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王下七武海が一人、クロコダイルとの激闘を終えたバギー海賊団は、彼から逃げ切り出港することができていた。副船長であり最大戦力のミズキとクロコダイルとの激闘は互いの大技が決まり相打ちで幕を閉じ、満身創痍になり動けないミズキをなんとか運び出港したのだ。クロコダイル側も動けないとはいえ、ミズキがやられた以上とどめを刺そうとするのは危険だとバギーが判断し、その場を後にした。
そうして出港してから二日が経った。ミズキは未だに治療を受けているが、命に別状はなくまもなく意識を取り戻すとのこと。そして今、船内はとある話題でもちきりだった。
「おい、お前はどっち派だ?」
「おれは断然人獣型だな……あの色気は男だとしてもヤベェよ……」
「そうか?普段の可愛らしい姿の方がおれァ好みだがな」
彼らが話題にしているのは、ミズキの二つの姿。普段の可愛らしい少し幼さの残る姿と、人獣型に変化した時の妖艶な大人の魅力を醸し出す姿、どちらが好みかというものだった。この二日間議論が続けられているが、未だに答えは出ていない。船内のほぼ全員に聞いたところ、意見はほぼ半々に分かれて中々結論が出ないのだ。
そしてもう一つ、彼らには悩み事があった。
「なァおれさ……最近街で女を見かけても何も感じねェんだ……どんな美女でもこう……身体が反応しねェっつうか……」
「お前もか……実はおれもだ……お嬢の可愛さの前ではその辺の女じゃ霞んじまってよ……」
彼らはため息をつき、しかしミズキの姿を思い出し顔をニヤつかせる。そう、彼らの悩みとはミズキの可愛さに魅せられ女性に興味を持てなくなっていること。どれだけの美女がいても興奮しない。美女だという認識はできるが、誰もがミズキの魅力には敵わないと思ってしまい興味を抱けないのだ。
「なになに、もしかしてボクのこと話してた?」
「……!?お嬢……!?もう動いていいので?」
そんな話をしていた部下達の前に、不意打ち気味にひょいっとミズキが顔を出す。全身に包帯こそ巻いているものの、元気なその姿はとても二日前まで死闘を繰り広げて眠っていたとは思えなかった。
「あはは♪ホントはダメなんだけどじっとしてるの苦手なんだよね……まァでも治ってると思うから大丈夫でしょ!」
(あれだけ血を流してたのにもう動けるのか……)
二日前には死んでもおかしくない程の血を流し、生死の縁をさまよっていたミズキがもう動いていることに部下達は呆れ混じりに驚くのだった。どんな耐久力をしているのかと。
部下達がそんな思考に頭を巡らせているうちに、ミズキはその場を立ち去り目的の部屋へと向かう。そこは会議室のような部屋、バギー海賊団の幹部達はいつもここで今後の方針や進路の話し合いを行っていた。
「やっほ〜〜!皆元気?やっぱりここにいたね!」
「元気って……お前に言われたくないんだが」
「どういう身体をしているんだガネ……あれだけの大怪我を負っておいて……」
「やけにテンション高ェしな……何かいい事でもあったのか?」
ミズキが勢い良く扉を開けて中に入ると、思った通りバギー、ガイモン、ギャルディーノの三人がテーブルを囲んで座っていた──座っていると言っていいのか怪しい男が約一名いるが。ミズキが調子はどうかと尋ねるが、彼らはお前が言うなと言わんばかりにため息混じりに呆れるのだった。
そんな彼らの反応を一通り見て、ミズキは空いていた椅子にちょこんと座る。
「まぁね、それより何を話してたの?今後どうするかとかそんな感じ?」
「ああ、まぁそんなところだな」
ミズキの問いかけにガイモンが肯定する。それを聞いたミズキは手を上げ、意見を言おうと口を開いた。
「はいはい!!寝てる間に考えてたことがあるんだけど言ってもいい?」
「ダメっつっても言うだろうがよ……で、なんだよ?」
バギーが半ば投げやりに意見を言うことを許可すると、ミズキは満面の笑みを浮かべて自慢げに語り出した。
「寝てる間にどうやってバギーを海賊王にするか色々試行錯誤してたんだけどさ、中々これだ!っていう案が出てこなくて……」
「いやそもそもそれが初耳なんだが……」
