転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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ワノ国

 その大事件は半年前のことだった。

 

「おでん二刀流……!!桃源十拳(とうげんとつか)!!」

 

「ぐ……オォォ……!!」

 

 侍の全力を込めた斬撃は、怪物カイドウの腹に一生消えぬ傷とトラウマを植え付けた。

 ワノ国を守る侍達と百獣の海賊の国の存亡を賭けた死闘は、侍陣営の勝利で終わると思われた。だが……

 

「二度と来るな!!ワノ国へ!!」

 

「動くなおでん!!」

 

「父上……助け……!!」

 

「モモ──!!?」

 

 息子を人質に取られれば、さしもの化け物侍でもどうしようもない。彼とて人の親なのだ。カイドウの金棒はおでんの頭部を直撃し、大量の血と彼の意識を奪い取った。

 

「キョキョキョキョ!!」

 

『おでん様!!?』

 

 彼が最後に聞いたのは、息子に化けていた老婆の笑い声と家臣達の断末魔。最後に見たのは怪物カイドウの焦りと驚き、怒りの混ざりあった表情だった。

 

「極悪なる十名の侍達は三日後!!大衆の面前にて!!釜茹での刑に処す!!」

 

「チャンスが欲しい!!おれは生きねばならない」

 

「一時間だ!!ウォロロロロ!!耐えてみろ、風呂でものぼせる時間だ!!」

 

 煮えたぎった油による釜茹での刑。常人であれば一瞬で唐揚げになってしまう程の熱に、化け物侍は抗ってみせる。絶対に生きのびる、その信念と──己の死を予感して。

 

「そのまま橋板に乗ってろお前ら!!」

 

「お、おでん様!!?やめてください!!担ぐなら我らが!!」

 

 彼は家臣十名を守るため、単身油に飛び込み蓋に家臣達を乗せグツグツと煮える油の熱気に耐える。すぐに死ぬだろう、その百獣海賊団やオロチの家臣の考えとは裏腹におでんは踏ん張ってみせる。十分、三十分、五十分、どれだけ時間が経とうと、例え肉体が死のうとおでんの精神が死ぬことはない。

 

「ハァ……ハァ……お前達……!!この釜茹でを凌いだら……おれはこの国を開国したいんだ……!!」

 

「──はっきり言うぞ……!!あいつらは今日……必ずおれを殺す!!……おれの代わりに……ワノ国を開国して欲しい!!」

 

「あんたの夢なら……拙者達の夢でござる!!!」

 

 家臣達に自身の夢を……使命を託し、おでんの命の炎は少しずつ小さくなっていく。そして彼の肉体はとうに死んでいるが、約束の一時間を耐えきって見せた。

 

「……銃殺の刑に変える事を……一分前に思いついた。さらに一家全員皆殺し!!」

 

「頼んだぞお前ら……ワノ国を開国せよ!!」

 

 オロチの屁理屈を聞き、おでんは最後の力を振り絞り家臣達を逃がした。主君の最後の願いを叶えるため、彼らは走り出す。それを追うはオロチの家臣と百獣海賊団の雑兵達。そしてその場に残ったのはおでんとカイドウ、オロチと見物の民衆達だった。

 

「見事な死に様とお前は語り継がれる」

 

「忘れてくれて構わねェ……おれの魂は生きていく!!」

 

「ババァの件は悪かったな。殺しておいた」

 

「ハァ……ハァ……真面目だな……せいぜい強くなれ……おれは……」

 

「一献の酒のお伽になればよし……煮えてなんぼのォ〜〜!!」

 

『おでんに候!!!』

 

 そうしてワノ国伝説の一時間は幕を閉じた。ロジャー、白ひげ、カイドウ。多くの男達に多大な影響を与えた侍、光月おでんの一生は幕引きを迎えた。未来へ思いを託し、散っていった彼の最後の表情は笑顔だったという。

 

 

 

