転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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伝説の始まり

 ──新世界。

 

 そこは過酷な偉大なる航路(グランドライン)の中でもとりわけ厳しい後半の海。どれだけ前半の海で名を上げた海賊であっても半数は何もかもを奪われ命まで失うか、前半の海に逃げ帰る。だが一部の力ある海賊達は自分達の領島を持ち、大海賊として幅を利かせる。そうした強者の下につき、部下になるしかその他の海賊が生き残る術はない。

 海軍もそうだ、他の海であれば海軍の力は絶対。だがこの新世界では海軍もたかが一勢力程度の影響力しかない。故に新世界は無法地帯……という訳でもないが海賊達が闊歩する激戦区と化していた。

 

「ジハハハハ……!久しぶりだな白ひげ。元気そうで安心したぜ」

 

「金獅子……インペルダウンで少しは更生したと思ったが……変わらねェようだな」

 

 その船、モービーディック号の甲板の上で久しぶりに対面し、酒を飲み交わしながら会話する二人の男。2人共新世界の中でも三本の指に入るであろう実力者でありこの海を統べる大海賊である。その会話を周囲の船員達は無言で見守る。一人はこの船の船長、今や世界最強の男と言われる程の大海賊、“白ひげ”エドワード・ニューゲート。そしてもう一人、頭に刺さった舵輪と義足代わりに足に刺した二本の剣が特徴の男、“金獅子のシキ”。二年前のゴールド・ロジャー処刑の際に単身海軍本部に乗りこみ、ガープとセンゴク相手にマリンフォードを半壊させる程の戦いを演じたものの敗れ、大監獄インペルダウンに投獄された男だ。

 つい最近インペルダウンから脱獄し、行方をくらませていたが彼は白ひげの元を訪れていた。

 

「ジハハハハ!!相変わらずムカつく野郎だ!!……ロジャーのいなくなった海はどうだ?俺達を阻む壁はなくなった。今はお前の時代のようだな、白ひげ……」

 

「くだらねェことを言いに来たなら今すぐ海に沈めるぞ、金獅子……」

 

「ジハハ……まぁ聞け……今の海は宝目当てのミーハー共で溢れてる。くだらねェ……俺に言わせりゃクソつまんなくなっちまったよ、この海は……」

 

「……そうか?少なくともおもしれェことは起きてると思うぞ」

 

 そういうと白ひげは傍においてあった新聞を拾い、投げ渡した。シキはそれを受け取ると一面をじっと見て、そして笑った。

 

「ジハハハハ!!こいつァ……ロジャーんとこの赤っ鼻のガキじゃねェか!!まだ生きてやがったか!!……だがガープの野郎に限ってこんなことがありえるのか?」

 

「さぁな、だがこの新聞を発行しているのは世経だ。ある程度の信ぴょう性はあるだろうよ」

 

「モルガンズか……あの鳥野郎はすぐ事件を盛りやがるからな……だがまったくのデタラメって訳でもなさそうだ」

 

 そう言うとシキは酒瓶の中の酒を一気に飲み干し、不敵に笑い白ひげをなにか裏があるような目で見つめた。

 

「しばし姿を消そうと思う……生ぬるいこの時代に、本物の海賊の強さを見せてやる」

 

「……またなにか企む気だな?」

 

 白ひげの問いに肯定も否定もせず、シキはただその独特な笑い声で返すだけだった。だが白ひげは見抜いていた、シキがまたとんでもない何かを企んでいることを。

 

 

 

 

 

 ところ変わり新世界のとある島。

 

「ハ〜ハッハハママママ!楽園(パラダイス)は随分面白いことになってるねェ……ロジャーんとこのガキにあのガープが……目障りな野郎がいなくなるのは清々するが……それにしてもカタクリ、この記事はどういうことだい?」

 

「……確かに赤髪を仕留められなかったのは事実だが……」

 

