転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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人獣型

 ── 偉大なる航路(グランドライン)のとある島。

 

 バギー玉によって更地になったその町でボクとクロコダイルの戦闘が始まった。元々町民達は殆どバギー玉で消し飛んでいたが、生き残った僅かな人々はボクらの戦闘の被害から少しでも遠ざかろうと逃げ惑う。だが、人間の足で完全に逃げ切るのは不可能だ。

 

「嘘だろ……あのお嬢が押されてる!?」

 

「あの野郎……身体が砂になってるぞ!?自然(ロギア)系か!?」

 

 眼下の船からうるさい野次が飛んでくるが、今はそんなことに意識を集中させている場合じゃない。クロコダイルはボクが思っていたよりも強く、苦戦を強いられていた。

 

「威勢の割にこの程度か?“宵魔女”」

 

「……ッッ!!刃璃突風(バリ・ブラスト)!!」

 

 飛んでくる砂嵐を斬撃で相殺する。砂埃が巻き起こり、視界が遮られたので見聞色の覇気で奴の動きを読む。

 

砂嵐(サーブルス)!!」

 

「!!……!?」

 

 が、動きをさらに読まれていたのかボクの目の前に砂嵐が迫りそれをモロに受け止めてしまった。痛みと共に吹き飛ばされ、能力で飛ぶ暇もなく地面に叩きつけられた。だけどその程度で意識までは途切れない。すぐに体勢を立て直して嵐を呼び出し奴を襲う。

 

炎嵐(ファイアストーム)!!」

 

「……!?ちっ……能力だけは厄介だな……」

 

 炎の嵐を自らの生み出した砂嵐で飲み込み消し去る。ここまでの流れでわかったことだがどうやら見聞色の覇気については向こうの方が一枚上手らしい。この世界の元となった作品内で彼は白ひげに敗北して心を折られたことで大幅に弱体化。当然覇気を使う描写は無かったのだけど……さすがにまだ敗北から日が浅いからかそこまで弱くなっているわけではないようだ。もちろん全盛期の彼に比べたら弱体化はしているんだろうけど……。

 

「考え事とは随分余裕じゃねェか……!」

 

「……ッッ!?」

 

 一瞬頭の中で思考を巡らせると、目の前に奴の左手のフックが迫っておりそれを剣で弾く。しかしそっちに意識を持っていかれたことで迫り来る右手に気づくことができなかった。

 

三日月形砂丘(バルハン)!!」

 

 ラリアットを首元に受け、吹き飛ぶ。幸い咄嗟に武装色で防御したので水分を吸い取られミイラになることはなかったがダメージは大きく地面を転がった。

 

「……!?カハッッ……!!」

 

 地面に膝をつき血反吐を吐いた。薄々わかっていたことだけど、ボクの能力と自然系は相性が悪い。炎や氷の魔法では自然系の能力者に受け流されてしまう。魔法に武装色の覇気を纏わせれば当てることもできるだろうけどまだそこまで覇気の練度を上げられていないのが痛い。

 

「クハハハハ!口ほどにもねェな!」

 

「……お、お嬢が……」

 

「おいミズキおめェ何やってんだ!!そんな奴とっとと倒しちまえ!!」

 

「無茶だガネ!!相手はあの七武海なのだぞ!!」

 

「……ぺっ…………うるさいな、ちょっと黙ってて……!」

 

 口の中に溜まった血を吐き出し、うるさい外野を黙らせるとボクは再び剣を構える。通常の魔法は通用しない。ならちょっと捻ってみるだけだ。

 

「……!?……毒か……」

 

「ご名答♪海賊同士の戦いなんだから卑怯なんて言わないよね?」

 

「クハハ!ああ……むしろ一端の海賊ではあるようで安心したぜ」

 

 毒を纏わせ、剣先をクロコダイルに向ける。通常の自然系であればこんなもの無効化できるんだろうけど、この毒は液体に近いように作ってあるので水で固まる砂相手になら通用するはずだ。

 

毒の衝撃(ベノムショック)!!」

 

 剣先から放出された大量の毒が、クロコダイルを包むように襲いかかる。しかし奴は砂嵐でその毒液を全て弾き返した。周囲に毒液が飛び散り、地面を溶かす。だけど、こんなの防がれるのは想定内だ。

