ハチノスで勃発した赤髪海賊団とバギー海賊団の抗争は激しさを増すばかりだ。
「こいつら……ヘンテコな武器を使いやがる……!!」
「雷に炎に氷!?全員能力者なのか!!?」
「それにやたら強ェ大砲もあるぞ!気をつけろ!」
「はっは〜〜!お嬢の魔法が込められた武器にキャプテン・バギーのマギー玉!これがあれば楽勝だぜ!」
「とっとと降参しやがれ!」
ミズキの魔法とマギー玉、この二つを駆使して戦うバギー海賊団に赤髪海賊団は苦戦を強いられていた。その上バギー海賊団は数が多い、赤髪海賊団が総勢数十名に対しバギーが引き連れてきた軍勢は千人を超える。数がいればいい訳ではないが、それでもこの数量差は赤髪海賊団には不利に働く。
「……!!ぎゃあああ〜〜〜!!」
「なんだこいつ!?やたらと強ェぞ!」
だがそれでも赤髪海賊団も負けてはいない。例え数が少なくともそもそも赤髪海賊団は少数精鋭で通っている一味だ。一人一人の実力はバギー海賊団とは比べ物にならないほどに高い。幹部ならともかく、雑兵では例え強力な武器があっても歯が立たない。
「……!!あっちもやばそうだね……!!」
ギオンがライムジュースの攻撃を捌きながら苦言を漏らす。一対一の戦いをしている幹部達も含め、バギー海賊団と赤髪海賊団の戦力はほぼ互角。このまま戦いを続ければ双方の被害は甚大だろう、それは避けたい事態だ。
「お頭の奴、ハデにやってるな」
「やああああ!!」
「……ッッ……!!」
シャンクスの戦いを察知してラッキー・ルウがそちらに気を取られた隙にヤマトが金棒で殴りつける。既に両者傷だらけで満身創痍といった様子だ。
「僕を無視するな!肉!」
「だから食べ物の名前で呼ぶんじゃねェ!」
ヤマトが上段から金棒を振り下ろし、ルウがそれを拳で受け止めた。武装色の覇気を纏わせた衝突で地面が揺れ、地上にいる者達はその余波で吹き飛んだ。
「
「ッッ……!!」
金棒に覇気を込め衝撃波を撃ち放つ。その威力はラッキー・ルウの防御を貫通し、さらには吹き飛ばす程だ。地面に身体を何度も打ち付け転がり、やっとルウの身体が静止する。
「ハァ……ハァ……手強い相手だった……」
血濡れで地面に倒れるラッキー・ルウを見つめ、肩で息をする。敵を倒したとはいえ自分もかなりのダメージを負っている。ここが戦場である以上連戦になる可能性もある、それに備えて体力の回復に努めた方がいいだろう。そう考えた時だった。
「……!!あれは!?」
ヤマトの頭上を一つの影が通過した。それは一見ただの鳥だ。だがその鳥は身体に青い炎を纏い、一直線にバギー達が戦っている方向へと向かっていく。青く燃えながら飛行する鳥などこの世に1匹──いや一人しかいない。ヤマトも手配書などで見知ったその男の名を彼女は呟いた。
「まさか……“不死鳥マルコ”……!?」
白ひげ海賊団1番隊隊長“不死鳥マルコ”。白ひげ海賊団の実質No.2と言えるであろう男がヤマトの頭上を通り過ぎ、島の中央へと向かっていく。そしてマルコがここにいる、それが意味することは一つしかない。
「……!!?」
飛んできた弾丸を見聞色の覇気で察知し、金棒で弾き飛ばす。ヤマトの覇気が優れていたので予見することができたが、弾丸はほとんど音を出さずに正確に飛んできた。それは撃った本人がかなりの実力者であることを示している。
「今のを弾くとは……さすがだな。カイドウの娘、“鬼姫ヤマト”」
白ひげ海賊団十六番隊隊長イゾウ懸賞金2億3000万ベリー
銃を向けてヤマトの前に現れたのは白ひげ海賊団16番隊隊長である和服で女形の装いの青年、イゾウ。ワノ国出身の侍であり、とある事情で国を出て白ひげ海賊団に加入した男だ。そして、ヤマトとも少なくない因縁がある。
「その名で呼ぶな、僕はあのクソ親父とは縁を切った!僕は……光月おでんだ!」
「……!!?……お前……なぜその名を……!?」