「マンマママンマ!ま〜たモルガンズお得意のでっちあげかい?だがうちの顔に泥を塗りやがったこの赤っ鼻は確実に消さなきゃねェ」

 

 ケーキを模した巨大な城で部下や子供達と共に新聞の記事を読み笑う女海賊。ビッグ・マム海賊団船長、“ビッグ・マム”シャーロット・リンリンだ。ロジャー白ひげ金獅子と並び新世界の四強に数えられる程の大海賊でありお菓子のために国すら滅ぼすイカれた女だ。

 そして彼女に記事の内容を問われたのは息子であるシャーロット・カタクリ。海賊団の幹部でありながら4億超えの懸賞金をかけられた強者であるが、母であり船長でもあるビッグ・マムに威圧混じりに問われたことでさすがに萎縮し、渋々ながら言い訳混じりに答えた。

 

「まぁいいさ。しばらくは退屈しないですみそうだ。だがカタクリ、落とし前はちゃんとつけてもらえよ?」

 

「ああ、わかっている」

 

 普段は表情をまったく変えないカタクリだが、その問いに対しては眉間に皺を寄せて怒り混じりに答えるのだった。

 

 

 

 

 

 そして偉大なる航路前半の海、通称楽園の海上。

 

「だっはっはっはっは!!なんじゃこりゃ!!あいつ何やってんだよ!!」

 

「……記事の真偽はともかく、こりゃとんでもねェ大事件だぜお頭」

 

 とある船の甲板で新聞を見て床を転がり大爆笑する麦わら帽子を被った男。そしてその隣にはタバコを咥えた黒髪の男。赤髪海賊団船長“赤髪のシャンクス”と副船長“ベン・ベックマン”だ。

 

「ひ〜ひっひっひ!!ヤベェ腹痛てェ!!」

 

「だが随分先を行かれちまったみたいだな……ほら」

 

 ベックマンは新聞に挟まっていた紙を二枚、シャンクスに見せる。それを見たシャンクスは転がるのをやめ、その紙に見入ったかと思うとニヤリと先程とは違い含みのある笑みを浮かべた。

 

「ああ、あいつはやる時はやる奴だと思ってた……こりゃ俺達も負けちゃいられねェな」

 

「それでどうする?ビッグ・マムからの追撃も激しさを増すぞ。まさか本人が出てくることはないだろうが」

 

「そうだな……一旦東の海(イーストブルー)に戻ろう。ビッグ・マムもそうだが……東の海で凄腕の狙撃手がいるって情報を聞いた」

 

「また勧誘するつもりか?誰彼構わず勧誘するのは勘弁してくれよ?」

 

 ベックマンの言葉にシャンクスは答えず、ニヤリと悪い笑みを返すだけだった。

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、海軍本部のとある一室。その部屋にいるのは三人の男達。逆立った髪と顎髭が特徴のコング元帥。そして目元に傷がある筋骨隆々の男ガープ。そしてその同期であるセンゴクだ。

 

「ふざけるな!!」

 

 コングが巨大な執務机を叩きつけ凄まじい形相で怒鳴りつける。その相手は目の前に立つガープ。彼は怒鳴られているというのに表情一つ変えず、ただコングを睨むように見つめていた。

 

「あの悪魔の実は政府にとって最重要事項だ!!だから態々お前を行かせたというのに……逃げられたとはどういうことだ!!」

 

 コングが怒っているのは先日ガープに与えた任務について。その任務は政府や海軍にとって非常に重要でありだからこそ実力が最も高いガープを行かせたのだが、彼は失敗し逃げられたと報告した。日頃の問題行動こそあれコングはガープの実力と任務に対する姿勢に対しては絶大な信頼を置いていた。故に何故今回に限って失敗するのだと問い詰めているのだ。

 

「……ふざけるな?」

 

 ガープは一通りコングの言葉を聞いた後、静かにそう言った。そして血管が浮き出るほど怒りを乗せて叫んだ。

 

