転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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覇王色の覇気

 ハチノスで始まった赤髪海賊団とバギー海賊団、そして王下七武海“鷹の目のミホーク”の戦いは激しさを増し、島にいた海賊達は大半が逃げ出した。残っているのは一定以上の実力者、億超えの賞金首と彼らが率いる海賊団のみ。しかし彼らも息を潜め身を隠し、事の成り行きを覗き見ることしかできない。新世界でもトップクラスの海賊団と王下七武海の戦いなど、いくら億を超える懸賞金を懸けられた猛者といえど干渉すれば死ぬだけなのだ。

 

「し、信じられねェ……あの“鷹の目”と互角に渡り合うなんて……」

 

「ああ……だけど手配書で見た通り可愛いな。おれ、戦いが終わったら声掛けてみようかな……」

 

「馬鹿やめとけ!!そんなことしたらあの世行きだぞ……それに……聞いた話じゃ“宵魔女”は男だ、見た目に惑わされんな!」

 

 世界一の大剣豪と名高い鷹の目の猛攻を凌いでいるのはバギー海賊団副船長“宵魔女ミズキ”。見た目はとても可愛らしい少女だが侮ってはいけない。何せ天竜人殺害事件を始めとして数々の凶悪事件を引き起こしてきた大罪人だ、下手に接触すれば命がいくらあっても足りないだろう。

 

「おれの剣技を捌くとは……中々楽しませてくれる」

 

「よく言うよ……!ぜんっぜん本気じゃないクセにさ!」

 

 鷹の目の黒刀“夜”によるラッシュを、ミズキは間一髪のところで防ぐことができていた。ミズキの戦闘は魔法がメインとはいえ、彼も短剣“ヴァルプルギス”を使う立派な剣士だ。故に小細工なしで鷹の目と張り合いたかったのだが、やはり剣技という一点においては彼の方が圧倒的に格上だ。世界一の称号は伊達ではないと、不本意ながら納得せざるを得ない。

 

「実力を出していないのはそちらも同じだろう、四肢の数が減る前に本気を出すことを勧めるが?」

 

「言われなくても……やってあげるよ!!」

 

 鷹の目の剣を弾き、ミズキが飛び上がる。単純な打ち合いでは勝ち目がないことを悟り自分の戦闘スタイル、即ち魔法による攻撃に切り替えることを選んだのだ。

 

「ガト〜〜……死光羅(ショコラ)!!!

 

 ミズキの剣先からビームのようなエネルギーの波が放たれる。並の海賊か、海軍でも中将クラスではダメージは避けられない程の一撃。だが鷹の目は自身に向かってくるエネルギーに刃を突きつけ、真っ二つに切り裂いてしまった。二つに分かれたエネルギー波はそれぞれ地面に着弾し大爆発を起こす。

 

「ハァ!!?そんなのあり!?」

 

 エネルギー波をぶった斬られるというありえない事態に驚嘆する。そもそもエネルギー波というのは文字通りエネルギーの波であり、物理的に触れることなど不可能のはずだ。当然剣で切れるはずないのだが、悪魔の実の能力などのイレギュラー要素も使わずに鷹の目はそれをいとも簡単にやってのけた。

 

「……なるほどね、武装色の覇気……それも上のランクってことか」

 

 そしてそんな芸当を無能力者ができるとするならば、ミズキは一つしか思い当たらない。即ち武装色の覇気の上位系、新世界でも一部の上澄みしか使用できない“内部破壊の覇気”だ。

 ミズキも習得しようとしてはいるが、未だ成功できないでいた。武装色、見聞色、覇王色。これらの覇気を高い練度で習得しているミズキだが、それぞれの最上位系である内部破壊、未来視、そして覇王色を纏うことに関してはどれも習得できていない。

 

「この戦いでボクが死ななかったら……また一段階強くなれそうだね」

 

 そう、できないならできるようにすればいいだけだ。強敵との戦闘は最も効率のいい訓練になる。そこで死ぬならば自分はそれまでだったという話。ミズキの知るこの世界の主人公とも言える海賊も、数々の困難を乗り越えて強くなっていった。なら自分も同じことをすればいいだけだ。

 

「考え事は済んだか?」

 

「……!!」

 

 だがその思考は目の前に現れた斬撃によって遮られた。咄嗟に反応し軌道を逸らすが、全てを防ぐことはできずに肩を切られて流血する。

 

「ッッ……!」

 

