バギー海賊団は兎丼を抜け船を隠してある編笠村近くの海岸を目指し逃走する。だがそれを追うのは四皇百獣海賊団。しかも指揮しているのは大看板“火災のキング”だ。
逃げ切るのは容易ではない、現に部下達の中にも犠牲者が出てしまっている。
「キャプテン・バギー!どうして逃げるんですか!?あんな奴らやっちゃってくださいよ!」
部下達の中からそんな声がチラホラと聞こえてくる。しかしバギーはそれに答えることはせず無言を貫いている。それがさらに部下達の不満を煽るのだが、そこでミズキが間に入って説明した。
「……確かにバギーがカイドウを、ボクがキングを倒せばいいのかもしれないけど……他の兵士はどうするの?向こうにはキングの他にも真打ちって幹部が何人かいるんだよ?能力者もいるし、君達だけで持ち堪えられる?」
「……!?……そ、それは……」
「ボクとバギーにとって君達の代わりなんていないんだよ……大切な部下だからね」
しんみりと、訴えかけるように言うミズキに部下達はハッとした。確かに彼の言う通りだと。つまりバギーは自らのプライドをかなぐり捨てて自分達を守ろうとしてくれているのだと理解した。
「そうだったのか……キャプテン・バギー……あんた、おれ達の為に恥を忍んで逃走を……」
「それを知らずにおれ達は……」
それを聞いて部下達は己を恥じた。少しでもバギーを疑ってしまった自分を、そして決心する。一生この男について行くと。
「ま、まァそういうことだ……」
いつの間にか勝手に疑いが晴れていることに戸惑いながらもバギーはそう口にする。そしてその一連の流れを見ていた新入りのカバジは羨望の眼差しをバギーに向けた。
「すげェ……これが海賊団の船長か……」
「ん?……カバジじゃん!なんでカバジがここにいるの!?」
「おめェなんでこいつの名前知ってんだ?……まァいいか、新入りのカバジだ」
「カバジです。副船長、よろしく頼みます」
カバジの存在に気づくとミズキはテンションを上げて彼に詰め寄った。何故かカバジのことを予め知っていた様子だ。それに対してバギーからミズキの話を聞いていたカバジは頭を下げてミズキに挨拶した。
「作戦会議は終わったのか?」
「……!?」
その時、彼らの頭上から声が聞こえた。その方向に目をやると軍服のようなスーツを着用した翼の生えた男がマスク越しに鋭い眼光でバギー達を睨みつけていた。
「キング!!」
「ヤマト……フン、反抗期にしては随分早いな……カイドウさんがブチギレる前に戻った方が賢明だと思うが?」
「……!?……僕はあんな奴のところには戻らない!」
「……そうか、なら力づくで連れ戻すまでだ」
その時、キングの背に激しく炎が燃え盛った。そしてそれを拳に纏わせバギー達向けて放出する。
「
「……なんだあの炎!!?やべェぞ!!?」
「……ッッッ!!」
「……!?お前は……」
だがその攻撃が彼らに届くことはなかった。ミズキが前に出て武装色を纏わせた短剣で止めたのだ。
「……“宵魔女”か」
「うォォォ!!お嬢があのやべェ炎を止めた!!」
「痺れるぜお嬢!!」
「そんなこといいから先に行って!」
沸き立つ船員達を一喝し、ミズキは先に船に向かうように促す。キングは逃げるヤマトを追いたくとも、ミズキが立ち塞がって進めない。邪魔をするなら殺すまでだとキングはミズキに襲いかかった。
「聞いたぞ、クイーンを倒したらしいな?お荷物を片付けてくれたのはありがたいが、ダメージは残っているはずだ」
「感謝してるなら逃がしてくれてもいいんだ……よ!!」
短剣でキングを切りつけるが、彼は微動だにせずそれを受ける。その攻撃をキングは鼻で笑い、嘲笑う。
「フン、この程度か」
「……!?やっぱりダメか……!」
無傷、それがミズキの攻撃の結果だ。クイーン戦のダメージはある程度魔法で回復したとはいえ残っている。だがそれがあってもキングが無防備な状態であれば多少の傷くらいつけられるはずだ。しかしキングがノーダメージなのは、彼の
「お前に構っている暇はない……が、うちの名に傷をつけたお前を放置しておくことも出来ないな」
キングの姿が変わっていく。クイーンの時とはまた違った恐竜、プテラノドンの姿に。変わらず炎をその身に纏わせたキングは大空に飛翔し、鋭くミズキを睨んだ。
「ブラキオサウルス如きと同じだと思うなよ?太古の昔に大空を支配していたのは……プテラノドンだ!」
