転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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月夜

 戦いは日が沈むまで終わることはなく、今では空に満月が昇りハチノスは夜の暗闇に差し込む月光に照らされている。

 赤髪海賊団とバギー海賊はプライドゆえに口にすることはないが、実質共闘状態となって迫り来る白ひげ海賊団に対抗していた。

 だがそれでも、優勢なのは白ひげ海賊団だ。

 

「ぐァァ…………!!」

 

「……ギオン姉さん!?」

 

「嘘だろ……姉さんが!?」

 

 ビスタの剣技に何とか食らいつくギオン。四皇の大幹部であるビスタと戦闘を成立させる時点で彼女の実力も相当なものだ。だが、やはり“花剣”の異名通りの華麗なる剣さばきの前には防戦一方だ。

 

「ふふ、ここまで楽しませてもらったのは久しぶりだ」

 

「ハァ……ハァ……勝った気になるには……まだ早いんじゃないかい?」

 

 余裕そうな顔で髭に触れるビスタとは対照的に、ギオンは膝をつき息も絶え絶え、身体中から血を流している。

 

桃孤(とうこ)……棘矢(きょくし)!!!」

 

 だがそれでも愛刀“金毘羅”を構え、武装色の覇気を込めて渾身の突きを繰り出す。見聞色の覇気の先読みも利用して回避を許さない、海軍の中将クラスでも避けるのは難しいだろう。

 

「なるほど……かなりの速度だ、威力も十分……おれでなければ倒されていたかもしれないな」

 

「……!!?」

 

 しかしそれでもビスタには通用しなかった。その威力と速度を素直に賞賛し、自分でなければ危なかったと評価する。だがその一撃を持ってしても、ビスタの剣を動かすことは出来なかった。彼に受け止められたギオンの剣は弾かれて宙を舞い、地面に突き刺さった。

 

「よもやこのような場所でかような剣士と戦えるとは思っていなかった。君の剣に敬意を表し、おれも全力でやらせてもらおう」

 

 ビスタの周囲を薔薇の花びらが舞い、竜巻のような形を形成する。それが刃となりギオンに襲いかかった。

 

「ローズロンド!!!」

 

 それを危機一髪、なんとか回避するギオン。だが避けるのに気を取られ急接近するビスタには反応できなかった。彼の斬撃を腹に受け、ギオンは大量の血を流し地面に倒れ伏した。

 

「そちらにも負けられない理由があるのだろうが……こちらもオヤジの顔に泥を塗る訳にはいかないのでね」

 

 ギオンに背を向けて剣を振り付着した血液を落とす。そうして一息ついたところで自身に迫り来るなにかに気がつき剣でそれを弾き飛ばす。金属がぶつかり合う音が響き、複数の銃弾が地面に落ちた。飛んできた方向を見ると、茶髪のドレッドヘアーの男が家屋の上で銃を構えてビスタを狙っていた。

 

「よォ、久しぶりだなビスタ!」

 

「ヤソップか……この薄暗さの中で正確に狙ってくるとは、腕は衰えていないようだ」

 

 赤髪海賊団の幹部であり“追撃者”の異名を持つ男、ヤソップが不敵な笑みを浮かべていた。それを見てビスタは剣を構えて銃撃に備える。旧知の仲である彼らだが今この場は戦場だ、例え友人だとしても容赦はない。油断すれば死ぬだけだ。

 

「次はおれと遊んでくれよ! その姉ちゃんじゃ満足してねェんだろ?」

 

「いや、彼女は十分に楽しませてくれた……だが、ここで決着をつけるのもまた一興だな」

 

「ああ……剣術と狙撃、どっちが上かはっきりさせようじゃねェか!」

 

 ヤソップが何発もの銃弾を撃ち込み、ビスタはそれを弾きながら彼に接近する。剣士と狙撃手、二つの正反対とも言える戦闘スタイルを持つ二人が激突した。

 

