転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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魔法と科学

 

 ──今のワノ国は地獄である。

 オロチと百獣海賊団の支配下にあるこの国は荒廃が進み、花の都以外はとても人が住めるような環境ではない。工場などが原因の水質汚染を始め、たった半年足らずでここまで劣悪な環境へと変化してしまった。もはやかつて黄金の国と呼ばれた面影はなく、貧困に苦しむ人々の嘆きが国中から聞こえてくるかのようだ。

 そんな環境であれば窃盗や強盗殺人などの犯罪行為が横行するのは必然であり、特に最も豊かである花の都近辺ではよくある話だった。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 花の都の近辺の荒野を走る一人の少年。左だけ長い髪型にマフラー、腰には刀を差している彼は息も絶え絶えに今にも倒れそうだが、それでも走るのをやめない。その理由はその手に抱えられた風呂敷にあった。僅かにできている隙間から見えるのは金色に光る金貨。そして彼の後ろから追従するのは武器を手に取って雄叫びを上げる複数の男達。盗人の少年にそれを追う者達、最近では別段珍しくない光景だが少年を追う者達は都の警備隊ではない。将軍黒炭オロチと手を結ぶカイドウ率いる海賊団、百獣海賊団だった。

 

「待ちやがれクソガキ!おれ達の金に手ェ出してタダで済むと思うなよ!」

 

「ヒャッハー!とっ捕まえてキング様に差し出してやらァ!あの人の拷問は心を抉るぜ!」

 

「ハァ……ハァ……クソ……まさか百獣海賊団の金だったとは……!」

 

 死に物狂いで逃げながら少年は己の行動を悔やむ。酒盛りで隙だらけな連中から金を盗むまでは良かったがまさかそれが百獣海賊団だとは夢にも思わなかった。おかげでこの国で最も敵に回してはいけない者達を敵に回すことになってしまったのだ。

 

「くゥゥ……なんでおれがこんな目に……!」

 

 少年は目に涙を浮かべ、自分の不幸さを呪う。曲芸を生業とする家に生まれ、幼い頃から曲技と剣術を厳しく叩き込まれてきた。それに従い真面目に訓練を積んできたが、両親はオロチに逆らったとして殺され自分も貧困に苦しみ追われる身だ。思えば人生の中で一度でも自分のやりたいことができただろうか?言われたまま、流されたまま生きてきた少年はそんな考えに至る。だが思考に意識を集中し過ぎたか、足元の石に気づかず躓き、盛大に前に転んでしまった。

 

「ひっひっひ!どうやらここまでみてェだな!」

 

「……!!」

 

 少年は死を覚悟し後ずさる。その時だ、自分の背後に気配があるのに気づいたのは。

 

「あん?なんだおめェ?」

 

 振り向いた少年の目に映ったのは真っ赤な鼻に奇抜なメイクが特徴の男。その男の背後には部下らしき男達が大勢連れられていた。

 

「おい、てめェらそのガキの仲間か?」

 

「ああ!?知らねェよこんな奴」

 

「へへ、こいつとぼけてやがる。まァいい、生意気な盗人は全員捕らえろって命令だからな」

 

「聞けよ!!こんなガキは知らねェっつってんだろ!!」

 

 赤鼻の男と百獣海賊団の言い合いを少年は呆然と見ていた。だが百獣海賊団側の一人が剣を抜き、赤鼻の男に斬りかかると彼は目を瞑った。目の前で起きるであろう惨劇から目を背けるために。だがその予想に反し悲鳴を上げたのは、百獣海賊団の方だった。

 

「な、なんだこいつ……斬っても血が出ねェ!!」

 

「ギャハハハハ!!あたりめェよ!!おれ様は斬っても斬れねェバラバラ人間だ!!」

 

「能力者か!なら蜂の巣にしてやれ!」

 

「おっとそいつはごめんだ!バラバラカーニバル!!

