転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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生きる意味

「ガープ中将!!海賊船が逃げます!!」

 

「……放っておけ、今はこっちが優先だ」

 

 ガープと呼ばれた将校は甲板の上に倒れている何人もの部下の数、そして目の前で気絶している少年を見て息を飲んだ。

 

「随分やられたな……負傷者の手当を急げ」

 

「ええ、それにしても中将。一撃で仕留めるとはお見事ですね」

 

「…………!!?これは…………!!」

 

「……?どうかしましたか?」

 

 倒れている少年を膝をついて眺めていたガープだが、あるものを見て顔色が急変した。部下もそれに気づき少年を見るが先程のガープの一撃で服が破れ背中の一部が顕になっていること以外特に気になるところはなかった。そう、一目見ただけでは。

 

「ん?これは……」

 

 だが背中をよく見てみると赤い刺青か何かがあるのが確認できた。それが一体なんなのかよく見てみようとした瞬間、ガープが少年を抱きかかえ背中を隠してしまった。

 

「中将?」

 

「こいつは俺が牢に連れていく。お前も負傷者の介抱に回れ」

 

「え?しかしそれは……」

 

「いいから行け。それとも俺の命令が聞けんのか?」

 

「い、いえ!!承知しました!!」

 

 部下が慌ててその場を離れると、ガープは深く息を吐き少年を見つめる。一瞬だがさっき見えたものは彼がこの世で一番嫌う者達、天竜人。その奴隷の証に付けられる天駆ける竜の蹄の紋章だった。

 

「……ッ……どういうことだ……」

 

 だが報告ではそんな話はなかったはずだ。奴隷として裏社会の住民相手にレンタルされていたことは聞いていた。だが天竜人との関連性はなかったはずだ。少なくとも報告では。だが事実そのマークは少年の背中に確かに存在しており、そしてそれを誰かに見られることをガープは許さなかった。少なくとも彼の正義感は奴隷という制度を許すことなどできない。それは彼の怒りに満ちた顔を見れば明らかだった。

 

 

 

 

 

 ──ボクにとっての世界は牢屋の中が全てだった。人生の大半は牢屋の中で過ごしてきたし、出られる時は移動する時だけで当然手足は拘束されて自由はない。だからこんな牢屋の中にも慣れっこだ。

 ボクが最後に憶えているのはガープに殴られて力尽きたこと、そしてバギー達がその間に逃げ出したこと。だけどそれを責めるつもりはない。相手はあのガープなんだ。戦っていたところで全滅するのは避けられないだろうし、船長が少しでも多くの船員を生かそうとするのは当然だ。だけど……

 

「……ホントは助けに来て欲しいって思うのは……贅沢なのかな……?」

 

 そんなことを思い立ち上がろうとしたけど力が上手く入らなくて倒れてしまった。手に付けられた手錠を見る。多分これは海楼石でできているんだろう。ボクが能力者ってわかっている以上当然の対応だろうけどそれ以外にまるで拘束されていないことが気になる。床に括り付けられていないのはまだしも足枷すらないのはどういうことだろう?

 

「……目が覚めたか」

 

 その時、部屋の扉が開いて見知った海兵が入ってきた。その筋肉質な肉体に目元の傷は間違えようがない。海軍の英雄、ガープだ。尋問でもするのだろうか?そんなものも慣れっこだし何をされても喋る気はないけど。だけどどういうつもりか彼は無言で牢屋の前にドカッと胡座をかいて座った。

 

「……少し話をさせてくれないか?」

 

「……話?」

 

 腕を組み、彼はゆっくりとそう口にする。予想外の発言に思わず間抜けな声を漏らしてしまった。

 

「……2年前、俺は任務である男を追っていた。裏社会を中心に奴隷売買や武器の取引をしていた男だ。東の海(イーストブルー)で奴のアジトを見つけたが、既に逃げられた後でもぬけの殻だった。そしてそこに捕まっていたはずの奴隷の姿もなかった」

 