 赤髪海賊団とバギー海賊団の幹部達はそれぞれ白ひげ海賊団の隊長達と戦闘を繰り広げていた。四皇の海賊団ともなれば部下の力も絶大だ、特に十六の隊を率いる隊長達の力は別格、欠けている二番隊の隊長を除いた十五人は島の各所で戦闘を行い、成果を上げている。

 

「……アップル! 危ねェ!」

 

「……!!? ……わかってる……わ!」

 

「……へェ、おれのスピードに反応するとはな」

 

 アップルの背後から近づく影に、カバジが注意を呼びかけた。彼ら二人を同時に相手し、なおも余裕の表情を浮かべるのは十四番隊隊長のスピード・ジルだ。白ひげ海賊団最速の呼び声高いその速さにアップルとカバジは防戦一方だった。

 

 

白ひげ海賊団十四番隊隊長スピード・ジル懸賞金3億3000万ベリー

 

 

 自身の槍による突きを何とか防いだアップルを賞賛するが、浮かべた笑みは少しも揺るがない。それに対しカバジは彼の速さに苦悶の表情を浮かべ、アップルも口元を緩ませているものの、肩で息をして身体中から血を滲ませている。

 

「お前らにゃ悪いがオヤジのナワバリをこれ以上荒らされる訳にはいかねェからな」

 

「……これが白ひげ海賊団か……今まで戦った奴らとは格が違う……!」

 

「ゆティア、とっても速いのね……!」

 

「ああ、おれのスピードは世界最速だ!」

 

 その言葉と共にジルの姿が消失した。政府の役人達が使用する体技、剃よりもさらに上の速度での攻撃は見聞色の覇気を極めた者でなければ避けるのは困難だ

 

「……!!?」

 

「……ぐォ……!?」

 

 横っ腹に槍の突きを受け、カバジがまたがっていた一輪車ごと吹き飛ばされた。まったく見えない速度からの攻撃に彼らは反応することすらできなかった。吹き飛ばされたカバジは瓦礫の山に突っ込み、動かなくなる。

 

「……そんな」

 

「へへ、相方が倒されてショックか?」

 

 呆然としているアップルを煽るようにジルがニヤリと笑う。共闘していた仲間をあっさりと倒されたことに驚愕と共にショックを受けたと考えたのだ。しかし彼女から返ってきた答えは、予想とは違うものだった。

 

「……いいえ……カバジが負けたのは弱かったから、それだけよ」

 

 倒れているカバジを軽蔑するような冷たい目で一瞥し、アップルは呟くように言った。 それは普段の明るい彼女とはまるで正反対、異様な雰囲気にジルは正体不明の悪寒を感じた。

 

「手厳しいな……だがお前もおれに勝てるとは思えないが?」

 

「ええ、今のままでは勝てないでしょうね」

 

 その事実を素直に認め、アップルは空を見上げた。ミンク族と人間のハーフという極めて特殊な産まれの彼女は、故郷であるモコモ公国では異端だった。国民一人一人が戦闘技術を会得し、子供でさえ戦士になりうるその国で、彼女は人一倍戦闘に対する意欲が高かった。時には歯止めが効かなくなり、訓練で戦った相手を半殺しにしてしまうこともあった程だ。

 それを咎められてもアップルには何が悪いのかわからなかった。負けたのは相手が弱かったからだ、それなのに何故勝者である自分が叱られるのか理解できなかったのだ。ゆえに彼女は強者との戦闘を求めて海へ出た。

 初めて見る外海は初めての連続、まだ見ぬ強者達がうようよしていた。そして旅を続ける中で彼女は悟った、自分の強さなど海賊や海軍などに所属する強者に比べたらムシケラ同然だということに。

 

「……? ……お前、何をしている?」

 

 空を見上げ続けるアップルの視線の先にあるのは満月。目の前の男の力が自分を上回っていることを理解した彼女は、命を賭けることにしたのだ。それが勝利への唯一の道ならば、彼女は命を捨てることさえ厭わない。