「それで思ったんだけど……そもそもバギーって海賊王で収まる器じゃないよねって」
「……ふむふむ」
「海賊王って要するにこの海を統べる者ってことでしょ?でもバギーだったら海だけじゃなくて空も陸も全部を支配する王様になれると思うんだよね!」
「……ふむふ……うん?」
「でも今のこの世界は世界政府が牛耳ってるから、バギーを王様にするには世界政府を倒さなきゃいけないんだよね……というかバギーが王様になるにしても今の世界には天竜人とか世界政府とか色々うざったいのが多すぎるし」
「…………」
「だからまずは世界政府を……ううん、世界丸ごとひっくり返してやろうと思うんだよね」
淡々と持論を展開するしていくミズキの話を、理解が追いつかずただ頭に疑問符を浮かべながら聞く三人。そしてそこまで語ったところでミズキは一呼吸置き、立ち上がると声を高らかに宣言した。
「つまり!!ボク達はこの世界をぶっ壊して!!……バギーが王様の新しい世界を作る!!!」
『は?……はァァァァァァ!!?』
それがバギーによって第二の人生を得た少年の、新たな目標。この世界の秩序を全て壊し、自身が信じる者を王とする理想の世界を創りあげると彼は宣言した。
「という訳でこれからはそれを目標にやっていくからよろしく!あ、でも今はまだ海賊団の規模とかも全然だから当分はそこを強化していこうね!」
「いやいや待つガネ!!話が飛躍しすぎだ!!世界政府を倒すだなんてできっこないガネ!!」
「別に今すぐやろうって言ってる訳じゃないんだよ?将来的にできたらいいねって話♪」
「だからそれが無理だと言ってるガネ!!ほら、お前達も言ってやるガネ!!」
「ああ……まァおれは副船長のお前がそう言うなら従うが……結局はバギー次第だろう?」
ギャルディーノがミズキの宣言に到底不可能だと反対し、ガイモンとバギーにも同意を求める。ガイモンは渋々ながらもミズキが言うならばと肯定的姿勢を示し、しかし結局は船長のバギー次第だと彼に視線を送る。
「絶対できるよ!!だってバギーはこの世界の誰よりも王の資質がある男なんだから!!」
「あまり夢物語を語るものじゃないガネ……見ろ、さすがにバギーも震えるほど怒っているガネ」
ミズキが念を押すようにバギーが自身の望む資質を、誰よりも強い王の資質を持つことを言ってのける。しかしギャルディーノはまだ渋り、隣でわなわな震えているバギーを指さした。バギーは拳を握り顔は俯いているためにわからないが明らかに普通ではない様子で震えている。そしていくらか遅れて顔を思いっきり上げると、顔をにやけさせて言った。
「まァ……やっちまうかもな。うん、なんかおれならできる気がしてきたぜ……」
「……は?」
(一見突拍子もない話に聞こえるが……ここ最近でおれ様の株は急激に上がってる。部下の数もだいぶ増えてきて戦力もある。この勢いのまま新世界入りしておめェ……なんかの間違いで四皇の首なんか取っちまった暁には……おれは一気に海賊王……そしておれァ……世界の王だってなれるかもしれねェ)
「な、何を一人でブツブツ言ってるガネ……?ニヤニヤしながら……」
一人で何やらブツブツと呟くバギー。そして何か決心でもしたような表情をすると、ハデな声で宣言した。
「やってやろうじゃねェか!!世界の王……このおれ様に相応しい称号だ!!!」
「そうこなくっちゃ♪さすがボクらのキャプテンバギー!!!」
「簡単に乗せられすぎだガネ!?」
ミズキに乗せられ、世界の王になると宣言したバギーにギャルディーノが驚き混じりのツッコミを入れる。だがバギーがすっかりその気になり、してやったりという顔をするミズキを見て考えることを放棄するのだった。
「よォし、そうと決まればこのままハデに新世界に入っちまおう。勢いってもんが大事だからな」
「うんうん!勢いは大事だからね♪」
「ついに新世界か……緊張してきたぜ」
「もう好きにするガネ……私は天にでも祈ってくるガネ」
そう言ってギャルディーノが部屋を出ようとした時、ドアが開き部下の1人が部屋に入ってきた。走ってきたのか息を乱れさせた彼は、一息ついた後で報告事項を言った。
「キャプテンバギー、小舟を一隻見つけまして。その中で誰か倒れてたので引き上げたんですが、どうしましょう?」