「おれを前にして物思いにふける余裕はないぞ」

 

「……あはは♪それはごめんね。大丈夫、心配しなくてもここからが本番だから!」

 

「……!!その姿は……」

 

 ミズキの身体が変化していく。

 14歳程だった見た目は少し身長が伸び、頭には二本の角が伸び、背中には漆黒の翼が生えてくる。細長いしっぽが生え、髪の毛が少し伸びてポニーテールに結んでいたゴムをちぎって腰まで髪が下りてゆらゆらとはためいている。

 ──天竜人達の間で恐れられている話がある。半年前の奴隷解放事件、その現場には悪魔がいたと。それは例えでもなんでもない。聖地を破壊しそこに住まう神に一生消えぬトラウマを植え付けたのは、他でもないこの悪魔なのだ。

 

「……なるほど、これは楽しめそうだ……!」

 

 だがそんな悪魔を前にして鷹の目は口元を緩ませ、密かに心を躍らせる。強者との戦闘、それが彼にとっての生き甲斐と言える。世界一の剣豪という称号は、逆を見れば彼とまともに戦える者が少ないということを意味する。今まで数多の剣士が彼に挑んできたが、ほとんどが全力を出すに値しない有象無象。

 ゆえに全力を出せる、苦戦も免れぬであろう強敵の出現は鷹の目の望むところであった。

 

「いくよ、ヘクセン……!!!

 

「!!!」

 

「ナハト!!!」

 

 ゆらゆらと揺れる黒い塊がミズキの短剣に集まり、漆黒の炎を纏わせた。通常ではありえない黒い炎、それは人の魂の成れの果て、恨みつらみが込められた憎悪の炎だ。

 それを纏わせた短剣で鷹の目に切りかかる。黒刀で受け止めた鷹の目だが、先程までは軽く流せていたミズキの攻撃の威力が格段に上がっていることに驚く。

 

「ぎゃあああ〜〜!!?なんだ!?黒い炎!?」

 

「……!!お嬢が戦闘中だ!離れるぞ!」

 

 二人の激突により発生した余波、そして流れ出る黒い炎に周囲で戦闘を行っていた赤髪海賊団とバギー海賊団が巻き込まれる。ミズキが戦闘を始めたら即座にその場から離れる、バギー海賊団に所属している者なら誰でも承知している常識だ。

 

「……マリージョアに悪魔が出たというあの噂は真実だったという訳か」

 

「よく知ってるね!それなら見せてあげる!夜の支配者……悪魔の力!」

 

 ミズキがさらに力を上げ、鷹の目を吹き飛ばす。それでも体勢を立て直しながら着地し、鷹のような鋭い視線をミズキに向けた。新世界でもトップクラスの実力者の衝突、それは周囲の地形を変動させる程激化していった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「……シャンクス、おめェ……どういうつもりだ?」

 

「ハァ……ハァ……なんのことだ?」

 

 バギーとシャンクスの船長同士の戦い、それは意外にもバギーが優勢だった。バラバラの実の能力者には斬撃が無効だ。故に剣士であるシャンクスが苦戦を強いられているのも理解できる、一番の得物を封じられてはさすがの彼でも戦いづらい。

 それはシャンクスとてわかっている。バギーに斬撃が効かないことなど、彼が誰よりもわかっているはずだ。だからこそ、バギーはシャンクスに疑問を投げかけた。

 

「おれ様に剣が効かねェことなんざ知ってるはずだ。それなのにおめェ……さっきから無意味な攻撃ばっかりしやがって、とうとう頭がイカレちまったのか?本気でやりやがれ!」

 

「……本気でやってるさ、もう少しで掴めそうなんだ」

 

「ああ?何言ってやがる?」

 

 いつもならば相手が本気を出さずに戦ってくれている状況など、バギーは大歓迎だ。大した労力もなく敵を倒せるならそれに越したことはない。だが今は違う、相手は物心ついた時から共に過ごした腐れ縁のある男だ。互いに全力を出した勝負で決着をつけたいという気持ちが、バギーにも少なからずあった。

 それゆえに先程から無意味な斬撃による攻撃を繰り返すシャンクスに憤りを覚えているのだ。

 

「こうじゃないんだ……お前やロジャー船長、白ひげの覇気は……もっと」

 

「さっきから何をブツブツと……」

 

 シャンクスが思い出すのはかつての所属していた海賊団の船長であるロジャーとそのライバルである白ひげ、彼らの使う覇気はもっと凄かった。それを考え、実践しようとするが中々上手くはいかない。