 そして人知れず、おでんの意志を継ぐものがまたその物語の扉を開いた。

 

「ぼくはおでんだ!!光月おでんだ!!」

 

「岩屋の中で頭を冷やせ!!一ヶ月の猶予をやる」

 

 自身をおでんだと名乗り、その意志を継ごうとするその少女は……カイドウの娘だった。

 

「ぼくはワノ国と一緒に戦うよ……海へ出てもっと……もっと……強くなって……!!」

 

「それは心強い……では拙者達はおぬしをここで死なせぬことで未来の戦へ参戦いたそう。二十年は拙者達にはちと待てぬ年月ゆえ……!!」

 

「このまま衰弱死など御免こうむる!!もとより屈する気などないゆえ!!」

 

「カイドウ様ァ〜〜!!天の岩戸が破られましたァ〜〜〜〜!!」

 

 ワノ国にその名を轟かせた大剣豪達は、光月おでんの意志を継ぐ少女を生かすために己が命を散らした。

 ある者達は遥か先の未来へ飛び、主君の夢を果たそうとする。ある者達は来るべき決戦に備え力を蓄え、再び現れる同士を待った。そしてある者は自らを光月おでんとするために鍛錬を重ねるのだった。

 

 

 

 

 

 ワノ国に入国するには鯉に船を引かせて滝を登る必要がある。こんなことを聞いて信じる人間は一体どれだけいるだろうか?新世界の住民ならまだしも、偉大なる航路(グランドライン)外の四つの海の住民は鼻で笑うだろう。そんなことあるはずがないと。それはかのバギー海賊団のクルーでも同じことだった。いくらなんでもありえないだろうと、その目で見るまでは誰もが笑っていた。

 

「ハデに飛ばしてけ鯉共!!おれ様をワノ国に導け!!」

 

「あはは♪飛ばせ飛ばせ〜〜!!」

 

「嘘だろ……まじで鯉が滝を登ってるぞ……!?」

 

「というかあの鯉デカすぎねェか……?」

 

 ピエロの様な鼻が特徴のドクロが掲げられた海賊船は鯉に引かれワノ国へと入国する。この摩訶不思議な現象を知らぬ者ならワノ国へ上陸することすら叶わないのだが、それは彼らには当てはまらない。

 その船の船長であり、ワノ国への上陸こそしていないものの鯉の滝登りの経験者であるバギーは一切の動揺を見せずに堂々たる背中をクルー達に見せている……ようで内心は何かの拍子で落下したらと悪い未来を思い浮かべ気が気ではなかった。しかしそれを悟られないのはやはり彼の生まれ持った悪運と妙なカリスマ故か。

 そしてそんな彼の隣でまるで子供のようにはしゃぐのは副船長であるミズキ。彼もワノ国へ訪れたことはないが知識で知っていた為に特に動揺もせず、寧ろこの状況を楽しんでいた。

 男性とは思えない程可愛らしい笑顔となびく髪から覗くうなじに古くからいるクルー達は目を奪われる。バギー海賊団に入ると女に興味が無くなる。まことしやかに囁かれる噂だがそれは決してただの与太話ではないと確信できる程彼は可愛らしかった。

 

「まさか……本当に鯉が滝を登るなんてことがあるとはね……」

 

 そんな彼らから少し離れた場所で登る鯉達を見上げている着物風のドレスを身にまとった美女。その風貌には似合わない刀を腰に帯刀する女の名はギオン。バギー海賊団の本拠地、カライ・バリ島のクラブを取り仕切るボスであり、その裏の顔は海軍から派遣されたスパイだった。バギー海賊団とワノ国の情報収集の為に今回の航海に同行したのだが、やはり丸腰で未知の土地へ赴く訳にもいかず愛刀である“金毘羅”を護身用として持ち出していた。海賊団には護身の為にある程度の戦闘術は心得ていると説明してあるが、それでも戦わないに越したことはないないだろう。雑兵程度なら一人や二人倒したところで何も思われないだろうが、あまり強いところを見せるのはリスクが高すぎるのだ。

