転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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シャボンディ諸島

 ──偉大なる航路(グランドライン)、シャボンディ諸島。

 

 偉大なる航路の前半にあるその島は、海賊達にとって一つの到達点である。 七つの航路のうち一つを選び、海軍や同業者の海賊達としのぎを削り合い様々な悪天候を乗り越えると辿り着くのは赤い土の大陸(レッドライン)

 世界を二つに分けるその大陸を越えた先にあるのが偉大なる航路後半の海、新世界。本来新世界に入る航海者は赤い土の大陸の上にある街、聖地マリージョアを経由するが海賊のような無法者達はそうはいかない。

 ゆえに海賊達はこのシャボンディ諸島で船をコーティングし、海底にある魚人島を経由して新世界に入る。その準備をする島としてこのシャボンディ諸島は活用されているため、この諸島には偉大なる航路で名を馳せた凶悪な海賊達が集結するのだ。

 

 ──と、いうのが一般的な見解だろう。実際それは間違っていないし嘘など一つもない。ただ、一部の者からしたら別の解釈もある。この島では人身売買、つまり奴隷制度が横行しており魚人・人魚への差別や違法な風俗なんかが認められている。そして海軍もそれを見て見ぬふりをしているといった歪んだ一面も抱えているのだ。まったく、正義の軍隊が聞いて呆れるね……!

 

「へ〜〜♪結構可愛い子がいるんだね!何人か買っちゃおうかな?」

 

「それよりこの中で一番強いのは誰!?」

 

「は、はァ……そうですね…………強いと言いますか、うちで一番体格がいいのはこの商品です。魚人と巨人のハーフ、魚巨人(ウォータン)と言いまして」

 

「あはは♪魚巨人かァ……ちょっと大きいけど強そうだしいい戦力になりそう!」

 

 魚人島を経由して新世界に入るために、ボク達はシャボンディ諸島にやってきた。まずはここで船をコーティングして、それから魚人島へと向かうためだ。船は既にコーティング職人に預けてあるので、後は作業が完了するまで三日間待つだけだ。

 という訳でボクはアップルや部下数名を連れて一番グローブにある人間屋(ヒューマンショップ)を訪れていた。

 ちなみにバギーやガイモン、ギャルディーノ達は船に置いてきた、危険の方が大きそうだ……っていうのは冗談であんまり大勢で動いても面倒だからね。まァあっちはあっちで適当にやるでしょ。この島は性質上賞金稼ぎとか多いけど部下も結構残してきたからね、死にはしないよ多分。

 

「いかがですか?うちは商品の質にはこだわっておりまして、精神・肉体ともに長持ちしますよ。是非ご検討ください」

 

 ごまをするように手揉みしながら言ってくる店主。長持ちねェ……要するに自害を選ばないってことだ。奴隷って結構自殺しちゃう子が多いからね、精神的に強いってのは大事だ……でも見た感じ肉体的にはともかく精神的にはだいぶ参ってそうだけど。

 

「う〜〜ん……確かに面白い子はいるけど……よく考えたら買うほどじゃないかなァ……」

 

「……ははは、そうですか。でしたら裏の倉庫にも何個か商品が残っていますので──」

 

「だから全員貰っていくね♪」

 

「……はい?」

 

 ボクの言ったことがわからないのか唖然としている店主を無視して、牢屋を壊して奴隷達を解放する。

 

「裏の奴隷達も連れてきて!あとはお金もね!結構貯め込んでそうだしある程度は自分達で使っていいよ!酒場とかでね!」

 

「マジっすかお嬢!最高だぜ!」

 

 部下達にも指示を出して裏の奴隷達や店のお金も奪う。こんな商売してるんだからこういうことも想定してるんだろうけど、さすがに突然すぎたのか店主は動かなかった。けど、ようやく状況を理解したのか止めに入ってきた。

 

「……ちょっとお待ちを!?購入されるのでしたら先に商品の代金を──」

 

「あはは♪……うるさい♡」

 

 うるさかったので心臓を剣で貫いた。まァ職業柄仕方ないよね!騒ぎを聞きつけたのか衛兵みたいなのが出てきたから適当に相手してあげる。

 

「アップル〜〜♪全員やっちゃっていいよ!」

 

「任せて!あんまり強くなさそうだけど!」

 

 言いながらアップルは既に衛兵達を薙ぎ倒している。うんうん、やっぱり強いね。うちってサポート系ならギャルディーノとかガイモンが強いんだけど正面戦闘で活躍できる人が少なかったからね、新戦力が加入したのは素直にありがたい。これから新世界に入る訳だし強い仲間はどれだけいても困らないからね!