「それはこっちのセリフだ!!天竜人に王族だと!?貴様ら俺に一体何を隠してやがった!!!」

 

「……!!お前……それをどこで」

 

「そんなことはどうだっていい!!答えろ!!何を隠している!!何故俺にそれを黙っていた!!」

 

「やめろガープ!!」

 

 凄まじい剣幕でまくしたてるガープをセンゴクが諌めた。だが彼でさえガープの怒りを鎮めることなどできなかった。

 

「……任務には関係のないことだ。態々言うほどのことでもない」

 

「ガープ、コング元帥はお前に余計な心配をさせまいと配慮して──」

 

「そんなこと知るか!!本当のことを言え!!何故あの男が天竜人や王族と繋がってる!!そして何故それを黙っていやがった!!」

 

 ガープは問う。何故あの奴隷商の男が天竜人や王族と繋がっているのかと、そして何故それを隠蔽していたのだと。コングは数秒何かを考え、もう隠すことはできないと判断し渋々口を開いた。

 

「奴は元々天竜人や王族相手に人身売買を行っていた男だった。だがある日政府の施設からあの悪魔の実を盗み逃亡した。しかし天竜人はともかく……人の上に立つ王達がそのような行為を行っていたと知れればひいては政府の信頼に関わる。だから政府はその事実を公にはせず、秘密裏に奴の足取りを追っていた」

 

「……そんなことが!?」

 

 センゴクすら知らなかったその事実に普段は冷静沈着な彼も驚きを隠せなかった。ガープは眉間に皺を寄せ黙ってその話を聞いていた。

 

「お前がそれを知れば……任務にも支障をきたすだろう。だから黙っていた、それだけだ」

 

「……そうか」

 

「……おいガープ!どこに行く!?」

 

 静かにそう言うとガープは背を向け部屋から出ようとする。それをコングが止めようと声をかけるが、彼は振り向かずに背中越しに口を開いた。

 

「どこへ行こうと俺の勝手だろう……俺は海軍を辞める」

 

「……!!?ガープお前……」

 

「待てガープ!!?」

 

「いいや待たん!!俺はもう……あのゴミクズ共や腐った王族共の所業を見て見ぬふりはできねェ!!」

 

「落ち着けガープ!!俺も政府や海軍の全てが正義だとは言わん!!だが海軍があることによって多くの民衆の命が救われているのも事実だ!!」

 

「誰かの犠牲で成り立つ平和などいらん!俺はもう政府の隠蔽もあのゴミクズ共もうんざりだ!!大体いつもそうだ!!ロックスの時も…………奴を倒したのはロジャーだ!!それが何故俺が英雄と呼ばれる!!」

 

「いい加減にしろ!!それ以上言うならばお前だろうと容赦はできないぞ!!」

 

 辞めると言ったガープにセンゴクもコングも驚き耳を疑う。だがガープの覚悟は本物のようで彼らがどれだけ言っても無駄だった。

 

「海軍に所属していなくてもできることはある。とにかく俺はもう……見て見ぬふりはごめんだ」

 

 そう言い残し出ていくガープを、センゴクもコングも止めることができなかった。

 

 

 

 

 

 その日、とある新聞の記事が世間を騒がせた。海賊王ロジャーを何度も追い詰め、幾度となく大物海賊を捕らえてきた“海軍の英雄”モンキー・D・ガープの海軍引退。そしてその原因であろう海賊、“道化のバギー”。

 新聞の記事にはこう書かれていた。

 軍関係者の話によると、道化のバギーはあの海賊王ロジャーの元クルーであったという事実。

 偉大なる航路に入ってまもなく四皇ビッグ・マムの一味と交戦。その場に居合わせた同じく元ロジャー海賊団であり兄弟分でもある話題のルーキー“赤髪のシャンクス”、そして死亡説が囁かれていた伝説の巨兵海賊団船長“青鬼のドリー”と“赤鬼のブロギー”をその場で従えビッグ・マム海賊団を退けた常ならぬ人望と統率力。