ヤマトの放った言葉にイゾウは驚愕する。そしてその言葉の意味を問い詰めようとするが、それは港から聞こえてくる叫び声にかき消された。
「お、おい……あの船ってまさか!?」
「なんでこんなところに四皇が……!?」
現れたのはクジラのような見た目をした海賊船。通常の船の何倍もあるその大きさに誰もが圧倒される。そして船首に立ち余裕のある笑みを浮かべる男こそ、ロジャー亡き今世界最強と称される伝説の海賊だ。
白ひげ海賊団船長“白ひげ”エドワード・ニューゲート懸賞金46億4600万ベリー
『し、白ひげ海賊団だァァァァァ!!!』
「グララララ……おれのナワバリを荒らしやがって、覚悟はできてんだろうな小僧共!!」
齢六十近い筈だがその圧力、圧倒的な覇気は健在だ。赤髪海賊団やバギー海賊団がいかに強かろうと油断できる相手ではない。何せ白ひげ海賊団は四皇の中でも最強と呼ばれている。大海賊時代以前からロジャー海賊団と何度も死闘を繰り広げてきたその力は今なお衰えを知らない。
「オヤジ、マルコとイゾウは先遣隊を連れて既に島に乗り込んだ。おれ達も……」
「ああ、わかっている息子よ。……行くぞォォ野郎共ォォ!!戦闘準備だ!!」
『オオオオオオ!!!』
3番隊隊長のダイヤモンド・ジョズが報告し、進言した。千人以上の大所帯である白ひげ海賊団は隊を16個に分けそれを隊長達が指揮している。層の厚さと戦力の数、それが白ひげ海賊団が四皇の位置に君臨し続ける所以だ。
「く……!!お頭達のところに行かせるな!!」
「キャプテン・バギーの邪魔はさせねェ!!」
次々に上陸する白ひげ海賊団の船員達、それを赤髪海賊団とバギー海賊団が迎え撃つ。
だが白ひげ海賊団の実力は桁外れだ。四皇を四皇足らしめる最大の理由は船長の強さ。しかし船員達が弱いはずがない、むしろ他の四皇に数で劣る白ひげ海賊団がその地位に居座っているのは一人一人の質が高い証明だ。
「……ッッ!!どうやらお前といつまでもやり合っている場合じゃなさそうだ」
「……ああ、あたしも同意見だね」
目の前の相手とこれ以上戦っている場合ではないと判断し、ギオンとライムジュースは距離をとった。互いに同じ考えだということを確認すると、彼らはそれぞれの海賊団の加勢へと向かった。
──その時だ。
「……!!?」
「ほう、おれの剣を受け止めるか。バギー海賊団、“桃兎ギオン”だな?」
「あんたは……“花剣のビスタ”……!!」
白ひげ海賊団五番隊隊長“花剣のビスタ”懸賞金8億8700万ベリー
「お初に……君のような美女に知ってもらえているとは光栄だ」
斬りかかってきた男の剣を防ぎ、ギオンは眉をひそめる。シルクハットに長い口ひげが特徴のその男はギオンもよく知る人物だ。何しろ彼は剣士達の中で鷹の目に並び最強候補に入るほどの実力者、白ひげ海賊団5番隊隊長のビスタだからだ。
「それはこちらのセリフだね……あんた程の実力者に認知されてるなんて、あたしも有名になったもんだ」
「ふふ、君達が起こした数々の事件からすれば知らない方がおかしいだろう」
「……ッッ!!確かに……それはそう……だ!!」
ビスタの剣を押す力が強まり、ギオンは徐々に後ろへと追い込まれていった。評判に違わぬ実力を確認しながらも、何とか押し戻して彼と対峙する。
かつてない死闘を予感し、ギオンは身震いし冷や汗を流す。数年前に百獣海賊団大看板“火災のキング”と相対した時と似たような感覚だ。
そして彼女らが戦闘を始めたほぼ同時刻に、他の場所でも戦いが起ころうとしていた。
「な、なんだこの女!攻撃が効かねェ……!!」
「黒い翼……幻獣種の能力者か!?」
「うるさいですね、燃え尽きて死んでください」
「ぎゃあ!!あちィィ……!?」
「……!?発火した!!?」
ルナリアはベックマンとの戦闘から離脱し、迫り来る白ひげ海賊団を返り討ちにしていた。ルナーリア族特有の発火能力と耐久力を駆使した戦闘は、雑兵では止めることなどできない。