 

「しゃあ!!滝を登りきった!!上陸の用意だ野郎共!!」

 

『ウォォォォ!!!』

 

 ギャルディーノやガイモン、アップルといった主力級は警備のために島に置いてきたが、それでも約500名の大軍勢。その雄叫びもまた大きく、彼らは滝を登りきりワノ国の大地へ足を踏み入れた。──かと思われたが、ここで問題が発生する。

 

「お、おい!!なんだあの馬鹿でけェ渦潮は!!?」

 

「それに……ここは逆流か!?このままじゃ滝つぼに真っ逆さまだ!!」

 

 滝を登り待っていたのは想像を絶する悪天候。大半の船はここで沈没してリタイアだろう。災害というのは人の手ではどうにもならないのだ。だが真っ向から打ち勝つのは無理でも避けることはできる。それを示すかのように船は宙に浮き、大渦と激流を回避した。

 

「ふゥ……危ない危ない……」

 

 甲板に手を付き、額の汗を拭う様な仕草をしたのはミズキ。彼は能力の魔法によって船を浮かし、荒れ狂う海から離脱させたのだ。思い浮かべるのは“金獅子のシキ”のフワフワの実の能力。彼も自身の能力により船を浮かし、空を移動する極めて珍しい海賊だった。絶体絶命の窮地を脱したことに湧くバギー海賊団の船員達。ギオンはミズキの能力の多彩さと強力さに息を呑むが、ひとまず危機は去ったことに安堵する。

 そうして危機を乗り越え船を進めしばらく、バギー一行はワノ国のとある浜辺に到着した。

 

「船はどっかに隠しといてね。見つかったらめんどくさいから」

 

「へい!」

 

 ミズキが船を隠すように指示を出し、それを聞いた部下の何人かが近くにあった崖の影に隠した。そして船の安全を確保し、一同は辺りの景色を見渡す。

 

「この景色も久しぶりだな。相変わずチンケな場所だ」

 

「そう?ボクは好きだけどなァ、この景色」

 

 それぞれ感想を述べるバギーとミズキ。しかしそんな会話の最中、ミズキが突然浜辺の先にある森に向かって雷を撃ちだした。

 

「うォ!?おめェいきなり何やってんだ!?」

 

 ミズキの雷によって木々は煙を上げ、着弾地点周辺は炎に包まれた。突然の行動に驚くバギー達だが、煙の中を動く影を見てまた別の驚きを見せた。

 

「これは……人か?」

 

 呻き声を上げながら森から現れ、力尽きて倒れた何人かの男達。彼らは全員が同じような二本の角の装飾を頭につけており、どこかの組織に所属していることが伺える。

 

「……!?まさか……百獣海賊団!?」

 

「だね。まさかワノ国にいるなんてすごい偶然」

 

 ギオンが彼らの所属組織の名を口にする。その名を聞いた者は一様に驚愕し、顔を青くする。何せ百獣海賊団といえば四皇の一角であり、凶暴な猛者が何人も所属する恐ろしい組織であると評判なのだから。

 

(何故ワノ国に百獣海賊団が?……偶然居合わせた?……それともまさか……)

 

 ギオンは海兵として、鎖国国家ワノ国の実状を上に報告する義務がある。故にこの場に下っ端とはいえ百獣海賊団がいることに関して思考を巡らせる。たまたまこの場にいただけならいいが、仮に百獣海賊団がワノ国を乗っ取っていたと考えると状況は最悪だ。ただでさえ侍が強すぎるあまり手が出せないというのに、そこに四皇までもが加わるとなると政府もいよいよ手が出せなくなる。

 

「おいおい……聞いてねェぞワノ国に四皇がいるなんて!!面倒になる前にとっととトンズラしねェと……!四皇と鉢合わせたら命がいくつあっても足りねェ!!」

 