 アップルの姿がみるみるうちに変化していく。髪が白く変色し長く伸び、瞳も深紅の色へと染まっていった。ミンク族の奥の手、満月の夜に陰りない月を見つめると記憶の奥底に眠ってる野生が呼び起こされる現象。

 すなわち──月の獅子(スーロン)だ。

 

「……!! まさか……させるか!!」

 

 その現象は一般的には知られていない。そもそもミンク族自体が希少種族であることに加え、力を得る代わりに代償も大きい諸刃の剣なのだ。しかし白ひげ海賊団の隊長ともなれば見たことはなくても知識としては心得ていた。故にジルはその危険性を認識し、アップルの変化を止めようと身体を動かした。

 

「グァァ……!?」

 

 だがしかし、それも手遅れだった。アップルの変化を止めようとジルが突っ込むが、逆に弾き返されて地面を転がった。

 

「……この野郎──!!?」

 

 盛大に吹き飛ばされはしたもののすぐに立ち上がり、反撃に転じようとする。だが顔を上げた彼の視線の先には既に白銀の獅子が両手に電気を纏わせて迫っていた。

 

「エレクトロ……ルナ!!!」

 

 月の獅子となったミンク族は姿が変わるだけにとどまらず、戦闘能力も大幅に向上する。変身したアップルの力はジルを大幅に上回る程に高まり、自慢のスピードを発揮させる前に電撃を纏わせた拳を彼に叩きつけた。

 

「じ、ジル隊長!!?」

 

「まさか!? うちの隊長だぞ!?」

 

 地面にめり込むほどに叩き込まれたジルは白目を剥き、吐血して動かなくなる。それを見ていた彼の部下は悲鳴にも似た声を響かせた。だがその反応も当然だ、世界最強の白ひげ海賊団、その幹部が倒されたのだから。

 

「ハァ……ハァ……早く月の光から目を隠さないと」

 

 白ひげ海賊団の幹部を倒す程のパワーアップ、それには当然リスクもある。月の獅子となったミンク族への肉体の負担は大きい。前髪で目を隠し、月光を遮断することで変身は解け元の姿へと戻っていく。しかしそれでも負担は大きい、変身時間が短いので戦闘を継続できない程ではないが足元は既にフラフラだ。そんな状態で残りの白ひげ海賊団の相手をすることなどできない。

 

「く、クソォ……よくも隊長を!」

 

「この野郎、隊長の仇だ!!」

 

 自分達の隊長を倒された怒りを込めて、彼の部下達がアップルに飛びかかる。白ひげ海賊団の船員とはいえ、ただの雑兵ではアップルには及ばないが、今の消耗した彼女ではまず間違いなく勝てないだろう。

 

「曲技……湯けむり殺人事件!!!」

 

『ぎゃああああ〜〜〜!!?』

 

 だが土煙と共に斬撃が飛んできて船員達を切り裂いた。それを放ったのは先程ジルにやられたはずのカバジだった。彼もバギー海賊団に所属して数年、ミズキの特訓を受け続け実力を伸ばしてきた。白ひげ海賊団の隊長の攻撃とはいえあの程度で戦闘不能にはならない。

 

「ここはおれに任せろ!」

 

「カバジ……ゆティア……」

 

 アップルに頼もしい背中を向けそう言ってみせるカバジ。それをまじまじと見つめ、彼の名をアップルが呟いた。これで自分のことを見直しただろうとカバジが誇らしそうに鼻を鳴らす。

 

「ヘタレだと思ってたけど意外と頼もしいのね!」

 

「一言余計だ!」

 

 その返答にズッコケてすかさずツッコむ。しかしすぐに前を向き直し、目の前の敵に意識を集中する。一輪車のペダルを鳴らし、彼は白ひげ海賊団を迎え撃つべく気合いを入れ直した。

 

 そして、それとほぼ同時刻にとある因縁の戦いが始まろうとしていた。

 