少し離れた場所で先程まで戦っていたベックマンの姿が見えるが、今は気にしている場合ではないだろう、早くここを片付けてミズキのところへ行かなければ。そう考え火力を高めるが、その瞬間視界に巨大な塊が映り込んできた。
「ブリリアント……パンク!!!」
「……!!?」
青色の塊がルナリアに激突し、激しく吹き飛ばされる。ルナーリア族の体質ゆえにダメージは少ないが、それでも口から垂れてくる赤い液体を手で拭い、彼女は目の前に現れた男を睨みつけた。
「白ひげ海賊団3番隊隊長……“ダイヤモンド・ジョズ”……!」
「うちの船員に手出しはさせねェ!!」
「ジョズ隊長!!」
白ひげ海賊団三番隊隊長“ダイヤモンド・ジョズ”懸賞金9億5500万ベリー
キラキラの実の能力でその巨体を半分ほど美しいダイヤモンドへと変化させ、ジョズは船員達を庇うようにルナリアの前に立ち塞がる。彼の悪魔の実の能力は全身をダイヤモンドへと変化させるというもの。一般人が手にしてもただ自身の価値が上がるだけの能力も、ジョズの巨体と怪力、スピードと組み合わせることで強力な武器となる。
「面倒な相手が出てきましたね……」
ジョズに対抗するように身体を雪に変化させる。だがその変化はルナリアの身体だけでは止まらない。彼女を中心に白い雪が舞い上がり、あっという間に辺りは極寒の地へと変わってしまった。
「
「……!!?」
「隊長!!?」
ジョズの周囲を舞っていた雪が突如発光、一斉に爆発を起こし彼の身体は爆煙の中へと消えてしまった。ルナーリア族の発火能力とユキユキの実の能力を組み合わせた技、億超えレベルの実力者でもダメージは免れない強烈な一撃だ。
「……!!」
だが煙が晴れて見えてきたのはダイヤモンドへの変化を全身へと移し、無傷でこちらを睨むジョズの姿だった。ノーダメージ、それがルナリアの攻撃の結果だ。
「……マルコの奴も始めたようだな」
「…………ミズキお兄様」
島の中央近くから聞こえてくる音と気配を察知し、ジョズがそちらに視線をずらす。その先から敬愛するミズキの覇気を感じ、ルナリアは憂いに満ちた声を漏らした。
「……強い気配が複数……白ひげ海賊団か」
「思ったより早いね、もうちょっと様子を見てくると思ってたんだけど」
戦闘の手を一旦休め、鷹の目とミズキは島に乗り込んできた複数の強力な気配を感じ取る。だがそれも一瞬だけだ、すぐに目の前の敵に意識を戻して警戒態勢に入る。そして鷹の目の斬撃、ミズキのビームが同時に放たれ衝突する。
しかしその僅かな間に一つの影が入り込んできた。
「……!!」
青白くも見えたそれは二人の攻撃で形を崩す。しかし燃え盛る炎でみるみるうちに修復され、人の姿へと変化した。そこで彼らは確信した、目の前にいるのが白ひげ海賊団の隊長であり不死鳥の異名を持つ男であることを。
「オヤジのナワバリで、これ以上好き勝手させないよい!」
白ひげ海賊団一番隊隊長“不死鳥のマルコ”懸賞金10億7400万ベリー
「なるほどね、ボクらを追い出すために態々大軍を率いてきたんだ。そんなにボクらに出ていって欲しいの?」
「ああ、当然だよい」
睨み合うミズキとマルコ。その様子を見ていた鷹の目は目を瞑り思考を巡らせ、剣を背中に収めた。
「鷹の目、お前はどうする?」
「……おれにも立場がある。今、お前達白ひげ海賊団と対立するのはまずかろう。互いに利点がない」
「そうか、賢明だよい」
「え〜!帰っちゃうの!?せっかく楽しいところだったのに!」
「ふ、決着はいずれつけるとしよう。この海にいる限り必ずまた相まみえることもあるだろうからな」
そう言い残すと、鷹の目はその場から姿を消し去った。残されたマルコはため息をこぼす。いくら彼でも鷹の目ほどの男と戦闘になれば簡単には勝てない、撤退してくれるのなら願ったり叶ったりだ。