 

「……なるほど、いい手だ」

 

「……!?」

 

 それを囮に背後に回り毒を纏わせた剣で攻撃しようとする。しかしそれすら読まれていた。フックで弾かれて思わず剣を離してしまった。

 

「クハハ……!この程度で頭を使った気になっているとは笑わせる。本物の海賊ならばこれくらいじゃ動じねェ。作戦ってのはもっと卑劣に、えげつなく実行するもんだ」

 

 クロコダイルは鼻で笑うと地面に手をついた。するとみるみるうちに奴の周囲のあらゆる物が干からびていってしまった。

 

干割(グラウンド・セッコ)!!」

 

 ボクの立っている地面も干からびていき、このままではまずいと察知して飛び上がる。だけどそれが奴の狙い。まんまと嵌められたボクに別の攻撃が迫ってきた。

 

砂漠の金剛宝刀(デザート・ラスパーダ)!!!」

 

 ドジった……!と思った時には既に遅かった。砂でできた四本の斧がボクの身体を切り裂き、そして地面に力無く落下してしまった。

 

「……ガハッッ…………ハァ……ハァ……」

 

「ほう……まだ意識があるとは驚きだな……」

 

「あはは♪……ハァ……これでも一応……ハァ……動物(ゾオン)系だからね」

 

 地面に蹲るボクを見下し、笑うクロコダイル。これくらいで戦闘不能にはなったりしない。だけどダメージはかなり深かった。いくら動物系でも回復にはそれなりに時間を有するだろう。ボクの場合は回復魔法を使えるのでその限りではないのだけど。

 

「お嬢が負けちまった!?」

 

「……!!だがこっちにはキャプテンバギーがいる!!」

 

「そうだ!!キャプテンバギー!!お嬢の仇をとってくれ!!」

 

「し〜〜!!お前ら余計なこと言うな!!」

 

 部下達の言葉にバギーはこっそり逃げようとしていた足を止めて黙るように言った。……だけどその声が一番大きいんだよね。

 

「クハハ!なんだ?今度はお前か、千両道化」

 

「キャプテンバギー言ってやってくださいよ!!」

 

「七武海なんて目じゃないってとこを見せてくれ!!」

 

「お、おうよ。……覚悟しやがれワニ野郎!!ハデにバラバラに切り刻んでやるぜ!!」

 

 バギーが震えながらも啖呵を切ると、クロコダイルは不気味に笑みを浮かべた。ああ……あれバギーがそんなに強くないって気づいてるね。やっぱり強い人だとわかっちゃうんだよなぁ……しょうがない。こっちも()()()()()()()()()()

 

「……!?……まだ立つのか……」

 

「ふふ……可愛いからって舐めてると痛い目みるよ?」

 

 強がりを言いながらもボクは立ち上がる。元々こんな程度でやられるヤワな鍛え方はしていないし、回復魔法で回復しているから見た目以上にダメージは少ない。

 だけどこのままだと勝ち目はないだろう。クロコダイルに勝つにはもっと速く、強い覇気を込めた物理攻撃が必要だ。故にボクはここで初めて見せることにする。今まで自分で試すことはあれど人に見せたことはなかった──()()()()

 

 

 

 

 

「……!?てめェ……その姿は!?」

 

 ミズキの身体が変化していく。14歳ほどの子供くらいだった身長は170cm程度まで伸びた。ポニーテールで結んでいた髪も伸び、ヘアゴムがちぎれて腰の高さ程までのストレートヘアーに。顔つきも幼さが残る顔から美しい女性のような顔へ。そしてその変化によって身につけていた衣服はサイズが合わなくなり、へその辺りが露出しスカートも下着が見えないギリギリのラインだ。そして一番の変化、それは背中から生えた漆黒の翼だ。

 

「うォォォォ!なんだあの姿!?色っぺえ♡」

 

「ああ!まさに妖艶の魅力!……だが待て待て!お嬢は男だぞ……!いやむしろそれが……」

 

「落ち着けお前ら!ほら唱えろ!お嬢は男お嬢は男お嬢は男……」

 

 部下達はその姿を見て鼻息を荒くする。しかしミズキが男性であることを思い出し必死に自身から湧き出る感情を抑えようとしていた。そんな彼らに向けてミズキが微笑むと、部下達は鼻血を出して倒れてしまった。

 

「おまたせ♡さァ、第二ラウンド始めようか!」

 

「……人獣型か……だがその程度の変化でおれを倒せると思っているのか?」

 

 ウィンクをしてそう言うミズキを、クロコダイルが馬鹿にするようにほくそ笑む。確かに面白い変化ではあるが、自分を倒せるはずがないと。だがそれは間違いであったと思い知ることになる。

 

「あはは♪それはどうか……な!!