「答えろ! 何故貴様がおでん様の名を騙っている!」

 

「それは……僕が……」

 

 ヤマトに銃を突きつけ、イゾウは殺意を敵意を剥き出しにして問い詰める。四皇“百獣のカイドウ”の娘であるヤマトがかつての主君、光月おでんを名乗っている。彼の身に何かが起こったのは明白だった。

 

「おでん様に何をした!? 返答によっては容赦できないぞ!」

 

「……そうか、白ひげ海賊団のイゾウ……おでんの日誌に出てきた」

 

 何かを言いかけ言い淀んだヤマトのハッキリしない態度に痺れを切らし、イゾウは再び激しい剣幕で問いを投げた。イゾウにとっておでんが大切な人物であることを理解したヤマトは気まずそうに目を逸らし、顔を青くした。しかしこれ以上黙っている訳にもいかないと考え、口を開いた。

 

「おでんは……死んだ……。カイドウと黒炭オロチに殺されたんだ」

 

「まさか……!? そんな……」

 

 地面に崩れ落ち、涙を流して後悔する。何故主君がそのような状況に陥った時にそばにいられなかったのかと。オロチといえば霜月家の小間使いだった男だ。何故そんな男がカイドウと? 錦えもん達は……弟の菊は無事なのか? そんな疑問と共に色々な感情が込み上げてくる。

 

「でも……僕はおでんの処刑を目の前で見て……彼の生き様に感動した……だから僕はおでんになってカイドウを倒そうと──」

 

「ふざけるな!!」

 

 ヤマトの言葉を断ち切り、イゾウは怒りを露わにする。目元に涙を溜めながらも彼女を睨みつけ、再び銃を向ける。

 

「おでん様を殺したカイドウの娘であるお前が……おでん様の名を語るだと? それはおでん様への最大の侮辱だ!!」

 

「そんなこと……ない。僕はただ……」

 

 かつてヤマトがカイドウの娘であることを知りながら彼女を認め、自らの命を差し出して守った侍達がいた。しかしそれはヤマトがカイドウから虐待を受け、それでもなおワノ国のために戦うという意志を見せたからだ。その覚悟を間近で見たからこそ、侍達はヤマトを認めることができた。だが今は違う、イゾウからしてみればかつての主君を殺した男の娘がその主君の名を名乗っている。しかも彼女が所属しているのは悪名高いバギー海賊団だ。信用できるはずがない、込み上げてくるのは怒りのみだ。

 

「お前の目的はなんだ!? おれの動揺を誘うことか!?」

 

「違う……僕は……」

 

 光月おでんだ、その言葉を喉の奥にとどめる。他でもないおでんの家臣から、自らがおでんであることを否定された。それはヤマトにとって何よりもショックが大きいことだった。

 

「お前には聞きたいことが山ほどある! 子供だからと加減はできないぞ!」

 

 白ひげ海賊団に所属していても、イゾウは侍だ。かつての主君を殺され、侮辱されたとなれば子供相手でも容赦することなどできない。

 

「弾斬丸!!!」

 

「……ッッ……!! 雷鳴八卦!!! 

 

 イゾウの怒りと覇気を込めた弾丸を、咄嗟に金棒を振り防いだ。そして怒りに顔を染めた彼を睨みつけた。

 

「僕は……誰がなんと言おうと光月おでんだ! 光月おでんなんだ!」

 

「!!?」

 

 その時彼女が放った覇王色の覇気は、イゾウが気圧される程の凄まじいものだった。明らかに雰囲気が変わったヤマトの姿を見て、イゾウは冷や汗を流した。まるで本物の鬼のようだと、鬼気迫る何かを感じて。

 

 しかしヤマトは気づいていなかった。おでんの意志を継ぎ、ワノ国を守ろうとする自分がおでんの仇であり大嫌いなはずの父親であるカイドウの武器と技を使用している。

 それがどう考えても矛盾していることに。

 

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