだな。そういやそういう約束だったか。俺達の船にいくつか置いてある。好きなのを持って行っていいぞ」
「……図々しい奴だな……お頭、どうした?」
調子のいいバギーにベックマンは呆れるが、そんな彼を物静かに見つめるシャンクスが気になり声をかける。
「……俺達だけじゃカタクリを倒せなかった。バギー達がいなかったら今頃俺達は全滅してたはずだ」
「……そうだな、確かに今回はあいつらに助けられた。認めたくはないが」
静かに呟いて拳を握り締めるシャンクス。彼の言葉をベックマンも肯定する。確かに今回はバギーやミズキがいなければ殺されていた可能性が高いと。
「……もっと強くならないとな。この先の海を進むためにも」
「……ああ。俺はもっと強くなって……いつかロジャー船長みたいな男になる」
握り締めた拳に込める力を強くし、シャンクスはそう決意する。もっと強くなって憧れたロジャーのような立派な海賊になってみせると。静かな時間が流れ、そよ風が二人の髪を靡かせる。だが、そんな空気はすぐに壊されることになる。
「……お頭!副船長!無事か!!」
「キャプテンバギー!お嬢!ご無事で!?」
カタクリの部下と戦っていた赤髪海賊団とバギー海賊団の面々がジャングルの中から姿を現し、それぞれの船長達の元へと駆け寄った。
「奴らが撤退していくからもしやと思ったんだが……やったんだなお頭!」
「ああ、……といっても倒せたというわけじゃないがな」
シャンクスとベックマンを中心に和気あいあいと語り合う赤髪海賊団、一方のバギー海賊団はあるものを見つけて驚愕の声をあげた。
「うぉ!?なんじゃこりゃあ!!?」
「島の外まで続いてるぞ!?」
それはドリーとブロギーによる“覇国”によってできた破壊の跡。島の外まで飛んだ斬撃が作り出したえぐれた地面とバラバラになった木々や岩を見て、バギー海賊団は息を飲んだ。
「……ま、まさか……これあんたがやったのか!!?キャプテンバギー!!」
「……へ?」
「そうか!!こんなことできるのはキャプテンバギーしかいねぇ!!あの野郎を追い返せたのもキャプテンバギーのおかげだったのか!!」
「いやぁ……俺は別に……」
「さすがは俺達のキャプテンバギー!!四皇の幹部すら相手にならねぇなんて!!やっぱとんでもねぇ男だあんたは!!」
『バギー!!バギー!!バギー!!バギー!!』
「気は確かか!?どう考えても巨人の仕業だガネ!!?」
勝手に勘違いして盛り上がる部下達、そんな彼らにツッコミを入れるギャルディーノ。それらを鼻水を垂らしながら見ていたバギーは数秒目を瞑ったと思うと勢いよく開眼し、そして宣言した。
「おおともよ!!あれこそ俺の新技!!…………バギースペシャルボンバーが通った跡だ!!その絶大な威力は四皇幹部すらしっぽ巻いて逃げる程だ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!キャプテンバギー!!!!」
「……あいつああいう才能はあるみたいだな」
「……そうみたいだな」
その異様とも言える光景を前に、シャンクスとベックマンは苦笑いを浮かべながら呆れるのだった。