転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

29 / 90
桃兎

 単純作業は嫌いだ。同じことばかりやっていると眠くなってあくびが出てくるし、なんだか頭が痛くなってくる。だからこんな風に目の前の武器にひたすら魔法をかけていく作業なんて本当はしたくないんだけど、戦力増強は最優先事項だからやらない選択肢はないんだよね。訓練で強くなるにも時間がかかるだろうし武器で手っ取り早く強くなれるならそれが一番だ。

 てことで仕方なくやっているんだけど、やっぱり退屈で飽き飽きしていた。最初のうちはひたすら腹筋をしている部下やバギーを見ていたけどそんなの直ぐに飽きる。だから話し相手がやってきた時は隣に座ることを進め、お茶菓子でも差し出したい気分になった。例えその人物が海軍のスパイだったとしても。

 

「ウサフフフ……楽しそうなことをやっているんだね」

 

「そう見える?すっごく退屈だよ、この作業」

 

 黙々と手を動かすボクの隣に座ってそう言ってくるのはギオン。この島のクラブを経営してるって言ってボクらに近づいてきたんだけど……海兵なんだよねこの人。ボクらの動向を探るために送られてきたんだろうけど、原作知識のあるボクにとってはスパイなんて一発でわかる、名前もないレベルのモブだったらわからないけどネームドキャラなら大体はね。

 

「昨日はどうして来てくれなかったんだい?悲しいじゃないか」

 

「え〜〜!だって女の子が接客してくれるんでしょ?ボクより可愛い子がいるならともかくそんな子がいるとも思えないし〜〜!」

 

「フフ、自信家なんだね。だけど確かに、お前さんより可愛いと言える子はうちにはいないね。長くこの仕事をやっているけどお前さんほど可愛い子は初めてみたよ。とても男には見えないね」

 

「やっぱり?わかってるじゃん!まァ当然だけどね!」

 

 まずは親しくなって情報を聞き出しやすいようにするってことかな?でも最初からバレてたら意味ないよね。それを知らずにこんな無駄なことに必死になってると思うとちょっと同情しちゃうね。

 

「それにしても……あれは一体何をしているんだい?」

 

「見ての通り訓練だよ。新世界に入ったんだしある程度は強くなってもらわないと困るからね」

 

 ギオンは腹筋をしている部下達の方を指差して問いかけてくる。なんだか微妙な顔してるけど何か思うことでもあるのかな?……そうだ!ちょっとカマかけてみようかな♪

 

「ねェギオン。ボクもどうやったら強くなれるかとか詳しくなくてさ……何かいい方法あったら教えて欲しいな。例えば……海軍の訓練方法とか♪」

 

「……!!それは……何故あたしに聞くんだい?」

 

「だってギオンはこの島のクラブを仕切ってるんでしょ?だったら色んな情報持ってそうだし、もしかしたら知らないかな〜って」

 

「……なるほど。……あたしもそこまで詳しくはないけど……無闇矢鱈に回数をこなすよりは一回の負荷を大きくした方が効率がいいとは聞いたことがあるね。例えば……重りをつけてみるとかさ」

 

 ん〜……ちょっと驚いたみたいな反応したけどこれくらいじゃボロは出さないか。さすがは海軍からスパイとして派遣されてくるだけのことはあるね。それにしても重りか、亀の甲羅背負って修行するとかそんな感じかな?

 それにしても意外といいこと教えてくれるんだね。これくらいなら教えても大丈夫とかそんな感じかな?機密情報とかは聞いても知らない風に振る舞うんだろうけど一般人でも情報通なら知っていてもおかしくないことは普通に教えてくれるのかも。

 

「重りかァ……こんな感じかな?」

 

「……!!?ぶべェ!!」

 

 とりあえず試してみようとゼェゼェ言いながら腹筋しているバギーの頭に魔法で30kgくらいの鉄仮面をつけてみた。ちょうど上げていたバギーの頭は重りの重みで地面に打ちつけられ悲鳴をあげた。

 

「おい今のてめェかミズキ!!何しやがんだ!!」

 

「重りつけた方が効率的だってギオンが教えてくれたんだ!バギーも早く強くなりたいでしょ?」

 