 計算され尽くした作戦で捕らえられた部下を奪還した頭脳。そしてなにより英雄ガープをも打ち倒し、引退に追い込む圧倒的な強さ。

 そして記事はこう締めくくられていた。

 

道化のバギーはロジャーの強さと意志を受け継ぐ新世代の海賊王候補である!!と

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路、ジャヤ島モックタウン。

 

「おい聞いたか、最近この辺であの“千両道化”の目撃情報があったってよ」

 

「千両道化!?半年くらい前に話題になった英雄ガープをやったっていう元ロジャー海賊団のクルーか!?」

 

 その島は世界政府非加盟国。故に海軍の基地もなく島は海賊が闊歩する無法地帯となっていた。だが秩序がまったくない訳では無い。島民はいるし生活だってしている。ただそのための商売の相手が海賊かどうかの違いだけだ。

 特にここのような酒場は海賊が集まり賭け事や取り引きを行う。そして酒を飲み手配書や新聞の話題を話の肴にする憩いの場にもなるのだ。

 

 だがその日ばかりは違った。酒場内の荒くれ者達は誰も喋ろうとせずに俯いている。例外は島に来たばかりで知識のない者か、もしくはその状況を作り上げた者だけだった。

 

「マ〜ロマロマロ!!お前ら楽しそうな話をしているな?千両道化がなんだって?」

 

「……!?お、お前は……!!マロニー海賊団の……“濡れ血のマロニー”!!」

 

 

マロニー海賊団船長“濡れ血のマロニー”懸賞金7500万ベリー

 

 

 店の中央にあのソファに座り、仲間と共にくつろぐ小太りの男の名はマロニー。数年前に偉大なる航路に入った海賊であり、このジャヤを事実上仕切っている実力者でもあった。この島にいる荒くれ者達も、彼には逆らえないでいた。

 

「千両道化なんざこの俺様の前ではゴミも同然だ。なァ?お前もそう思うよな!!」

 

「……グァァ!?……なにを……」

 

 彼は立ち上がるとカウンターで話していた二人の男達に近づき、いきなり懐に隠していたナイフでその一人の腕を刺した。

 

「いいか?この島では俺が絶対だ。千両道化だろうがなんだろうが俺には敵わねェ。それをよく覚えときな」

 

「わ……わかったからやめ……ぎゃああああ〜〜〜!!」

 

 助けを求める声に耳も傾けず、マロニーは心臓を一突きにして殺す。その光景に誰もが恐怖し、店内に無言が漂った。さっきまで話していた男を殺された彼ですら、何も言わずに俯いたままだった。だがそんな店内に、その場には似合わない甲高い声が響いた。

 

「ん〜〜〜♡このパフェ美味しい〜〜!!おじさん、これもう一つちょうだい!!」

 

「お、おい……なんだあのガキ、殺されるぞ!」

 

「ああ……女や子供だろうとマロニーは容赦しねェ!」

 

 カウンターに一人で座りパフェを頬張る少女。ピンク色の髪をポニーテールで纏めたその少女は頬に手を当て嬉しそうに足をバタバタさせると、店員に食べているパフェのおかわりを要求した。

 

「おいガキ……今のが見えてなかったのか?お前もこうなりたくなかったら黙ってろ」

 

「へ〜……ボクの目には雑魚が雑魚を殺してイキってるようにしか見えなかったけどなァ」

 

「……!?何言ってんだあいつ!本当に殺されるぞ!」

 

「ああ、早く謝っちまえよ……だがあのガキどこかで見覚えが……」

 

 その少女の言葉に誰もが固まった。そして自分達は巻き込まれまいと視線を逸らす。マロニーは予想外の返答に一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに声を上げて笑った。

 

「マ〜ロマロマロ!!この島で俺様にそこまで言う奴は初めてだ。おいてめェら、このガキと遊んでやりな」

 