「あ?遭難者か?ほっとけほっとけ、その小舟ごと海にお返しして差し上げろ」
その報告に手をヒラヒラさせてバギーは突っ返した。しかし部下はそれを聞いてしどろもどろにそれが……と呟いた。
「しかし……普通の人間ではないようで、なんというか……動物みてェな耳がついてまして」
「
動物のような人間という普通の感覚したら意味のわからない報告。しかしこの偉大なる航路では珍しくもない。恐らく動物系の能力者だろうとあたりをつけ、バギー達はその遭難者がいるという部屋に向かった。だがミズキの頭の中にはもう一つ、可能性がよぎっていた。動物系の能力者でなければ恐らくそっちだろうとミズキは思い、そしてそっちだったらより面白いなと内心ワクワクするのだった。
「こいつですキャプテンバギー、小舟に倒れてまして」
「なんだ女のガキじゃねェか……確かに普通の人間じゃねェな。だが動物系にしては人間に近くねェか?」
床に寝かせられているのは、14歳前後くらいの少女だった。茶色のボブカットに白色毛皮のフードを身につけ赤色のマフラーをしている。一見普通の少女に見えるが頭からクマのような耳が生えており、ただの人間ではないのは明白だった。
「可愛い〜〜♡ねェこの子仲間にしようよ!」
「待て待て!何者かもわからねェのにそんなリスキーな真似できるか!まずは身体検査をだな……」
少女の可愛らしさにテンションを上げ、仲間にしようと言うミズキをバギーが制止する。何者かもわからない以上調べるのが先だと。確かに偉大なる航路の遭難者など只者ではなさそうだが、バギーは顔をニヤつかせており明らかに別の目的があるのが見て取れる。
そうしてバギーが少女に触れようとした瞬間、少女の目がかっと勢い良く開き、そのまま身軽そうに飛び起きた。
「……ぶへェ!!」
「キャプテンバギー!!?」
飛び起きた少女に顔面を強打され、バギーは鼻血を出して倒れた。部下達が慌てて駆け寄り介抱する。しかし少女の方はそれをまったく気にしない、むしろ気づいてすらいないようで着地すると辺りを見渡した。
「ゆティア達……私を介抱してくれたのね!ありがとう、礼を言うわ!中々島に辿り着けなくて食料が尽きちゃって……ついでに食べるものくれる?」
「いや別に介抱してた訳じゃないんだが……というか図々しいな」
「あはは♪面白い子だね、食べ物適当に持ってきてあげて♪」
「へ?あ、はいすぐに」
呆然とする彼らを指差し、少女は礼を言いつつも食べ物を要求した。それに対しガイモンが図々しいと苦言を呈すが、ミズキは笑って食べ物を持ってくるように指示を出した。
「私はアップル!!ミンク族最強の戦士よ!!この船で一番強いのは誰?私と勝負しなさい!!」
クマの半ミンク アップル(自称ミンク族最強の戦士)
少女はアップルと名乗り、この船で一番強い者と戦わせるように言った。その様子に周囲の者達は呆然とし、ミズキだけは手を叩いて可愛い〜と喜んだ。
「あ、食べ物来たよ。遠慮せずに好きなだけ食べてね!」
「そんなことより強い人を出しなさい!勝負よ!あ、でも食べ物はいただくわね!……うん、美味しい!ところでここはなんの船かしら?海賊船?さァ早く勝負よ!!」
『忙しいな!!?』
運ばれてきた食事を食べながらアップルは質問をするが、思い出したかのようにまた勝負を申し込み始めた。それにこの場のほぼ全員がツッコミを入れた。どうやらかなりマイペースな性格のようだ。
「ねェアップル、ミンク族って言ってたよね?それにしては見た目が人間に近いように見えるんだけど」
「ミンク族を知ってるのね!私はお父さんがミンク族でお母さんが人間なの!だからミンク族と人間の血を半分ずつ引いてるのよ!」
「へェ……そういうこともあるんだね」
アップルの説明に、ミズキが納得するように頷いた。ミンク族や動物系の能力者にしては動物の要素が少ないように見えたが、ハーフなら納得だと。
「なんで海のど真ん中に一人でいたんだ?仲間はいねェのか?」
「ゆティア面白いのね!!箱に入った人間は初めて見たわ!!箱入り息子なのかしら!?」
「ああ、パパとママには赤ん坊の頃からそれはもう大切に……って違うわ!!!おれの質問に答えろ!!」