ミズキに向かって急降下、翼を刃のように使ってミズキを攻撃する。それを短剣で受けるが、力で適わず弾かれ地面に叩きつけられる。
「
「……あがッッ!!」
キングの追撃がミズキの脇腹を貫く。咄嗟に回避した為致命傷にはなっていないが、肉が抉れた痛みでミズキは呻き声を上げた。
「どうだ?プテラノドンはこうやって狩りをしていたんだ!」
「それは……知ってるけどさ……ゲホッッ……!」
脇腹を押さえながらミズキは立ち上がる。クイーン戦から対して時間も経っておらず殆ど連戦のようなものだ。勝機などない、それを理解しているからこそミズキは笑った。これだけ時間を稼げばいいだろうと。
「……何を笑ってやがる」
「あはは♪……これは餞別だよ!」
「……!!?」
人型に戻り、倒れるミズキの前に降り立つキング。その彼に向けてミズキは剣先からエネルギー波を放つ。爆発が起こり辺りが煙に包まれるが、当然キングは無傷だ。だがすぐに彼は気づいた、ミズキの気配が消えたことを。
「……逃げやがったか」
煙が晴れるとミズキの姿は影も形もなかった。逃げられたことに舌打ちをし、キングは再び飛翔し逃げたミズキを追うのだった。
「ウォッッ……!?おめェどっから来たんだ!?」
「ハァ……ハァ……あはは♪……時間は稼いできたからしばらくは追ってこないはずだよ」
「……!?お前さんその傷……」
先を行くバギー達の元にミズキが瞬間移動してきた。いきなり現れた彼にバギーが飛び上がり、ギオンは脇腹の傷を見て一応は心配するように声をかける。もちろん演技であるが。
「キングにやられたの?早く治療しないと……」
「大丈夫……回復魔法使ってるから。さすがに時間かかりそうだけどね……」
心配するヤマトを安心させるように言うが、実際は額に大量の汗をかき口元も歪んでいる。回復魔法を使っているとはいえそれ自体に体力が必要なので、走るのもキツい状態なのだ。
「ヒャッハー!見つけたぜ、てめェらを殺せば大手柄だ!」
「“千両道化”を殺せば一気に大看板も夢じゃねェ!!」
だがそんな状況でも敵は追っ手を休めてはくれない。先回りしていた百獣海賊団の兵士が襲いかかってくる。
「お、どえらい美人もいるじゃねェか!捕まえておれの女にしてやるぜ!」
「……!!?」
ギオンに目をつけた何人かが飛び上がり彼女に襲いかかる。それに対しギオンは若干躊躇ったものの腰から愛刀“金毘羅”を抜き、男達を蹴散らす。
「
『……ぎゃあ〜〜〜〜!!!?』
武装色の覇気を纏わせた刀を身体を一回転させながら振るうと、円形の斬撃が百獣海賊団を襲った。着地したギオンは刀をしまい再び走り出す。
「ギオン……おめェ……」
バギーに視線を向けられ、焦燥感に駆られた。自分の身を守る為とはいえやりすぎだったかと。
「やるじゃねェか!その調子で頼むぜ!」
「……!?……あ、ああ……」
だがバギーは親指を立てて笑みを浮かべ、ギオンを褒め讃えた。疑われてもおかしくないと思っていたギオンは安堵し胸を撫で下ろした。しかしすぐに気を引き締める。もしかしたら自分の反応を見ているのかもしれないと思い、警戒を解かないように気を入れ直した。
「……!!見えた!海岸だ!」
地平線の先に小さくだが船を隠していた海岸が見えてきた。もう少しだ、誰もが安堵の声を漏らそうとしたその時──天から業火が降り注いだ。
「
「ぐァァァァ……!!……熱ィィ!!」
「カイドウ……!!」
「逃げられると思うなよ……!!ガキ共!!」
天を切り裂き現れた巨大な龍が口から巨大な炎を吐いた。しかしその威力はもはや光線の域に達している。直撃した地面は巨大な穴が開き、触れていなくとも黒焦げになってしまう程の熱がバギー海賊団を襲う。
「ヤマト……これが最後の忠告だ!!素直に戻るなら許してやる、くだらねェ反抗はやめろ!!」
「……うるさいこの牛ゴリラ!!子供を爆破する父親がどこにいるんだ!!僕はおでんで……いつかお前を倒す!!」
「海賊の争いは遊びじゃねェんだ!!お前は所詮鬼の子、人間と仲良くはなれねェ!!それがお前の運命だ、ヤマト!!」
「……!?そんな運命……僕は認めない!!」
ヤマトが金棒を握りカイドウに向かっていく。体格差は絶望的でまるでアリと恐竜だ、勝てる道理などあるはずがない。それでもヤマトはカイドウに立ち向かう。
「馬鹿かあいつ!!勝てる訳ねェだろうが!!」