「そういう問題じゃねェ!!やるならやるって先に言いやがれ!!ハデに頭が潰れるかと思ったぜ!!」

 

 鉄仮面をつけながら上半身だけボクに迫ってくるバギー。どうでもいいけど傍から見れば割とホラーだよねこの光景。……というか

 

「それ、重くないの?」

 

「ん……?……ぶへェ!!」

 

 今更気づいたのか鉄仮面の重さで地面に叩きつけられた。というかさっき普通に飛んできてたし30kg程度だったら普通に動けるんだねバギー。今も立ち上がってきてるし。

 

「……あんた達、いつもこんな感じなのかい?」

 

「そうだよ!面白いでしょ!」

 

「面白くねェ!」

 

「……まァ……イメージとはだいぶ違うね……」

 

 ギオンはため息混じりにそう言う。イメージか、ボクらって世間的にはどんなイメージなんだろ?少なくともいいものではないだろうけどさ。どっかの麦わら帽子君は天竜人を殴っただけでイカれてるって言われてたから殺したボクらもそれ以上にイカれてるって思われてるのかな?まぁ強くて怖い海賊団って認識ならいいんだけどね。あ、それとボクの可愛さも伝わってたら嬉しいな。

 なんて考えている間にボクの作業は終わり、部下達も腹筋を終えてみんな倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

「ゼェ……ゼェ……ガハッッ……!!」

 

 カライ・バリ島、バギー海賊団のアジトの地下に作られた牢屋部屋。薄暗い部屋の中で血を吐き息を乱すのは特徴的な鼻をした魚人の男。鎖で繋がれ自由を奪われた彼はボクを鋭い視線で睨みつけてくる。

 

「やっほ〜アーロン!調子はどう?もうすぐ3時間くらいだね!身体はどうかな?力がみなぎってくる?それともその逆?」

 

「……うるせェ……てめェも……千両道化も……いつか必ずおれが殺してやる!!」

 

「あはは♪元気だね!薬の効果が効いてきたかな?」

 

 ボクはポケットから錠剤のようなものを取り出すとアーロンに見せつけた。それを見ると彼は顔をしかめた。しかしすぐに僕を睨み直し、呼吸を荒くした。

 

「このE・S(エネルギー・ステロイド)は強力な力を使用者に与える代わりに寿命を著しく削っちゃうんだよね。簡単に強くなれるのはいいんだけどうちの可愛い部下達の寿命が削れたら困っちゃうでしょ?だから君で実験するんだ♪とりあえず力を上げる効果はそのままに寿命を削らないようにしたつもりなんだけどどうかな?」

 

 アーロンはボクの問いかけに答えず、血反吐を吐いて苦しむ。う〜ん、この様子だと力も上がってないし寿命も削れてない。ただ単に身体に負担がかかってるだけみたいだね。

 

「やっぱり難しいか。……ボクって魔法使いだからどっちかっていうと科学の分野の薬の改造は苦手なんだよね」

 

 この薬を改造してデメリットをなくせれば部下の強化に繋がると思ったんだけど……そんなに都合のいいこともないってことかな。まあ焦ってもしょうがないし、ゆっくりと実験していけばいいか。

 

「……てめェら下等種族じゃ難しいか?……シャハハハハ」

 

「あはは♪反抗的だね!あ、うちに入るって言うなら出してあげるけどどうする?君はそんなに強くないけど弱い訳でもないから歓迎するよ!」

 

 実際懸賞金もかけられるくらいには強い訳だしね。ある程度の戦力にはなるだろうし。

 

「ほざけ……下等な人間の部下になるくらいなら……死んだ方がマシだ」

 

「そう?まァそんなことだろうと思ったけどさ」

 

 これで仲間になりますなんて言われても逆に困っちゃうしね。という訳で引き続きこのサメ君には実験台になってもらおうかな。

 

「お嬢〜!お嬢!沖に海軍の軍艦が三隻現れて……こっちに向かってます!」

 

「……!……へェ……思ったより早かったね」

 

「……?それはどういう?」

 

「こっちの話!どっちの方角?案内して」

 

「……あ、はい!こちらです」

 