 

『ぎゃあ〜〜〜!!』

 

 男達の悲痛な叫び声が聞こえ少年が目を開けると、百獣海賊団は一人残さず倒され地面に転がっていた。それは少年にとって衝撃的なことだった。雑兵とはいえ彼らに勝てる者などいるはずがないと思っていたし、そもそも手を出すなど考えもしなかった。しかし彼らはそれをいとも簡単にやってのけたのだ。

 

「ちょっと船長さん!こいつらは百獣海賊団の兵士だよ、叩き潰しちまってよかったのかい?」

 

「カイドウの野郎はこんなしたっぱがやられたくらいじゃどうとも思わねェよ。とはいえ……確かにここに留まるのも危ねェ。ミズキの馬鹿もいねェみたいだしな、野郎共ズラかるぞ!」

 

 着物風のドレスを着た美女にそう言われ、赤鼻の男は顎に手を当て呟いた。そして部下達に撤退を指示してその場を立ち去ろうとする。呆然としていた少年はふと我に返り、そして咄嗟に男を引き止めた。

 

「ちょっと待ってくれ!!」

 

「あん?なんだよ、礼ならいらねェぞ。感謝されても気持ち悪ィだけだからな」

 

 振り向いた男に対し少年は膝をついて頭を地面に擦れるまで下げた。そして涙ながらに懇願する。

 

「おれを連れて行ってくれ!!あんたに救われたこの命をあんたの為に使いたい!!」

 

 少年の必死の願いを聞いた男は何やら数秒考えながら少年を見つめ、そして口を開いた。

 

「……おめェ名前は?」

 

「……カバジ……カバジだ!!」

 

「そうか、おれはバギー。カバジ、おれに付いてくるなら……ハデに命を賭けてもらうぞ?」

 

「……!!ああ、もちろんだ!!」

 

 バギーの返答にカバジは顔を上げ笑みを浮かべる。これが後にバギー海賊団の幹部として活躍する曲芸の剣士とバギーの最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

「早くここから離れろ!巻き込まれるぞ!」

 

「宵魔女の野郎……何か姿が変わってねェか?それにしても……スゲェ可愛いな♡」

 

「ムハハハハ!お前も動物(ゾオン)系か!だがパワーが足りてねェ!それじゃあいつまで経ってもおれ様は倒せねェぜ!」

 

「動物系の古代種……タフすぎて嫌になるね。しつこい男は嫌われるよ!」

 

 鬼ヶ島でのミズキとクイーンの戦いは熾烈を極めていた。共に動物系、古代種と幻獣種の戦いは余波だけで周囲の建物を破壊し雑兵を吹き飛ばす程だ。

 

「脳天かち割ってあげる!ブラック……」

 

 短剣に黒い炎を纏わせ、武装色で刃を硬化させたミズキはその技をクイーンの頭目掛けて放つ。人獣型に変化した際に作り出した黒いドレスのスカート部分が衝撃波ではためき、クイーンはその美しさに見惚れるが次の瞬間には攻撃をくらい目玉を飛び出させる。

 

「サントノーレ!!!」

 

「ぶべェェ〜〜〜!!?」

 

 強烈な一撃が直撃しクイーンが悲鳴を上げる。相当な実力者でなければこの攻撃を耐えることさえできない。事実クイーンも吹き飛ばされ地面を転がった。だが動物系、それも古代種の能力者特有の頑丈さですぐに起き上がる。

 

「……人獣型か……クソ生意気なことを除けばめちゃくちゃ可愛いが男なのがもったいねェ!」

 

「ああもう!タフすぎてイライラする!いい加減倒れてよ!」

 

 既に数十回は攻撃を直撃させているがクイーンは一向に倒れる気配がない。動物系の耐久力もそうだがやはり四皇の幹部、それも大看板となれば素の実力も桁違い。ミズキ程の実力があれど容易に倒すことなどできないのだ。

 

「ムハハ!!なら今度はこっちの番だ!!お前をぶっ潰しておれ好みに調教してやるぜ!!」

 

 ブラキオサウルスの巨体に似合わない身軽さでクイーンは天高く飛び上がる。そして重力を利用して全体重をかけた頭突きをミズキ目掛けて撃ち込む。

 

無頼男爆弾(ブラキオボムバ)!!」

 

「……!!?」

 

 ミズキは咄嗟に回避を選択する。瞬間、武装色を纏わせた頭突きが地面に着弾し、周りの大地ごと破壊した。

 

