転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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モンキー・D・ドラゴン

 浜辺にビーチパラソルとビーチチェア、更にはサングラスをかけてミズキはゆったりとくつろいでいた。時々ジュースとケーキを口に運びながら新聞で最近の世界情勢を把握する。

 数年前にはオハラや“金獅子”、“鬼の跡目”や“赤の伯爵”など新聞を開けば興味深い話題が見られたものだが最近は特に大きな事件はなかった。自分達が起こした天竜人殺害の事件もだいぶ風化され、話題に登ることもなくなってしまった。面白い記事といえば“赤髪海賊団”関連くらいだろうか。随分活躍しているようで懸賞金も自身やバギーと遜色ないほどの額を懸けられている。

 だがそれもせいぜい一月に一度記事に乗ればいい方、毎日の退屈を凌げる程ではないのだ。

 故に彼は新聞を閉じ、サングラスをずらし片目を覗かせて浜辺にうずくまる者に声をかける。

 

「カバジ〜〜!女の子がこんなに頑張ってるのになんで休んでるの!」

 

「ハァ……そんなこと……言われても…………こんな化け物共と比べないでくれ……」

 

「この程度じゃ治まらないわ!ヤマト、もう一回戦やりましょう!」

 

「うん、僕もまだまだ足りないよ!」

 

 特訓を始めて数時間、アップルとヤマトは再び向き合い拳と金棒をぶつけ合う。カバジは砂の上に汚れることも厭わずそのまま寝そべり、ボロボロの身体を休ませている。

 彼の視線の先にはバチバチにやり合う少女が二人。片やミンク族の血を半分引き、片や四皇“百獣のカイドウ”の娘だ。彼が化け物と例えるのも最もだろう、現に彼の目にはそう見えているのだから。

 

「じゃあ今度はボクが相手してあげる!ほら、とっとと立つ!」

 

「い、いや……さすがにそれは……」

 

 死んでしまう、と口にする前にエネルギー波が飛んでくる。カバジはそれを死に物狂いで避けながら砂と汗に塗れて涙を流した。彼らについて来たのは失敗だったのではと後悔するがそれは後の祭りだ。

 

「ほらほら〜〜!ボクは君に期待してるんだからもっと頑張ってよ!」

 

「……期待?なんでおれなんかに……ぎゃああああ〜〜〜!!?」

 

 ミズキの言葉に一瞬動きを止めるが、今度は雷が降ってきて再び逃げ惑う。これだけの攻撃を避けれている辺り、ミズキの期待もあながち間違いでもないようだ。

 

「おいおい……相変わらず容赦ねえェな……ミズキの奴」

 

「……あれじゃあすぐに死んじまうんじゃないかい?」

 

 それを遠目で眺めてガイモンとギオンは思わずため息を漏らした。強くなる為に特訓するのはいいのだが、怪我をしたり命を落としては元も子もないと。

 

「お前ら、休憩しねェか?美味いお菓子があるぞ」

 

「お菓子?よォし、皆一旦休憩!おやつタイムだよ!」

 

 ミズキがお菓子に釣られたことにより解放され、カバジは息を吐く。毎日毎日これでは命がいくつあっても足りない。強くなっているのは間違いないがこのままでは先に死んでしまうかもと本気で思っていた。

 

「ガイモン!今日はアップルに三回も勝ったんだよ!」

 

「おお、そうかそうか。頑張ったな」

 

 ガイモンはヤマトの頭を撫でてやる。最初こそガイモンに怯えていたヤマトだが、今ではすっかり彼に懐いていた。その生い立ちから誰かに親切にされることが殆どなかったヤマトにとって、自分を気にかけてくれるガイモンは初めての存在だった。

 

「それでギオン、あの件はどうだったの?」

 

 ガイモンが持ってきた菓子を口にほおばりながらミズキがギオンに問う。

 

「……うちの傘下の船が沈められた件だね。調べてみたけど間違いない、彼らを潰したのは元海軍本部中将“ゲンコツのガープ”だよ」

 

「!!?」

 

「あ〜やっぱり?そうだろうとは思ってたけどね」

 

 ギオンの報告にガイモンが驚く。アップルやヤマトはガープの名を聞いてピンと来ないようでキョトンとし、ミズキはやはりと納得した様子で頷いた。今やバギー海賊団の名は全世界に轟いている。敵対しようとする者は四皇などの実力者を除き殆どいない。故に傘下とはいえ堂々と喧嘩を売ってくる相手は何となく想像できるのだ。

 

「う〜ん。傘下を沈められて黙ってる訳にはいかないけど……さすがにガープを相手にするのはなァ……」

 

 ミズキ達バギー海賊団は数年前にガープと交戦している。その強さは疑いようがなく、仮に今もその強さが健在だとしたら苦戦は必至。下手をすれば全滅させられる可能性すらあるのだ。

 