 部下の案内でボクは地上に出て港へ向かう。確かに海軍の軍艦が三隻、まっすぐこっちに向かってきてるね。たった数日で軍艦を寄越すなんてギオンは優秀だね。まあでも……軍艦だけなら大したことないかな。

 

「バギー玉の用意できてる?」

 

「はい、三門はすぐに発射できます」

 

 ボクらは島の防衛策として五箇所の港や海岸にそれぞれ3門ずつバギー玉を設置してる。向かってくる船が明らかに敵だったら態々上陸を許す必要なんてないからね。バギー玉で消し飛ばしてあげればいいだけだ。こんな風にね。

 

「いくよ〜〜!!放て特製バギー玉!!」

 

 海軍の軍艦に向かってバギー玉が発射される。それは一発や二発じゃない。魔法で無限に補充される玉を惜しみなく使い何十発と軍艦を爆破する。一発で街を消し飛ばす威力だからね。それが何十発も撃たれたら軍艦三隻なんて木っ端微塵だ。

 

「はい撃ち方やめ!!……うん!!相変わらずいい威力!!」

 

「ギャハハ!!おれ達を捕まえようなんて百年早ェ!!」

 

「キャプテン・バギーとお嬢の作り上げたバギー玉は無敵だ!!」

 

 部下達は大笑いしながらバギー玉の威力を誇る。自分で言うのもなんだけどかなりの完成度だからね。原作のバギー玉より遥かに高い破壊力に無限発射が可能……控えめに言ってもぶっ壊れじゃないかな?これがゲームなら即ナーフものだね。

 

「…………!!?」

 

「あ、ギオン!今の見てた?ボクらのバギー玉すごいでしょ!!」

 

「……ああ……あんた達、すごい武器を持ってるんだね」

 

 ボクらのやや後方で唖然としていたギオンを見つけて彼女の方に飛んでいく。自分の呼び寄せた軍艦があっさり撃沈されてどう思うのかな?罪悪感とかすごそうだね。

 

「で、どうしたの?ボクらに何か用?」

 

「……!ああ、今月分の上納金を納めておいたから確認して欲しいと思ってね」

 

「そう?態々ありがと!」

 

 にしし、とボクは無邪気な笑いを見せる。ボクの顔を少し見つめた後、ギオンは微笑むと背中を向けて帰って行った。頑張って動揺を隠そうとしてるけど少しだけ表情が歪んでいたのを見て、ボクは密かに口元を緩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 海兵の仕事は何も現場で海賊を捕らえることだけではない。スパイとして潜り込み、情報を得て政府に流すのも重要な仕事だ。それはただ単純に海賊を追いかければいいというものではなく、先の先を読んで常に最適な行動を求められる。

 例えば潜入のためなら海賊の益になる情報や物資を渡すこともあり、最終的に海賊を逮捕することができればある程度のことには目を瞑る。

 だからこうして海賊をもてなすことも、ギオンにとっては任務の一環だった。

 

「ギャハハハハ!!野郎共!!好きなだけ飲み食いしてハデに騒ぎやがれ!!勢力も増え島の興行も絶好調だ!!おれ様達の勢いは誰にも止められねェ!!」

 

『ウォォォォ!!キャプテン・バギー!!!』

 

バギー海賊団船長 “千両道化(せんりょうどうけ)のバギー” 懸賞金8億5500万ベリー

 

 

 歓楽街の一角、ギオンが経営するクラブに招かれたバギー海賊団約500名は酒を飲み大騒ぎしていた。ギオンがこの街のクラブを仕切る者としてバギー海賊団に近づき既に一年以上。目立った成果を上げることもできず、寧ろ海賊団の居場所を教え派遣した海軍の軍艦は全て返り討ちにあってしまった。

 故に最近では得た情報を送るだけにとどめ、積極的に攻勢に出させることはなかった。

 だが、彼女をもってしてもほとんど情報を得ることができない人物がいた。それは──

 

「あはは♪このケーキも美味しい〜〜!!ねェギオン、君もこれ食べてみなよ!!」

 

 

バギー海賊団副船長 “宵魔女(よいまじょ)ミズキ” 懸賞金7億ベリー

 

 

「ウサフフフ。ああ、いただいてるよ」

 