 四皇と呼ばれる海賊達の強さを間近で見てきたバギーはその驚異を正しく理解し、すぐにこの場を離れようとする。一見情けないように見えるかもしれないが、これが最善。四皇の一味に手を出すのは新世界を知らない新参者か相当な馬鹿くらいだ。だからこそ、バギーが撤退を指示するのは当然のこと。だったのだが──

 

「野郎共!ワノ国観光は中止だ!すぐに引き返すぞ…………おい、ミズキの奴どこ行った?」

 

「それが……本場のおしるこを食べたいと言ってどこかへ行っちまいまして」

 

「はァァァ!!?あいつがいねェと帰るに帰れねェじゃねェか!!国中探してひっ捕らえろ!!」

 

「は、はい!!」

 

 バギーの叫び声を皮切りに、彼の部下達はすぐさまミズキを探しに国中を駆け回ることになった。そしてそんな彼らの苦労を、ミズキは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 ワノ国、九里の郷。おこぼれ町。

 

 かつて光月おでんが治めた九里の郷、その外れにある寂れた町をおこぼれ町という。その名の通りここの住民達は役人が使わなくなったものや腐りかけの廃棄の食料をいただいて暮らしている。更にはオロチの手の者からは工場の労働力としてこき使われ、卑しい身分の者として差別されている。

 町を形成する家屋、そこに住む住民達の身に纏う衣服や履物の全てがボロボロでいかにも貧乏人という風貌だ。

 

(う〜ん……さすがにここでは食べれないよねェ……)

 

 そんな場所では当然、小綺麗な服を着飾ったミズキは嫌でも目立つ。道の中心を堂々と歩くミズキを住民達は不審者を見るような視線でチラチラと見て、何やら噂話をしている。男性の多くは不信感を抱きながらも顔を赤く染め彼に見惚れるが、女性達は口々に噂話に花を咲かせていた。

 

(あっちの方ならお店があるかな……?本場のおしるこ楽しみ♪)

 

 だがそんな視線に気づいているのかいないのか、ミズキはまったく気にする素振りを見せずにこれから食す予定の甘味に思いを馳せる。そうして見据えるのはおこぼれ町の隣に位置する博羅町。役人や百獣海賊団の配下が暮らす役人街であり、このおこぼれ町とは比較にならない程に裕福な町だ。そんな町ならばおしるこを食べられるかもしれない。そう考えてミズキは博羅町に向けて歩みを進めた。

 

「おいガキ、うちのもんじゃねェな?何者だ?」

 

 だが博羅町の入口にある門を潜り抜けたすぐ先で、複数の男達によって行く手を阻まれる。二本の角の装飾、浜辺で見かけた者達と同じ百獣海賊団だ。大した覇気を感じないことから下っ端であることは間違いないだろうが、この国を牛耳る百獣海賊団の者ならおしるこの場所を知っているかもしれない。そう思いミズキは彼らに質問する。

 

「おしるこってどこに行けば食べられるの?素直に教えてくれれば生かしておいてあげる」

 

「…………ぷっ……ギャハハハハ!!おい嬢ちゃん今なんつった?面白いことを言うガキだぜ!!」

 

「おしるこならこの町にはねェよ!つい数時間前に全部持ってかれちまった。誰にだと思う?百獣海賊団大幹部が一人、“疫災のクイーン”様にだ!!」

 

 ミズキの言葉に男達は顔を見合わせる。そして顔を膨らませるとそれを吐き出し大爆笑を始めた。そうして上から目線で小馬鹿にするようにミズキを笑い、聞けば誰もが恐れる男の名を口にした。実際その名を耳にすれば大抵の者は恐れおののき頭を地面に擦りつけて許しを乞うだろう。だが──

 

「へへへ!今なら許してやる。それよりおれ達と楽しいことを……!?ぶへェェ〜〜!!」

 

