「手伝うだと?……何が目的だ?」
「奴隷達を解放して部下に出来れば結構な戦力になるでしょ?元海賊も結構いるだろうからね」
鋭くミズキを睨むタイガーからの問いを、彼は一切怯むことなく答える。返答を聞いても納得出来ないのか、タイガーは顔を顰めてミズキを睨み続けていた。それを見たミズキは数秒思考して話を続けた。
「ボクも昔は君と同じだった。これで君を手伝う理由にはなるでしょ?」
「……!?……それは……」
彼は言い放った、自分も昔はタイガーと同じ奴隷であったと。その過去を平然と笑いながら話す。怒りなど垣間見えない、意図的に隠しているだけかもしれないが嬉々としてその過去を話す彼の心情をタイガーは理解出来なかった。
だがタイガーも冷静に考える。マリージョアを襲撃するとなれば当然海軍が出てくるだろう。特に天竜人の危機となれば大将が出動してもおかしくはない。いや、まず間違いなく出てくる、ならば少しでも戦力は必要だ。それがミズキほどの実力者であればなお。
「わかった……ただし、一つ頼みがある。お前のところに……アーロンという魚人が捕まっていると聞いた。あいつはおれの弟分だ、解放してやってくれ」
「あはは♪別にいいよ!もう実験も終わってるしどう処分しようか迷ってたところだからね!」
「……実験だと!?……お前、あいつに何をした!?」
「さァね、自分で確認してみたら?そんなことより行くよ!早く楽しいパーティを始めよう!」
ミズキが魔法で自らとタイガーの身体を浮かせ、
そして彼らは聖地に辿り着く。その日、闇に沈むはずだったマリージョアは赤い炎に包まれたという。
♦♦♦♦♦
──聖地マリージョア。
赤い土の大陸に存在する天竜人やその最高位“五老星”の住まう聖地だ。いわば世界政府の首都に近い場所であり、四年に一度の
だがその日、世界の常識は覆された。
景観も美しい街は火の海と化し、悲鳴が辺りをこだまするまさに地獄絵図。当然兵士達は黙っていない、襲撃者に対応する為に奔走する。だが前代未聞の襲撃を実行した二人の強さは彼らの想像を遥かに超えていた。
「ガト〜〜
『ぎゃあ〜〜〜〜!!?』
「な、なんだあいつ……!?ビームを出して……それに空を……!?」
「あれは……“宵魔女”だ!!懸賞金7億の……バギー海賊団の副船長!!」
一人はバギー海賊団副船長“宵魔女”ミズキ。海賊王の元船員“千両道化”の右腕であり、過去には天竜人を手にかけるという大事件を起こしたイカれた海賊だ。そしてもう一人は──
「は、肌が……赤い!?魚人か!?」
「撃て!!撃てェェ!!殺しても構わん!!直に海軍本部から応援が到着する!!それまで持ちこたえろ!!」
赤い肌をした大柄な魚人は力の限り暴れ回る。その強さもまた“宵魔女”と同じく尋常ではない。彼を囲む武装した兵士達を薙ぎ倒し、目的である奴隷が捕らえられている天竜人の居住区へと突き進む。
「宵魔女!!暴れるのが目的じゃないぞ!!被害は最小限に抑えろ!!」
「あはは♪まァそうだね〜。全部相手にしてたらキリがないし……ちょっと寝ててもらおうかな……!!」
「……!!?」
直後、彼らを包囲していた者達は全員意識を失ってその場に崩れる。ミズキの覇王色の覇気によって気絶させられた者達を一瞥し、タイガーは居住区目指して進行する。
「……見えた!!……あれだ!!」
そうして辿り着いたのは天竜門。その先には天竜人が住まう神の地があり、海軍でも容易には立ち入れない。だが彼らはそんなことは顧みず、虐げられている者達を解放するために天竜人に戦いを挑む。
「急げ!!ここから逃げるんだ!!もう二度と捕まるな!!」
「あはは♪天竜人はボクらが引き付けておくから安心していいよ!」
「に、逃げられるの……?」