 だが、目の前にいる自身のライバルとも言えるバギーはそれを使用している。彼の身体能力は決してシャンクスよりも上とは言えない。斬撃が無効なことを差し引いても、まだシャンクスの方が実力は上のはずだ。それでもバギーがシャンクスと互角にやり合えているのは彼の身体に隠されたマギー玉を始めとした様々な武器と、その覇気のおかげだった。

 

「おれにだってできるはずなんだ……覇王色の覇気を纏わせることが!!」

 

「……!!……おめェさっきからそれを……」

 

 シャンクスのその言葉を聞いて、バギーは驚愕すると共に思い出した。それは自分がミズキとの特訓中にその覇気を習得した時の記憶だ。

 

『もう、どうしてできないかな?覇王色の素質はあるんだから武装色と見聞色だって使えるでしょ?』

 

『そうは言うがよ……!一体どうやればいいか見当もつかねェんだよ!』

 

 毎日の習慣となっていたミズキとバギーの覇気の特訓。ガープとの一件で覇王色の素質があることがわかってからはバギーにも覇気が使えるのではないかとミズキは考えたのだが、何年やっても武装色と見聞色のどちらも習得できずにいた。

 

『う〜〜ん……覇王色があっても武装色と見聞色が使えるとは限らないのかなァ……えい!えい!』

 

『……おめェはさっきから何やってんだよ?』

 

 喋りながら剣を振っているミズキにバギーが怪訝な声で質問する。

 

『これ?覇王色の覇気を纏わせる特訓だよ。四皇クラスの実力者は皆使ってるんだって』

 

『……そういやロジャー船長や白ひげがやってたな。触れてねェのにすげェパワーだった』

 

 覇王色を拳や武器に纏わせる攻撃。四皇クラスの強者が習得している覇王色の覇気の応用であり、これにより格段に攻撃力が増す。四皇にダメージを与えるにはこの覇気が必要不可欠だ。

 

『前からやってるんだけど、全然できないんだよね……バギーも試してみたら?』

 

『おめェにできねェのにおれができる訳ねェだろ。まァやるだけやってみるか』

 

 ダメ元でやってみようとバギーが拳に力を込め、切り離し近くにあった大きめの岩を殴りつけた。すると拳が岩に着弾する少し手前で赤黒い雷が周囲を駆け抜け、岩は粉々に砕けてしまった。

 

『……へ?』

 

『は?』

 

 起こった現象に二人とも困惑し間抜けな声を漏らす。バギーは戻した拳をまじまじと見つめ、そしてミズキの方に振り向いた。

 

『 ……できるんだが?』

 

『ええ!!?なんでなんで!!?ボクなんていくらやってもダメだったのに!!』

 

『いやァ……おれにそんなこと言われても』

 

 見聞色と武装色は使用できないにも関わらず覇王色は使用でき、さらには纏うことができる。順番が滅茶苦茶だとミズキは呆れ果てた。恐らく覇気の才能のステータスのような物が見聞色と武装色の分も覇王色に振り切っているのだろうと冗談交じりに思う。だが、これは使える。覇王色の覇気を纏わせることができるならば戦術の幅が広がるし、バギー玉に纏わせることができればかなりの火力が期待できる。

 

『……ねェバギー、これからの特訓は覇王色を纏わせることに集中しようよ』

 

 そこから覇王色の覇気を纏わせる特訓が始まった。その日々を思い出して、バギーは目の前のシャンクスに視線を向ける。これでも彼のことは実力者だと認めているのだ。自分に使えるのならば彼に使えない道理はない。

 

「……!!」

 

「ダメか……!!」

 

 考えを巡らせていたバキーにシャンクスの斬撃が襲い、彼の胴体を真っ二つに切り裂く。だがバラバラの能力ですぐに元通りに戻り、高笑いする。

 

「ぎゃはははは!!確かに覇王色を纏わせればおれ様にもダメージを与えることができるかもしれねェな……だがおめェにそれができるのか?」

 

「ああ……お前にできておれにできないはずがないだろう……?」

 

「……!!ハデに言うじゃねェか……やれるもんならやってみやがれ!!」

 

 シャンクスの言葉にバギーは様々な感情が混ざった返答をする。自分のライバルならば、それくらいはやってもらわないと困ると、期待を込めてシャンクスを見据えるのだった。

 

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