 ミズキの回し蹴りを腹にくらった男は悲鳴を上げながら吹き飛び、いくつかの家屋を貫きようやくその場に倒れた。残された男達は何が起きたのがわからない、ただ彼らの瞳に映るのは不敵な笑みを浮かべて見下げる少年の姿だ。そしてそれは彼らの最後の記憶、次の思考に移る前に彼らの意識は目の前の少年に刈り取られた。

 

「ねェ、そのクイーンっていうのはどこにいるの?おしるこ持ってるんだよね」

 

「……うゥゥ……お、鬼ヶ島……我々百獣海賊団の本拠地に……」

 

「そ、ありがと♪」

 

 死体を積み重ねて出来た山。その上に座り辛うじて生きていた男に問いを投げかけ、答えを聞くと山の上から飛び降り少し歩くと右手の人差し指を後ろに向け、エネルギー波で死体諸共男を爆破する。

 そうして死体の処理を終えるとミズキは飛び去った。百獣海賊団の本拠地、鬼ヶ島へと。

 

 

 

 

 

「お待ちください鬼姫様〜〜!!カイドウ様が不在の中勝手なことをしては……!!」

 

「うるさい!ぼくは光月おでんだ!鬼姫なんかじゃない!放っといてくれ!」

 

 ワノ国の沿岸、角の生えたドクロの形をした巨大な岩が特徴のその島は鬼ヶ島。百獣海賊団の本拠地であり、建設途中のカイドウの城がある場所であった。そこを逃げ回るのは小さな影。追う百獣海賊団の下っ端を薙ぎ倒し影は突き進む。

 

「ムハハハハ!!ヤマトの奴もよくやるぜ。どうせカイドウさんが戻ってきたらボコボコに殴られるってのによ!……うめェ!」

 

「クイーン様……早くヤマト坊ちゃんを止めないと被害が……」

 

「うるせェ!!おれは今おしるこを堪能してんだ。おしるこはおれの酸素!!誰にも渡さねェ!!」

 

「はァ……別に奪いはしませんが……」

 

 両手に箸とおしるこの入ったお椀を持ち高笑いする豊満な男。まるで風船のようなその身体を揺らしサングラス越しの視線を暴れ回るヤマトに向け、なおも彼はおしるこを啜る。

 百獣海賊団大看板“疫災のクイーン”。カイドウの両翼、最高幹部の一人だ。

 

「それより九里からの報告がねェな。あいつらま〜たおこぼれ町の貧乏人共をいびってやがるのか?」

 

「博羅町の兵が全滅したそうです。それの対処に当たっているかと」

 

「え〜〜〜〜!!?言えよアホンダラァァ!!」

 

 サングラスから目玉を飛び出させ、舌を揺らし驚くクイーン。そしてどこかコミカルに部下にツッコミを入れた。

 

「どこのどいつだ!!おれ達に喧嘩を売りやがった野郎は!!」

 

「目撃者によると……あのバギー海賊団の“宵魔女”だったそうで……」

 

「え〜〜〜〜!!?バギーってあの元ロジャー海賊団のか!?何故それをすぐ報告しねェ!!」

 

「いえ何度も言おうとはしたんですが……クイーン様がおしるこに夢中だったもので……」

 

 部下は気まずそうに頭を掻きながら言った。クイーンも思い当たる節がありすぎるため何も言えず、言葉を喉の奥に引っ込めた。

 

「クイーン様!ヤマト坊ちゃんが!」

 

「あん……どうした?……って……え〜〜〜〜!!?カイドウさんの城がァァァ!!」

 

 ヤマトが振るった金棒の一撃で建設途中だった城の一部が倒壊する。降ってくる瓦礫に巻き込まれ何人かの部下が潰されるが、なおもヤマトは進撃を続ける。

 

「あんのガキ……!!少し自由にしてやれば調子に乗りやがって!!」

 