「ソニア、マリー!早く逃げましょう!」
二人は囮となるため可能な限り暴れ回る。奴隷達は火の海となった街に戦慄し恐怖するが、反面自分達を苦しめた天竜人を思い胸がすく気持ちにもなった。
「奴隷が逃げるぞ!絶対に逃がすな!」
「おい奴隷共!!誰が自由を許可したえ!!今すぐ戻るんだえ!!」
兵士や海軍本部から到着した海兵達は事態の収束の為に奔走する。しかし当の天竜人は事の重大さを理解出来ずにいつも通り喚き散らしていた。
「海軍の大将は何をしているえ!早く賊を殺すえ!」
「喚いてばかりでうるさい!ちょっと黙ってて!」
「っっ!!?ぎゃあ〜〜〜〜!!?」
天竜人の背中に斬撃を飛ばす。かなり加減しているので死ぬことはないが、痛みを知らない彼にとってそれは耐え難い苦痛らしい。叫び声をあげてその場をのたうち回る。
「痛い!!?痛いえ〜〜!!!わちきは偉いのに!!」
「それくらいで痛がるなんて弱っちいね。自分達は同じことやってたっていうのにさ」
醜く喘ぐその様はまるで豚。とてもこの世でもっとも偉い存在には見えない、忌々しく汚らわしい。それが彼らを見たミズキが抱いた感想だった。
「ひっひィ……!!は、早く……我々を安全なところに避難させるアマス!!」
そこまでの状況になってようやく自らの命が危ういと悟る。だが時すでに遅しだ。彼らの脳には、一生離れないトラウマが植え付けられることになる。
「宵魔女!!ここに捕まっている奴隷達は全員逃げ出した!!おれ達も撤退するぞ!!」
「先に行ってて!ボクはまだやることがあるから!」
「何!?……いやわかった。なら彼らの誘導は任せろ!」
「よろしく〜〜♪」
タイガーが撤退しようとするがミズキはまだ残ると言う。グズグズしていれば大将が到着してしまう。そうなれば逃げ切るのは困難だ。そう判断し、タイガーは奴隷達を連れて天竜人が使用している船を狙うべく正門へと向かっていく。
「さてと……もうちょっと時間を稼がせてもらおうかな!」
タイガーが撤退するのを確認し、ミズキはさらに時間を稼ぐべく天竜人や兵士と対峙する。そこから始まるのは、彼の独壇場だった。
♦♦♦♦♦
「五老星、報告します!襲撃者は二名!バギー海賊団副船長“宵魔女”と冒険家フィッシャー・タイガーだと思われます!」
マリージョアの中心にある巨大な城、パンゲア城。その中の一室“権力の間”にて五名の老人が頭を抱えて話し合いをしていた。
「タイガーはともかくバギー海賊団か……ロジャーめ……死してなお面倒を残しおって……」
「とにかく今は事態の収束が第一だ。“宵魔女”を止められる戦力となれば大将か七武海か……」
「しかし大将が到着するまで持ちこたえられるかどうか……常駐している衛兵では足止めにもならないだろう」
「
「わざわざ政府が別の名を与えた程だ……悪魔の実か……言い得て妙だな」
彼らが恐れるのはとある悪魔の実、そして“覚醒”。今回の騒動を収めるのも重要だが、それよりも彼らの危惧する点はそこだった。だが彼らの憂慮は現実になりつつあった──
「な、なんだあの姿は……」
「あれは……まさか……」
「ひィィィィ!!お前達、何があってもわちきだけは守るんだえ!」
「あはは♪ねェ、魔法使いはなんで魔法を使えるか知ってる?」
その日マリージョアは地獄となった。生き残った者達は口々に言う、あの日あの時聖地には
「それはね……悪魔と契約しているからだよ!!!」
頭に生えた二本の角に漆黒の翼、細長いしっぽ。紛うことなき悪魔の見た目をした少年は、一見すれば可愛らしい少女にしか見えない。だが彼の周囲に転がるおびただしい数の死体はその可愛らしい見た目には似つかなかった。しかしそれを作りあげたのは間違いなく彼であり、その所業はまさしく悪魔だった。