 会話をしながらその少年を観察する。どう見ても少女にしか見えないが、少年。おそらくその身に宿した悪魔の実の能力によるものだと推測されているが、詳しいことは不明。政府にとって重要な能力であることは間違いないが、ギオンにも詳細は聞かされていなかった。実年齢も不明で船長バギーと同じく覇王色の覇気を持ち、ギオンが最も優先して情報を集めるよう求められている人物だった。

 何しろその能力でできることが多彩すぎるため、政府も詳細を把握出来ていないのだという。異名通り様々な魔法を使い、予測不能な現象を引き起こす。そしてその本人の行動もまた極めて予測が難しいという厄介極まりない相手だ。一年前の天竜人殺害事件の際も、直接手を下したのはバギーではなく彼だという。そしてそんな彼ですら部下にしてしまう“千両道化”のカリスマ性はかなりの脅威だと推測できる。

 

「ていうかなんでボクは飲んじゃダメなの?せっかくだからいろんなお酒飲んでみたいのに!!」

 

「そっちの船長さんがお前さんには絶対飲ませるなって……鬼気迫る勢いで釘を刺してきたんだよ」

 

「え〜〜!?……まァバギーが言うならそうする」

 

 口を尖らせて文句を言いつつも、渋々ミズキは納得した様子で酒ではなくジュースを飲み干す。ギオンとしては酔わせて情報を引き出したいのだが、さすが大海賊団の船長と言うべきか、バギーは中々用心深いようだ。こうなってくると初日に簡単に誘いに乗って潰れていたのも探りを入れるための演技と見るのが自然だろうとギオンは考えた。

 そういった面も含めて調査が必要だと。そのためにはより信頼を得る必要がある。

 

「ところで……その膝に乗せている箱はなんだい?」

 

「これ?ふふ〜ん!敵船から奪った宝箱だよ!せっかくだからギオンの前で開けてあげようと思って!」

 

「へェ……それは嬉しいね……宝箱なんて久しぶりに見るよ」

 

 ミズキは膝に乗せていた箱を大切そうに擦ると、ゆっくりと蓋を開けて中身を確認する。その中身は一見砂時計のような形の物。しかし中には指針が釣られており、砂時計ではないことは一目瞭然だった。

 

「それは……! 永久指針(エターナルポース)かい……!?」

 

「そうみたいだね……これって……!?」

 

 宝箱の中身は永久指針。それに彫られた文字を見て、ミズキは珍しく驚きの表情を見せた。ギオンにも僅かに覗かせ、永久指針に彫られた文字を確認させる。

 

「これは……ワノ国への永久指針!?」

 

「だね〜!?びっくりした、結構レア物じゃん!」

 

 永久指針に示されていたのはワノ国。新世界にある鎖国国家であり、侍と呼ばれる戦士達が強すぎて世界政府ですら容易に近づけない強国だ。そのため文化や生活様式など謎に包まれていることが多く、たまに違法出国してくる者が唯一の情報源だった。数年前にワノ国出身の侍、光月おでんが白ひげ海賊団、そしてロジャー海賊団のクルーとして活躍しその力を世界に轟かせた。無論ギオンにもその噂は届いており、故に彼女は驚くと共に考えた。これはチャンスかもしれないと。

 

「それで……行くのかい?ワノ国へ」

 

「そうだね〜。バギーが行きたいって言うかはわからないけどボクは行きたいかな〜。本場のおしることか食べてみたいしね!」

 

「なら……あたしも連れて行ってくれないかい?昔からワノ国に興味があってね」

 

「いいよ!でも命の保証はないからね、ただでさえ新世界だしワノ国は未知の国だし」

 

「ああ、大丈夫さ」

 

 想像より軽く了承して貰えたことに拍子抜けする。しかしワノ国への航海に同行することができればバギー海賊団の情報はもちろん、ワノ国の内情も探ることができるかもしれない。そうなればこの一年大した手柄を得られなかったことを考えてもお釣りが来る。

 

「まァ色々やることもあるから行くのは早くても半年後くらいかな〜」

 

「十分さ、楽しみにしているよ」

 

 ギオンは内心勝ち誇り、やっと尊敬するおつるさんにいい報告ができると歓喜した。それを見つめるミズキの視線が冷たく突き刺さり、彼が口元を緩ませたのにも気づかずに。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。