 そこでようやくクイーンは重い腰を上げた。立てかけてあった刀を手に取り暴れるヤマトを取り押さえる為に動き出した。だが突き進むヤマトの前に一つの影があることに気づき、それを凝視した。

 

「誰だありゃあ……?」

 

「はァ……はァ……誰?そこをどいて!」

 

 ヤマトもそれに気づき小さな身体から大声を発して逃げるように促す。だがその人物──少女は動くことはなく、むしろその逆にヤマトを迎え撃つつもりなのか背中に背負った鞘から短剣を抜いた。

 

「……ッッ!!……雷鳴八卦(らいめいはっけ)!!

 

 ヤマトが金棒をバットのように振り、少女に叩きつける。元はカイドウの技でありまだ子供のヤマトが繰り出しても並の大人なら吹き飛ばせる一撃だ。だがそれを、少女は短剣一本で受けきってみせた。

 

「あはは♪まだ子供なのにいい攻撃だね!」

 

「……!!?ヤマト坊ちゃんの一撃を受け止めやがった!?」

 

「……おいおい……ありゃあまさか……!!」

 

 ヤマトの一撃を受け止めた少女に百獣海賊団の部下達は驚き、クイーンは思い当たる節があるのか顎を撫でる。ヤマトは飛び上がっていた状態から着地し、目の前の少女を見つめる。

 

「お姉さん……誰?」

 

「お姉さんじゃなくてお兄さんね。ボクはミズキ、海賊だよ!」

 

「え?お兄さんなの?……それに海賊?」

 

「そうだよ〜。それで、君は誰かな?」

 

「ぼくはヤマト……光月おでん!道を開けて!ぼくは捕まる訳には……!」

 

 ヤマトはそこまで言って背後から殺気を感じて振り返る。そこには刀を手に取り近づいてくるクイーンの姿があった。

 

「てめェ……“千両道化”んとこの“宵魔女”だな?何が目的だ!!」

 

「あはは♪本場のおしるこを食べてみたくてさ!持ってるんでしょ?早く持ってきて!」

 

「おしるこだァァ!!?渡すかアホンダラ!!おしるこはおれの酸素だ!!一滴たりともやるかボケェ!!」

 

 叫んだクイーンの姿が変わっていく。丸々としていた身体は筋肉質に、肉で隠れていた首がどんどん伸びていき元から巨大であったクイーンの肉体は更に巨大な竜へと姿を変えていった。

 

「ムハハハハ!!おしるこの為だけにこの鬼ヶ島に乗り込んできた度胸は褒めてやる!!だがてめェはここで終わりだ!!ヤマト諸共グチャグチャに潰してやる!!」

 

「……クイーン……うう……!?」

 

 その恐ろしい姿、そして嫌という程知っている彼の圧倒的な戦闘力の前にさすがのヤマトも後退りする。そんな彼女の肩にミズキが手を置いた、そして諭すように言う。

 

「光月おでんならここで逃げたりはしないんじゃない?まァボクには関係ないけどさ」

 

「……!?おでんを知ってるの?」

 

「まァちょっとね。それでどうする?ボクはおしるこが欲しいからあいつと戦うけど、君は逃げる?それともおでんとして戦う?」

 

「……ぼくは……光月おでんだ!ここで逃げたりはしない!」

 

「あはは♪そうこなくっちゃ!」

 

 気合いを入れ直し、金棒を握りしめるヤマト。怯えのない真っ直ぐな瞳でクイーンを睨みつけ、微小だが覇王色の覇気を放出する。

 

「調子に乗るなよクソガキ共……!!おれァカイドウさんを守る疫災だ!!倒せるなんて夢見てんじゃねェよ!!」

 

「ぼくはおでんだ!!お前達を倒して……ぼくがワノ国の自由を取り戻す!!」

 

 ヤマトは勇気を振り絞り、金棒をクイーンに叩きつける。決意を固めた少女の一撃がクイーンに炸裂した。

 

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