 ガープは直接口にすることはなかったがすぐにわかった。彼が言っている奴隷というのはボクのことだ。そしてガープの言う追っていた男というのはあいつだろう。ボクの持ち主だった男の事だ。

 

「つまり……お前が海賊になってしまったのは…………俺にも責任がある。俺がもっと早く助けられていれば……」

 

 そこまで言うと彼は両手を床につき、そしてゆっくり頭を下げた。

 

「すまなかった……!!」

 

「……それで?謝ったから大人しく捕まれってこと?」

 

「……違う!!俺は……」

 

「言っておくけど、さっきの話を聞いても君に恨みなんて感じてないよ。むしろこんな人間以下の奴隷ごときのために大変だったね」

 

「……!?……お前……」

 

 そう、彼はボクに謝るがそんなの筋違いだ。彼に落ち度なんてないしそれに……

 

「どうせ君も心の中で見下してるんでしょ?上辺だけ謝ってどういうつもり?」

 

「そんなことはない!!俺は……ただ……」

 

「ボクはあいつらを楽しませるだけの玩具でしかなくて……飽きたら捨てられて次に回される位の価値しかない動物以下の存在なんだよ?それが……哀れみでも抱いちゃったの?君達政府の人間はボクらゴミのことなんてどうだっていいんだよね?」

 

 感情が昂ってしまい、らしくもなく言葉をどんどん紡いでいく。それを聞いたガープは歯を食いしばり押し黙ってしまった。

 

「……なんて……君に言ったってしょうがないよね?君も海兵なんだから法には逆らえない。あいつら……王族や天竜人には逆らえないんだよね」

 

「…………待て!?……天竜人に……王族だと!?それは……」

 

「あれ?もしかして知らなかったの?」

 

「答えろ!!王族ってのはどういうことだ!!?」

 

「……簡単な話だよ。ボクを借りていった奴らの中に王族の偉い奴もいただけ。……確か……フレバンスとか……ゴア王国とか言ってたっけ。あいつら馬鹿だからベラベラ喋ってたよ。ボクを虐めながらね」

 

「……ッッッッ!?」

 

 拳を握りしめた彼の様子を見て思い出した。そういえばゴア王国はガープの故郷だったはずだ。自分の国の王族の腐り具合に失望でもしているのだろうか?彼はややあって拳の力を抜き、ゆっくり口を開いた。

 

「……逃げろ」

 

「…………は?」

 

「お前がもし……海賊をやめて東の海の辺境でひっそり暮らすなら……逃がしてやれないこともない。軍には俺が上手く誤魔化しておく。なんなら俺の故郷で匿ってやることもできる」

 

 海兵としてはありえない提案をし、ガープはボクを見続ける。だけどボクは何も答えず、ただ黙っていた。迷っているわけではない、答える必要もないだけだ。こいつはなんにもわかっていない。確かに善人であるのは間違いないだろうし、ボクに対して謝罪の気持ちを持っていることも本当だろう。だけど……わかっていないんだ、奴隷のことを。だからボクは無言を貫く。いつまでも答えないボクに痺れを切らしたのか、怒気を含んだ声でガープはボクに問う。

 

「……何故だ!?海賊なんぞやっていても辛いだけだろう!!何故そこまでして……」

 

「……辛い?」

 

 その言葉にボクは思わず口を挟む。海賊が辛い?何を言っているのだろうか?確かに戦闘で傷つくことはあるが、それだけだ。それだけのことで辛いのかと純粋に思う。

 

「海賊が辛いって……辛いっていうのは笑いながら皮膚を何度も剥がされたり、爪を剥がされたりすることじゃない?毒を飲まされたり熱い鉄板に押し付けられたり意味もなく殴られたり蹴られたり……能力者になってからは無駄に頑丈になっちゃって傷もすぐに治っちゃうから尚更酷くなって……天竜人の時は特に酷かったなぁ」

 

「…………!?お前……」

 