 

「……!?」

 

 武装色の覇気を拳に纏わせ、ミズキがクロコダイルを殴る。その速度とパワーは先程とは段違い、油断していたクロコダイルは防御こそしたものの激しく吹き飛ばされた。

 

「ぐッッ……!!……てめェ……」

 

 空中で体勢を立て直し、口元の血を拭う。そしてミズキを睨みつけるが、既に彼は攻撃に移っていた。

 

「あれ……?やっぱりそう簡単にはいかないかァ……」

 

 迫り来るミズキの拳を、クロコダイルは見聞色の覇気で読み取り砂化した状態で回避する。避けられることが意外だったのか、ミズキは首を傾げた。

 

「てめェ……一体どういう変化だ……!」

 

「あはは♪簡単だよ。この姿になると魔法はあんまり強く使えないんだけど、身体能力とかは結構上がるんだ。魔女は肉弾戦も強いものだからね♪」

 

「…………いや魔女ってそういうものなのカネ?」

 

「おれも魔女なんかあいつ以外見たことないからなァ……そういうもんじゃないのか?……多分」

 

 ミズキの説明にギャルディーノはいまいち納得がいかないようだが、ガイモンの言葉で無理やり自分を納得させ、口を閉じた。

 

「なるほど……確かに力と速度は上がったようだ。少しは楽しめそうだな」

 

「楽しんでる余裕があるのかな?色々試したいから簡単には死なないでよね!」

 

 ミズキが剣を取り出し、武装色を込めて切りかかる。クロコダイルは油断していた先程とは違い、今度はフックで受け止めてみせた。だがそれだけではない、ミズキは身体を回転させるとこちらも武装色を込めた足でクロコダイルの胴体を蹴りつける。今度も吹き飛んだクロコダイルだがすぐさま体勢を直し、反撃する。

 

砂嵐(サーブルス)!!」

 

 飛んでくる砂嵐をミズキは余裕そうに回避する。しかしその先に飛んできた砂の刃に気づき、剣でガードするが全てを防ぐことはできず顔に数cmばかりの切り傷がついた。

 

「ああ!!?ボクみたいな美少年の顔に傷をつけるなんて!!」

 

「クハハ!よく似合ってるぜ……なんならもっとつけてやろうか?」

 

 ミズキの懐に飛び込んだクロコダイルがフックで攻撃するが、ミズキがすんでのところで受け止めた。そうして空中で激しい斬り合いを展開する。その余波ともいえる斬撃で地面にいくつか穴が開き、バギー達はそれから逃げ惑っていた。

 

「おいおい!!これじゃあおれたちも巻き添えじゃねェか!!」

 

「ああ……これはミズキを援護して早く勝負を終わらせないとまずいガネ……」

 

「……!?……ギャルディーノ、お前なにか作戦でもあるのか?」

 

「ふふっ……私のモットーを忘れたのか?姑息な大犯罪だガネ!!」

 

 バギーの問いかけにギャルディーノが悪い笑みを浮かべながら答え、そして自ら発案した作戦を部下含め全員に話した。

 

「ブラック……サントノーレ!!」

 

砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)!!」

 

 ミズキの黒い炎を纏った剣と、クロコダイルの砂の刃が衝突する。それはほぼ互角、互いの技が相殺され二人は距離をとるように背後に退いた。

 

「……ハァ……ハァ……てめェ……いい加減倒れやがれ……!」

 

「あはは♪……生憎……ハァ……これくらいの怪我は慣れてるんだよね……ハァ……ハァ……」

 