「へい!へっへっへ……よく見りゃめちゃくちゃ可愛いじゃねェか!おじさん達がいいこと教えてやるぜ!」

 

「それより売り飛ばしちまおうぜ!数年待ちゃ高く売れそうだ!」

 

 口々にそう言いながら少女に近づくマロニーの部下達。誰もが少女の死を悟っただろう。だがその予想に反し、床に倒れたのは男達の方だった。

 

「……!!?なにが起こった!?」

 

 少女が部下達を睨みつけたと思ったその刹那、部下の男達は意識を失い地面に倒れた。一瞬なにが起こったのか誰も理解できず、全員が息を飲んだ。マロニーも驚きはしたもののすぐにナイフを持ち少女に向けた。

 

「どんな手品を使ったのか知らねェが……この島で俺に逆らって生きられると思うなよ」

 

 そして少女に向けてナイフを突きつける、その場にいた誰もがこれから起こる惨状を予想した。床に血液が飛び散る、それは

 

「……!?ぎゃあああああ〜〜〜〜!!」

 

 マロニーの血液が、床に飛び散る。少女は背中に背負った短剣を持つと、それでナイフを弾き逆に短剣でマロニーの胸を突き刺したのだ。

 

「ダメでしょ〜?ちゃんと相手との力量差見極めないと。じゃないとこうなっちゃうよ!ほら、ほら!」

 

「グァァ!!……やめ……」

 

 笑顔で胸に突き刺した剣をさらにグリグリと押し付ける少女。酒場にマロニーの叫び声が響き渡り、誰もがその異様な光景に戦慄した。だが誰も、マロニーの部下でさえ彼を助けに動くことすらできなかった。

 

「あ……思い出した……あいつ…………“宵魔女”だ!!バギー海賊団の副船長!!」

 

 

バギー海賊団副船長“宵魔女(よいまじょ)ミズキ”懸賞金4億5100万ベリー

 

 

「バギーって……!!?ガープを引退に追い込んだっていう伝説のロジャー海賊団の元クルー!!?」

 

 どこからかそんな声が聞こえ海賊達は目の前の少女──少年に恐怖する。バギーといえば元ロジャー海賊団のクルーであのガープをも打ち倒した伝説の男だ。その船の副船長が弱いはずないと。

 

「あれ、もう動かなくなっちゃった……つまんないの」

 

「う、嘘だろ……マロニーが……あんな簡単に……」

 

 この島で最強の男をまるで赤子のように捻るミズキに、誰もが恐怖し震えた。だが例外がいた、マロニーの部下達だ。

 

「て、てめェ……!よくも船長を!!」

 

 彼らはそれぞれ武器を持ち、ミズキを囲む。ざっと二十人以上に囲まれた彼だがその表情から笑みが消えることはなかった。そして彼は炎で酒場の屋根を突き破ると、そこから外に飛び出した。

 

「ガト〜〜〜〜!!」

 

 飛び出したミズキが建物に向けて剣を構えると、そこから光が煌めき酒場の中にいる海賊目掛けて発射される。

 

死光蘭(ショコラ)!!!」

 

 その瞬間、ミズキの持つ剣の先から放たれたのはレーザービーム。正確にはエネルギー波のようなものだが、それは酒場に着弾した途端大爆発を引き起こし中にいた海賊達諸共文字通りの灰へと変えた。

 

「あ!!……パフェも一緒に燃やしちゃった……美味しかったのになァ……」

 

 この惨状を作り出した張本人は、その後始末ではなくパフェの心配をした。だが瓦礫の山となった酒場の隅でうずくまる数人の男を見つけると、彼らの前に降り立つ。

 

「ねェねェ君達!」

 

「ひ、ひィ〜〜〜〜!!?何でもしますから命だけはお助けを!!」

 

「あはは!そんなに怖がらないでよ、ちょっと実験に付き合ってもらいたいだけだからさ♪」

 

「……じっ……けん?」

 