「思ったより潔い男だよい、鷹の目……宵魔女、お前は…………!」
マルコがそう言い切る前に、ミズキの攻撃が彼の身体を貫く。トリトリの実幻獣種モデル不死鳥の能力者である彼にその攻撃は意味をなさない。が、それでもミズキに戦闘の意思が残っていることを理解し冷や汗を流した。
「……見た目とは違って好戦的だな……やるなら相手になるが、覚悟はできてるのかよい!」
「あはは♪こっちは誰かさんのせいでまだ物足りないんだから、責任取ってボクを満足させてよね!」
マルコの蹴りとミズキの短剣が衝突し、先程までの戦いでボロボロの大地にまた一つクレーターが出来上がる。それは彼らの戦闘が続く間は限りなく生み出され続けた。
そしてもう一つの戦線、シャンクスVSバギーの戦いもまた、白ひげ海賊団の介入によって中断されていた。
「赤髪と千両道化を討ち取れ!」
「オヤジの手を煩わせるな!」
白ひげ海賊団の船員達がシャンクスとバギーを討ち取ろうと次々に襲いかかる。さしもの彼らもその数とそれらを指揮する二人の隊長に手こずっていた。
「ウォォォォ!!」
「ッッ……!なんて馬鹿力だ!」
白い顎髭を生やした巨漢の男、九番隊隊長のブレンハイムの剣をシャンクスが押されながらも受け止める。その体格差は圧倒的で、シャンクスといえど容易に押し返せるものではない。
白ひげ海賊団九番隊隊長ブレンハイム懸賞金7億8100万ベリー
しかしシャンクスも負けじと押し返し、ブレンハイムの剣を弾いて見せた。だがそれで終わりではない、背後から他の敵が複数で襲いかかってくる。
「ゼハハハハ!覚悟しやがれ赤髪!」
「お前は……!!」
その殆どは実力的にシャンクスには遠く及ばない者ばかりだ。だがその中に一人、彼に肉薄する人物がいた。無精髭に小太りのその男は、ロジャー海賊団時代に白ひげ海賊団との戦闘の際にバギーと話題にしたことのある男だ。隊長などの地位がある訳では無いが、実力はそれに匹敵する。
「確か……マーシャル・D・ティーチ……だったか」
「いかにもそうだ!覚えててくれて嬉しいぜ、赤髪!」
自身を記憶していたことに喜びを見せるティーチだが、その言葉とは裏腹に容赦なく左手に備え付けられた鉤爪を振りかざし、シャンクスに襲いかかる。それを回避するか剣で受け止めるが、その攻撃速度とティーチ以外の敵への対応が重なり徐々に追い込まれていった。そして──
「うぐ……ッッ!!」
ティーチの鉤爪がシャンクスの左目付近を切り裂き、血が流れ出る。その痛みに悶え、左目を押さえるシャンクスを見てティーチは乾いた笑い声を漏らした。
「……シャンクス!!」
「ティーチの奴、張り切ってやがるな」
四番隊隊長サッチと戦っていたバギーも傷を負わされたシャンクスを見て驚愕の声を上げた。だがこちらも他人に気をかけている余裕はない、バギーが相対している男もまた、白ひげ海賊団で有数の実力者だからだ。
白ひげ海賊団四番隊隊長サッチ懸賞金6億3800万ベリー
「こっちも負けてられねェぜ!」
「ぐ……!!」
サッチの本来の得物は剣だが、バギーに通用しないことはすでに看破していた。ゆえに彼は剣を置き拳でバギーと戦っている。シャンクスと戦闘していた際の疲労が残っているとはいえ、得意武器が通用しない相手と互角に戦うその実力と対応力は四皇幹部の地位に恥じないものだ。
それに加え四番隊の船員達も相手にしなければならず、バギーは大苦戦を強いられていた。
そしてさらに、この戦いを遠目で見る怪物の存在に彼らはまだ気づいていない。
「グララララ……さァ小僧共、見せてもらおうか……てめェらがロジャーから何を受け継いだのか……」
かつて見習いだった二人の姿を思い出し、怪物は息子達と戦う彼らを不敵な笑みで見つめている。仮に自慢の息子達を倒すようなことがあれば、自ら試してやろうと考えながら。