 何度攻撃を当てても倒れないミズキにさすがのクロコダイルも肩で息をしながら吐き捨てるように言った。確かに身体能力は上がったが、それでもまだ単純な強さはクロコダイルの方が上。実際に攻撃を受ける回数もミズキの方が多かったが、動物系特有のタフさと過去の経験から耐えることができていた。そうして戦っているうちにクロコダイルも傷を負い、二人とも既に満身創痍といった様子だった。このまま戦いが続けば両者共無事では済まないだろう。

 だがそのタイミングで乱入する者達がいた。

 

「放て!!特製バギー玉三連打!!!」

 

「……!!?」

 

 巨大な砲弾が三発、クロコダイルを直撃しその胴体を吹き飛ばす。無論自然系の能力者である彼にダメージはないが、思わぬ横槍にクロコダイルは青筋を立て怒った。そしてその指示を出した男を睨みつける。

 

「ギャハハハハ!!よォし……ハデにどんどん撃ち込んでやれ!!」

 

「……てめェら……よっぽど死にたいらしいな……!」

 

 クロコダイルは怒りの表情でバギー達を攻撃しようとする。しかし砂を起こそうと手を上げた瞬間、銃声と共に彼の頭が吹き飛んだ。

 

「ふぅ……危なっかしいなまったく……」

 

 クロコダイルの頭を銃で吹き飛ばしたガイモンが、もう一度銃を構えクロコダイルを狙う。意外にも狙撃の才能があった彼は今では狙撃手として活躍している。ミズキの魔法によって空を飛びどこからでも狙撃できる彼は、まさに脅威だった。

 能力で頭を再生させたクロコダイルは、怒りに震える身体でバギー達を殺そうと突進して行った。しかしここまでが全て、ギャルディーノの作戦通りであった。

 

「かかったガネ……キャンドルドーム!!

 

 しかし彼をギャルディーノが生み出した蝋でできたドーム型の物体が覆い、動きを封じた。普段の彼であれば避けることもできただろうが、怒りで僅かながらに冷静さを失ったクロコダイルでは避けることは叶わない。それも全てギャルディーノの計画通りだった。

 

「……この程度でおれを閉じ込めたと思ったのか?」

 

 しかしその拘束は長くは続かない。クロコダイルが蝋に触れるとみるみるうちにそれは砂と化していき、蝋による拘束は無意味となった。

 

「まさか……私の蝋が!!?」

 

 自慢の蝋が一瞬で無効化されたことに驚くギャルディーノ。だが驚きの表情は一瞬で、すぐににやりと笑うのだった。何故なら蝋は拘束のためではなく、目眩し目的のものだったからだ。

 

「……!!?ぐはァァ……!?」

 

 強者同士の戦闘では、一瞬の油断が命取り。蝋による目眩しで動きが鈍ったクロコダイルは、迫り来るミズキの斬撃を避けることができずに腹から血を流し吹き飛び、地面に着地した。

 

「さっきのおかえしだよ!!」

 

「きっ……さまァァ……!」

 

 クロコダイルを追い、ミズキも地面に降り立つ。腹を抑えながらミズキを睨むクロコダイル。思いの外ダメージは大きくこれ以上長引けば不利だと悟った彼は、大技でこの戦いを終わらせようとする。

 

砂漠の大剣(デザート・グランデ・エスパーダ)……!!」

 

「……!!?」

 

 クロコダイルが地面に触れると周囲が砂丘に変化し、そこから巨大な刃の形をした砂がいくつも飛び出してきた。それの危険性を理解し、ミズキは剣にありったけの覇気を込め、クロコダイルを討たんと向かっていく。

 

「ダークワーズ……!!」

 

 ミズキの剣に黒い炎が纏い、燃え盛る。その炎の勢いはまさに大火事。そしてその剣から放たれる斬撃をクロコダイルに向けて放つ。

 

『量』(モンド)!!!」

 

「オプスキュリテ!!!」

 

 いくつもの砂の刃がミズキの身体を切り裂き、漆黒の炎を纏った斬撃がクロコダイルを燃やし尽くす。それぞれの大技をまともに受けた両者は血を吐き、吹き飛び地面に転がる。

 後世に語り継がれるであろう両者の死闘は、相打ちという形で決着をみた。

 

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