「さァ……君達も楽しい声を聞かせてくれるかな?」
「ひっ!!?まさかまたあれを……」
可愛らしく八重歯をチラつかせミズキは笑う。しかしその言葉を聞いた者達は怯え、その場から逃げ出す。もはや天竜人を守ることなど忘れ、ただ恐怖から逃れることだけを考えていた。
「
『ぎゃあ〜〜〜!!?』
逃げる兵士や役人、天竜人を黒い炎が包み込む。それに焼かれた彼らは悲鳴をあげ意識を失う、そして彼らの口から青白い火の玉が飛び出してきた。それは彼らの精力……活力……いわば魂だった。
「う〜ん……やっぱりおじさんの魂は美味しくないな〜〜。やっぱり可愛い子とかの方が美味しいのかな?」
それを口に含み飲み込むと、ミズキは不満げに愚痴をこぼした。動物系の獣型、今まで誰にも見せたことのなかったミズキの変型の一つだ。悪魔に変身し、その力を行使して戦う。無論他の形態で使っていた従来の魔法も使えるので使い勝手がいい。一からこの変化を研究、訓練してきたが最近になってようやく実用段階まで漕ぎ着けたいわばとっておきだ。
「この辺は大体片付けちゃったみたいだしそろそろタイガーと合流しようかな。大将に出てこられても面倒だし……あ!その前にバギー達にお土産でも持っていこうかな♪」
大将に出てこられては面倒と彼は言うが、そんな様子は感じさせずに破壊した建物の跡から何か財宝でもないかと探し始める。確かに大将が現れたら苦戦はするだろうが負けるつもりはないし、それにどうせ来るなら自分の方に誘導してタイガーの方に行かせない方がいい。そう判断してその場に残った。
「ん〜〜……天竜人が住んでたんだから絶対にお宝があると思うんだけどなァ……
散々暴れて破壊した建物の中から、比較的形が残っていて大きい家を選び入る。家と言ってももはや城だ、広すぎて逆に暮らしづらそうだとミズキは苦笑を浮かべた。
「財宝はあるけど大したことなさそうだし……意外とこんなもんなのかな」
拍子抜けだ、と探索を諦めてタイガーと合流しようとした時。今立っている場所の下、即ち地下から気配を感じとった。あまりに弱々しい小さな気配だが、確かに人の気配があるのだ。
「……行ってみようかな」
周囲を眺め回すと、地下へと続く階段を見つけた。中を覗くとその階段は異様に長く、下が闇に隠れて見えなかった。だがミズキは躊躇なく、鼻歌交じりに階段を降りていく。長い階段を一歩一歩降りていき、ようやく彼は最下段に辿り着いた。
そこから先は変わらず真っ暗な牢屋が続いていた。魔法で炎を出しそれを照明代わりに廊下を進んでいく。そうして一分ほどで牢屋が一つあるだけの部屋についた。牢屋の中から気配を感じ取り、ミズキはその中を凝視する。
「…………!?……あはは♪」
そこには一人の少女が囚われていた。褐色肌に肩まで長い白髪、そして黒い翼。明らかに人間ではない。その特徴は歴史の彼方に消えたはずのルナーリア族に酷似していた。ミズキが知るその種族は身体の一部が発火しているという特徴があるが、目の前の少女にはない。だが容姿の特徴は完全に一致、そして何よりここに囚われていること事態が答えを示していた。
「君……ルナーリア族だよね?」
「…………」
ミズキの問いに少女は答えなかった。口を閉じずにじっとミズキを見つめている。
「そこから出してあげるからボクと来ない?こんなところにいてもつまらないでしょ?」
牢屋越しに手を差し伸べ、そう提案する。それを聞いた少女は愛想も全くなく目を逸らした。しかし数秒の後、逸らした目をミズキに向け直して口を開いた。
「あなたは…………世界を壊してくれる?」
それは過酷な運命に絶望した少女の新たな物語の始まりだった。
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