「今のは痺れたけど……ここで犬死させる訳にはいかないね!」
ヤマトがカイドウの胴体を目指して飛び上がる。それを見てカイドウはヤマトを殺す気で技を繰り出す。
「
カイドウの咆哮と共に多数のかまいたちが発生した。それは一つ一つが岩や木々をまるで豆腐のように切り裂く程の威力だ。それが、ヤマトの目の前まで迫っていた。
「行くよバギー!マギー玉の準備しといて!」
「ハァ!?お前何を……!?」
「マジョマジョの
瞬間、バギーの姿が消えヤマトがミズキの真上に現れた。ミズキは落ちてくるヤマトを抱き抱えると、笑みを浮かべた。
「あはは♪ヤマト、カッコよかったね!」
「え?……何が起こったの?」
「ほら、あれを見て」
ミズキが先程までヤマトがいた場所を指差した。ヤマトがそこに視線を向けると、そこにはバラバラに切り裂かれたバギーの姿があった。
「……てめェ!!……ヤマトの身代りに!?」
カイドウはいきなり自分の目の前に現れ、息子の身代りとなったバギーに驚きの顔を向ける。だがそれだけでは終わらない。バラバラに斬られたはずのバギーの胴体がくっついたのだ。
「おいミズキ!!てめェ何しやがるんだ!!」
「え〜〜!?斬ったのはカイドウでしょ?」
「貴様許さん!くらえ特製マギー玉20連発!」
怒りに任せてバギーがカイドウにマギー玉を大量に発射する。それはカイドウの皮膚に当たり爆発するが、彼は呻き声こそ上げるがケロッとしていた。しかし最後の一発、それが偶然カイドウの口の中に入り、口内で爆発した。
「……ヴォォォォォ!!?」
口から煙を漏らしカイドウが地面に沈んでいく。大したダメージにはなってはいないだろうが、怯ませることは出来たようだ。それをチャンスと見てバギー達は一目散に船へと向かう。
「キャプテン・バギー!カイドウの口の中で爆発させるなんて思いもしなかったぜ!」
「一生ついて行きます!」
バギーを回収し、海岸まで後1kmのところまで到達する。皆が胸を撫で下ろす、逃げ切れるという希望が見え始めた矢先、空中を一つの影が滑空してきた。
「ここまで生き残るとはな……少し舐めていた」
「……キング!?」
「クソ、なんてしつけェ野郎だ!」
ミズキが時間稼ぎをして撒いたはずのキングが追いつき、彼らに再び襲いかかる。
「ボクが船の準備をしてくる!それまで何とか持ち堪えて!」
そう言い残しミズキは姿を消した。残されたバギー達は何とかマギー玉や銃でキングを迎撃しようとするが、彼の体質を理解していない彼らではキングには傷一つ負わせることは出来ない。
「あの野郎……こんだけ攻撃をくらっても無傷かよ!?」
「ハァ……ハァ……キングは歴史から姿を消した希少種族だって昔カイドウが……僕も詳しくはわからないけど……」
バギーがキングの頑丈さに悪態をつき、ヤマトは以前カイドウから聞いた話を思い出す。自然界のあらゆる環境下で生存できる種族、それに属するのがキングなのだと。
「……ッッッ!!?」
「……やるな、だがその程度でおれを止められると思うな」
キングは人型となって腰の絡繰刀を抜き、斬り掛かる。それをギオンが受け止めた。自身の攻撃を止めたことをキングは賞賛するが、しかし実力差は明らか。ギオンは堪らず吹き飛ばされその豊満な肉体を地面に叩きつけられる。
「キングをどうにかしないと……!!」
「どうにかっつっても一体どうすりゃあいいんだよ……!?」
どんな攻撃も一切通じない相手にどう戦えばいいのか。皆の顔が青ざめるが、さらなる絶望が空から飛来する。地面を覆うほどの巨大な影に誰もが息を呑んだ。
「……か、カイドウだァァァァ!!」
「あいつ……マギー玉が口ん中で爆発したってのに!?」
「ああ……口の中がヒリヒリしやがる。これじゃあ飯を食うのも一苦労じゃねェか!!クソッタレがァァ……!!」
口の中でマギー玉が爆発したというのに平然としているカイドウを見て誰もが驚く。
「惜しかったな……よくここまで逃げ延びたと褒めてやる」
「ウォロロロロ!!ああ、久しぶりに歯ごたえがあったぜ!!」
キングが背中の炎を腕に宿し、カイドウが熱光線を放とうと口にエネルギーを貯める。そう、逃げ切れるなどと幻想に過ぎない。その圧倒的な力の前には為す術などないのだ。どれだけバギーが悪運を持っていようと関係ない。そうして彼らがとどめを刺そうとした直後──
「
「……!!?」
「なに!?」
バギー達の姿が──消失した。