「ならガープは放置するのかい?」

 

「今はそうするしかないよね。一応傘下の海賊達にはガープを見たら逃げるように伝えておいて」

 

「わかった、後で通達しておくよ」

 

 確かに今は放置するしかない。だがあくまで()()だ。将来的には戦力を増やしガープも潰してみせる。数年後にはなるが戦力を増やす算段もつけてあるし、それまではせいぜい泳がせてやろうと。ミズキの心の内は、穏やかではなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)のとある島。

 

「ぬゥアア!!」

 

『ぎゃああ〜〜〜!!』

 

 男の豪腕が空を切り、海賊達を吹き飛ばす。その島を襲い圧倒的な力で悪逆の限りを尽くしていた海賊達は、さらに強い一人の男によって全滅させられた。

 彼らをたった一人で倒した筋骨隆々な大男は握った拳に息を吐き、倒れた海賊達を積み上げて出来た山を見つめた。

 

「な、なんで……こんなところに英雄ガープが……」

 

「……ふん、英雄か……今となっては滑稽な呼び名だ」

 

 海賊の一人の言葉を聞き、うつろな声で呟いた。英雄などと大層な称号は自分にはふさわしくない、そんな自虐的なことを思いガープはため息をついた。

 

 海軍を抜けた後、ガープは世界各地を巡り海賊を次々と討伐していった。海軍に所属していた頃は中々足を運ぶことが出来なかった四つの海にも出向き、人々を苦しめる海賊達を叩きのめす。

 その過程で権力者に虐げられた人々──例えば奴隷を見かければ彼は構わず権力者を打ち倒し、解放していった。その結果犯罪者の烙印を押されようが、彼は自らの正義に従うのみだ。

 

 

元海軍本部中将“ゲンコツのガープ”懸賞金5億ベリー

 

 

 懸賞金を懸けられ、政府に犯罪者と認定された今でも彼を英雄と呼び支持する人間は非常に多い。それは何も民衆の中だけではない。海軍内でも苦しむ奴隷達を解放し、海賊を打ち倒すガープを未だに尊敬している者も少なくない。

 

「ガープ殿……感謝致します。海賊を倒してくれたこと、村の長としてお礼を言わせて欲しい……ありがとう」

 

「礼には及ばん。おれはおれの正義に従っただけだ」

 

「いいえ、天上金を支払えず世界政府にも加盟できない我々にとってあなたは救世主です。それに……」

 

 頭を下げ感謝の言葉を述べる村長らしき老人。礼はいらないと微笑むガープだが、それでも老人は頭を下げるのをやめない。そして後ろを振り向くと、彼の後ろの親子に視線を向けた。

 

「あの子らは一年前に親子共々人攫いの被害に遭い、我々は必死に探したものの帰ってくるのは絶望的だと諦めていました。しかし半年前に帰還し、あなたに助けられたと涙ながらに語ってくれたのです」

 

 ガープはその言葉を聞いて納得した。見覚えがあると思っていたがあの時解放した人間屋(ヒューマンショップ)にいた親子かと。

 

「ガープさん、あの時はありがとうございました……!人攫いに捕まり……もうダメかと……!」

 

「おじちゃんありがとう!」

 

「……ふふ、お嬢ちゃん。お母さんは優しくしてくれてるか?」

 

「うん!!」

 

 満面の笑みを浮かべた少女の頭を撫で、彼も表情を緩める。海軍に所属していた時も今も変わらない。自分が戦う理由はこの笑顔を守る為だと改めてガープは確認する。

 

「ガープ殿、こんな何もない村ですが休んでいってください。我々に出来るのはそのくらいですから」

 

「礼ならたった今貰った。それにのんびりしている暇は……」

 

「おじちゃんもう行っちゃうの?」

 

 ガープがそう言いかけた時、彼のズボンの裾を少女が掴んだ。彼を見上げるその顔を見て、ガープはまいったなと頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

 

「……わかった。一日くらい世話になるとしよう」

 

「ほんと!?わ〜い!!」

 

「それでは宿の方に案内します。今夜はゆっくりお休み下さい。後ほど食事をお持ちしますので」

 

「いや、飯まで世話になる訳にはいかん。海で魚でも適当に採ってくる」

 

「しかし……!!?」

 

「平気だ!火でも起こして待っててくれ!」

 

 背中越しに手をブラブラさせ答えるとガープは海の方へと歩いていく。確かに海に行けば魚くらいいるだろうがここは偉大なる航路、生身で海など入ればあっという間にあの世行きなのだ。村長の心配も最もだがガープは笑って海へと向かっていった。

 

「さて……でけェのがいるといいが」

 

 ガープが狙うのは大物。自分一人で食べるのならば彼と同じ位の大きさであれば十分だが、せっかくなら村人達にも食べさせてやりたい。それならばもっと大きな魚を狙わなければ。

 