「ほォ……よくかわしたじゃねェか!流石に7億は骨がある!だがこれで終わりだと思うなよ!お前にブラキオサウルスの真髄を見せてやる!」

 

 一連の戦いを経て、クイーンはミズキを正しく評価していた。技の威力は確かに強力。覇気も中々の練度で見聞色はクイーンの覇気を上回っているだろう。その強さは見た目からは想像がつかない、確かに懸賞金に見合うだけの実力は兼ね備えていると。故にクイーンは見せることにしたのだ、滅多に使うことの無い奥の手を。

 

「いいか!これから見せるのは一億年以上地上を支配した王者の力!!」

 

「出るぞ!太古の生物の実力が!」

 

「ブラキオ(ジャ)ウルス!!!」

 

 首と尻尾を前に伸ばし、クイーンは構える。そして尻尾をはたいた反動で蛇のようになり胴体から分離した。

 

「ムハハ!!油断したな!!これを避けられるか!?」

 

 その状態のまま勢いよくミズキに突進する。普通であればその信じ難い現象に驚き動けないだろう。だがミズキは冷静にそれを回避して空中に飛び出した。

 

「……!?あいつクイーン様の攻撃を避けやがった!!」

 

「てめェ!!何故避けられる!!これを見て驚かねェのか!!」

 

「……?……だってブラキオサウルスが分離するのなんて想定内だもん。見たことあるし」

 

『え!?ブラキオサウルスって全部そうなのか!?クイーン様だけじゃなくて!!?』

 

 そう、ミズキは以前に太古の島でブラキオサウルスの生態を間近で見たのだ。故にブラキオサウルスが分離することも知っていたしそれを想定もしていた。だがクイーン側はそんなこと考えもしなかったのだ。

 

「そうか……それなら避けられたことも納得だ。だがおれ様は科学者!!残された胴体は文字通り蛇足だが……おれは胴にブラキオランチャーを装備してある!!おれがその名を叫べばてめェ目掛けて……おォウ!!!」

 

『え〜〜〜〜!!?大丈夫ですかクイーン様!!?』

 

「……違う……今のは説明だ……ゲボォ……」

 

 首が分離した後の残されたクイーンの胴体。それには二丁のランチャーが取り付けてあり、クイーンの言葉を合図に発射される。だがしかしこれには一つ欠陥があった。クイーンが説明の為に「ブラキオランチャー」と言った瞬間に彼目掛けて放たれてしまったのだ。

 

「あははははは♪面白〜い!ボクもやってみよ!ブラキオランチャー!!」

 

「ムハハハハ!馬鹿め!おれ様の科学力を舐めるな!音声認識装置にはおれ様の声のみに反応するようにプログラムしてある!おれ様がブラキオランチャーと言わない限りは……ブボォォォウウ!!!」

 

『クイーン様!!?少しは学べよ!!』

 

 自ら口を滑らせブラキオランチャーと言ってしまったクイーンに部下達も思わず辛辣なツッコミを入れる。クイーン自慢のランチャーは当然威力も凄まじくクイーンに少なくないダメージを与えた。

 

「なるほど……クイーンの声で言えばいいってことか……これでどうかな?」

 

 それを見ていたミズキは腕組みをして考え、そして人差し指で自身の首をつつくとそこが青白く光った。

 

「……コホン……ブラキオランチャー!!!」

 

「ぶべェェェェ!!」

 

「……!!?……今クイーン様何か言ったか!?」

 

 クイーンが口を開いていないにも関わらず放たれたブラキオランチャーに百獣海賊団の部下達は驚きを見せる。確かにクイーンは何も言っていないが、ミズキはクイーンの声を模倣してブラキオランチャーの名を口にした。結果ミズキの予想は正しく、そこまで判別できない音声認識装置はクイーンが声を発したと判断したのだ。

 

「てめェ……何をしやがる!!」

 

「あはは♪どんどん行くよ!ブラキオランチャー!!ブラキオランチャー!!ブラキオランチャー!!ブラキオランチャー!!」

 

「ぶべェ!!やめ……おゥふ!!……いい加減にしやがれ!!」

 