 

「さて……、奴隷のみんな!君達を苦しめてた奴は死んだよ!逃がしてあげるけど、その先はどうする?また捕まっちゃうのがオチだね。でももしボク達バギー海賊団に入りたいって言うなら大歓迎!ひとまずの安全は保証されるし少しでも感謝の気持ちがあるなら入った方が得だと思うよ!」

 

「に、逃がしてくれるのか?」

 

「そうだよ〜♪キャプテンバギーに感謝してね♪」

 

「ここを出られるなら喜んで部下になるさ!あんた達と……キャプテンバギーに敬意を!」

 

 そうして店の奴隷達の中で男はほとんど、女の人でも半分はボク達についてきた。男達の中には元海賊も結構いていい戦力になるし、女の人も雑用なんかで役に立つのでいい事づくめだ。そっちの方のお世話も任せられるし、ね。

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路、海軍本部のある街“マリンフォード”

 

「何だと!?バギー海賊団がシャボンディ諸島に!?」

 

「はい!どうやら船のコーティングの為に滞在しているようでして!」

 

「……遂に奴らも新世界に入るか……ただでさえ今は“ビッグ・マム”や“カイドウ”への対応で手一杯だというのに……」

 

 その報告に頭を抱えるのは海軍本部大将“仏のセンゴク”。この海の治安を守る彼らにとって、バギー海賊団の新世界入りは一大事であり見過ごすことなどできないのだ。

 

「既に人間屋……あ、いや……職業安定所が一軒襲われており、このまま野放しにしてもいいものかと……」

 

「やはり大人しく通過するだけとはいかんか……あの海賊団、特に“千両道化”と“宵魔女”は見境がないからな……」

 

 あわよくば大人しく観光でもしていて欲しいと淡い期待を抱くも、それは一瞬で打ち砕かれる。バギー海賊団の中でも船長と副船長の二名は行く先々で事件を起こし、その報告を聞く度にセンゴクは頭を悩ませていた。

 

「それからこれは別件なのですが、シャボンディ諸島にジャルマック聖の一家が到着したようで……いえ、まさかとは思いますが……」

 

「……!?天竜人が!?」

 

 報告を最後までは口にせず、海兵が口を濁した。しかし言わんとしていることはわかる、バギー海賊団によって天竜人に危害が及ぶことを危惧しているのだ。

 

「奴らとて天竜人には……いや、しかし“宵魔女”は確か……」

 

『天竜人に逆らうな』子供でも知っている常識だ。少しでも天竜人の機嫌を損なえば良くて奴隷、最悪の場合殺される。それが容認されているのは天竜人が持つ絶対的な権力故だ。その上天竜人に手を出されるようなことがあれば、海軍は大将及び軍艦十隻を派遣し事態の鎮圧に当たる。

 それが故に基本的に天竜人はどれだけの横柄を働いても報復を受けることはない。だが例外もある。一部の力ある海賊、大将にすら物怖じすることない強者達は復讐や面白半分で天竜人に手を出す。

 そしてバギー海賊団の“宵魔女ミズキ”は天竜人の元奴隷、動機は充分だ。

 

「いかがしましょう?センゴク大将……」

 

「……シャボンディ諸島の付近に軍艦を配備、何かあればすぐに動けるようにしておけ」

 

「は、はい!すぐに手配を!」

 

 敬礼し部屋を出ていく海兵を見据えるその顔は、眉一つ動かない。だがその内心は穏やかではなかった。

 

 

 

 

 