「私は強い人と戦いたくて国を出たの!私の国の人達はみんな優しすぎて本気で戦ってくれないから、強い人と巡り会うために海へ飛び出したのよ!さァ、いい加減教えなさい!ここで一番強いのは誰!?」
「この船で最強といえばこの御方、我らがキャプテンバギー様だ!」
「やめといた方がいいぜ?キャプテンバギーの強さは尋常じゃねェ!その首にかけられた懸賞金額は6億超えだ!おめェみたいなガキンチョじゃあいてにならねェ!」
「そうなのね!なら赤鼻さん!私と勝負しなさい!」
「誰が赤鼻さんじゃぼけェ!!いいだろう、ハデにボコボコにしてやるぜガキンチョ!!」
「……大人気ないガネ」
この船で一番強いのは誰か、という問いに部下達は口を揃えてバギーを名指しする。それを聞いたアップルはバギーを指差し勝負を申し込んだ。赤鼻、というワードに反応しバギーも怒りを見せその勝負に応じようとした。
「あはは♪でもいいの?ミンク族は生まれながらの戦士だよ?ハーフとはいえアップルからも結構強そうな気配を感じるし、懸賞金で言えば1億近くの実力はありそうだよ。ホントに勝てるの?」
「……!?そういえば……犬と猫の奴もかなり……」
意地悪そうにバギーに囁くミズキ。それを聞いてバギーは思い出した、かつて自分と同じロジャー海賊団に所属していたミンク族、イヌアラシとネコマムシを。年齢は自分とほぼ変わらないにも関わらず彼らの強さは半端ではなかった。そして目の前の少女もハーフとはいえ彼らと同じミンク族だという事実に気づき、冷や汗をかいた。
「ま、まァあれだな。おれ様が戦ってやってもいいがまずはこのミズキを倒してからだな。そしたらおれが相手してやるよ」
「ふふ、声震えてるよ?」
「うるせェ……!それより頼んだぞ?」
「はいはい。という訳でアップル、バギーの代わりにボクが戦ってあげる!」
「それは構わないけど……ゆティア強いの?年齢は私と変わらないように見えるけど」
「お嬢はあの七武海と互角に渡り合った人だぞ!そりゃ滅茶苦茶強ェさ!」
「そうだ!キャプテンバギーに勝るとも劣らない実力者だぜ!」
「そうなのね、ならいいわ!ゆティア!私と勝負よ!」
そうしてミズキとアップルの対決が決まり、船内では戦えないので甲板へと彼らは移動した。ミズキとアップルがそれぞれ向かい合わせに立ち、その周りを部下達がぐるりと囲んだ。
「さァ、いつでもどうぞ!」
「いくわよ!」
勝負が始まり、アップルがミズキに突進し拳を何度も振るう。その拳の速度を周囲の見物人の部下達は目で捉えることが出来ず驚く。
「あいつめっちゃ速ェ!」
「でも見ろよ!お嬢は一発もくらってねェぞ!」
だがミズキには一撃も与えることができない。鍛えられた見聞色の覇気による回避はアップルの拳をかすることさえしなかった。
「……!?ゆティア、中々やるわね!」
「そっちもね!楽しくなってきた!」
ミズキはアップルの強さを称える。しかし彼女の攻撃は先程から一撃たりとも当たっておらず、アップル側からしてみれば嫌味にすら聞こえた。
「エレクトロ!!!」
「……!!?」
だが次の瞬間、アップルの電撃を纏った拳がミズキに直撃した。ミンク族特有の電気を操るその力でミズキは身体中感電し、焦げ臭い匂いを発する。
だがしかし、ミズキは倒れなかった。そもそも攻撃が当たったのもわざとだ、アップルの実力を見るために、そして自分が楽しむために。
「あはは♪結構いい攻撃だね!ビリッと来たよ!それじゃあ今度はこっちの番だね!」
ミズキが能力で空中に飛び上がり、剣を構え雷雲を発生させる。その電力はミンク族のエレクトロとは比較にならない、巨大な雷をアップル目掛けて落とす。
「…………きゃぁッッ!!?」
たった一撃で、アップルの意識は刈り取られ決着がついた。ミズキの圧勝、誰の目から見てもその力の差は明らかであり部下達はそんなミズキの姿を見て惚れ直したと彼を称えるのだった。
──そして小一時間経ち、アップルが意識を取り戻して開口一番。
「ゆティアすごく強いのね!!決めたわ!!私はこの船に乗ってもっと強くなる!!だから船に乗せて!!いえ乗せなさい!!」
「いいよ〜♪君みたいに可愛くて強い子は大歓迎だからね!」
『え〜〜〜!?そんな軽いノリで!?』
半分人間半分ミンクの不思議な少女の、バギー海賊団入りが決まったのだった。