「それにボクって可愛いでしょ?だからすごく気に入られちゃって……色んなことをさせられたよ。ボクは男なのにね…………なんなら君も試してみる?よくわからないけどボクの身体っていい具合らしいよ?それに散々教えこまれたから満足させてあげられると──」

 

「もういい!!」

 

 部屋が震えるほどの声で、ガープはボクの言葉を遮る。怒っているのか歯をガタガタと食いしばり拳も血が出るほどに握りしめている。

 

「……ボクも海賊だからさ……今更どうこう言うつもりはないけど…………ろくに知りもしない癖に他の奴隷達の前では同じこと言わない方がいいと思うよ。天竜人のところにいた時に同じ部屋にいた奴隷達はみんな政府のこと恨んでたからさ。まぁ当たり前だよね」

 

「…………」

 

「……まぁ……御託を並べてもしょうがないよね。もう捕まっちゃった訳だし……で、どうするの?また天竜人にでも差し出してみる?それともどこかの王族?」

 

「……そんなことはしない。お前を捕らえたのはお前が身に宿した悪魔の実を確保するためだ。……動物(ゾオン)系幻獣種、ヒトヒトの実モデル魔女(まじょ)。それがお前が口にした実の名前だ」

 

 ああ……なるほどそういうことか。ボクらみたいなルーキーのために態々ガープが出張ってきた理由がわからなかったけどこれで納得がいった。確かに能力を鍛錬すればするほどこの能力の重要性というか凄さが理解できた。

 

「ふ〜ん……そっか。なら煮るなり焼くなり好きにしてよ。ボクを殺して能力を奪うんでしょ?ご自由にどうぞ、抵抗なんてしないから」

 

「……!?……それほどまでに……!!」

 

 ガープはボクの言葉を聞くと体をわなわなと震わせた。でも、それがボクの本心だ。さっきは強がったけど仮にここから抜け出せたとしてもボクにやることなんてないんだ。バギーに助けてもらったあの日から、彼について行くことがボクの唯一の存在理由だった。そのバギーにも見捨てられた今、ボクに生きている理由なんてない。ひと思いに殺してくれるならむしろそれでいいんだ。そう、それでいいはず…………

 

「……!!?なんだ!?」

 

 その時、船体が激しく揺れ爆音が鳴り響いてきた。そして一人の海兵が入ってきたと思うと、ガープに向かって告げる。

 

「ガープ中将!!敵襲です!!」

 

「なに!?一体どこのどいつだ!!」

 

 その言葉とほぼ同時に部屋の壁が壊れ、外の明かりが穴から入ってきた。眩しくて思わず目を瞑ったボクの瞳に一瞬だけ映ったその赤い鼻は、正しくこれまで何度も見てきた彼のものだった。

 

 

 

 

 

「おいギャルディーノ!とっとと鍵開けろ!」

 

「わかっているガネ!だがこの錠は海楼石だ!下手に触れないのだガネ!」

 

 壁を破壊し、ギャルディーノと数人の部下を連れて部屋に乱入してきたバギー。手早くギャルディーノの能力で作った鍵で牢屋の鍵、そしてミズキの手錠の鍵を開けた。

 

「……なん……で?」

 

「き、貴様ら!一体なんのために!!」

 

 ミズキの、そして海兵の問いに対しバギーはすぐに答えずに拳を握り、そして宣言した。

 

「なんでだァ?んなもん決まってるだろうが…………相棒見捨てててめェだけ逃げて……それでおめェ、明日食うメシがうまいかよ!!!

 

「……!!?」

 

 そう言い放ったバギーは未だ座り込んでいるミズキに背を向け、諭すように語りかける。

 

「おいミズキ……おめェの過去に何があったかは知らねェがよ……お前はもううちの海賊団の副船長なんだ。もう我慢する必要なんてねェ。自由にやらなきゃ海賊やってる意味がねェからな」

 

「……!?」

 

 バギーは言った。かつての船長、ロジャーが言っていた言葉を。無論バギーが言うその言葉とロジャーの言葉の意味は完全に同じという訳ではない。ロジャーが思う自由というのは“支配しない”ということ。だがバギーは違う、海賊として街を占領することもあるしロジャーのように民間人に手を出さないということもない。だがロジャーの意思だけは受け継がれる。そうした想いを胸にバギーはガープと相対し、そして──

 

「よォし……それじゃてめェら…………すぐにトンズラだ逃げるぞ!!