 運良く生き残ったと思われた海賊達、だがその認識は間違いだった。何故ならこれから始まることを思えば、あの時死んでしまった方が良かったと後悔するからだ。

 

「おいミズキ!!てめェこんなところで油売ってやがったのか!!」

 

「あ、バギー!!ここのお店のパフェが美味しくてさァ♪つい寄り道しちゃったんだよね!!」

 

「パフェなんてどうでもいいだろうが!?おめェ実験に使えそうなとこ探せっつったよな!!」

 

「え〜〜!自由にやればいいって言ったのはバギーでしょ!それに我慢するなとも言ってたよね!」

 

 そこに現れたのは部下数人と何やら布で隠された荷物を持った赤鼻のピエロのような見た目をした男。彼は怒った様子でミズキを問い詰めるが、当のミズキは親しい人でも見つけた子供のような表情で男に返した。

 しかしその気の抜ける漫才のようなやり取りとは裏腹に、海賊達は絶望の表情を浮かべていた。それもそのはず、現れたその男こそ半年前に海軍の“英雄ガープ”を引退まで追い込んだ海賊であり伝説の海賊王、"ゴールド・ロジャー”の海賊団の元クルーだからだ。

 

 

バギー海賊団船長“伝説を生きる男” “千両道化バギー”懸賞金6億1500万ベリー

 

 

 偉大なる航路前半の海では滅多に見ることのできない億超え。しかも6億と4億の賞金首を前にして海賊達は震え上がった。

 

「あ、でもこの人達が実験に協力してくれるって!!ていうか別に場所なんて探さなくても町ごと使っちゃえば良くない?」

 

「まァそりゃそうか……よしてめェら!!派手に準備しやがれ!!」

 

「任せてくれ!!キャプテンバギー!!」

 

 バギーが部下達に指示を出すと彼らは持ってきた何かの布を取り、そして()()()()を始めた。

 

「なんだこれ……?大砲か?」

 

 その物体の正体は大砲だった。だが普通の大砲よりも一回り大きく、さらにバギー海賊団のマークが描かれた特別製だ。

 

「よ〜〜し!それじゃあ君達の出番だよ!」

 

「へ?何を……うわぁぁぁ〜〜、身体が浮いて!?」

 

 ミズキが海賊達に向かって手をかざすと、彼らの身体が空中に浮き始めた。そしてそのまま操作し、大砲の前まで移動させる。

 

「ま……まさか……!?」

 

 そこで海賊達もバギーがやらんとしていることに薄々気づく。だがもう手遅れだった。高笑いしたバギーから合図が出され、町は火の海と化す。

 

「放て!!特製バギー玉!!!」

 

 瞬間、大砲から砲弾が発射される。それは一瞬にして海賊達を貫き、そして町を瓦礫の山へと変えてしまった。普通の大砲ではありえないその威力と被害の範囲に、部下達も驚きを隠せなかった。

 

「ぎゃははははは!!どうよ!!これこそが俺様の技術とミズキの魔法を組み合わせた最強の兵器!!魔法によって強化されたこの威力と範囲に加え自動的に玉が補充されることで半永久的に撃ち続けることができるのだ!!」

 

「わ〜〜凄い威力だ!!苦労して玉を無限に生成する魔法を考えた甲斐があったね♪」

 

 バギーがその兵器の完成度を誇り大笑いし、ミズキも手を叩いて喜んだ。

 

「これでこの島も俺様のものだ。ミズキ!!部下はどれくらい集まった?」

 

「海賊団が丸々二つと、その他に数十人くらいかな〜〜。やっぱりこの島は無法地帯なだけあって海賊が多かったからね」

 

「そうかそうか!!やはりこの千両道化バギー様の勝ち馬に乗っかりたいって輩は多いからな!!」

 

 そうしてこの日、ジャヤの島は丸ごとバギー海賊団の支配下となりその場にいた海賊達の殆どはバギー海賊団の一員となったという。だがこれも、彼らの伝説の始まりにすぎないのだった。

 

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