 クイーンの声でブラキオランチャーを連呼するミズキ。何発も爆発をくらい悶絶するクイーンだが怒りを顕にそれを振り払いミズキに向かっていく。

 

「おれ様の猿真似しやがって!どんな技術か知らねェが科学力でおれ様に勝てると思うな!」

 

「科学じゃなくて魔法だよ!そっちこそ、科学で魔法には勝てないって思い知らせてあげる!」

 

 言ってミズキは自身に向かってくるクイーンの首を回避し、そして無防備な状態の胴体に視線を向けた。そして両足を武装硬化させ、さらに魔法で身体能力を強化する。

 

「キルシュトルテ!!!」

 

「ぐおおおお!てめェ……胴体を……!」

 

 ミズキ渾身の蹴りはクイーンの胴体をへこませ壁に激突するまで吹き飛ばす。例え首と胴体が分離していようと痛覚は共有している。無視できないダメージを受けてクイーンは悶絶する。

 

「ハァ……ハァ……いいだろう……ならばおれ様のとっておきを味わわせてやる!」

 

 クイーンは首を胴体に収納し元の姿に戻る。そうしてブラキオサウルスの姿から二足歩行の人獣型へと変化していく。だがそれだけではない、左手に始まり尻尾、髪の毛までもが機械のアームへと変わった。

 

「サイボーグ……」

 

「ムハハ!よく知ってるな!そうさ、何を隠そうおれは絡操人間(サイボーグ)だ!」

 

「見ればわかるけど…………!?」

 

 伸びてきたクイーンのアームを間一髪で回避する。だが彼のアームは一つだけではない、すぐさま別のアームが迫りミズキを掴み握り潰そうとする。

 

「ぐゥゥ……!?」

 

「ムハハ!どうだ絡操人間の威力!これを再現出来るのは世界でもおれだけ!ベガパンクの野郎もこればっかりは無理だろうさ!」

 

 動物系のパワーを機械で増強した握力で握られミズキは苦悶の声を上げる。何とか抜け出そうと試みるが全身を拘束されているため動くことができない。そうしている間に骨がひび割れる音が聞こえ、全身に痛みが走った。

 

「ガハッッッ……!!?」

 

「そろそろ骨が砕けるか?死ぬ前に聞いとくが、カイドウさんの部下になるなら生かしてやるぜ?」

 

「やあああああ!!」

 

「……!?」

 

 瞬間、クイーンの頭上に小さな影が現れる。白髪に頭に生えた小さな角、今まで雑兵を相手していたヤマトがミズキを助けるためにクイーンに金棒を振るう。

 

「ヤマト〜〜!クソガキがちょこまかと鬱陶しい!こいつをやったら次はお前の相手をしてやる!それまで大人しくしてやがれ!」

 

「グガッッ!」

 

 何度もクイーンの頭を金棒で叩くヤマト。しかしクイーンの拳一発で吹き飛ばされ壁に激突した。だがその一瞬の隙を見てミズキが人獣型から人型へと姿を変えクイーンのアームから抜け出した。そしてクイーンに向けて短剣の刃先を構える。

 

「ガトー死光羅(ショコラ)!!!」

 

「ぐおおお!!なんだ!!?……熱ィ!?」

 

 放たれた光がクイーンの身体を貫き焦げ臭い煙を上げる。貫かれた場所を押さえもがき苦しむが、動物系の回復力ですぐに息を整え立ち上がる。

 

「てめェ……今のはレーザーか!面白れェ!……決めたぜ、お前をぶっ潰してその技術はおれ様がいただく!」

 

「ハァ……ハァ……ならボクも見せてあげる!科学を遥かに凌ぐ……魔法の真骨頂を!」

 

 魔法対科学。正反対の二つの力が激突し鬼ヶ島は激しく震えた。そんな彼らを見てヤマトは己の無力さを痛感し、それでも立ち向かおうと金棒を握り締めるのだった。

 




という訳でミズキとクイーンが戦ってる裏でカバジ加入です。ネット上の考察でカバジワノ国出身説を見かけたので面白いと思い採用しました。興味のある人は調べてみてください。
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