 ──シャボンディ諸島、バギー海賊団滞在三日目。

 

「あはは♪結構集まったね〜!千人はいるかな?」

 

「な、なんじゃこりゃあ……」

 

「うォォォォォ!!おれ達は自由だァァ!!ありがとうキャプテンバギー!!」

 

「もう少しで奴隷にされるところでもうダメかと……ありがとう……!!……ありがとう……!!」

 

 ボクらの前で叫んだり涙を流したりして喜ぶ約千人はいるであろう人達。全員がこのシャボンディ諸島内の人間屋で売られていた奴隷達だ。コーティングを待っている間、戦力を集めるために片っ端から人間屋を襲っていたらいつの間にかこんなに集まってしまったのだ。8割が男で2割が女ってところかな。元海賊も結構いるし巨人や魚巨人もいる、戦力としては充分だ。

 

「お前……おれ達がシャボンディパークで遊んでる間に一体何を……」

 

「あはは♪人間屋から根こそぎ奴隷とお金奪ってたらこんなことになっちゃって」

 

 バギーは呆れながらボクにそう言った。というかシャボンディパークで遊ぶならボクも行きたかったんだけど!

 

「新世界用の記録指針(ログポース)も手に入れたしコーティングも終わったし、準備は万端だね♪」

 

 装備も食料なんかの物資も完璧、その上忠誠を誓ってくれてる部下が大勢手に入って絶好調だ。まァ問題があるとすればさすがに船が窮屈になってきたことだけどこれは新世界に入ってから大きくするなり数を増やせば問題ない。元からバギーの求心力なんかを見越して仲間が増えてもいいように船は大きめに作ってあるしね、さすがボク!

 

「お前達!!ここで一体何をしているえ!!」

 

「……!?おい、ありゃあ!?」

 

 その時現れたのは、独特な話し方と宇宙服のような服装をした可愛くない男女のペア。黒ずくめの側近らしき男一人と鎧の兵士を十人ほど、後は鎖に繋がれた奴隷を連れた彼らは銃をこっちに突きつけてくる。

 

「お前達が逃げ出したせいで私達が競りを楽しめないえ!!奴隷は奴隷らしく檻の中へ戻るんだえ!!」

 

「これだから下々民は!!何をやっているアマス!!早く膝をつくアマス!!」

 

 ああ、ボクらがこの島の奴隷全部逃がしちゃったからね〜〜。それにしても馬鹿だなァ、そんな兵力で海賊団に乗り込んでくるなんて。自分達が攻撃されるなんて微塵も思ってないんだろうな。

 

「ん?何だえお前は?」

 

 だからボクは奴らの目の前に降り立った。せっかく盛り上がっていた空気がぶち壊しだし、元奴隷達もさすがに恐怖で動揺しちゃってるからね。それに、()()()()()()()()()()()()

 

「ぎゃあああああ〜〜〜〜!!?」

 

「あはは♪いい声出してくれるね!」

 

「ひぃ……!?お、お父上様……ああ……」

 

 男の方を腹の辺りを剣で一突き、返り血が飛んでくるけど構わずに剣をグリグリしてやる。心臓なんて刺してあげない、すぐに死なれたらつまらないしね♪

 

「……はっ!!?やめるアマス!!か、海軍大将と……ぐ、軍艦を呼ぶアマスよ!!」

 

「大将?いいよ、むしろ呼んで欲しいな!今のボクが大将相手にどれだけやれるか試してみたいし♪」

 

 地面が赤に染まり、鉄臭い匂いが辺りを包む。女の方はあまりの恐怖に失禁なんてしちゃってる。あはは♪世界貴族様もこうなったら型無しだね。

 

「な、何をやっているアマス!!早くこの下々民を殺すアマス!!」

 

 今まで固まっていた兵士達が向かってくる。別に相手してあげてもいいんだけど、ボクはあえて無視して目の前の男を痛ぶり続ける。そうしているとボクと兵士達の間に影が一つ割って入り、兵士を殴り飛ばす。

 

「この島弱い人達ばかりで退屈してたの!!あなた達は私を楽しませてくれるかしら!!」

 