「む、ちょっと小さいがまァいいだろう。あいつにするか」

 

 浜から二百メートル程先に魚が跳ねるのが見えた。少し距離があるので分かりづらいが、大体一般的な海賊船と同じ位の大きさだろう。狙っていたものよりは小さいがいいだろうとガープは上着を脱ぎ、海へと飛び込む。そして魚人顔負けの速度で魚に追いつくと強烈な拳で魚を仕留めた。

 

「わっはっは!最近歳をとったせいかパワーが落ちて困る!」

 

 魚を浜辺へと投げると、自身も海から出て豪快に笑う。これだけあれば村人に食べさせてやれるだろうと魚を持ち村に戻ろうとする。その時──

 

「元気そうだな、親父」

 

 不意に声をかけられ振り返ると、緑色のフードを被った男が立っていた。フードで顔は見えないが、その声と雰囲気をガープはよく知っている。

 

「……ドラゴン」

 

「探したぞ、久しぶりだな」

 

 その男はガープの息子、モンキー・D・ドラゴンだった。行方知れずになっていた息子の姿にガープは驚き、フード越しに僅かに見える顔をまじまじと見つめる。

 

「お前……今までどこに」

 

「世界を見て回るために旅をしていた……その魚はなんだ?」

 

 ガープの問いにドラゴンが答えようとするが、後ろの巨大魚が気になったのかそれを指差し逆に問い掛けた。

 

「これか?今夜の晩メシだ、まァ気にするな!ぶわっはっは!」

 

 笑うガープに変わらないな、とドラゴンが口元を緩める。しかしすぐに険しい顔に戻り、彼にとあることを確認する。

 

「……海軍を辞めたそうだな」

 

「……ああ、そうだ」

 

 それを聞きガープは一転、表情を笑顔から厳しい顔へと変えた。さっきとは変わって睨みつけるのに近い視線でドラゴンを見るが、構わず彼は続けた

 

「何か……あったのか?」

 

「……まあな」

 

 息子であるドラゴンにはガープの性格はよくわかっていた。彼ほどの正義感を持つ男が海軍を辞めるなど余程のことがあったのだろう。そしてそれが天竜人絡みであることは、辞めた後の彼の行動から簡単に推測できた。

 

「提案がある。おれは……天竜人をその座から引きずり下ろす……!」

 

「……!!?……ドラゴン……お前!!」

 

 ドラゴンの口から語られた提案。それは以降の世界情勢に大きな影響を与える話。そしてその提案を受け入れないという選択肢は、ガープにはなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 ──数年後、世界を分かつ大陸“赤い土の大陸(レッドライン)”の真下の海上。

 

 天竜人の住む聖地マリージョアを有する赤い土の大陸。そこは本来政府関係者や政府の許可を得た航海者しか入ることの許されない場所。 その真下で標高数千メートル先にある聖地を見上げ、決意を固める一人の男がいた。

 海中から顔を出したその男は、人間ではなかった。赤い肌にヒレ、水かき。タイの魚人、冒険家フィッシャー・タイガー。彼は今、世界の禁忌を犯そうとしていた。

 今もなお虐げられている奴隷への同情、哀れみ。その感情を胸に彼は聖地へと乗り込まんとする。

 

「あはは♪やっと来たね!待ちくたびれたよ!」

 

「……!?……お前は……“宵魔女”か!?」

 

 突如声をかけられ、タイガーはその方向に視線をやる。誰もいるはずのない視界の上へと。

 

「ボクのこと知ってるの?嬉しいなァ!」

 

 そこにいたのは横にした箒に座り足をぶらぶらとさせている少女。タイガーはその少女を知っていた。異名が表す通り魔法使いのように箒を使って浮いていることが、タイガーが知る者と目の前の少女が同一人物であることを物語っている。そう、目の前の()()はあのバギー海賊団の副船長“宵魔女”ミズキ。タイガーともある因縁のある男だった。

 

「おれは冒険家、この海を渡るにはそれ相応の知識がいる。特に……お前のような危険人物の知識がな」

 

「あはは♪こんな可愛い子相手に危険人物だなんて失礼しちゃうな」

 

 ケタケタと笑うミズキをタイガーは警戒しつつも睨みつける。なぜ彼がここにいるかはわからないが、計画をここで邪魔させる訳にはいかない。それにさっき言っていた待ちくたびれたという言葉も気になる。

 

「バギー海賊団の副船長がここに……いや、おれに何の用だ?」

 

「簡単な話だよ、手伝ってあげようと思ってさ。君の企みをね♪」

 

「……!!?なぜ……それを!?」

 

 自身の計画を見抜かれタイガーは動揺を隠せない。何しろそれはリュウグウ王国の王ネプチューンとその妻オトヒメ王妃にしか話していない秘密。マリージョアで奴隷として天竜人に虐げられている者達を解放する計画だからだ。

 




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