 

「……!?ま、待ってくれキャプテンバギー!!」

 

「今の流れで普通逃げるガネ!!?」

 

 威勢よくガープを睨んだと思った瞬間、バギーは勢いよく外へと飛び出して行った。てっきりガープと戦うと思っていた部下達も反応が遅れたものの彼について逃げ出していく。

 

「ガイモンが外で暴れて気を引いてる!とっとと合流してずらかるぞ!」

 

「…………ハッッッ!!奴らを捕らえろ!!絶対に逃がすな!!」

 

 その予想外の行動に、海兵達はしばしぽかんと呆れかえった。だが一人がハッとして指示を出すと、全員がバギー達を捕縛しようと動き出した。だがガープだけは牢屋の前で一人葛藤し、思考を巡らせる。だが己の使命をまっとうするために動き出し、バギー達の前に立ち塞がった。

 

「待て!!俺がいる限り簡単に逃げられると思うなガキ共!!」

 

「だァァ!!やっぱダメか!!?戻ってくるんじゃなかったぜちくしょう!!」

 

「お前があくまで海賊であると言うのなら俺は海兵……見逃すことはできん!!」

 

 ガープが拳をミズキに、そしてバギーに振りかざす。それに対してミズキは背中から短剣“ヴァルプルギス”を取り出し、覇気を纏わせ対抗する。そしてバギーは半ばやけになりガープの拳に自身も拳をぶつけ抗おうとする。ガープの拳にミズキの剣とバギーの拳が激突する。

 

「……!!?これは……!?」

 

 その瞬間三者の間に赤黒い稲妻が発生し、周囲にいた実力の低い海兵達は意識を失い倒れてしまった。そう、覇王色の覇気の衝突だ。

 

「覇王色の覇気……!!?ガープ中将だけでなくあの二人も!!?」

 

 覇王色の覇気、数百万人に一人と言われる才能をこの土壇場で二人は開花させた。だが、それだけだ。それだけで実力差が埋まるほどガープは甘くない。本来であれば拮抗すらせずにバギーとミズキは倒されていただろう。

 

「……?」

 

 だがそうはならなかった。ミズキはその違和感を感じ取り、眉をひそめる。ガープがまったく本気を出していないと。そして──

 

「……ガープ中将が……競り負けた!!?」

 

「……うォォォォ!!キャプテンバギーとお嬢がガープを倒したぞ!!」

 

 バギーの拳とミズキの短剣に吹き飛ばされ、ガープは船体の壁に激突し額から血を流し倒れる。目を丸くして不思議そうに自分の拳を握ったり開いたりするバギー、その隣でミズキは倒れたガープをじっと見つめていた。攻撃された箇所を武装色で防御することすらしなかった。やはり彼にとってミズキはやりにくい相手のようだ。借りが一つできてしまったとミズキは思う。

 

「とにかく今のうちだ!!早く船に乗れ!!」

 

 ガープがやられ海兵達が動揺している隙を見て、バギー達は船に乗り込んでいく。未だガープは床に仰向けに倒れているが、意識を失っているわけではなくただ空をじっと眺めていた。

 

「……バギー、ありがとう」

 

「……うん?気にすんな、おめェがいないと張り合いがないからな」

 

 海軍の軍艦から逃げ切った後、ミズキは照れくさそうに礼を言う。そして決意する、この男を絶対に海賊王にすると。世界中の財宝を手中に収めたいと言うのならばいつか叶えてみせよう。とにかく、自分は彼に一生ついて行くのだと改めて胸に刻み込むのだった。

 

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