 兵士の一人を殴り飛ばしたアップルが、他の兵士達にも向かっていく。この島あんまり強い海賊とか賞金稼ぎがいなかったからね。たまたまなのかもしれないけど鬱憤が溜まってたのかな?そうしてたった一分足らずで兵士達は全滅した。

 

「あ、アップルちゃん……意外と容赦ねェな……」

 

「……?この人達が弱いのがいけないのよ?強ければこんな目に合わずに済んだのに、私弱い人は嫌いなの!」

 

 地面に倒れた男の肉を抉りながら部下達とアップルの会話を聞く。弱いのが悪いか、確かにそれはそうだね。特にこの世界は弱肉強食なんだから、強くないと海賊にやられて死んじゃうからね。だからこそだ、今ボク達が怯える必要なんてない。何故なら今この場では、ボク達こそが強者側なんだから。

 

「この世界は理不尽だよね。必死に生きようと足掻いても権力を持ってる一部の強者に簡単に潰される。あいつらは生まれつきなんの不自由もない。努力もしない。生きてるだけで豪華な家に住めて、美味しい食事が出てきて、好きなことはなんでもできる。自分の欲を満たすためなら他人の都合なんてお構い無し。というか人とすら思ってないからね」

 

 動かなくなった男から離れ、未だ恐怖からか立ち竦んでいる元奴隷達に語りかけ歩み寄る。

 

「ボクらはどれだけ足掻いても足掻いても人以下のまま、努力なんて報われない。どうにかできるならしたいよね?でもできないのが現実、精々できるのはあいつらの機嫌を損ねないようにすることだけ。そんなのおかしいよね?理不尽で、不平等で、不自由で」

 

 そう、理不尽だ。何故生まれが違うだけでこうも差が生まれるのか。何故たまたま運が良かっただけの奴らが美味しい思いをして、運がなかった者はそれの下について苦しまなければならないのか。

 

「でもね、それも今日まで。ボクらは海賊、強ささえあれば何にも縛られない。何をしてもいい、自由なんだよ。憎い相手もムカつく相手も殺せばいい。君達を縛るこのくだらない世界はボクらがぶっ壊す」

 

 そこでボクは目を点にしているバギーに目線を向ける、後は任せると。バギーはボクの視線に気づくと言わんとしていることを理解したみたいだ。

 

「お、おい……天竜人に手を出したら大将が来るガネ……!?早く逃げないと一網打尽だガネ!!? 」

 

「…………」

 

「君達はもう海賊なんだから何にも縛られない!自由にしていいんだよ!そうだよね、バギー!!」

 

「ああ……ミズキの言う通りだ。おめェらはもうおれ様の部下、そして海賊だ!!天竜人だろうがなんだろうが関係ねェ!!おめェらの自由はおれ様が保証してやる!!

 

『…………!!?うォォォォォ!!!キャプテンバギー!!!』

 

「あはは♪バギーかっこいい〜〜!!」

 

 涙目でバギーは宣言した。どう見てもやけくそだけど。隣のギャルディーノとガイモンも凄い顔して驚いてるし。

 

「や、やめるアマス……お前達……こんなことをしてただで済むと……」

 

「いいんだ、おれ達は自由。……自由なんだ!」

 

 理が逆転したこの場では、彼女はあまりにも無力。天竜人に怨みがあったであろう何人もの元奴隷達にリンチにされ、動かなくなる。因果応報だ、自分の立場にあぐらをかいてきたツケが回ってきただけのこと。

 

「よォしてめェら……!!!行くぞ、新世界へ!!!」

 

『バギー!!バギー!!バギー!!バギー!!』

 

(早く逃げねェと……大将になんて来られてたまるかってんだ……!!だがもしもの時はこいつらを囮に……トンズラだ……!!)

 

 ……とか思ってるんだろうな。まァなんでもいいよ、彼らを焚きつけることができればね。これでバギーの名声も上がるし世界の王に一歩近づいたかな?これからもどんどん事件を起こして、バギーを早く王様にしないとね♪

 


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